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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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再会



 もり奥深おくふかく――


 どろにまみれ、においと湿しめったつちにおいがざるなか、アサはひっそりと地面じめんせていた。


 何日なんにちもりをさまよい、ものみずもほとんどくちにしていない。


 皮膚ひふかわき、くちびるはひびれている。


 かみどろかたまり、ころもにはあとがあちこちにのこっていた。


 呼吸こきゅうあらく、むねはかすかに上下じょうげするだけだ。


 もうあるちからもほとんどのこっていない。


 焦点しょうてんはぼやけ、まわりの景色けしきおとかすんでいた。


 現実げんじつゆめさかいが、すこしずつからなくなっていく。



 もりのざわめきも、とおくでつづいくさおとも、いまのアサにはほとんどとどかない。



 それでも。


 きたいというちいさなちからだけは、からだおくえずに脈打みゃくうっていた。


 意識いしききりのようにうすれていく。


 世界せかいは、いまにもとおざかってしまいそうだった。


 視界しかいはしには、ひかりかげれるえだ姿すがたがぼんやりとうつる。


 時間じかんまでおもくなったように、ながく、ゆがんでながれていた。



 ――そのとき


 とおくからするどこえひびいた。



「キィ――ッ」



 うすれゆく意識いしきなかで、そのこえだけがみょうにはっきりとこえた。


 アサはしずかにじる。


 そして、そのままふかやみしずんでいった。




「――アサ!」


 つよく、まよいのないこえだった。


 かぜってとどいたそのこえは、とお記憶きおくのようでいて、たしかにこころらした。


 おもざされていたまぶたが、かすかにふるえる。


 ゆっくりとく。


 視界しかいはぼやけていた。


 世界せかい輪郭りんかく曖昧あいまいだった。


 それでも――


 こちらへってくる人影ひとかげだけはえた。



 やりたずさえた戦士せんし姿すがた


 ミナギだった。


「しっかりしろ、アサ!」


 ふたたこえひびく。


 するどく、それでいてやさしいこえだった。


 ミナギはそっとアサのからだげる。


 つめたくなったちいさなからだを、しっかりとうでなかつつんだ。


 そのぬくもりにれた瞬間しゅんかん途切とぎれかけていたいのち感覚かんかくが、すこしずつもどってくる。


 心臓しんぞうがかすかにみゃくつ。


 あさいながらも、呼吸こきゅうむねたしていく。



「ミナギ……えた――」

 


 かすれたこえくちびるからこぼれた。


 それはくるしみのてに、ようやくたどりいたよろこびの言葉ことばだった。


 どろなみだよごれたかおが、わずかにほころぶ。


 きしめられたぬくもりが、自分じぶんたすかったのだとおしえてくれていた。



「――よくえたな、アサ。もう大丈夫だいじょうぶだ」


 ひくいたこえみみとどく。


 その言葉ことばいた瞬間しゅんかん、アサのからだはようやく理解りかいした。



 もうたたかわなくていい。


 もうげなくていいのだと。


 りつめていた意識いしきが、ゆっくりとほどけていく。


 アサはミナギのむねかおせた。


 ふかいきく。


 そして安心あんしんつつまれながら、力尽ちからつきるようにしずかにじた。



 ――アサの意識いしきは、ふたたおだやかなやみなかしずんでいった。




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