再会
森の奥深く――
泥にまみれ、血の匂いと湿った土の匂いが混ざる中、アサはひっそりと地面に身を伏せていた。
何日も森をさまよい、食べ物も水もほとんど口にしていない。
皮膚は乾き、唇はひび割れている。
髪は泥で固まり、衣には血の跡があちこちに残っていた。
呼吸は荒く、胸はかすかに上下するだけだ。
もう歩く力もほとんど残っていない。
目の焦点はぼやけ、周りの景色も音も霞んでいた。
現実と夢の境が、少しずつ分からなくなっていく。
森のざわめきも、遠くで続く戦の音も、今のアサにはほとんど届かない。
それでも。
生きたいという小さな力だけは、体の奥で消えずに脈打っていた。
意識は霧のように薄れていく。
世界は、今にも遠ざかってしまいそうだった。
視界の端には、光や影、揺れる枝の姿がぼんやりと映る。
時間まで重くなったように、長く、歪んで流れていた。
――その時。
遠くから鋭い声が響いた。
「キィ――ッ」
薄れゆく意識の中で、その声だけが妙にはっきりと聞こえた。
アサは静かに目を閉じる。
そして、そのまま深い闇へ沈んでいった。
「――アサ!」
強く、迷いのない声だった。
風に乗って届いたその声は、遠い記憶のようでいて、確かに心を揺らした。
重く閉ざされていた瞼が、かすかに震える。
ゆっくりと目を開く。
視界はぼやけていた。
世界の輪郭も曖昧だった。
それでも――
こちらへ駆け寄ってくる人影だけは見えた。
槍を携えた戦士の姿。
ミナギだった。
「しっかりしろ、アサ!」
再び声が響く。
鋭く、それでいて優しい声だった。
ミナギはそっとアサの体を抱き上げる。
冷たくなった小さな体を、しっかりと腕の中に包み込んだ。
その温もりに触れた瞬間、途切れかけていた命の感覚が、少しずつ戻ってくる。
心臓がかすかに脈を打つ。
浅いながらも、呼吸が胸を満たしていく。
「ミナギ……逢えた――」
かすれた声が唇からこぼれた。
それは苦しみの果てに、ようやくたどり着いた喜びの言葉だった。
泥と涙で汚れた顔が、わずかにほころぶ。
抱きしめられた温もりが、自分は助かったのだと教えてくれていた。
「――よく耐えたな、アサ。もう大丈夫だ」
低く落ち着いた声が耳に届く。
その言葉を聞いた瞬間、アサの体はようやく理解した。
もう戦わなくていい。
もう逃げなくていいのだと。
張りつめていた意識が、ゆっくりとほどけていく。
アサはミナギの胸に顔を寄せた。
深く息を吐く。
そして安心に包まれながら、力尽きるように静かに目を閉じた。
――アサの意識は、再び穏やかな闇の中へ沈んでいった。




