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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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血戦


 もり戦場せんじょうには、おと衝突しょうとつにおいが幾重いくえにもかさなり、視界しかいそのものがらいでいた。


 そのなかで、ミナギのいる場所ばしょだけが異様いようしずかだった。



 もりあいだうように、かれへいたちはすすむ。


 視線しせんみだれず、あしどろかため、隊列たいれつだけがたしかなかたちたもっていた。


「――左翼さよくひくかまえてすすめ。無理むりすな」


中央ちゅうおうやりそろえ、すきかえせ」


ゆみあせるな。標的ひょうてき見極みきわめろ」


 こえたかぶることなく、怒号どごうでもなく、ただ戦場せんじょう密度みつどなかに、一定いってい呼吸こきゅうとしてとしまれていく。


 い、やりがぶつかりい、どろ足元あしもとざりう。


 それでもへいたちはくずれない。


 されながらも、かえ余地よちだけは手放てばなさない。


右翼うよくてき側面そくめん牽制けんせいしろ。中央ちゅうおうかえて」


 指示しじ無駄むだがなく、戦場せんじょう全体ぜんたいめぐらされた視界しかい延長えんちょうとして機能きのうしていた。


 もりおくきている断片的だんぺんてきくずれも、かれなかではひとつのながれとしてつながっている。


 戦況せんきょうはまだ拮抗きっこうしている。


 だが、その均衡きんこうやいばうえのようにあやうい。


 そのただなかで、ミナギの冷静れいせいさだけが一筋ひとすじ秩序ちつじょとして戦場せんじょういていた。




 ――一方いっぽうで。


 前線ぜんせんは、まったくべつうごいていた。



 隼比古はやひこ泥濘でいねいげながら、さけぶようにすすむ。


 甲冑かっちゅうおもく、うごきはあらい。


 それでもかれまらない。


 まるという選択肢せんたくしそのものをたないまま、いきおいだけで戦場せんじょうろうとしていた。


「――おれちからよ……!」


 こえたしかにはなたれた。


 だがそれは、戦場せんじょうのうねりのなかでは意味いみたない。


 ひと意志いしとしてはっせられたはずのおとは、ただの騒音そうおんとして霧散むさんする。


 かれ突撃とつげきたしかにするどい。


 最初さいしょ数歩すうほは、てきれつをわずかにらすほどのあつっていた。


 だが、それ以上いじょうつづかない。


 狗奴国くなこくへい冷静れいせいだった。


 すきおそれず、ゆるさず、やり地面じめんすれすれからびる。


 呼吸こきゅう合間あいまってぶ。


 どろあしられた瞬間しゅんかん、その無防備むぼうびさだけが戦場せんじょう露出ろしゅつする。


 するど槍先やりさきせまる。


 視界しかいはしひかる。



 つぎ瞬間しゅんかん隼比古はやひこ首筋くびすじさった。


 衝撃しょうげきからだつらぬき、かた痙攣けいれんする。


 さけびは途中とちゅう途切とぎれ、あわのようにのどおくくずれた。


 世界せかいいろ一気いっきゆがむ。


 もり輪郭りんかくくずれ、おととおのき、おもさだけがしていく。


 ひざちからうしない、どろなかしずむ。


 甲冑かっちゅうおもみが、いまになって完全かんぜん負荷ふかとしてかれつぶした。


 くずちるその姿すがたに、先程さきほどまでのいきおいはもうない。


 そこには「突撃とつげき」ではなく、ただ制御せいぎょうしなった身体からだだけがあった。



 ――そしてそのすぐさきで、ミナギはなお戦場せんじょうている。


 くずれたひとつのてんと、維持いじされる全体ぜんたい


 その差異さいだけが、いくさというものの残酷ざんこく輪郭りんかくとして、もりなかしずかにきざまれていた。


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