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8話 妾は稲荷空孤である!

やっと登場させる事ができました。


2017/10/3 07:53 納得できない部分を加筆、修正しました。どうもすいません。

「あ・・・」


 にらみ合っていた二人のうち、ベジャールが仲間の間の抜けた声で、妙な空気を感じ取りを周囲を確認するように顔を動かす。


 その眼に映っていたのはさっきまで倒れていた少女が2本の足でしっかりと立ち上がっている姿。


(このガキ・・・なんだ?それにさっきと容姿が・・・何が起きた・・・?)


 まっとうな職業とは言えないベジャールだが、グスタフのような快楽のために人を嬲るような根っからのクズとは違い、冒険者としてやっていけば食うには困らない力量の持ち主であるベジャールだが、割りのいい仕事を選んでしまうあたり、やはり本質は変わらないのも知れない。だが、その実力と経験は本物であり、その経験から、目の前の少女が普通ではない事を感じ取っていた。


 不思議な顔をして自分の体を見ている少女に、警戒しているベジャールだが、もう一つの異変にも気づき、眉を顰める。


 恐らく卵、動物の卵だと思われるものから怪しい光を放たれている。周囲に漂っていた魔力はその場に存在する事を許されることなく、卵に向かって吸い込まれるように流れていく。漂っていた纏わりつくような魔力が薄れていく中、ベジャールは気づく。少女から溢れて漂っている魔力の感じ。先ほどまで強く感じられていた纏わりつくような魔力の源が目の前の少女の物だったという恐ろしい事実に気づいてしまった。


 魔素(マナ)を吸収している卵も奇妙な存在だが、ベジャールにとって、最も重要なのは、目の前の少女が、今まで出会った事のないほどの異質な存在という事態のほうが非常にまずかった。あっけにとられ、ただ目の前のでき事を眺めているグスタフや、ほかのボンクラ共と違い、彼にはそれが命に関わる事態である事を明確に理解できるだけの知識と経験があるからだ。


(まずい。これはやばい。変貌の理由はわからんが、あれは俺が相手にしていいような存在じゃないような気がする。急いでこの場を離れなくては・・・)


 そう決断しその場を離れようと動きだしたとき、それは阻止された。


 瞬時に、周囲を覆う膜が展開される。外へ出る事を許さない強固な結界が張り巡らされ、ベジャールは魔力の壁につんのめった。


 血の気が引いていくのを感じた。明らかな恐怖を感じた。自分が与えられる側になった事はそれなりにあったが、今のこの気分は過去最悪のレベルだと確信するのは容易であった。


 振り返り、少女を素早く確認する。


 だが、意外な事に少女の動きには変化はなく、まだ背中に手を回したり、蹴られ、殴られた部分を触れたりと、事態を把握できていない様子をみせている。


(こいつじゃない?では・・・)


 それはさっき見たときとは違い、表面に無数の亀裂が入り、目に見えるほど可視化された魔力が噴出している。卵の周囲は魔力で霧掛かったように歪み、景色を侵食していく。グスタフは憮然とした表情でその光景を睨むように見つめる。他の者は口を開け、間の抜けた顔で眺めている。少女は相変わらず変化はないが、卵の様子には流石に目をやっていた。


 そして、卵が爆ぜ、土煙と衝撃が肌を叩いた。


「うおおぉ!?」


「くっ!?」


 グスタフ達は驚きに声を上げ、ベジャールは手で顔を覆い、指の隙間から油断せずに、卵の中の存在を確認しようと目を動かす。


 周囲に上がっていた土煙が静まりはじめたその中には、何もなかった。ただ、異様な静けさだけが場を支配していた。


「ふぅ~、やっと外に出られたのじゃ。まったく、窮屈でかなわんかったぞ」


 突如、聞こえる声に、その場にいた全員が出所に目を向ける。それは少女の、その後ろにいた。


 銀色の体毛と黄金の瞳を持ち、ふわふわした尻尾をゆらゆらと揺らした凛とした姿の四足獣がそこにはいた。突如現れたその存在を見てグスタフは声を上げる。


「へっ!なんだぁ?【フォックスウルフ】じゃねーか。毛並みも艶もかなり上物だぞ!いい金になりそうだぜ」


 奴隷と一緒に、金になりそうなモンスターが目の前に現れ、やる気が沸いてくる上機嫌のグスタフだったが、ベジャールは違うらしく、考えを巡らせる。


「まて!言葉を話す【フォックスウルフ】?周囲の壁もこいつの仕業だろう!?唯の【フォックスウルフ】じゃない!特殊個体なのか、上位個体・・・とにかく普通じゃないぞ!?」


「はぁ?これが特殊個体だって?それに何のことだ?こいつの仕業?」


「馬鹿!?気づかなかったのか!?周囲には結界が張られてる!今俺達は、ここに閉じ込められてるんだぞ!」


 ベジャールの言葉に、そんな馬鹿なと周りに目をやるが、確かに薄い膜が周囲に展開されている事に気づき、意識を切り替える。グスタフはクズだが、雑魚ではない。その強さは確かなもので、だからこそ自分より弱い者を嬲るという強者の特権を得られるわけで、実力があるからこそ、一瞬の迷いが自分を殺すという事も理解しているのだ。


「なるほど。たしかにただの狐じゃねぇみてぇだな。しかし特殊個体とは、面倒な奴がでてきたもんだ」


「油断するなよ。本来【フォックスウルフ】は、力は弱いが魔法に長ける。人語を理解しているあたりかなり賢いだろう。とりあえずあっちの子供はまだ、問題なさそうだが一応そっちも注意しておけ」


「元がCランクのモンスターなら油断はできねぇだろう。それに特殊個体なら魔法以外にも何かあるかもしれねぇぞ」


 我に返り、何が何だかわからないといった様子の少女の方へ、ベジャールとグスタフは、武器を構えゆっくりと接近する。無論見ているのは謎の魔物の方だ。


 武器を向けられ後ずさる少女の横を、銀色の四足獣は通りすぎ、リエルの前で止まりゆっくりと向き直り、盗賊共など気に止める価値すらないといった様子で、リエルに語り始める。


「娘よ。お主のおかげで妾は自由を取り戻すことができた。礼をいうぞ」


「あ・・・え?・・・え?」


「よいよい、すぐ理解するのは無理じゃろう。ちゃんと説明してやる故、まずは感謝だけさせてもらうぞ」


 怯え、恐怖してたいはずの意識は、目の前の魔物の言葉で四散し、リエルは混乱しすぎて軽いパニック状態に陥っていたが取り乱す様な事はなく、というより何もできずにただ、目の前の存在の言葉を聞いていた。


「おい!俺達を無視して何呑気に話なんかしてんだ?折角だからもっと抵抗してくれてもいいんだぜ?」


 グスタフが小馬鹿にするように肩をすくめるが、四足獣は見向きもしないで少女に話し続ける。


「いやぁ妾も少々やりすぎてしもうたらしくての。神々の罰という事らしいがまさか下界に落としただけでなく閉じ込めるとは。カカカッ、いやー参った参った」


 迫ってくる男達を意に介すことなく、優雅に笑いながら何やら聞いてはいけないような事を悠長に語り始めた四足獣に、リエルは何とか疑問を問いかける事に成功する。


「えっと・・・あなたは一体?」


「そうじゃな。それでは改めて名乗るとしようかの。フッフッフッ、心して聞くがよい!妾はか――『なにぐだぐだやってやがるんだ!?魔物風情が人間様を無視するんじゃねーぞ!』『グスタフ!だから油断するなといっている!』――である!」


 狐の魔獣の場違いな名乗りに対してグスタフが重ねるように言葉を発した直後、それは起きた。


 轟音と共に一筋の青白い閃光が結界を砕き、そのままグスタフの体を飲み込む。光は周囲の空気を伝うように放電しきるとすぐに消え去ったがそこにグスタフの姿はなかった。あるのは肉の焼け焦げた匂いと煙を上げている灰の山が一つ残っているだけだった。


 目の前にいたはずの同僚が、光に包まれて姿を消した。盗賊達は言葉も出せずにその場で固まる。ベジャールですら、あまりにも突然の事で頭の中が真っ白になってただ固まっていた。


「身の程を弁えよ・・・。貴様ら如きが妾の気高き名乗りを遮るなどと・・・唯の死では生ぬるい。天の雷で魂まで消滅するがよい」


 凄まじ殺気と怒気交じりの言葉に盗賊達は凍り付いた、それどころかその圧力に耐えきれずに、意識を自ら手放し倒れてしまったほどだ。だが一人だけ行動を起こすものがいた。目の前にいる形をもって現れた死に、本能が反応しそれを可能にした。


「む、ついやりすぎて結界諸共ぶち抜いてしもうた。なかなどうして、逃げに転じる判断ができるとは見所がある奴じゃ。少々侮ったかの」


 そう言うとけらけらと笑いながら、男が消えていった森を見つめている。しかし、その瞳にはしっかりと男の姿を捉えていた。


 逃げた男から興味を失うと視線を戻し、少女を見て「コホン」と一拍置くと、


「妾は稲荷空狐。悠久の時を生きた、神々と同列と言っても過言ではない存在であるぞ。どうじゃ?妾の様な高貴な存在に出逢える事は一生の誉れだぞ?咽び泣いて喜んでも構わんぞ?それに妾が最後に礼を述べた事などたしか1000年ほど前が最後であったとおもうが、それをまだ年端もいかぬお主のような――」


 先程とは違い、あっさりとした紹介ではあるが、自分がどれだけ凄いのかを語る様子に手を抜く様子は皆無だった。長々と力説していた四足獣はさらに言葉を続ける。


「――それでじゃ、お主に言葉だけでは足りぬと思う故、何か形ある物で礼をしたくての。ほれ、何かないか?遠慮しなくてもよいぞ?」


「え・・・?えっと・・・?」


「この人(?)は何を言っているの?」っといった感じでもう考えるのを放棄して逃げ出してしまいたい思いで、頭の中がパンク寸前のリエル。さらっととんでもない事を言ってる目の前の生き物にどんな言葉を返せばいいかと必死に考えた。もしも機嫌を損ねるような事があればきっととんでもない事態を招くだろうに違いないと、幼いリエルでも十分理解できた。必死にどうしたらいいのか考えていたリエルの視線の先には、あるものが映った。それをみたリエルの思考は、自然と一つの回答へと導かれた。


「えっと・・・稲荷空孤・・・様?だったら・・・お婆ちゃん達を、いえ、村を助けてください!は、早くしないとみんなが!!」


「村?あー・・・なるほど。ここに居るような者共が、お主の村を襲っておるのか。ふむふむ。そうじゃな。嫌じゃ」


 少し考えていたかと思ったらあっさり断られた願い。リエルは困惑を隠せなかった。それが表情に出ていたのだろう空狐は説明を厭わなかった。


「妾は善なる者の為に力を尽くす。たかが少しの種族の違いを理由に仲間を蔑ろにするような有象無象を救う気など持ち合わせ居らぬゆえ、その願いは却下じゃ」


 その言葉に思い当たる節があるリエルではあるが、すべての者を同列に語るような言い方にリエルは我慢できなかった。そして思いに任せて言葉を発した。


「そんな事ない!良くしてくれる人だってちゃんといます!」


「それは知っとる。じゃがそこまでじゃ。その流れを断ち切ろうと動かないのは、結局は自分が不利な立場になる事を恐れておるからに他ならぬじゃろ。自分の自己満足のために、お主に優しく接し、いい気になっておるだけじゃろう。気は進まんが肉親だけなら助けてやらん事もないぞ?」


「!!・・・助けて頂いた事は感謝してます。でも!もうあなたには頼りません!この分からず屋!」


 目の前の存在の恐ろしさなど関係なかった。リリーナやエリック、テルマにナイルの事を馬鹿にされた事に怒りを抑えられなかったリエルは、村に向かって走り出した。自分が向かったところで結果がどうなる訳でもないが、そんな事を冷静に考えられる状態ではなかった。


「ふーむ、怒らせてしまったかのぉ。まぁよいか!せっかく自由の身になれたのじゃ。妾も気ままに流れるとするかの」


 久しぶりの自由を謳歌しようと行動しようとしたのだが、振り向いた先には三人の男がいまだ気を失って倒れていた。それを見ると「どうしたものかと」と少し考える。


「まぁ、こやつら位は掃除しておいてやってもよかろう!妾の慈悲深さに感謝してほしいものじゃな。さて・・・。む!?な、なんじゃこれは!!?」


 軽く首をもたげてスキルを発動しようと試みた。が、ここで予想外の事実が発覚する。以前の力がどうなっているのかと天眼(アマツノヒトミ)で自身の状態を確認するやいなや、明らかな異変を知る。


(【従魔契約:天弓の魔王】?なんじゃこれは!?【従魔契約】?こ、これも奴らの仕業か・・・?しかもまともなスキルが全く使えないではないか!?どういうことじゃ!)


 【従魔契約】とはお互いが同意して初めてその効力をなす、【契約魔法】の一つなのだが、もちろん空孤に心当たりはない、ないのだが確かに契約の効果が発揮されている今の状況にしばし考え込む。


(まさかとは思うが、あの娘・・・。・・・ええい!仕方がない!)


 自分の考えを確認するために、空孤は暗くなり始めている森を少女の後をおい、疾走するのだった。


お疲れさまです。読んでいただいてありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。

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