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アマガタリ  作者: ひよりの
第一章
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別離


 くるくると、むら上空じょうくうおおきなとり旋回せんかいしていた。


 最初さいしょづいたのはアサだった。


「――ムスビだ」


 アサがつぶやころには、ほとんどの村人むらびとたちもそらあおいでいた。


 ムスビは、なにかをたしかめるように何度なんどえんえがき、やがて、ひときわひく降下こうかすると、まようことなくミナギのもとへとしずかにりた。


 ミナギがわずかにうでかたむけ、ムスビをめる。


 だれかが、


「おぉ」


 とこえげた。


 ムスビは、キッ、キッ、キッ、とするどいた。


 なにかを警告けいこくするようなおとだった。


 そのあしには、ほそかれたものがあった。


 ミナギのゆびが、それにれる。


 く。


 ひろげる。


 ――その瞬間しゅんかんだった。


 空気くうきが、わった。


 ミナギの視線しせんかみうえまり――いき途切とぎれた。


 おくれるかげ


 わずかにふるえるくちびる


 一瞬いっしゅん世界せかいからはなされたかのように、くしている。


 言葉ことばうごきも、まるでこおりついたかのようだ。


 アサは、その様子ようすをじっとつめていた。


 そんな姿すがたのミナギをるのははじめてだった。


「……どうしたの?」


 いかけるこえは、おもった以上いじょうちいさく、たよりなかった。


 ミナギはすぐにはこたえない。


 たしかめるようにゆっくりといきく。



 やがて、ミナギはかおげた。


「――くにに、もどらなければならない」


 ミナギの言葉ことばにアサは一瞬いっしゅん世界せかいおととおのいたかのようにかんじた。


 とりこえも。


 かぜおとも。


 もりのざわめきも。


 すべてがとおくなり、鼓動こどうだけがみみおく高鳴たかなる。


 え、とちいさなこえが、のどっかかる。


 言葉ことばず、全身ぜんしんつめたくかたまってしまったかのようだった。


 アサはちすくみ、呆然ぼうぜんまえのミナギをつめていた。


 ミナギは、紙片しへんなにかをサラサラとみ、ムスビのあしにそっといつけた。


 ムスビは、しずかにはねひろげ、ひとこえ、キィーッとくと、そらへとがった。


 アサはそのうごきを見守みまもり、村人むらびとたちもおもわずいきむ。


 かぜったムスビは、たしかになにかをつたえるためにったのだと、だれもがかんじていた。



 ムスビを見送みおくると、ミナギは、すぐにうごした。


 ものをまとめ、必要ひつようなものをえらつきに、一切いっさいまよいがない。


 そのはやさは、準備じゅんびというより、すでにまっていたことをなぞっているようにもえた。


「おい、どうしたんだきゅうに」


「――あのとりなんだ」


なにいてあったんだ」


 村人むらびとたちのこえ次々(つぎつぎ)ぶ。


 戸惑とまどいがじったざわめきがひろがる。


 だが――


 ミナギはこたえない。


 だれいにもかず、ただ黙々(もくもく)うごかしつづける。


 その横顔よこがおは、かた強張こわばっていた。


 なにかをころすように。


 あるいは、すべてをはなすように。


 その沈黙ちんもくが、かえってめさせる。


 アサは、その様子ようすすこはなれた場所ばしょからていた。


 こえをかけることもできず、ただ、くしている。


 むねおくが、じわじわとえていく。


 さっきまで、おな場所ばしょにいたはずなのに。


 もう――


 ミナギのこころはどこかとおくへってしまっているようながした。


「ミナギ」


 ざわめきのなかで、その一言ひとことだけがまっすぐとどく。


 ミナギのが、わずかにまった。


 アサは一歩いっぽす。


 あしおもい。


 それでもまれなかった。


 ミナギはこちらをかない。


 アサは、たまらずばす。


 そのうでを、つかんだ。


「ミナギ」


 はじめてだった。


 ――こんなふうに、つよれるのは。


「また――もどってくる?」


 なんとかしぼした言葉ことばは、ひどくふるえていた。



 一年いちねん――


 ミナギがこのむらてから、それだけのときながれていた。


 最初さいしょは、よそものとして警戒けいかいされていたはずのおとこは、いつのにか、ここにいるのがたりまえになっていた。


 だからこそ――


 だれも、この突然とつぜんわかれにいつけていないようだった。


 ――またもどってくる?


 アサのそのいに、ようやくこちらをいたミナギは、こまったような、どこかとおくをるようなみをかべた。


 その表情ひょうじょう瞬間しゅんかん、アサのむねおくで、なにかがしずかにしずんだ。


 ――ああ。


 このひとは、もどらない。


 言葉ことばくまでもなく、そうかってしまった。



「――いままで」


 ふるえをころしながら、アサはう。


いままでありがとう。色々(いろいろ)おしえてくれて」


 ミナギはわずかにほそめた。


 それから、ばし――かがんでアサの目線めせんわせると、そのかたにそっとれた。


「……おまえなら、大丈夫だいじょうぶだ」


 みじかく、それだけをげる。


 ぬくもりは、たしかにそこにあるのになぜかもう――とどかないもののようにかんじられた。



 むら出口でぐちまでると、ミナギはあしめ、むらものたちにかってふかあたまげた。


 言葉ことばえず、ただしずかに。


 ――しかし、こころからの感謝かんしゃしめ所作しょさ


 そのままけ、かえることなくあるす。



 そして――


 ミナギはむら旅立たびだった。


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