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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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25/46

因果



 もりける足音あしおとは、もはや自分じぶんのものという実感じっかんたなかった。


 どろみしめ、え、えだあいだうたびに、視界しかいきざむようにれる。


 そのすべてをけるようにして、ミナギはまえへとすすんでいた。


 そらおと


 たてめるにぶ衝撃しょうげき


 だれかのさけびが途中とちゅう途切とぎれる気配けはい


 すべてがかさなりい、もりそのものがいたみをはっしているようだった。



 その中心ちゅうしんへ――視界しかいひらける。


 そして、えた。


 たおれている。


 最初さいしょ、それがなになのか理解りかいするまでに、わずかなおくれがあった。


 ひとかたちをしているが、ひととして認識にんしきすることをこばむほどに、そこにはわりがにじんでいた。



 隼比古はやひこだった。


 どろうえくずちた身体からだは、かつてのうごきの記憶きおくうしなっている。


 甲冑かっちゅう無残むざんゆがみ、肩口かたぐちからむねにかけてはどろれ、おもさだけが強調きょうちょうされていた。


 ――首筋くびすじ


 そこにっている一本いっぽんが、すべてを決定けっていづけていた。


 角度かくどはわずかに下向したむきで、げる余地よちゆるさないふかさまでしずんでいる。


 羽根はねだけが、まだかすかにふるえていた。


 こえげ。  


 みずからを誇示こじし。  


 戦場せんじょう無視むししてすすんでいたその姿すがたは――  


 もうどこにもない。


 ミナギのあしまる。


 もりおと一瞬いっしゅんだけとおのいたように感じられる。


 しかしそれは現実げんじつではなく、認識にんしき空白くうはくだった。


 つぎ瞬間しゅんかんには、戦場せんじょう喧騒けんそうふたたせてくる。



「――隼比古はやひこ


 こえにならないこえが、のどおくからこぼれる。


 んだというより、かたちだけが言葉ことばになったようなつぶやきだった。


 かぜがそれをさらう。


 おとざり、だれにもとどかずにえる。


 ミナギは一歩いっぽおくれてす。


 そしてまる。


 むねおくなにかがうごく。


 だがそれはねつではない。


 いかりでも、かなしみでもなかった。


 ただ、しずかにしずんでいくおもさ。


 みずのない場所ばしょちたいしのように、おともなくふか沈殿ちんでんしていく感覚かんかくだった。


 視線しせんらさないまま、隼比古はやひこ姿すがたている。


 そこにはもう、意志いしも、ほこりも、選択せんたくのこっていない。


 あるのは結果けっかだけだ。


 そのつめたさが、理解りかいとしてではなく、実感じっかんとしてむねちてくる。



 同時どうじに、もうひとつの感情かんじょうがわずかにかぶ。


 それは憐憫れんびんぶにはするどく、同情どうじょうぶには距離きょりがある。


 あまりにもみじか選択せんたく連続れんぞくてに、ここへちた存在そんざいへの、しずかな認識にんしき


 この意味いみするもの。


 戦線せんせんへの影響えいきょう


 てきうごきの変化へんか


 味方みかた動揺どうよう波及はきゅう範囲はんい


 感情かんじょう計算けいさんおなそうならび、どちらもはなせないまま同時どうじ存在そんざいしている。



 そして、そのおくにひとつだけ、った確信かくしんのこる。


 ――因果いんが偶然ぐうぜんではない。 


 この戦場せんじょうにおいてきたことは、かさなった選択せんたく帰結きけつだ。


 だれかの無謀むぼう。  


 だれかの判断はんだん。  


 だれかのおくれ。


 それらがからまりい、この一点いってん収束しゅうそくした。


 ちちかげが、その思考しこうおくをわずかにかすめる。



 だがミナギはそこにしずまない。


 しずめば、つぎうしなわれる。


 視線しせんげる。


 戦場せんじょうはまだわっていない。  


 むしろ、くずれはこれからひろがる。


 たおれた一人ひとりあに姿すがたと、まだうごつづけるいくさながれ。


 その対比たいひだけが、もりなか異様いようしずけさをつくっていた。


 そしてそのしずけさをやぶるように、ふたたおとこえる。


 ミナギは一度いちどだけじ、すぐにひらいた。


 そこにのこるのは、喪失そうしつではなく、選択せんたくつづきだった。 



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