青鷹
翌朝――
森の空気は澄み、風は高かった。
「呼ぶか」
ミナギが、ふと空を見上げる。
指先を唇に当て、短く、鋭い音を鳴らした。
笛のようでいて、もっと乾いた音が、空へ抜ける。
しばしの静寂。
やがて――影が、落ちた。
――大きい。
アサが見上げるより先に、それは風を裂いて降りてくる。
青――
鈍い灰色の奥に、光を受けて深い青を帯びる羽。
ミナギの瞳の色のようだ――と思った。
滑るように旋回し、迷いなくミナギの腕へと降り立った。
風が、遅れて頬を打つ。
「……!」
思わず息を呑む。
青鷹は、微動だにせず佇む。
「ムスビだ」
ミナギが言う。
そっと頸を撫でる。
ムスビは目を細め、わずかにキュルルと鳴いた。
「触ってみるか」
言われて、アサは一瞬ためらう。
だが、手を伸ばす。
指先が、羽に触れる。
しなやかで、思ったよりも、あたたかい。
「…可愛い」
そう呟いた瞬間、ムスビの眼がこちらを射た。
動けなくなる。
逃げ場のない視線。
(…見られてる)
試されているような、測られているような、そんな感覚。
「大丈夫だ」
ミナギの声が、近くで落ちる。
それだけで、張り詰めていたものが、ほどける。
アサは、そっと息を吐いた。
青灰の羽が、風にわずかに揺れる。
空へ還る気配を内に秘めながら、それでも今は、ミナギの腕に在る。
アサは、その光景から目を離せなかった。




