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やわらかな壁


 火は、低く保たれていた。

 薪はほとんど爆ぜず、ただ赤く、静かに燃えている。

 向かいに座るミナギの横顔は、その明かりに半分だけ照らされていた。

 アサはしばらく黙っていたが、ふと、口を開く。

「…ミナギって――」

 一度、言葉を切る。

 問いの形を、探すように。

「本当は、えらい人?」

 火が、ひとつ小さく揺れた。

 ミナギは、少しだけ目を細める。

 驚いた様子はない。

 責めるでも、はぐらかすでもなく、ただ、問われたことを受け止めた顔だった。

「どうしてそう思う」

 穏やかな声。

 アサは、視線を火に落とす。

「…なんとなく」

 それ以上は言わない。

 言えない。

 言葉にしてしまえば、積み重ねてきた()()が、形を持ってしまう気がした。

 少しの間、薪のはぜる音だけが、間を埋める。

 やがて――

「ただの行商だよ」

 ミナギは、笑った。

 軽い調子。

 いつもの声音。

(…ずるい)

 アサは、わずかに口を引き結ぶ。

 踏み込ませない、やわらかな壁。

 火は、変わらず燃えている。

 その向こうで、ミナギの表情だけが読み取れなかった。

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