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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ、ダンジョンのある町へ
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77話 Dランクへ昇格

誤字脱字は時間があるときに修正します。

 辛い時間と比べれば楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。年相応に無邪気な様子で市場の中を見て回っているリエルに、約束の時間が近ずいてきている事をミヤビが知らせる。


 〖そろそろ約束の時間じゃ。その辺にしておいてギルドへ向かわんと遅れるぞ〗


 〖もうそんな時間なの?〗


 〖十分前といったところじゃな。ほれ、あそこ〗


 ミヤビが顎をしゃくって示した先には大きな柱があり、その上部にある時刻盤は間もなく十二時を指し示そうとしている。


 〖確か冒険者ギルドで確認した時は十一時前くらいじゃったな。と言うかそれくらいちゃんと自分で確認せんといかんじゃろうが〗


 〖あ、あたしだって出る時に時間は確認したわよ!ちょっと買い物に夢中で気づかなかっただけだもん!〗


 〖威張って言う事じゃなかろう全く・・・〗


 時間も昼食時な事もあって市場内の人通りは来た時よりもはだいぶ落ち着いている。リエル達は少し急ぐように来た道を引き返し冒険者ギルドへと戻り始める。

 胸ポケットから頭を出して、人形のように大人しくしていたクエレが顔を上げてリエルに声をかける。


「あら、もう戻るの?」


「うん。もう時間だってミヤビが」


「意外としっかりしてるのよね、あいつ。まぁいいわ。それじゃ私はまた奥に引っ込んでるから早くして頂戴ね」


「はいはい。ちょっとそこで大人しくしててね」


 クエレが胸ポケットの奥に引っ込むのを確認すると、リエルはミヤビに視線を落とす。ミヤビもそれに気づいてリエルを見上げる。


 〖どうかしたか?〗


 〖んー・・・やっぱりミヤビってしっかりしてると言うか、意外と面倒見がいいのかなーって思って〗


 〖な、なんじゃ急に?き、気色悪いぞ〗


 〖あら?あたしはクエレと話してて素直にそう思っただけよ?〗


 ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべているリエルは口元を手で隠すようにしてミヤビを見ている。

 だがそこはミヤビ、からかわれている事を理解すると空かさずカウンターを決めてくる。


 〖まぁ三人のうち二人がポンコツじゃからな。妾がしっかりしとかんと危なっかしくて見てられんわい〗


 〖あ、ひどい!あたしはポンコツなんかじゃないわよ!〗


 〖し、心外です!ミヤビ様といえども聞き捨てなりません!〗


 とばっちりを受けたナシタもミヤビの台詞に納得がいかないと異議を唱えるがミヤビは持ち前の口八丁でリエル共々二人を言い負かす。


 終始念話による騒がしいやり取りが続いていたが、程なくしてリエル達は冒険者ギルドの前まで到着する。

 愉快そうにしているミヤビにプルプルと震えながら膨れっ面を見せているリエル、そしてガックシと項垂れた様子のナシタ。

 三人の様子からどのような結果になったのかは言うまでもないだろう。


 〖ほれ、さっさと行くぞ〗


 〖分かってるわよ!〗


 〖あっ!リエル様!私を置いて行かないでください!〗


 リエルが憤慨しながら建物の中へと入って行くのを見て、急いで後に続くナシタ。

 ニヤニヤしていたミヤビもその後を続こうと足を進めるが、その歩みはすぐに止まる。

 ミヤビは首だけで後ろを振り返ると鋭い視線を周囲に向けて走らせる。


(・・・見られとるな)


 〖ミヤビ!何してるの!?〗


 〖今行く。大声でいわんでも聞こえておるわ〗


 リエルの声を聞き、ミヤビは再び動き出すと建物の中へと消えて行く。その遥か上空の観察者の存在に気付かぬまま。




「あ、リエルちゃん。お待ちしてましたー。手続きの準備は出来てますので、早速始めましょう」


 受付へとやってきたリエル達を出迎えたキャスは、慣れた手つきで仕事に取り掛かる。

 リエルからギルドカードを預かり、それを受付に備え付けられた魔道具にセットすると魔道具の操作を行い始める。

 しばらくその様子をリエルが眺めていると、キャスから声が上がる。


「はーい、完了でーす。これがリエルちゃんの情報が更新されたギルドカードです。はい、ご確認下さい」


「おー・・・Dって書いてある」


 リエルは手渡されたカードを天井の照明にかざしてまじまじと観察する。対して変わった部分は無いが決定的な違いとして、今までFと書かれていた部分が書き換わり、現在は鮮やかな緑色のDという文字が白いプレートにしっかりと記されているという点だろうか。


「はい。これでリエルちゃんもDランク冒険者の仲間入りという訳です!おめでとうございますー」


「あ、有難うございます」


「さてさて、Dランクになったリエルちゃんには一つ注意してもらわないといけない事が有ります。それは依頼を失敗してしまった際の話です」


 キャスが人差し指をピンっと立ててリエルを自分に注目させる。


「Eランク以上からは受けた依頼を達成出来なかった場合、その頻度によってはランクが下がる事が有ります。最初に説明した通り普通は実績を積み、試験に合格する事でランクが上昇する訳ですが、試験をパス出来たとしても実力が伴っていない事が有ったとします。そういった時、受けた依頼によっては最悪の場合、自身の命で代償を支払うような結果を招く事になるかもしれない。それがもし護衛の依頼で有れば護衛対象の命すら危険に晒す事になってしまいます。そうならないように、同ランク帯の依頼で失敗が続き、力不足感が否めないとギルドで判断した時にランク降格の処置が取られる訳です。これは冒険者と依頼人の命を守る為でも有ります」


「実力が足りてなくても試験に合格する場合なんて有るんですか?」


「お恥ずかしい話ですが実は結構あったりします。低ランクの昇格試験には厳格な規定は無く、受けたギルドの判断で試験内容を決められるのでその内容次第では実力が足りてなくても合格できてまう事があるんです」


 〖成る程、その試験というのがどんな物か分からんが、たまたま自分の突出した部分が有利に働くような試験内容であれば実力が不足していても合格してしまう事はあり得るんじゃろうな〗


 〖あ、なるほど〗


 試験でその人の実力がはっきりと分かるはずがないのはギルド側でも理解している。その為試験の合否は、その人物が今までこなしてきた依頼の傾向や性格なども十分に考慮した上で慎重に判定するのだが、やはり実力が不十分な者でも合格してしまう事はあるのだ。


 しかし、Bランク以上の昇格試験になれば場所の指定や日時、そして十分な能力を持った国の審判員を動員し、定められた厳格なルールに従って合否の判定を見極める為、しっかりとした実力が無ければ合格することなどあり得ない内容となっている。

 では、その方法を全ての昇格試験で採用すれば良いと誰もが思うだろう。

 だが、低ランクの冒険者の試験の為にそれ程の時間と手間を毎回かけられるほど時間と人員は余ってはいないのだ。

 その為、低ランクの昇格試験は現場の判断に委ねられ、その結果、先に説明したような事になってしまう訳だ。


 キャスの話はまだ続く。


「そしてもう一つの大きな原因として貴族様からの推薦という問題があります」


「推薦なのにそれが原因?」


「はい。言い方を変えれば、あまりよろしくない、俗に言う悪徳貴族の圧力による無理矢理なランク上昇申請ですね」


「あまりいい話では無さそうですね」


「まぁリエルちゃんもあまり聞きたくは無い話でしょうし、関係する事も無いと私は信じておりますので敢えて説明はしません。ただ、その手の好ましく無い方法でランクが上がった無能な冒険者をのさばらせた結果、依頼人が不利益を被るのを避ける為にもランク降格という処置はやむを得ないんですよ」


「はい、よく分かります」


 リエルの返答にキャスの真面目な表情は直ぐに何時もの笑顔を取り戻す。


「因みにうちのギルドは試験の合否判定が厳しいと受験者によく文句を言われてます」


 ニコニコしているキャスを見て、何の疑問もなく納得してしまうリエル。そんなリエルにキャスは言葉を続ける。


「ですが、厳しいくらいで丁度いいのです。足切りギリギリの実力では不測の事態に直面した時、それを臨機応変に対処する事など出来るはずありませんからね」


「そ、そうですね・・・あたし、心配になってきました」


「何を言っているんですか。リエルちゃんはうちのマスターが十分に認めている冒険者の一人なんですよ?それに――」


 キャスはリエルの側にいる二匹の従魔を見ながら話を続ける。


「リエルちゃんは一人ではありません。ミヤビちゃんとナシタちゃんという頼れる仲間がいるのですから自信を持ちましょう」


 〖キャスの言う通りじゃぞリエル。ナシタは兎も角妾がいるんじゃ〗


 〖そんな!私だってしっかりリエル様の僕として恥じない働きをして見せますよ!〗


 その言葉にリエルは微笑みを見せると、並んでいるミヤビとナシタの前にしゃがみ込んで二人の頭を優しく撫でる。

 その様子を見たキャスもウンウンと頷いている。


「さて!手続き、説明共に滞りなく終了したと判断させて頂きますが、疑問があれば遠慮なく聞いてくださいねー」


「分かりました。説明有難うございます」


「どういたしまして!それでどうしますか?依頼でもご覧になりますか?」


「いえ、ちょっとハボット様に用があるんですけど、まだマルドゥクさんとお話し中ですか?」


「なんですと?」


 リエルの口からハボットの名前が出た途端、キャスの表情が歪む。


「失礼ですが、一体どんな御用で?」


「大したことじゃ無いんですけど、ハボット様が今回の件でお礼がしたいって、食事でもと誘われたんですけど、今回は遠慮させてもらうと伝えようと思って」


 要件を聞き出した直後、キャスは静かに口を開く。


「あの野郎・・・私に隠れてリエルちゃんに・・・」


 その捻り出すように発せられた恐ろしくドスの効いた声はリエルとミヤビを唖然とさせ、ナシタの本能に全身の毛が逆立つ程の危険を与える。


「キ、キャスさん?」


 リエルに呼ばれたキャスは直ぐに自身の感情を押し留め、先程までと変わらない表情を作り出して見せる。


「ハボット様ならマスターと一緒にまだ仕事の話をしてますので、終わったら私の方でお伝えしておきますよ」


(自分で伝えないで伝言を頼むのはハボット様に対して失礼かな?でも、重要な話という訳でもないし・・・仕事の話をしてるのに呼び出す方が失礼といえば失礼よね・・・)


 少し考えたリエルだったが、結局キャスに伝言を頼む事にした。別れ際にキャスが見せた不気味な笑顔は気になったが、ともあれリエルはギルドでの用事を終えたと考える事にする。




 建物を出た一行の進む足は自然と宿へ向かっており、朝の出来事をどうするかという問題にリエルは頭を悩まされ始める。


「はぁ・・・」


 〖なんじゃ?溜息なんぞついて〗


 〖あたし達がやった事でカレンさんを怒らせちゃったのもう忘れたの?〗


 〖そう言えばそんな事あったな。して、なぜあの娘はあんなに不機嫌になったんじゃ?妾達のせいらしいが心当たりないぞ?〗


 〖そうですね。私も皆目見当がつきません。ただリエル様はお分かりになってる様子。出来ればお教え願えませんでしょうか?〗


 本当に分かっていない二人に呆れるリエルだが、この二人の感覚の事は理解しているつもりなので小言は無しで説明する。


 〖カレンさんが怒ってたのは、妹のシエラちゃんが一生懸命世話をしていた畑にあたし達が手を出して台無しにしちゃったからよ〗


 〖なんじゃと?どういう意味じゃ?〗


 〖私も仰っている意味がいまいち分からないのですが、立派に畑の作物が育った事がどうして台無しになったと、あの娘は思ったのですか?〗


 〖貴方達は全く・・・分かりやすく例えてあげる。そうね・・・あたし達が頑張って協力しながらカラアゲを作った事は覚えてるわよね。その出来上がった料理を突然知らない人に横からぜーんぶ持ってがれちゃったらどうする?〗


 〖そんなの決まっておるじゃろう。その愚か者に地獄を味あわせた上で消し炭にしてやるわ!〗


 〖カレンさんが怒ったのもそれと同じよ。シエラちゃんが頑張って世話をした結果、出来上がるはずだった物を、ミヤビとクエレがパーにしちゃったの。止めなかったあたしも悪いけどね・・・〗


 〖ぐぬぬ、なんとなくじゃが分かったような分からないような・・・何故あの娘は普通に育てるよりも良い結果になったというのにそれを受け入れられんのじゃ?〗


 〖人の気持ちはそう単純じゃないの〗


 説明をしている間にも宿屋との距離は無くなっていき、どうしたらいいのか答えは出ないまま到着してしまう。

 中に入るのを宿の前で躊躇っているリエル。迷った末の行動はどうなったのかまだ確認していない畑の方を見に行くことにする。

 そして、畑の様子を確認したリエルは絶句する。


(こんなの見たらカレンさんが怒るのは当たり前じゃない!!誤魔化そうとしたあたしが馬鹿だった!!)


 昨晩ミヤビが水を与えた畑は、元々用意されていた規模を無視して成長した野菜に埋め尽くされた状態が広がっていた。


 〖どうじゃ、凄かろう?これが最上位の祝福のちかだぁぺっ!?〗


 〖なんでこうなる事を先に言わないのよ!こんなの見たらカレンさんが怒るのも当然よ!馬鹿!〗


 久々にリエルの拳骨がミヤビの頭に落とされ、油断していたミヤビは堪らず地面でじたばたしている。その一撃をみたナシタはとばっちりを受け無い様に、そっとミヤビから距離を取る事を怠らない。


 〖痛いぞ!〗


 〖自業自得よ!〗


 涙目で文句を口にするミヤビを一蹴すると、リエルは頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。それもそのはず、こんな物どうやって謝罪したらいいかなんてさっぱり分からなかったからだ。


(あぁ~どうしよう・・・)


「リエルさん?何してるんですかこんな所で」


 突然背後から聞きなれた声が聞こえてくる。リエルはバッと頭を上げると、恐る恐る声のする方へと振り返る。其処に立っていた予想通りの人物、カレンだ。


「どうです?この有様。凄いでしょう?」


 立ち上がったリエルはカレンへ向き直ると言葉を出そうと必死になる。が――


「カ、カレンさん・・・あの・・・その・・・」


 突然のカレンの登場に言葉が続かないリエル。だが、リエルの申し訳ないと思う気持ちが素直な一言を口にさせる。


「ごめんなさいっ!!」


 勢いよく頭を下げて謝罪の意思を示すリエルに、カレンは黙ってリエルを見ている。だが、その沈黙はすぐに消える。


「はぁ・・・どうして最初から素直に言ってくれなかったんですか」


 両脇の腰の辺りに手を当てて呆れた様子で語り掛けるカレンに、リエルはゆっくりと顔を上げてカレンを見る。


「話すと長くなるのでつい・・・誤魔化そうとしちゃったんです」


「正直な所、嘘をつかれた事は不愉快でした。それに畑を頑張って世話していたシエラがかわいそうでしたからね」


「あう・・・ごめんなさい」


 リエルの表情に影が落ちる。そんなリエルをみてカレンは軽く息を付くと、リエルの元へと歩みよって俯いているリエルの頭に手を乗せる。


「でも、ちゃんと謝ってくれたので許してあげます」


「ほ、本当ですか!」


「はい。本当です。それにリエルさんに悪気があったとは思えませんからね。でも、こういう事は気をつけた方が良いと思いますよ。時には知らなかったでは済まない事だって有りますから」


「そうですね・・・肝に命じておきます。ごめんなさい」


 大きな悩みの種が消えた事でリエルの表情に明るさが戻ってくる。


「それじゃ、この畑、何とかしてくれませんか?これじゃ足の踏み場もありません」


「え・・・」


 リエルの表情が凍り付く。そしてぎこちなく動いた顔はミヤビの方へと向けられる。


 〖無理じゃぞ。クエレじゃないので断言できんが祝福の効果はそう簡単に消える事はないじゃろう。半年はこのままだと思うぞ〗


 〖は、半年・・・?〗


 〖恐らくな〗


 リエルの引きつった表情はカレンへと向けられ、その驚愕の事実が伝えられると、二人揃って引きつった表情を見せるのだった。



お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


言葉を知らなすぎだと再認識しました。

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