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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ、ダンジョンのある町へ
84/99

83話 困惑する聖龍

誤字脱字は時間があるときに修正します。

 父の死を知ってからまだそれ程時間は経っていない為多少の戸惑いはあるが、街道を歩いているブランの足取りはしっかりとした物だった。

 ブランの気持ちを切り替えさせたのは、傍らで一緒に歩いている数日前まで警戒していた者達の存在が原因である。


(町で見かけた時から思っていた事ですが・・・この方達は一体何者なんでしょう・・・)


 リエルと名乗ったエルフ族だと思われる少女を横目に捉えつつも考えに没頭するブラン。


 ここに来て最初に衝撃を受けたのはやはりミヤビと呼ばれている少女の存在である。

 上空からの観察で得た情報もあり、その正体が人化の術で姿を変えた魔狼種の何かだという事は分かっているのだが、ドラゴンである自分よりも遥かに強い魔狼種の存在というのはかなり衝撃的なものだったのだ。


(希少種・・・いや、特別な種族の王族の方とかなんだろうか?すると彼も同じ?)


 ブランの思考はもう一体の魔狼種であるナシタへと移り変わる。

 立派な角を頭部に生やし、綺麗な黄金色の瞳を持つ青年。こちらも人化の術を使って姿を変えている魔物だという事は知っているのだが、変化前の姿がフォレストウルフに酷似した存在だった事が、ブランにとっての疑問の種だ。


(彼も普通のフォレストウルフではないのは分かるんだけど・・・ミヤビ――さん程という訳では無いみたい・・・そして――)


 分からない事だらけのブランに追い討ちをかけるのが、人語を理解し妙に態度のでかいピクシーだ。

 こちらからは大した魔力は感じられないのに、異様な気配、本能に訴えかけてくるような迫力のような物が滲み出ている。


(どう見てもただのピクシーなんだけど・・・何故だろう?怒らせたらまずいような・・・感じたことのない気配。極め付けが――)


 そんな三者を遥かに凌ぐほどの魔力を持つのが、傍で何やら書物を読みながら何食わぬ顔で歩いているエルフの少女だというのが一番の驚きなのは言うまでもない。


(駄目、検討もつかない。一体何なのこの人達・・・)


「あの、どうです?少しは落ち着きましたか?」


 自分の世界で考えに耽っていたブランに、読んでいた本から顔を擡げた少女が声をかけてくる。

 考え事の最中に突然声を掛けられた事でブランの声は少し上擦った様な変な声が出てしまう。


「え!?え、ええ。わ、私は大丈夫です。気を使わせてしまってすいません」


「そうですか?なんだか浮かない顔をしているのでまだ気落ちしてるのかと思いました」


 気になるといえばやはり、この子のこの態度だ。


 自分で考えても、あんな声のかけ方では相手にされないのが普通だと思うのに、この子は何故こんなに自分の事を気にしているのかという疑問。

 警戒していると言えばそうなのかもしれないが、どうもそんな感じとは別のような空気を漂わせている少女。

 そこでブランは思い切って直接聞いてみる事にする。


「あの、どうして得体の知れない私なんかと一緒に居られるんですか?」


 自分を見ている少女の瞳が点になるのが分かった。


「と言いますと?」


「ですから、貴方は私の事を怪しいとか、危険だとか思わないんですか?人の姿をしているといっても私は一応・・・龍なんですよ?普通は警戒しませんか?」


 横で首をかしげる少女に変わって、その少し後ろからミヤビと呼ばれている少女が声を上げる。


「無駄じゃ。その子はちと頭が悪い。どうせまともな考えではあるまい」


「ちょっと、人を考え無しみたいにいうのやめてくれる?」


 後ろを振り返り明らかな不快感を示したリエルに対して、ミヤビは無視を決め込みそのまま言葉を続ける。


「じゃが、妾は違う。手放しに貴様を信用なんぞせん。貴様が不審な動きを見せればそ――」


「ご心配には及びません!この者が不審な動きをしようものなら私がリエル様をお守りします!」


 言葉を遮られイラついたのだろう。細められたミヤビの瞳が鋭い視線でナシタを射抜く。


「ナシタ、寝言は寝ている時に言うんじゃな。能力をフルに使える状態の聖龍となれば今のお前では相手にならん」


「そんな事はありません!ご覧の通り私は成長しています!それにミヤビ様と違って私はリエル様から魔力を注がれた存在です。いずれはミヤビ様をも超えられると考えてる所存でございます!」


(ナシタ・・・青年の名のようですが・・・いや、それよりも今、聞き間違いではなく確かにこの子の事を“リエル様”と呼んでいた。やっぱりこの子は・・・)


 横にいるリエルを見ながら推測に答えを出そうと考え始めた瞬間、黒い影が視界の端から飛び込んでくる。かと思うと、それは地面を何度か跳ねて飛んでいき、前方五メートル程の場所まで転がり、土煙を上げて停止する。

 自然とブランの足は止まり、後ろを振り返って確認するとミヤビが腕を前にして掌をこちらに向けている。


「何してるのよミヤビ!ナシタが怪我したらどうするの!この馬鹿!!」


「あーあ。余計なこと言うから。やっぱり馬鹿ね」


 後ろを見ていたリエルはミヤビが何をしたのか把握していたようで、一度前方を見てから再び振り返ると、声を荒げてミヤビを叱咤する。

 一方リエルと違って肩に座っているピクシーの落ち着いた反応をしている。


「五月蝿い!何もわかっておらん生意気な小僧に夢と現の違いを分からせてやっただけじゃ!」


 その言葉の意味を理解したブランは、飛んでいった物体に確信を持つと前方を見る。

 土煙の中から出て来たのは予想通り、ひっくり返っているナシタであった。

 ナシタの言葉に怒ったミヤビが感情のままに放った魔力の衝撃波が、ナシタを大地へと叩きつけたのだ。


 なんとか起き上がったナシタだが、直ぐにフラつき大地に膝をついてしまう。その様子を見て慌てて駆け寄ったリエルはナシタの状態を確認して、直ぐに負傷している箇所を見つけて癒しの魔法をかけ始める。

 そこへリエルの後に続いてブランもやって来ると、ナシタの様子を伺う。


「凄い衝撃だったみたいですけど、彼は大丈夫なんですか?」


 すると、ブランの言葉に反応したのは治療を受けているナシタの方が先だった。


「貴様に心配される覚えは・・・うぐぐっ」


「ミヤビったら!もう少し加減しなさいよね!こんなの普通の人なら下手したら死んでるわよ!」


 相当な力が籠もった一撃だったのだろう。ナシタに治療を施しながらもリエルはミヤビに向かって文句を言う。


「何がやり過ぎなものか。今のはそれ程強い魔力なんぞ込められておらんわ」


「そんな訳ないでしょ!ここ!?ナシタの脇腹!」


「だから生意気な事を言うなと言っておるんじゃ。ナシタの人化の術が不完全だという事がよくわかるじゃろう。とてもではないが実戦に耐えられるレベルに達しとらん」


 変色したナシタの脇腹を指し示したリエルに、ナシタの人化が未熟だと告げるミヤビ。どういう事か分からないリエルに、横から手を伸ばしたブランがナシタに触れる。

 それに対して痛みに耐えながらナシタが声を上げる。


「貴様!何を――」


「ナシタさんの人化の術は正直に言ってお粗末な出来です。その理由を単純に言えば体に巡る魔力のバランスが不安定な所為です。防御力が非常に低く、触れた感じ一般の人間と同等、下手すればそれよりも低いです」


 ナシタの言葉を遮るように淡々と自分の感じた事を口にするブラン。そんなブランの説明にリエルは自分が理解した事に差異がないか問いかける。


「ミヤビの放った魔力は大したことないのに、ナシタの練度の低さの所為でこれだけの影響が出たと?」


「そういう事になりますね」


「ふんっ!そういう事じゃ!妾が考え無しに行動する訳がないじゃろうが。要はナシタの思い上がりを正してやったにすぎん」


「だったら口で言いなさいよ!可哀想じゃない!馬鹿!」


 治療が終わり立ち上がったリエルはミヤビに詰め寄ると、ソップを向いているミヤビのその頭上に拳を落とそうと手を振り上げる。

 しかしミヤビは振り下ろされたゲンコツをヒラリと躱すと、前にいたブランとナシタを追い抜き先へと歩いて行く。


「あっ!こらっ!逃げるな!待ちなさいミヤビ!」


「あ、お待ち下さい!リエル様!」


 ミヤビの後を追いかける二人の姿を目で追いつつ、ブランは思う。


(結局答えは聞けず・・・か。でも、何だろう。この感じ・・・)


 父親の死に少なからず気落ちしていたブランの心にはこの四人の様子を目にして、よく分からない存在達だと思ったのとは別に、何か懐かしい感覚を呼び覚まされる。

 それが何なのか明確な答えは出ていない。


(・・・兎に角追わないと・・・というか速過ぎない!?なんなのこの人達はー!)


 先へと走っていくリエル達を追うようにブランも慌てて走り出すのだった。




 走るのをやめて街道を歩いているリエル達とブラン。リエルとブランはぎこちなくも、それぞれ他愛も無い世間話を織り交ぜつつ街道を目的地に向けて進んで行く。

 親しい間柄というわけでは無いが、リエルのブランに対する警戒心は微塵も感じられず、料理やヘイム山脈、リエルにとって未体験の雪や雹といった自然現象の話を興味深そうに聞いている。

 同様にブランの方もエルフの村での暮らしなどに関心を持っている様子が伺える。

 ただリエルの正体の根本となる部分・・・、両親、旅の目的と言った話になると、それとなく言葉を濁しているリエルの反応にブランの疑問は絶えない。


(まぁ・・・アレを見せられたらおいそれと他人に話すことが出来ないのは当然か・・・)


 ブランの脳裏に浮かんだのは大気を震わせ空間をも歪ませていた、変貌したリエルの姿。

 対峙した異形の化け物を消滅させ、この世界の頂点に近い種族――龍である自分に恐れを抱かせる程の圧倒的な力。


 話せないのは当然の事だと頭では理解できるのだが、リエルに対するブランの興味は絶えない。その理由は単純かつ明解で、父親の仇討ちを果たすにはそれを上回る強さが必要になる。

 そして、リエル達も少なからず仮面の男と敵対する立ち位置にいる。

 つまりその協力を得られれば、ブランが単騎で挑むよりも勝算は高くなるのは当然の考え方である。


 そんなブランの考えを知ってか知らずか、ミルドワ方面からやってくる行商隊や冒険者とすれ違い、好奇の視線を向けられる事が増えてきた頃、リエルは軽く空を見上げてから、後方で膨れっ面をしているミヤビにも聞こえるように傍を歩くナシタに話しかける。


「そろそろご飯でも食べながら休憩してもいいと思うんだけど、どうかな?」


 横にいるナシタの方に顔を向けてそう言ったリエルは、本人に悟られないように横目でミヤビの様子を伺う。

 そこには膨れっ面をしてソップを向き、不機嫌であることをアピールしている本人の意思とは反するように、綺麗に立っている頭部の耳が忙しない動きを見せていた。


「私はリエル様の思った通りに行動すればよろしいかと思います!」


「私は賛成!疲れちゃったわ!」


「貴方はリエル様のお肩で座ってるだけなのに疲れる筈ないでしょう」


「細かいことは良いのよ!兎に角私は賛成!」


 ナシタとクエレは楽しみの一つである食事の事で頭がいっぱいのようで、ミヤビの仕草に気づいている様子は無い。


「じゃーちょっと街道から外れて落ち着ける場所を探しましょ」


「畏まりました」


「ごっはんーごっはんー!」


 ミヤビの様子から何を思っているのかは容易に想像できたリエル。今度はミヤビの方を向いて呼び掛ける事にする。


「ミヤビ、いつまでそうしてるつもり?すぐにヘソ曲げてみっともない。こっち来なさいよ」


「そ、そんなんじゃ無いぞ!わ、妾はただ其奴を信用なんぞできんと言っておるんじゃ」


「はいはい、今その件は忘れなさい。ほら、少し移動してご飯の準備に取り掛かるわよ」


「なっ!?妾も手伝うのか!?」


「当たり前でしょ。水の魔法はあたしは使えないし、ナシタに料理の知識なんてないでしょ。あんたが適任なのよ」


「むぐぐ・・・何故妾がこんな目に」


「文句言わないで手伝いなさい。沢山作るつもりだから、のんびりしてたら日が暮れちゃうわよ」


「し、仕方ない・・・して、何を作るつもりなんじゃ?」


 一行は目的地への進路から外れ街道の傍に見える森の方へと向かって歩き出す。

 何を作ろうか軽く考えを巡らせはしたリエルだが、手間と人数を考えて単純な答えが頭の中で導き出される。


「新しい料理に手をつけたい気持ちはあるんだけど、今はあまり時間を掛けるのもブランさんに悪いからね。簡単に作れてあたしが作っても十分美味しいカラアゲにしましょ」


 その言葉を聞いたブランは、リエル達の旅を邪魔してしまっている事を自覚していた為、そこまで気を遣っているリエルにはっきりと自分の立場を明言しよいと口を開く。


「あの、別に私に気を使っていただかなくても構いません。迷惑をかけているのは私の方なのですから、私がリエルさん達に合わせるのが道理というものです」


「でも、ブランさんもお腹が空いてるんじゃないですか?随分長い事あたし達を観察していたみたいだし。それにご飯を食べながらでも話は聞けますから」


「そ、それは・・・ご好意は有難いですが、そこまでやって頂く必要は――」


「いいのいいの。一人分増えたって大して変わらないし。それにあたし達だけご飯を食べてても居心地悪い。だったら一緒に食べた方がいいし、そうすればさっきからやたらと警戒してるミヤビだって少しはブランさんに慣れると思うわ」


「・・・お前はもう少し相手を疑う事を覚えた方がよいと思うがな」


「そーいう事だからブランさんも気にする事ないです。さ、いきましょ!」


「は、はい・・・」


 どう言葉を返せばいいのか分からなくなってしまったブランは短く返事をすると、意気揚々と歩き出すリエルの後に続いて、街道から森の方へと歩いていくのだった。


お疲れさまです。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


今の仕事にも慣れてきたので少しは時間が取れるようになってきました。

ただ投稿は遅くなると思うので気が向いたときに読んであげてください。


ではでは

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