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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
到着、ダンジョンの町ミルドワ
90/99

89話 ダンジョンに入る為に

誤字脱字は時間があるときに修正します。

 建物の中はたくさんの人で溢れており、受付では人が途切れることなく流れを作っている。

 宿で一晩過ごしたリエル達は、エミリアから教えてもらったダンジョンへの立ち入り許可証を受け取るために此処、ミルドワのギルドへと足を運んだのだが、バランディアよりも遥かに多い人の数に面食らってしまう。


 〖凄い数ねー〗


 〖混雑を避けようとこんな早い時間に寝床を後にしたというのに、これでは敵わんな〗


 〖それにしても、本当に沢山の人間がいますね。私は冒険者がそこまで魅力のある職業とは思えないのですが。安定した収入を得るには実力が物を言う訳ですし、不測の出来事で命を落とす危険だってある〗


 〖全ての冒険者がなりたくてなっている訳ではないと思うけどね。何かしらの事情があるのよ〗


 〖何故もっと――そう、それこそ、腕に自信があるなら国の兵士にでもなれば良いと思うんですが。その方がしっかりした生活ができると思いますけど〗


 〖それはどうじゃろうな。国に仕えるとなれば少なからず規律に縛られる事になる。結果、自由は制限される事になるし、命令に不服があっても兵はそれに従わねばならん。それに比べると冒険者は依頼を自分で選べるというメリットもある。ギルドのサポートもあるのじゃからそこまで酷い環境という訳でもないしのぉ〗


 受付に並んでいるリエル達は幾つかある窓口の中から適当な列を選び、最後尾へと並ぶと自分の番が回ってくるのを待つ事にする。

 待ってる間も他愛もない話をしているリエル達だが、リエルと正式な契約を結んでいないクエレだけは念話が出来ないのでリエルの胸ポケットの中で眠りこけている。


 20分程たった頃、ようやくリエルの番まで列が進み、受付の男性から声がかかる。

 呼ばれるままに受付にやってきたリエルに、最初こそ男性は驚いているような表情を見せたが、その表情は直ぐに笑顔を取り戻す。


「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ダンジョンに入る申請をしにきたんですけど、ここで平気ですか?」


「はい、大丈夫です。ではまず、ギルドカードの提示をお願いしても良いですか?」


 リエルは男性の言葉に従い、ギルドカードを差し出す。

 それを手袋した手で受け取ると、バランディアでも見た情報を読み取る魔導具に通している。


「その年でランクDとは・・・お名前を伺っても?」


「リエルと言います」


「有難うございます。私はアレックスと言います。宜しく。さて、本人で間違いない様ですので、ちょっとデータを確認させて頂きますので少々お待ちを」


 そう言ってアレックスは魔導具を操作して、カードに記録されている情報を確認し始める。


 〖やれやれ、また待たされるのか〗


 ミヤビは周囲を観察しながら退屈さを紛らわそうしている。


 〖しょうがないでしょ?そういう決まりなんでしょうから。ほら、これでも食べながら大人しくしててよ〗


 リエルはカラアゲを取り出してミヤビの口元へと持っていく。

 こう言う時に軽く摘めるカラアゲ。大量に作っておいたのは正解だった。


 〖妾はガキではないぞ。バカにしておるのか?〗


 〖あら、じゃーこれはナシタに上げちゃうわね〗


 〖む、別に食わんとは言っておらんじゃろう〗


 ミヤビはそっと口でカラアゲを受け取ると、早々に口の中へと運び、その肉の旨さを味わい始める。


 睡眠時間を削ってまで早くきたというのに、ここで待たされた時間と退屈さで少々ヤキモキしていたミヤビだが、カラアゲを差し出されるとその機嫌は少しだけ良くなる。

 無論これはリエルがミヤビを甘やかしているという訳ではなく、契約の効果で互いの感情をある程度把握出来る為だ。


 〖はいナシタ、ブラン。貴方達もそれでも食べて少し気持ちを落ち着かせなさい〗


 ブランとナシタにもカラアゲを差し出すと、二人も美味しそうに食べ始める。


 ミヤビだけなら兎も角、ナシタとブランも少なからずストレスを感じているのが感じ取れたので、少しでもその感情を和らげてあげようと言うリエルなりの気遣いである。


(やっぱり、ここまで騒がしい場所になると疲れが溜まるのかな?)


 などと考えながら、アレックスの様子を確認してみると、先程話していた時とは大きく変化してた。

 その表情は驚きと困惑の色を浮かべており、誰が見ても問題が起きているのが容易に窺い知れるものだったのだ。


 リエルがその様子を不思議に思いながら見ていると、魔導具を操作していたアレックスの視線がリエルの方へと移り、二人の視線が交差する。


「す、すいません。もう少々お待ち下さい」


 そう言い残すとアレックスはカウンターの奥へと姿を消す。


 〖どうしたんでしょうか?何だか酷く混乱しているように見えましたけど〗


 〖ブランにそう見えたってことは、あたしの気のせいって訳では無いわね〗


 〖失礼な人間です。理由も言わずに席を立つとは〗


 〖何でもいいからさっさと済ませて――やれやれ、こっちもか〗


 〖ん?どうか――〗


「お前、何しでかしたんだよ?ったくよー。こっちは急いでるっているのに、無駄な時間を取らせやがって」


 敵対的な内容を含む言葉が背後から飛んできたのでリエルが振り返ってみると、ガタイのいい戦士風の男がリエルを見下ろしていた。


 今まで見てきた人間の中で最も体格の良かったガーランドを上回る程の男の体格の良さに、リエルが驚いた顔を見せていると、男の背後から別の男が姿を見せる。


「マーティンさん、ダメですよ。おチビさんが怖がってるじゃ無いですか」


「全く、組合もどうかしてるんじゃねーのか。こんなガキを冒険者として認めるなんてよ。こんなチンチクリンに何が出来るって言うんだよ。阿呆らしい」


「そんなこと言ったら可哀想ですぜ。ペット探しくらいの雑魚仕事には丁度いいじゃないんすか?」


 男達は明らかにリエルを小馬鹿にしている言葉を立て続けに吐くと、受付の前まできてリエルのいた場所奪うように陣取ってみせる。


「ほら、ここはガキの来る所じゃねーんだ。さっさと消えな」


「そうだぜおチビさん。マーティンの旦那は怒らせると怖いぜー?」


 いい年をした大人が小さな少女を嘲笑っている様子を目の当たりにした周囲の冒険者達だが、関わり合いになるのは御免だと言った感じでそれを咎めようとはしなかった。


 〖面倒くさいから相手にしなくていいわよ〗


 〖言われんでもわかっておる。こんな奴等に時間を使う価値などない〗


 〖何を根拠にリエルさんが弱いと判断してるんでしょうか。私の目にはこの者達の方こそ大したことないように見えるのですが〗


 〖この塵共・・・リエル様を侮辱するとは・・・許せん〗


 〖ナシタ、やめなさい。こっちから手を出しちゃだめ〗


 ミヤビとブランの方はまだ冷静なのだが、ナシタだけは今にも襲い掛かりそうな気配があったので、リエルは手を出さないようナシタに注意を促す。


 全身の毛を逆立てて牙をむき出しにするナシタを見ても男は態度を変えることなく言葉を続ける。


「お前さん、どうせどっかのボンボンのガキなんだろ?俺は実力も無い見栄えばっかりの奴が大嫌いなんだ。お前みたいな従魔頼りの雑魚とか特にな」


「ほらほらワンチャン?そんなにびびらなくていいですよー」


 マーティンの仲間の男は手を叩いて、敵意むき出しのナシタを刺激する様に振舞っているが、リエルに手を出すなと言われている以上ナシタにはどうする事もできず、ただ黙って堪えるしかない。


 〖ふむ。少々面倒な奴に目をつけられたもんじゃな〗


 〖はぁー・・・こういう人達って直ぐ調子にのるから相手にしたく無いのよね。ナシタ、悪いけどもう少し我慢して〗


 〖むぅ・・・了解しました〗


「いい加減何とか言ったらど――」


「お待たせして申し訳ありません。少々確認し・・・どうかしたんですか?」


 ちょうどいい所に戻ってきたアレックスだが、リエルとマーティンの間にある空気、周囲の雰囲気から何かあった事を敏感に察知する。

 だが、口を開いたのはアレックスの後から現れた、身なりの整った温厚という言葉がよく似合いそうな人物であった。


「君達はこの方の知り合いか何かかね?」


 言葉を発した男性の表情には、一見特別な感情を抱いているようには思えないのだが、ギルドの職員達の表情は、何か・・・そう、まるで嵐の前の静けさに晒されているような・・・そんな不安を表情に浮かべている。

 その異様な空気をマーティンも察知したのか、先程までの威勢の良さは何処かへと消えてしまう。


「君、何があったのか説明したまえ」


 男性は別の窓口にいる職員に何があったのか尋ねると、声をかけられた女性の職員の方は体を跳ねさせ、青ざめた顔をしながら口を開く。


「アレックスさんが席を外し暫くしてから、そちらの方達が少女に何か因縁をつけている様子でし――」


「それを貴方はただ黙って見ていたと?」


 話の終わりを聞く事なく、男性は鬼のような形相で女性職員を睨みつける。


「そ、それは!ギルドは極力冒険者同士のいざこざには口を出さないのが決まりですし・・・わ、私も仕事があったのでそんな余裕は・・・」


 しどろもどろになりながらも弁明する女性を見て、男性は表情を戻して左右に首を振る。


「いい年した大人同士が言い争ってる分にはその対応で問題ないと私も思います。自分で責任を取れる訳ですからね。ですが、ガラの悪い男が少女に絡んでいるのを黙って見ているだけなんて対応、私はしません。最も、こういう事例は中々ありませんから、そうなってしまうのは致し方無いのかもしれませんが・・・」


 そう言って女性職員を一瞥すると、再度マーティンへと視線を戻す。


「それで?貴方はこの方に何かされたんですか?」


 まるで心臓を射抜くかのような鋭い視線がマーティンに向けられている。

 気圧されたマーティンは無意識に後退ってしまうが、男性の問いに対する答えはしっかりとしていた。


「大した事じゃねーさ。このチビがそっちの職員を困らせたもんで、待ち時間が伸びるのにちょっとイラついてただけだよ」


「その程度の事で小さな少女に八つ当たりをするとは・・・情けない」


「な、何だと!?てめぇ、俺をバカにしてるのか!?俺はランクDの冒険者で、受ける依頼だって討伐系専門の実力者だ!舐めた口聞いてるとタダじゃおかねぇぞ!」


「言い換えればランクD程度の実力しか無いのだろう?別に威張れる事でもない」


 男性の口調は徐々にきつく険しい物へと変化していき、第一印象の温厚そうなイメージからはどんどん離れていく。


「それに君が絡んでいたそちらの少女は、冒険者になってから僅か一週間足らずでランクDへと昇格しているほどの実力者だ。君とは物が違う」


「はぁ!?そ、そんな馬鹿な話があるか!一週間なんてあり得る訳が――」


 男性の放った言葉に驚いたマーティンだが、同様の衝撃が周囲の冒険者にも伝染し、ドッと辺りが騒めき始める。


「まぁ君が信じられなくても私には関係ない。あまりこちらの方を待たせるのは申し訳ないのでね。君はさっさと列に戻りたまえ」


 相手にするつもりが無い事をまるで隠さない男性の振る舞いを目の当たりにした事で、傍若無人であったマーティンでも何も言うことが出来ず、その表情に怒りを露わにしながら人混みの中へと消えていった。


「さて、煩い蝿はいなくなった事ですので聞かせて下さい。貴方はリエルさんで間違いないですね?」


「そ、そうですけど」


「私はここの冒険者ギルドを預かっているフォルメルと申します。ここは町の特性上あーいう勘違いした輩が少なくなくて。不愉快な思いをさせて申し訳なく思います」


「別にあの程度なら気にしませんけど・・・」


「そう言って頂けると助かります。実はマルドゥク殿――ほとんど喚いていたのはキャス嬢ですが、あなたの事で連絡がありましてね」


「キャスさんからですか?何か事件でも?」


「いえいえ、そういった事ではありませんよ。キャス嬢の言葉をそのままお伝えすると、“近日中にリエルというとっても可愛いエルフの女の子がそちらに現れると思うので、もし彼女に不都合があったら全力で揉み消し、全面的に協力しなさい。さも無いと私が直接そちらに行き、然るべき処置を取らせてもらう”との事です。相変わらず無茶苦茶な話です」


「そ、そうですか。それはまた・・・」


 リエルの素性を知っているキャスだからこそできる気遣いではあるのだが、やってる事は完全に職権乱用の域である。


「ち、因みにマルドゥクさんはなんて言っていたんですか?」


「はい。キャス嬢のいってる事は間に受けなくていいとマルドゥク殿は仰ってました。ただマルドゥク殿も同様、リエルさんの件で問題が起きたら穏便に取り計らってくれると助かるとの事でした」


「そうですか。なんか面倒をおかけして申し訳ないです」


「いえいえ。私もマルドゥク殿とキャス嬢にはお世話になっていますからね」


 〖ふむ。奴等なりの配慮ということじゃな。中々気がきくではないか〗


 〖ですが、宜しいのですか?いっては何ですが、結果的に我々はとても目立ってしまってますよ〗


 〖これくらいなら大した事にはならんじゃろ。寧ろ、さっきみたいな手合いに絡まれる事が減るんじゃないかのぉ〗


 〖それは・・・そうかもしれませんが〗


「ですが、マルドゥク殿の言葉とはいえ、それを全面的に支持出来るほど、あなた達を信用するというのは私にはできません」


「それは分かりますので、私は別に文句言うつもりはありませんよ」


 そう返したリエルに対して、フォルメルはにこりと表情を変える。


「ですので、失礼ながら簡単なテストをさせて頂きます。リエルさんが私を納得させるに足りる方なのかを見極めさせて欲しいのです」


「それは構いませんけど、私にできることなんてそこまで多くはないと思いますよ?」


「いえいえ、別の特別な事をお願いするわけではありません。まずはこれをお渡しします」


 そう言ってフォルメルはギルドカードによく似た銀製のプレートをリエルに差し出す。

 受け取ったリエルはそれが何なのか分からず、裏返してみたりしながら入念に確認している。


「それがあればこの街のダンジョンへ入る事が出来ます。再発行には手数料がかかりますので紛失、盗難には十分に注意してください」


「なるほど、これがエミリアさんが言ってた許可証って事か」


「ん?何ですか?」


「いえ、こっちの話です」


「ふむ・・・それで、頼みたい事というのは、ダンジョンに入った冒険者に関する事です。簡潔に言えば行方が分からなくなっている冒険者の捜索に協力して欲しいのです」


「行方不明者ですか?」


「はい。まだ冒険者になりたての新人達ですね」


 〖中々したたかな奴じゃな。妾達に迷子探しをさせようという訳か〗


 〖どうせ愚かな人間の事ですから、欲に目が眩み引き際を誤ったのでしょう〗


 〖そういうこと言わないの〗


「私に協力できるというならやりますけど、正直言ってダンジョンは初めてですから、お役に立てるかは分かりませんよ?」


 そう言われる事も想定していたのだろう。フォルメルは淀みない口調で言葉を返す。


「それは大丈夫でしょう。マルドゥク殿から、リエルさんのお連れの従魔は随分と感知能力に優れていると伺っておりますし、能力についても申し分ないと聞いておりますから」


「はぁ。まぁそう言うなら構いませんけど」


 〖話を聞く限り、マルドゥクという方はリエルさん達のことをちゃんと理解しているようですが・・・随分と口が軽いようですね〗


 〖別にその程度で済んでるなら問題なかろう。あのじじいも大層したたかな奴じゃが、妾も信用できない奴とは思っておらん。それにこの男にもリエルが役に立つ根拠を示しておく必要もあったのじゃろう〗


 〖私は直接あった訳ではないので・・・ミヤビさんがそういうなら多分平気なんですかね〗


 マルドゥクの事をよく知らないブランは、余計な事まで話してしまうんじゃないかと懸念しているが、ミヤビの話を聞いて、そういうものかと納得する。


「何か他に説明は必要ですか?」


「今のところはまだ何ともいえません。ただ、何かあったら聞かせてもらうつもりです」


「分かりました。なにぶん私も非才な身ではありますが、それなりに職務に追われる事があるので直接対応できる事は少ないと思います。何がありましたらアレックス君に聞いてください。任せても平気だね?」


「はい。頑張ります」


 はっきりと口にした返事とは裏腹に、アレックスの表情は引きつっている。


 〖リエルよ。これで問題なくダンジョンに入る事が出来るのじゃろう?〗


 〖ええ、エミリアさんの話だとこの許可書があれば通してくれるって言ってたし、大丈夫だと思う〗


 〖ならばこんな退屈なところはさっさと出るぞ〗


 〖正直な所だと、ちょっと聞きたい事もあるんだけど――今はちょっとってね。分かったわ、いきましょう〗


「それじゃ早速私達はダンジョンに行ってみます。有難うございました」


「では、こちらのギルドカードはお返ししますね」


「リエルさん。冒険者捜索の件、よろしくお願いします」


 フォルメルが深々と頭を下げると、リエルもアレックス達に頭を下げて礼儀を示し、それが終わると足早に受付から離れていく。

 上司であるフォルメルが傍に佇む中、何を聞かれるのかと内心焦りがあったアレックスだったが、リエルが黙って立ち去る様子を前にすると、額に浮かべていた冷や汗をタオルで拭いほっと息をつく。

 それは周囲にいたギルド職員も同じだった。


「さて、マルドゥク殿の言う通り、彼女が私達の助けになるのかな」


「ん?何ですかマスター?何か言いましたか?」


「いや、何も。では、よろしく頼むよ」


 それだけ言い残すと、再びフォルメルは奥の部屋へと姿を消す。






「あ、リエルさん。こんな朝からギルドに来るなんて、早速許可証を貰いに来たのね」


 建物外に出た直後で出会ったのはエミリアだった。


「おはようございます、エミリアさん。お陰様で無事許可証は入手出来ました」


「それは良かったわね。じゃー早速ダンジョンに向かおうって訳?」


「そうですね。せっかく朝早くからこうして動いているので」


「そう。なら――」


 冒険者同士は同業者であり、時には競争相手として競い合い、時には仲間として頼り合うような関係と言っていいだろう。

 その為、相手が信用出来るかどうかを見極めるのも、冒険者の大切な資質の一つになってくる。

 その見極めを誤れば、命がけの状況に直面した際に、最悪の場合自身でリスクを背負うことになるのだから、とても重要な要素なのだ。


 では、どうすれば相手の事をよく理解できるのか?

 答えは単純にして明快。


「お邪魔でなければ、軽くダンジョンがどんなものか案内しようか?」


 一緒に行動してみればいい。勿論自分の身を確実に守れる範囲内で。


「え、何ですか突然?」


「別に深い理由は無いわ。ただリエルさんがどんな人なのか気になったって感じかな。どう?私の魔法は役に立つわよ?」


「うーん・・・そう言われてもなぁ・・・」


 当然リエルは返答に困ってしまう。


 〖どう思う?〗


 〖まぁ何かしら下心はあるじゃろうな。でなければそれほど親しい間柄でも無いのにここまで親切にはしないじゃろう。まぁ悪意が無いのは確かじゃと思うぞ〗


 〖多分、リエルさんと仲良くなりたいんじゃないですかね?昨日の様子からも非常に好意的でしたし〗


 〖私はリエル様の判断に従います!〗


 〖お前はいつもそればっかりじゃな。そんなんでリエルの執事が務まるのかのぉ?〗


 〖交友関係に口を挟むのは良くないと私は思います!〗


 〖では、リエルがガラの悪い者と一緒に行動するような事になっても、お前は黙ってそれに従うのか?〗


 〖う・・・そ、その時は話は別です!それに、リエル様はそんな連中と一緒に行動なんてしません!〗


「それじゃ、お願いしようかな」


「そうこなくっちゃね。早速いきましょう」


 このまま話が逸れていく事を予感したリエルは、特に悪意がある訳でもないなら断る必要はないと判断して、エミリアの提案を受け入れることにする。

 だが、歩き出そうとした時、後方から何かが迫って来る気配を察知したリエルは素早い身のこなしでそれを躱しきる。


「このガキ、避けやがったか。どうして勘付いたのかはしらねぇが、実力はそれなりにあるってことか」


 繰り出した拳を引き戻しながら喋っているのは、ギルドでリエルに絡んでいた男、マーティンであった。

 そのいきなりの暴挙に声を上げるのはエミリア。


「ちょっと貴方、一体何の真似よ」


「関係ない奴はしゃしゃり出てくんじゃねーよ。これは俺様とそのガキの問題だ」


「そうだぜお嬢さん。このガキはマーティンの旦那を傷付けた慰謝料を払ってもらわなきゃなんねーんだからよ?ふひひ」


「馬鹿なこと言ってると、憲兵を呼ぶわよ」


「うるせぇ!すっこんでろ!」


 マーティンはそう声を荒げると、拳を鳴らしながらリエルへと詰め寄って来る。

 街の特性上血の気の多いものが集まっている事もあってか、喧嘩だとわかるや否や、たちまち周囲には野次馬が集まって来る始末。


「要件は今言った通りさ。痛い目に遭いたくなかったら、さっさと払うもん払った方が賢いと思うぜ」


「リエルさん、相手にしなくていいわよ。時期に騒ぎを聞きつけて憲兵がやって来るわ」


 〖どうしてこういう人達って、揃って同じ事を言うのかしら〗


 〖程度が一緒なんじゃろう〗


 〖以前にも似たようなことがあったのですか?〗


 〖まぁちょっとね〗


「黙ってんじゃーねよ!まぐれで俺の拳を躱したくらいで余裕こいてんじゃねぇ!」


 マーティンの拳が風を切る音を伴いながら、リエルに向けて迫って来る。


「リエルさん!?よけ――」



 それはエミリアの言葉よりも早く起きた。



 黒い影がリエルとマーティンの間に入ったかと思った瞬間、マーティンの巨体は地面を転がりながら人混みの中へと突っ込んで行く。


「「「――え?」」」


 エミリアだけでなく、周囲の野次馬も思わず間の抜けた表情で声を重ねる。


 マーティンの立っていた位置いた立派な巻角を頭部に生やした一匹のフォレストウルフを注視しながら。


お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

更新が不定期で申し訳ないのですが、楽しんで頂ければ幸いです。


野生の魔王に喧嘩をうって四天王にボコられる哀れな一般人の図

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