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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ世界へ。 バランディアの町編
75/99

74話 得られた情報と手掛かりの魔眼

誤字脱字は時間があるときに修正します。

「あ、戻ってきた!」


 カレンと一緒に受付で待っていたシエラが、戻ってきたリエル達の元へと駆け寄り、ミヤビに手を伸ばす。


「綺麗になったねーミヤビちゃん。リエルお姉ちゃん、もう触っても平気?」


「ええ、大丈夫だよ」


 その言葉を聞いて笑顔を取り戻したシエラは伸ばしていた手でミヤビを優しく撫で始める。


「えへへー。うりゃりゃー!」


 最初は優しく撫でていたシエラだったが、久々に訪れたミヤビと触れ合いに喜びを爆発させる。

 わしゃわしゃと自分の毛並みを蹂躙して行くシエラの行いに、ミヤビは嫌がる様子を見せる事なく佇んでいる。

 その様子にリエルも表情が緩んでしまうが、シエラに程々にしといてくれるように頼み、シエラもそれを受け入れてくれた。



 受付でのやり取りを程々に済ませ、部屋へと向かったリエル達。階段を上がり部屋へと入ったリエルは、ベッドの方へと歩いて行き、そのままベッドへとうつ伏せに倒れこむ。


「・・・眠い」


 一言呟いたリエルだが、胸元に感じた違和感でクエレの事を思い出し、慌てて体を起こすと、クエレは直ぐに胸ポケットから飛び出してくる。


「ちょっと!いきなり何すんのよ!?」


「ご、ごめん」


「そう怒るでない。リエルとて疲れておるんじゃ。それに、お前にとってはリエルの体重くらい大した問題ではないじゃろうが」


「それはそうだけど―――」


「リエルもさっさと休め。今のお主の状態では無理をする事でどんな影響が起きるか分からんからな。ギルドでの食事で腹具合は問題ないし、飯も明日起きたらで構わん」


「私もリエル様ご自身のお身体を優先していただきたいと思います!」


「え?ちょっと!?私は!?私のご飯は!?」


「五月蝿い奴じゃなー。別にお前は食わなくても死にやせんじゃろう。1食くらい我慢せい」


「わ、私の楽しみが・・・」


 ミヤビの言葉を受けてガックシと肩を落とすクエレだが、リエルはベッドから降りると、フラフラとした足取りでテーブルへと近づき、屋台で買っておいた残りのサンドイッチを有るだけリングから取り出して、それをテーブルの上へと乗せる。


「クエレには悪いんだけどあたしもそろそろ限界・・・これで我慢してちょうだい。ミヤビとナシタもお腹が減ったら食べてね。あたしは休ませてもらうわ・・・」


 そう言うと、リエルは再びベッドへと向かってフラフラと近づいて行き、ジャケットだけ脱ぐと床へと放り出しベッドの中へ潜り込む。

 部屋に戻ってからリエルの眠気は急速に強さを増し、ベッドに入ったリエルは直ぐに寝息を立て始める。

 そんなリエルの元へミヤビは近づくきベッドに前足をかけてリエルの顔を覗き込む。


(余程疲れていたのか、はたまた能力の影響なのか・・・)


 ミヤビは軽く肉球でリエルの顔を突いてみるが、リエルはそれを振り払うどころか身動き一つ取らずに寝息を立てている。

 そのミヤビの行動を見ていたナシタは、声は小さいが強い口調でそれを咎めようとする。


「ミヤビ様!おやめください!リエル様は大変お疲れの様子。邪魔をするのは如何なものかと!」


「分かっておる。ちょっと確認したかっただけじゃ」


 ミヤビはベッドから離れるとテーブルへと向かい、椅子の上に飛び乗ると、テーブルの上でサンドイッチを頬張っているクエレを見る。


「それで?リエルの父親の事は何か分かったのか?」


 サンドイッチを口いっぱいに詰め込んでいるクエレは、じっくりと味わうようにサンドイッチを咀嚼している。

 ミヤビが答えを待っているのを頭では理解しているのだが、食欲が優ってしまったクエレはサンドイッチを味わう行為がやめられなかった。


 その結果が――


「しゅぼいほとふぁ・・・モグモグ・・・ふぁふぁったふぁふぉ!・・・っモグモグ!」(凄いことが分かったわよ!)


「・・・何を言ってるかさっぱりわかりませんね」


「・・・」


 物を詰め込んだ口で話し始めたクエレの言葉はミヤビ達に伝わる事はなかった。




 サンドイッチを一つ平らげ終えたクエレに再びミヤビが問いかける。待たされたせいか少しイライラしているような気配を放っているミヤビに、クエレは分かった事を伝え始める。


「リエルのお父さん、”天弓“と呼ばれている魔王の事だけど、とんでもない人物よ。何と魔界の三柱に挙げられる程の存在で、純粋な強さだけなら、他の二柱の魔王を同時に相手にしても互角の勝負を出来るんじゃないかって言われているらしいわよ」


「流石我が主人、リエル様のお父様ですね!ミヤビ様もそう御思いでしょう!?」


 クエレの話を聞いて興奮しているナシタだが、ミヤビの表情は硬い。


「それは凄い話じゃが・・・その情報の出所は何処なんじゃ?」


「ミドガルズ様から聞いた話だけど?」


「ふむ、あの爺さんならその手の話を知っていても不思議では無いか」


「ミヤビ様もご存知の方なのですね。どの様な人物なのですか?」


 ナシタは天界の事など知る由も無い為、話についていくには少しでも知識を得ようと努力を怠らない。自分の成長は主人の為でもあるのだから。


「妾が天界へと赴いた時にはもう居ったから、そこまで詳しい事はしらん。知っておるのは長き時を生きてきた巨大な大蛇で、妙に世界の事情に詳しい爺さんという事くらいじゃな。それで他には何か言ってなかったか?」


「残念だけどミドガルズ様もリエルのお父さんの事は詳しく知らないみたい。その話も別の魔王の方から聞いた話だって言ってたわ」


「阿呆、ならばその魔王に直接聴きに行けば良いじゃろうが。相手は誰か聞いとらんのか?」


「バカにしないでよね!それくらい私だって確認したわよ!ただ―――」


 クエレは一拍置いてから言葉を続ける。


「ミドガルズ様が誰に聞いた話だったか覚えて無かったのよ」


 沈黙が三人の間に落ちる。


「・・・使えんじじいじゃな」


「まぁあの方も歳だしね・・・」


「結局の所、直接リエル様のお父様につながる情報は得られなかったという事ですかね」


 ナシタが残念そうに発言するが、ミヤビは黙って考え込んでいる。

 ミヤビとしても、クエレが持ってくる情報に期待していた部分が大きかったので、この結果は想定外だった。

 だが不幸中の幸いと言うべきか、リエルが見せた体の変化が、ミヤビの思考に閃きを与える。


「ナシタよ。リエルの目の事は忘れてはおらんじゃろ?」


「そのミドガルズとかいう年寄りと私を一緒にしないで下さい。覚えているに決まってるではないですか」


「それよ。私も敢えて何も聞かなかったけど、リエルの目、どうかしたの?」


「うーむ・・・」


 唸りを上げて考え込んでいるミヤビが何を語るのかと、その様子を伺っているナシタとクエレ。


「リエルは妾の渡した布で瞳を覆ったうえで“輪郭が見える”と言っておった。詳しくは聞いていない故その能力は未知じゃが、【魔眼】の一種なのは間違いない」


「・・・なるほどね。【魔眼】持ちとなると、その力次第ではリエルのお父さんに繋がる何かが分かるかも知れないわね」


「そういうものなのですか?」


「【魔眼】は種類が多いが、本当に特殊な物以外は固有の種族が持つ能力である事が殆どじゃからな。バジリスクやコッカトリスなどの持つ【石化の魔眼】といった感じにな」


「ミヤビ様の【天眼】も【魔眼】の一種ですよね?」


「うむ。妾の持つ【天眼】は【看破の魔眼】と似た様な能力の物じゃが、妾の【天眼】の方が優れた物じゃと自負しておるがな!」


 少し自慢げに自分の能力を語っているミヤビだったが、肝心なのはそこでは無いので直ぐに話を切り替える。


「それよりもリエルの【魔眼】じゃ。どの様な能力を持っているのか現時点でははっきりせんが、覆った布越しでも瞳から視覚情報を得ている事から【透視眼】の能力に近い物かも知れんな」


「物質を透過して見ることができる【魔眼】ですか」


「【透視眼】であれば、持ってる種族はそこまで多くないはずだから手掛かりとしては悪くないわね」


「あくまで現時点での情報からだとそれに近いというだけじゃがな。詳しい能力は明日、リエルが起きたら確認すれば良いじゃろう。それに・・・」


 そう言うとミヤビもテーブルの上のサンドイッチを前足を使って器用に手前に一つ寄せてくる。

 出来立てをチェストリングにしまっていた物なのでまだ十分な暖かさを肉球で感じる事ができるサンドイッチを、包みを剥ぎ取りそのまま齧り付く。


「・・・もぎゅもぎゅ・・・明日ギルドへ行った際に有益な情報が聞けるかもしれんしな・・・もぐもぐ・・・」


 ミヤビは軽くサンドイッチを平らげると、椅子から降りてリエルの寝ているベッドへと向かう。


「あんたも寝るの?」


「加護持ちでない妾達に睡眠は必要な物じゃからな」


「サンドイッチはどうするのですか?まだ結構残ってますが」


「美味いのは確かなんじゃが、寝る前の食事は妾の美しさを保つ為には程々にしとかんとな。ナシタとクエレで食ってしまえばよい」


 ミヤビはリエルのベッドに潜り込もうと布団に頭を突っ込むが、そこで動きが止まる。


「ナシタ。こいつを見てみろ」


「どうかしましたか?」


「あ、私も見るわよ!」


 ミヤビに呼ばれた二人は揃ってリエルの元へと集まってくる。

 ベッドに足を掛けてリエルの顔を覗き込んだナシタは驚きで目を見開き、ミヤビに顔を向ける。


「これは一体・・・」


「うむ・・・これは・・・」


「・・・魔力が肉体組織の再生を速めてるみたいね。でもこの速度は尋常じゃ無いわよ・・・」


 布団に遮られて今までミヤビ達は気付かなかったが、リエルの体は仄かな光と魔力の揺らぎを纏っており、膨大な魔力の放出によって生じた身体中の傷を、元の褐色の肌へと再生していく様を目の当たりにする。


「リエルの急激な眠気の秘密はこれか。防衛本能と言えばいいのか、身体に問題が起きた事で、それを修復する為の休息が必要だったと言えばいいのか・・・」


「一日中眠りについていた理由も、【龍燐】の呪縛を解くために必要な時間だったという訳ですか?」


「うむ。それだけ回復に時間を要する物だったのじゃろう。ただそうなると、今後もリエルの無茶な行為には目を光らせておく必要がある。ナシタも心しておけ」


「そうですね。リエル様に無茶をさせない為にも私は強くあらねばなりません・・・」


 ナシタはリエルやミヤビと比べて、自分の力が劣っている事を理解していた。


(私はどうしたらもっと強くなる事が出来るのだろうか?私にはミヤビ様の様に卓越した技がある訳でも、魔法が使える訳でもない。どうしたら私はリエル様のお役に立つ事が出来るのだろう・・・)


 ミヤビはベッドに潜り込むのをやめて、ベッドの上、寝ているリエルの足の方に移動すると、体を横にして丸くなり、ナシタもベッドの下で伏せた姿勢で瞳を閉じる。


 静かになった部屋で、クエレは一人のんびりとサンドイッチを味わい始めるのだった。


 ―――――――――――――


 一夜明けて、最初に目を覚ましたミヤビは、大きくあくびをすると周囲を見渡す。

 部屋の時計は朝の六時を示しており、窓から眩しい光が差し込んできている。部屋の様子もテーブルの周りにいくつかのサンドイッチの包みが散らかっている以外には変わった様子はない。


 ミヤビはゆっくりと体を起こし、猫の様に体を伸ばした後、リエルの顔を覗き込んで様子を伺う。


(ふむ、傷跡一つ残っておらんな。魔力の放出も止まっておる様じゃし、問題はなさそうか?)


 ミヤビの心配を他所に、リエルはヨダレを垂らして幸せそうに、だらしない表情を露わにして寝息を立てている。

 リエルに問題ないことを確認したミヤビはベッドから降りると、再び大きなあくびを見せている。


(久々にゆっくりと休息が取れた気がするのぉ。気持ちの良い朝じゃ)


 〖お早うございます、ミヤビ様〗


 〖うむ、ナシタも早いのう〗


 ミヤビが振り返ると、ナシタがベッドの下から姿を見せる。


 〖いえ、私も今起きたばかりですので。リエル様の様子はもう確認されたのですか?〗


 〖だらしない顔して眠っとるぞ。魔力の放出も止まっておるから大丈夫じゃろう〗


 するとナシタもベッドに足を掛けてリエルの様子を確認し始める。

 その様子を後ろで見ていたミヤビだが、ふと、クエレの姿が見えない事に気付いて部屋の中に視線を走らせる。

 だがクエレの姿はどこにも無い。


(あやつ、どこへ行ったんじゃ?)


「う・・・うーん・・・」


 〖ミヤビ様。どうやらリエル様も目を覚ましそうですよ〗


 〖そうか。ならさっさと起こして飯でも食いにいくぞ。クエレの奴がお――〗


「あっ!?貴様!そこで何をしている!?」


 突然ナシタの声が響いたので何事かと思ったミヤビだったが、原因は直ぐに分かった。


「ふぁー・・・よく寝たわー。たまには睡眠も悪く無いわね」


 もぞもぞとリエルの布団から這いずり出てきたクエレを見て、ナシタが威圧混じりの声を発する。


「さっさとそこから出ろ。さもないと・・・」


「うっさいわねー。別にいいでしょ?私がリエルに危害を加える訳無いんだから」


「う・・・」


「そう言う問題では無い。リエル様のお身体のお加減がどうなのかはっきりしないのに、余計な負担になる様なことは慎めと言っている」


「はぁ?何それ?私がいつリエルの負担になる様な事をしたって言うのよ?」


「ぐ・・・ぐぅ・・・ぐるじぃ」


「何が影響を及ぼすか分からないと言うのに、リエル様のお布団に潜り込むのは負担になるかもと考えないのか?」


「たかが一緒の布団で寝てただけで何言ってるのよ!・・・あ!さてはあんた、僻みね!これだから男って嫌なのよねー!自分が出来ないからってそーやって直ぐに食って掛かって」


「ち、違うぞ!ななな何を言っているのだ!?私はリエル様をし―――」


「下らん喧嘩はそこまでにしておけ。クエレもさっさとリエルの上から降りろ。そこで暴れるとリエルが苦しかろう。それと、ナシタはさっさとリエルを起こせ」


 呆れたように言葉をかけたミヤビは床に散らばったサンドイッチの包みを一箇所に集め始める。

 クエレもリエルの胸元から飛び立つとテーブルの上へ降り立ち、軽く体を動かし始める。


「リエル様、起きてください。リエル様」


「うーん・・・」


 ナシタがリエルの体をゆさゆさと揺すりながらリエルの覚醒を促すと、リエルはゆっくりと瞼を上げるが、窓から入ってくる光を受けて、逃げる様に布団に潜り込む。


「もうちょっとだけ・・・」


「起きろリエル。今日はギルドへ行かねばならんのじゃ。それに次の町へ向かう準備だってせにゃならんのだからのんびりもしてられんじゃろう」


 ミヤビはリエルに言葉を投げると、先程集めていたサンドイッチの包みを、炎の魔法を使って跡形も無く消滅させる。

 ミヤビの言葉を受けたリエルも、ベッドの上で体を起こすと大きく背伸びをする。

 まだ布団の中が恋しいのだろう、リエルは半開きの目でミヤビ達の方を見る。


「おはよう・・・貴方達、朝から元気ね・・・」


「お早うございます。リエル様」


「おはよう!」


「うむ、おはよう。念のため確認するが体の調子はどうじゃ?」


「体?・・・あっ」


 リエルは思い出したかの様に自身の体をペタペタと触りながら確認し始める。一通り確認し問題ない事が分かると、リエルはベッドから降りて部屋の洗面台へと向かい鏡と向かい合う。

 そこで左眼を覆っていた布を解いて鏡を覗き込み、変わった所がない事を確認してほっと胸をなで下ろす。


「大丈夫。なんとも無いわ」


 振り返ったリエルの瞳は普段と変わらない物へと戻っていた。


「うむ、大事ない様で安心したぞ。身支度を整えたら飯を食いにいくぞ。その後は事情を説明するためにギルドへ行く事になっておるのは忘れてはおらんな?」


「さっきも聞いたから分かってるわよ」


「なら、飯を食った後は早急に面倒な事を済ますとしよう」


「私もお腹ペコペコ!!」


「私もお腹が空きました!」


「ナシタは兎も角、クエレはお腹が空かないんじゃないの?」


「それはそれ、これはこれよ!」


「なんかよく分かんないけど・・・まぁ別にいいか。今支度するからちょっと待っててね」


 しばし時間を掛けて、身形を整えたリエルはミヤビ達を伴って部屋を後にする。

お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


予定よりちょっと遅れて、バランディアの町編、もう一話だけ続きます。

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