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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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奔流


 


 やがて、宮《みや》の大広間《おおひろま》に人が集《あつ》められた。

 


 臣下《しんか》。  


 兵《へい》。  


 雑役《ぞうえき》の者《もの》に至《いた》るまで。



 普段《ふだん》は静《しず》かなその場《ば》が、ざわめきに満《み》ちる。


 何《なに》が起《お》きるのか。  


 何《なに》が告《つ》げられるのか。




 やがて――音《おと》が落《お》ちた。


 人《ひと》の気配《けはい》が、すっと一方向《いっぽうこう》へ寄《よ》る。

 


 隼比古《はやひこ》が現《あらわ》れた。


 ゆるやかな足取《あしど》りで、広間《ひろま》の中央《ちゅうおう》へ進《すす》み出《で》る。


 衣《ころも》は整《ととの》えられ、姿勢《しせい》は崩《くず》れない。


 その歩《あゆ》みには、すでに「見《み》せる」意識《いしき》があった。



「――聞《き》け」

 


 低《ひく》く、よく通《とお》る声《こえ》。


 それだけで、ざわめきが消《き》える。



「父《ちち》の死《し》は――狗奴国《くなこく》によるものだ」



 その一言《ひとこと》で、空気《くうき》が変《か》わる。  


 動揺《どうよう》は、別《べつ》の色《いろ》へと転《てん》じる。   


 ざわめきが、鋭《するど》くなる。



「狩《か》りの最中《さいちゅう》を狙《ねら》い、背《せ》より射《い》られた」



 間《ま》を置《お》く。

 


「卑劣《ひれつ》な手《て》だ」



 誰《だれ》かが、歯《は》を鳴《な》らした。


 拳《こぶし》を握《にぎ》る音《おと》が、あちこちで響《ひび》く。   


 怒《いか》りが、形《かたち》を持《も》ち始《はじ》める。



 隼比古《はやひこ》は、その変化《へんか》を逃《のが》さない。


 一歩《いっぽ》、踏《ふ》み出《だ》す。



「王《おう》を殺《ころ》されて、黙《もく》しているか」



 声《こえ》が、強《つよ》まる。



「このまま退《ひ》けば、我《われ》らは侮《あなど》られる」



 視線《しせん》を巡《めぐ》らせる。


 ひとりひとりを射抜《いぬ》くように。



「次《つぎ》は誰《だれ》が射《い》られる」



 静《しず》かに、だが確実《かくじつ》に恐《おそ》れを落《お》とす。



「この地《ち》か」



 広間《ひろま》の床《ゆか》を、足《あし》で示《しめ》す。



「お前《まえ》たちの家《いえ》か」



 ――沈黙《ちんもく》。



 だが、その沈黙《ちんもく》は先ほどのものとは違《ちが》う。  


 押《お》し殺《ころ》された怒《いか》りと不安《ふあん》が、底《そこ》に溜《た》まっている。



「――討《う》つ」



 短《みじか》く、言《い》い切《き》る。



「兵《へい》を出《だ》す」



 その言葉《ことば》が、火種《ひだね》となる。


 


「仇《かたき》を討《う》て――」



 誰《だれ》かが、低《ひく》く呟《つぶや》いた。  


 それが広《ひろ》がる。



「仇《かたき》を討《う》て!」



「狗奴《くな》を討《う》て!」

 


 声《こえ》が重《かさ》なり、うねりとなる。



 隼比古《はやひこ》は、その中心《ちゅうしん》に立《た》っていた。  


 顔《かお》には、確《たし》かな昂揚《こうよう》が浮《う》かんでいる。 



「力《ちから》を貸《か》せ」



 腕《うで》を広《ひろ》げる。



「この国《くに》のために」



 応《こた》える声《こえ》は、もはや統制《とうせい》されていない。  


 怒《いか》りと熱《ねつ》が、場《ば》を満《み》たしていく。




 ミナギは、その後方《こうほう》に立《た》って見《み》ていた。


 人《ひと》の流《なが》れが、ひとつの方向《ほうこう》へ揃《そろ》っていく様《さま》を。



 怒《いか》り。  


 恐《おそ》れ。  


 熱狂《ねっきょう》。



 それらが、ゆっくりと絡《から》み合《あ》い、束《たば》ねられていく。



 視線《しせん》を、わずかに横《よこ》へ流《なが》す。


 臣下《しんか》のタヅマが、同《おな》じようにこの場《ば》を見《み》ていた。


 老《お》いてなお、情《じょう》に流《なが》されず場《ば》の機微《きび》を読《よ》み切《き》る、抜《ぬ》け目《め》なき視線《しせん》で。



 ミナギは、わずかに息《いき》を吐《は》いた。



 ――もう止《と》まらぬ。



 その確信《かくしん》だけが、静《しず》かに胸《むね》に落《お》ちた。




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