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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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26/48

流動



 隼比古はやひこ身体からだどろしずんだ――その瞬間しゅんかん


 戦場せんじょうはほんのわずかに呼吸こきゅうめた。


 おとも。  


 やり衝突しょうとつも。   


 だれかのさけびすらも。


 一瞬いっしゅんだけとおのく。


 もりおくひろがっていたはずの喧騒けんそうが、まるであつぬのおおわれたかのようににぶくなる。



 その静寂せいじゃく中心ちゅうしんに、ひときわ異質いしつかげっていた。


 狗奴国くなこく王子おうじ――久志奈くしな大兄おおえ


 もりなかあらわれた岩塊がんかいのような存在そんざいだった。


 地面じめんったかのような足運あしさばき。


 筋肉きんにくがり、そのにぎ長大ちょうだい鉄製てつせいやりは、一振ひとふりでいのちくだけることが想像そうぞうできる。


 戦場せんじょうにおいておのれちからうたがわぬ王子おうじ自信じしん


 そして相手あいて恐怖きょうふでねじせる威圧いあつ



 久志奈くしな視線しせんが、ひとつのてん収束しゅうそくする。


 ――ミナギへと。


 その口元くちもとゆがむ。


まえよ、投馬とうまわか王子おうじよ。ちからちがいをせてやろう!」


 こえわらっている。


 だがそのわらいは歓喜かんきではなく、つぶ前提ぜんてい余裕よゆうだった。



 ミナギはこたえない。


 やりにぎにだけ、わずかなあつ宿やどる。


 視線しせんらさず、ただ相手あいて呼吸こきゅううごきを見極みきわめていた。



 距離きょりまる。


 空気くうきおもくなる。


 どろにおいと鉄臭てつくささのなかに、げたわらけむりざり、視界しかいをわずかににごらせる。



 さきうごいたのは久志奈くしなだった。


 巨体きょたい一瞬いっしゅんしずむ。


 つぎ瞬間しゅんかん鉄槍てつやりそらいた。


 その動作どうさだけで空気くうきげられるようなあつまれる。


 どろぜ、つちけ、周囲しゅういへいおもわず後退こうたいする。


 だがミナギはそこにいない。


 わずかに半歩はんぽ


 いや、半歩はんぽにもたない移動いどう軌道きどうからすべるようにける。


 足裏あしうらどろつかみ、体勢たいせいくずさずつぎ動作どうさ移行いこうする。


 かえやいばのようにやりげられ、久志奈くしなよろい腹部ふくぶかすめる。


 火花ひばなのような衝撃しょうげきはしる。


 久志奈くしなかおゆがむ。


「……小細工こざいくを」



 つぎ瞬間しゅんかんふたたやりるわれる。


 今度こんどはやい。


 おもさではなく、連続性れんぞくせいつぶ攻撃こうげきだった。


 ろし。  


 横薙よこなぎ。  


 げ。


 地面じめんれ、どろえがいてぶ。


 それらは圧倒的あっとうてきちからともない、戦場せんじょう支配者しはいしゃ存在感そんざいかんきざむ。


 しかし、ミナギは身体からだすべらせ、やり正確せいかくめ、角度かくどえてかえす。


 やいば地面じめんだけをき、おくれて轟音ごうおんのこる。


 そのかえしのなかで、久志奈くしな表情ひょうじょうに、わずかな変化へんかしょうじた。


 いわのようなかおがますますしかめられ、くちびるはしがわずかにふるえる。


 圧倒的あっとうてきちからつはずの自分じぶん攻撃こうげきが、まえなめらかにかわされる。


 これまでの戦場せんじょうでは、だれもが恐怖きょうふともくずれ、くっしてきたはずだった。


 だがいままえどうじずにながわか王子おうじ



 ――ミナギ。



 いかりと困惑こんわく交錯こうさくし、久志奈くしなひとみ血走ちばしる。


 そのやりろしはますますちからび、暴力性ぼうりょくせいすが、かつての無慈悲むじひ豪腕ごうわんとはことなり、わずかにざつになっていた。


 ミナギの冷静れいせいながしは、久志奈くしなこころ疑念ぎねん芽生めばえさせ、戦場せんじょう支配者しはいしゃとしての自信じしんかすかにるがせていた。



 はがねはがね衝突しょうとつするするどおとひびわたる。


 たがいの呼吸こきゅうあらく、あせれたはだひかる。


 いかりにまかせ、久志奈くしなやりまわ突進とっしんする。


 兵士へいしたちは恐怖きょうふ興奮こうふんでざわめき、戦場せんじょう熱気ねっきつつまれる。


 だが、ミナギはまるでみずながれをうかのように、するどすべらせ、つぎ一撃いちげき瞬時しゅんじ見極みきわめる。


 槍先やりさきかたをかすめ、よろい振動しんどうはし瞬間しゅんかん久志奈くしながわずかにれた。



 ――その刹那せつな



 ミナギのやりが、角度かくどえてもぐむ。


 するど突進とっしんとともに槍先やりさきよろいの合わせあわせめのわずかな隙間すきまとらえた。


 へびのようにすべみ、そのまま久志奈くしな脇腹わきばら深々(ふかぶか)つらぬいた。



 一瞬いっしゅん時間じかんまる。


 久志奈くしな身体からだ硬直こうちょくし、見開みひらかれ、理解りかいいつくよりさきに、身体からだだけが結果けっかる。


 そしてひざちる。


 地面じめんしたたち、よろいあかめる。


 ミナギは体重たいじゅうせ、やりし込み、最後さいご一撃いちげき久志奈くしな完全かんぜん制圧せいあつする。


 き、かたふるわせる久志奈くしなを、ミナギは冷徹れいてつ眼差まなざしで見下みおろした。


 ミナギはやりく。

 つぎ瞬間しゅんかん久志奈くしな巨体きょたいちからうしなったいわのようにゆっくりとかしぎ、そのまま地面じめんふるわせてしずんだ。



 周囲しゅうい兵士へいしたちはいきむ。


 戦場せんじょう喧騒けんそうの中――両王子りょうおうじという象徴的しょうちょうてき損失そんしつが、いくさながれに微妙びみょう均衡きんこうす。


 勝利しょうり敗北はいぼくもない、ただどろまった現実げんじつだけがあとのこった。


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