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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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帰路


 もりけるとすぐにみちほそくなり、やがて獣道けものみちのようなものへとわる。


 かためられたつちすくなく、ふかもり、あしる。


 えだがミナギのほおをかすめ、時折ときおり足元あしもと小石こいしくずれる。


 だが、あゆみはゆるめなかった。


 ――いそがなければならない。  



 初日しょにちは、ほとんどやすまなかった。


 かたむき、もりくらさをしても、あしめるにはならない。


 よるさをすにつれ、もりけもの気配けはいんでくる。


 そこでようやく、岩陰いわかげせる。


 あずけると、全身ぜんしんちからける。


 そのままくずちそうになるのを、かろうじてこらえる。


 じると、最後さいごむら光景こうけいかぶ。


 アサの、いまにもしそうなかお



 ――もどらない。


 あのときたしかにそうおもったはずなのに。


 ミナギは心中しんちゅう苦笑くしょうする。


厄介やっかいなものだな)


 みじかいきく。


 やがて、意識いしきちる。 


 だが、ねむりはあさい。



 夜明よあまえ、ミナギはふたたあるした。

 


 二日目ふつかめ


 やまはさらにふかくなる。


 みちべるものはほとんどえ、けものとおみちすら曖昧あいまいになる。


 地面じめんい、はずせば、そのままくずちるような斜面しゃめんつづく。


 たにえる。


 足場あしば不安定ふあんていで、一歩いっぽごとにいしがずれる。


 からだひくくし、重心じゅうしんとしながら慎重しんちょうすすむ。


 だが、慎重しんちょうでいながらはやい。


 無駄むだうごきが一切いっさいない。


 岩場いわばのぼる。


 指先ゆびさきちからめ、からだげる。


 れたいわすべる。


 つめさきれる。


 だが、かまわない。


 ながれのはやかわる。


 みずつめたい。


 ひざまでかると、一瞬いっしゅん感覚かんかくうばわれる。


 それでもわたる。 


 ながれにさからい、いしみ、からだささえる。


 あしられれば、そのまま下流かりゅうっていかれる。


 わたったとき、あしはすでに自分じぶんのものではないようだった。


 わらんだものみずい、かたちうしないかけていた。


 足裏あしうらにまとわりつくおもさが、あるくたびにおくれをつくる。


 それでもあしまらない。


 まればわると、からだっている。


 いたみも、疲労ひろうも、すべて後回あとまわしにされる。


 ――ただまえへ。  


 ――ただ、はやく。



 三日目みっかめ


 やまけると、視界しかいひらけた。


 その瞬間しゅんかん空気くうきわる。


 湿しめったもりにおいがえ、かわいたくさにおいがひろがる。


 ゆるやかな盆地ぼんち


 見慣みなれた地形ちけい


 そのさきに――


 投馬国とうまこく中枢ちゅうすうがあった。


 幾重いくえにもめぐらされたさくが、盆地ぼんち中央ちゅうおうかこむようにつらなっている。


 けずした木杭きぐいたかく、隙間すきまなくならび、外界がいかいはばかべとなっていた。


 その内側うちがわに、屋根やねかさなる。


 ひくかまえた住居群じゅうきょぐんおくに、ひときわおおきな建物たてものがあった。


 あつかれたかや屋根やね幾層いくそうにもかさなり、ひろがるようにかえっている。


 さらにその背後はいごには、たかまれたやぐらふたつ、そらるようにっていた。


 ――わらない。


 いや、わっていないはずの光景こうけいだった。


 おさなころから見慣みなれたはずのそれが、どこかとおいもののようにかんじられる。


 ミナギはほそめ、ゆっくりといきく。


 そして、あゆみをはやめた。



 さくをくぐる。


 もんえる。


 なかはいった瞬間しゅんかん――視線しせんあつまった。


 いたところから。


 ひとが、左右さゆうかれる。


 そして――ひとりが、ひざった。


「おもどりを、おちしておりました」


 ひくく、おさえたこえ


 それを合図あいずにしたかのように、周囲しゅういものたちも次々(つぎつぎ)こうべれた。

 


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