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アマガタリ  作者: ひよりの
第二章
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白光の先へ




 ――出立しゅったつ


 ミナギとアサの視線しせんかさなる。


 喧騒けんそう只中ただなかにあって、そこだけがられたようにしずかだった。



 ほんのわずかな時間じかん


 まばたきひとつぶんにもたない、みじか交錯こうさく



(……このまま、まればいいのに)



 アサのむねおくで、ねがいがかすかにかたちつ。



 ときが、このままこおりついてしまえばいいと。


 その一瞬いっしゅんに、すべてをめてしまえたなら、と。



 だが――


 現実げんじつ容赦ようしゃなくうごす。


 

 つぎ瞬間しゅんかん



 ――カァン。



 するどおとひびいた。


 (かね)


 つづけて。



 ――ドォン。



 るがす太鼓たいこ轟音ごうおんかさなり、はらそこはげしくたたく。


 空気くうきが、一気いっきわる。



 儀礼ぎれいから、移動いどうへ。


 せいから、どうへ。



 整然せいぜんならへい長槍ながやりなおし、群衆ぐんしゅうって一本いっぽんみちひらく。


 アサはうながされるまま輿こしまえすすむ。


 輿こし白布しろぬのおおわれ、簡素かんそでありながらも、どこか神聖しんせい気配けはいびていた。

 


 あしをかける、その直前ちょくぜん――


 そっと、えられた。


 ミナギだった。


 なにわず、す。


 アサは一瞬いっしゅんだけいきみ、その自分じぶんかさねた。


 あたたかく、たしかな体温たいおん


 そのまま、ささえられるようにして輿こしへとあしをかけ、ぬの内側うちがわへ、身体からだすべませる。


 なか外界がいかいひかりさえぎり、やわらかくくらい。



 その瞬間しゅんかん――


 気配けはいが、もうひとつはいんだ。


「――」


 ミナギが、躊躇ためらいなく、輿こしなか半身はんしんすべませていた。


 そとのざわめきや太鼓たいこおとが、とばりこうへと一気いっきとおのく。


 せま空間くうかんで、ぐい、とこしかれた。


 思考しこういつくまえに――


 距離きょりが、一気いっきえる。


 言葉ことばはなかった。


 そのまま――


 くちびるが、かさなる。


「――……っ!」


 アサの見開みひらかれる。


 だが――


 こばまない。


 むしろ。


 むねそこからせきってあふした激情げきじょううごかされるように――


 両腕りょううで自然しぜんび、かれたくましい背中せなかへとまわる。


 すがりつくようにつめて、夢中むちゅうきしめかえした。


 ミナギのうでも、こたえるように、容赦ようしゃなくまる。



 じる心音しんおん


 から呼吸こきゅう


 みじかいはずの時間じかんが、ばされる。



 やがて――


 名残なごりるように、くちびるはなれる。



 一瞬いっしゅん


 視線しせんが、からむ。



 言葉ことばはない。


 それでも、すべてがつたわる。



 そして――


 ゆっくりと、はなれる。


 余韻よいんかかえたまま。


 ミナギは、すっと輿こしそとへといた。


 そとおとが、もどってくる。



 ざわめき。


 足音あしおと


 太鼓たいこ



 その直後ちょくご

 


「――おい」



 かおげると、そこにいたのは浮羽うきはだった。


 うでみ、じっとこちらをている。


「……全部ぜんぶえてるぞ」


 面白おもしろがりと、すこしのあきれのじった表情ひょうじょう


 ミナギは、一瞬いっしゅんだけほそめる。



「――たのんだぞ」



 ひくく。


 みじかく。


 だが、その一言ひとことめられたおもさは明白めいはくだった。



 浮羽うきはは、ふっとかたすくめる。


われなくても」


 口元くちもとみをかべながら。


いのちえても」


 しずかに、る。


 かるっているようで、そのひとみおくは、けっしてかるくない。



 ミナギは、それ以上いじょうなにわない。


 ただ一度いちどだけ、しろ輿こしへとふか視線しせんげ――


 ひるがえころもとともにけた。



 ごえがる。



「――出発しゅっぱつ!」 



 怒声どせいひびき、六人ろくにん屈強くっきょうかつ輿こしげる。


 ぐらり、とれる。



 その瞬間しゅんかん――


 アサのなかめていたものが、れた。


「……っ」


 こえが、れる。


 めようとしても、まらない。


 なみだが、あふれる。


 輿こしくらがりのなか――アサは両手りょうてかおおおい、しゃくりあげるようにかたふるわせた。


 嗚咽おえつが、ころせない。


 むねおくんでいたすべてがすようにあつしずくとなって、つぎからつぎへとゆびらし、ひざうえへこぼれちていく。



 そとでは、行列ぎょうれつすすむ。


 もんが、ちかづく。



 やがて――


 おおきな正門せいもんをくぐる。



 空気くうきわる。


 みやそと


 世界せかいが、ひろがる。


 ゆるやかなさかを、くだりていく。



 れる視界しかいなかで、アサはかおげた。


 ぬのけるように、そとる。


 かえる。



 とおざかるみや


 高台たかだい建物たてもの


 その屋根やねが、暁光ぎょうこうけてしろかがやいていた。


 そのしたに、人影ひとかげがあるようながした。


(……ミナギ?)


 らす。


 だが――


 もう、はっきりとはえない。


 距離きょりが、すでにとおい。


 それでも、たしかにそこにいるとしんじたかった。


 

 ――つぎ瞬間しゅんかん


 ひがし稜線りょうせんから、朝日あさひ金色こんじき光輪こうりん完全かんぜん姿すがたあらわした。


 強烈きょうれつ白光はっこう視界しかいくし、アサのれたほおをまっすぐにく。


 まぶしさにえかねてほそめる。


 とおざかるみやも。


 いとしいひと面影おもかげも。


 すべてが、ひかりなかけていく。



 それでも――


 むねおくには、たしかにのこっている。


 あの温度おんども。


 あの視線しせんも。


 あの一瞬いっしゅんも。


 えないまま。



 アサのたびは、はじまった。






 第二章――完






『第二章――完』


 そして――


 第三章へ。


 物語の舞台は、いよいよ耶馬台国へ。


 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


 三章更新は、しばらく不定期になります。


 これからもアサたちの物語を、どうぞよろしくお願いします。


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