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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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30/46

盤面



 しらせがとどいた瞬間しゅんかん宇良うらこえうしなった。


 ひざかさねたが、かすかにふるえる。


「……隼比古はやひこさまは、いくさにて――」


 言葉ことばつづきをつまでもない。


 結末けつまつは、すでに理解りかいしていた。



 宇良うらしずかにせる。


 そして――


 ぽたり、と。


 一粒ひとつぶなみだちた。


 おともなく、しかしたしかに。


 かたがわずかにれる。


 それはまぎれもなく真実しんじつなみだだった。


 いつわりではない。


 だが――



 宇良うらはゆるやかにいきととのえ、かおげる。


 なみだ痕跡こんせきは、すでにえていた。


「……そう」


 みじかく、れる。


 使者ししゃ言葉ことばごうとするのを、しずかにせいした。


「もうよい。がりなさい」


 ふかあたまげ、使者ししゃ退しりぞく。



 静寂せいじゃく


 宇良うらはしばしうごかない。


 やがて、ほそいきいた。


(――おもいのほか、あっけないものね)


 感情かんじょうは、すでに退しりぞいている。


(もうすこし、盤上ばんじょうとどまるとおもっていたのだけれど)


 それは「ひと」ではなく、「こま」としての評価ひょうか


 そこに未練みれんはない。


(けれど――)


 思考しこうは、すぐにつぎへとすすむ。


(これで、ながれはととのう)


 視線しせんがわずかにがる。


 えぬ盤面ばんめん俯瞰ふかんするように。


 宇良うらしずかにがった。




 衣擦きぬずれのおとが、かすかにる。


 あゆみはまよいがない。


 かうさきは――ハヤトのもと。



 部屋へやには、まだあかりのこっていた。


 ちいさなかげが、したままっている。 


母上ははうえ


 んだこえ


 おさなさのおくに、たしかなしんがある。


父上ちちうえは……かえってこないのですか」


 問いは簡潔かんけつだが、そのおもみにはまだとどいていない。


 宇良うらは、淡々(たんたん)こたえた。


「ええ。かえってはこないわ」


 らぎのない声音こわね


 ハヤトはもくする。


 かなしみはある。


 だが、それをどうあつかうかまではらない。


 やがて、かおげる。


「……かりました」


 理解りかいというより、受容じゅよう


 あたえられた事実じじつを、そのままおさめるように。


 宇良うらはそのあたまき、しずかにでた。


「――これからは、ミナギさまおうとなられる」


 を、正確せいかくえる。


いまは、したがいなさい」


 命令めいれい明瞭めいりょうだった。


 ハヤトのひとみが、わずかにれる。


 宇良うらつづける。


「よくておきなさい」


 しずかなこえ


 だが、そのおくにある意志いしはがねのようにかたい。


「このくにが、これからどううごくのかを」


 難解なんかい言葉ことば


 だが、その重要じゅうようさだけはつたわる。


 ハヤトはうなずいた。


「いずれ――」


 宇良うらこえとす。


「そのが、ときる」


 意味いみは、まだとどかない。


 だが、それが自分じぶんかかわる言葉ことばであることは理解りかいしている。


だれすわるべきかを、見誤みあやまってはなりません」


「…はい」


 はっきりとした応答おうとう


 宇良うらはそのほおれた。


 指先ゆびさきやわらかく、いつくしむように。


 だが、その眼差まなざしは冷徹れいてつだった。


「いい子でいなさい」


 おだやかなこえ


 それは従順じゅうじゅんであれという意味いみであり――


 同時どうじに、そのときまでしずめというめいでもある。


 ハヤトはしずかにうなずいた。


 宇良うらがる。


 ける。


 その表情ひょうじょうには、もはや一片いっぺんらぎもない。


(……時間じかんはこちらにある)


 胸中きょうちゅうで、しずかにきざむ。


いそ必要ひつようはない)


 回廊かいろうる。


 あかりながかげく。


おうとは、なるものではない)


 一歩いっぽす。


(『かれる』ものよ)


 その足取あしどりは、すでにつぎ一手いってさだめたもののそれだった。


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