奔流
やがて、宮の大広間に人が集められた。
臣下。
兵。
雑役の者に至るまで。
普段は静かなその場が、ざわめきに満ちる。
何が起きるのか。
何が告げられるのか。
やがて――音が落ちた。
人の気配が、すっと一方向へ寄る。
隼比古が現れた。
ゆるやかな足取りで、広間の中央へ進み出る。
衣は整えられ、姿勢は崩れない。
その歩みには、すでに「見せる」意識があった。
「――聞け」
低く、よく通る声。
それだけで、ざわめきが消える。
「父の死は――狗奴国によるものだ」
その一言で、空気が変わる。
動揺は、別の色へと転じる。
ざわめきが、鋭くなる。
「狩りの最中を狙い、背より射られた」
間を置く。
「卑劣な手だ」
誰かが、歯を鳴らした。
拳を握る音が、あちこちで響く。
怒りが、形を持ち始める。
隼比古は、その変化を逃さない。
一歩、踏み出す。
「王を殺されて、黙しているか」
声が、強まる。
「このまま退けば、我らは侮られる」
視線を巡らせる。
ひとりひとりを射抜くように。
「次は誰が射られる」
静かに、だが確実に恐れを落とす。
「この地か」
広間の床を、足で示す。
「お前たちの家か」
――沈黙。
だが、その沈黙は先ほどのものとは違う。
押し殺された怒りと不安が、底に溜まっている。
「――討つ」
短く、言い切る。
「兵を出す」
その言葉が、火種となる。
「仇を討て――」
誰かが、低く呟いた。
それが広がる。
「仇を討て!」
「狗奴を討て!」
声が重なり、うねりとなる。
隼比古は、その中心に立っていた。
顔には、確かな昂揚が浮かんでいる。
「力を貸せ」
腕を広げる。
「この国のために」
応える声は、もはや統制されていない。
怒りと熱が、場を満たしていく。
ミナギは、その後方に立って見ていた。
人の流れが、ひとつの方向へ揃っていく様を。
怒り。
恐れ。
熱狂。
それらが、ゆっくりと絡み合い、束ねられていく。
視線を、わずかに横へ流す。
臣下のタヅマが、同じようにこの場を見ていた。
老いてなお、情に流されず場の機微を読み切る、抜け目なき視線で。
ミナギは、わずかに息を吐いた。
――もう止まらぬ。
その確信だけが、静かに胸に落ちた。




