70話 化け物と獣人の少女?
誤字脱字は時間があるときに修正します。
2018/2/9 少し加筆しまいた。
バランディアの町の一画、西側の大通りに建てられている衛兵所から突如響いた、人間の物とは思えない咆哮。その場に居合わせた街行く人達は驚きで立ち止まり、音の発生源に視線を向ける。見ていると直ぐに衛兵所の入り口から血相を変えて夜間業務を担当していた数名の兵士が大通りへ現れる。
再び最初に聞こえて来た咆哮が周囲に響き渡ると、建物の扉が勢い良く吹き飛び、中に残されていたであろう兵士が大通りに転がってくる。
道路を這いずりながら助けを求める兵士を、先に外に出て来た兵士達が助けに入り、建物と距離を取ることに成功する。
「皆さん!ここは危険ですので速やかに避難し――」
――ヴウウオオオオオオオオォォォォッッ!!!
一人の兵士が声を張り上げ危険を知らせようとしたが、それをかき消す様に大きな咆哮が三度響き、咆哮の主人が建物から姿を見せる。
それは、一般の成人男性と比べ少し高い背丈にこそ留まっているが、明らかに人ではない異質な存在である事を、対峙した者が瞬時に理解できる程の異形の姿であった。
生えている腕は不自然なほどに長く、直立した状態でも地面に届く程の巨大な腕部を持っており、それを支える体の中央には、剥き出し状態の赤黒い心臓の様な物が不気味に脈打ち、本来瞳が収まるはずの部分からは止め処なく黒い液体が全身を染め上げる様に流れている。
「きゃあああぁ!」「な、なんだあれ!?」「化け物だ!!」「ひえええっ!?」
それを目にした人々の悲鳴が連鎖反応の様に広がっていき、たちまち逃げ出し始める者達で騒々しさを増して行く。
それに答える様に、現れた化け物は兵士に向かって走り出す。その動きからは機敏さは皆無であったが、それが逆に兵士達の恐怖を煽る。
だが、彼等とて人々を守るという強い意志でこの道を進んだ者達。恐怖に囚われて動けないなどと言う情けない姿は見せる事は無かった。
「誰か隊長の家に行ってこの事を伝えて来てくれ!それと別にもう一人冒険者ギルドへ応援要請に!残りで人々の避難誘導とあいつの相手だ!急げ!」
当直兵士のリーダー、マークスが指示を出し始める。その声に反応するように、人外の化け物は、標的に定めたマークスに向かって急加速して迫ってくる。
「!?」
腰に下げた長剣を抜き放ち迫りつつある化け物を迎え撃つ姿勢を見せたマークスに合わせる様に他の兵士達も戦闘態勢を取り始める。
『ヴオオオオオオオォォ!!』
「くっ!?」
マークスは咆哮と共に繰り出された拳打を、剣の腹で受け止める。
ぶっ飛ばされる事を半ば覚悟していたマークスなのだが、後方へ上手く飛び退き衝撃を軽減させる事で事なきを得る。
だが、受けた手に痺れが残る程の攻撃力を実感したマークスの精神状態は穏やかではない。
(何とかダメージは受けずに済んだが――)
だが、顔を上げたマークスは絶句してしまう物を視界に映す。
(一体じゃ無いのかっ!?)
衛兵所からノソノソと出てくるのは、足が妙に太かったり、体のバランスが左右で狂ったりと違いはあるが、先に現れたものと同一の存在である事は疑いようはなかった。
――それが全部で4体。
『ヴォオアアアアアアアアァァァ!!』
最初の一体が上げる声に同調する様に他の三体も咆哮を上げる。
「何をしている!早く知らせに行くんだ!!」
「――っ!了解です!」
目の前の光景に我を失っていた兵士達がが掛けられた言葉で我に帰ると、大急ぎでその場から走り出す。
行動を開始したことで、大通りから人々を避難させに行った者達と応援を呼びに行った者を抜かし、残された兵士の数はマークスを含めて四名しか残っておらず、一人一体で対応するしか無い状況下。
「無理に仕留めようとするなよ!あの化け物の力はかなり強い!ここに釘付けにする事に専念するんだ!」
マークスは指示を出すとポーチから投擲に使う鉄製のスリングショットを取り出し、腕長の化け物に向けて鉄の弾を発射する。
『ヴウウウオオオオオォォォ!!!?!?』
高速で打ち出されたスリング弾を頭部に受けた化け物は、ダメージがあったのかは不明だが頭部を庇う様な動きを取ろうとする。しかし長すぎる腕のせいで上手く行かないのか、頭部はほとんど庇う事が出来ていないのが見てわかる。
「ダメージのほどは分からんが・・・有効ではあるみたいだな!全員、距離を取れ!スリングショットや弓での攻撃で注意を引き付けるんだ!」
その様子を見た他の兵士もマークスの考えを理解し、接近戦を避けて、遠距離からの攻撃に切り替えての攻撃に取り掛かる。
「近づかれたら距離を取れ!惹きつけている分には無理をするな!応援が来るまで持ち堪えるんだ!」
『ヴウウアアアアアアアアッッ!!!』
『ヴオオオオオオオオオオォォ!?』
矢継ぎ早に繰り出されるスリング弾と矢による攻撃を受け、不快感を覚えている様な咆哮を上げる怪物達。だが兵士達による連携のとれた波状攻撃の前に攻勢に出ることが出来ずにいる。
(これなら十分持ち堪える事はで――)
「ぎゃっ!?」」
聞こえてきたのは人が上げた短い悲鳴。
目を向けて見れば、弓を持った兵士の一人がが仰向けで倒れる瞬間が飛び込んで来る。
倒れた兵士と対峙した化け物とは十分な距離が取られているのに、なぜ彼は攻撃を受けているのか?その時は誰も分からなかったが再び行われた攻撃がその正体を露わにする。
『シャドォォォボルト・・・』
非常に聞き取りずらい微かな呪文が、一体の怪物から放たれると、向けられた手から魔法が打ち出される。
弾丸の様に形成された無数の黒い影が、先に倒れた兵士を助けようと駆け寄った別の兵士に向かって襲いかかる。
標的にされた兵士は微かにそれを視界に捉えるが、避けるには余りにも遅すぎた。
「ぎゃあああぁああぁ!?」
無数の魔力に体を貫かれた兵士は、その痛みに耐えかねて絶叫にも似た悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。
倒れる二人の兵士から流れ出る血は、見る見るうちに血溜まりを大通りに広げて行く。
「おおおおぉぉ!!」
「マークスさん!?」
「俺が惹きつけている間に二人を避難させろ!離れたら回復薬で治療するんだ!」
マークスは倒れた二人と魔法を使ってきた怪物との間に割って入ると、再び雄叫びをあげながらその一体に剣を振り上げて力一杯振り下ろす。
「はあああああぁぁ!!」
『ゴヴォオオオオオォォォ・・・』
口と思われる部分から得体の知れない黒い液体を吐き出しながら、不気味な声を響かせているその一体の化け物は、マークスの剣を受け止める姿勢を見せる。
その動きは他の化け物達と同様、速さと言うものは皆無であり、マークスの放った剣の一撃は容易に相手の肉体に沈み込んで行く。
『ヴォオオアアアアアアアァァァ!!?!?』
強力な攻撃を受けた事で、剣から逃れようを暴れ出した化け物は、激しく身を捩りながら、やたら滅多らに腕を振り回す。
全く周囲を考慮しないその動きは、別の化け物も巻き込み殴り飛ばしていく。
なんとか巻き込まれる前にその場から離れる事が出来たマークスは少し距離をとった位置で呼吸を整え直し、後ろを一瞬確認して、再び攻撃のチャンスを伺う。
(ふぅ・・・ふぅ・・・今の攻撃は手応えはあったが、あの暴れ様に巻き込またらひとたまりも無い。二人も無事離れた事だし、何とか距離を取りつつ注意を引く事に専念すべきか?)
周囲に人の影は無く、避難も順調に進んでいる事に満足しつつ、相手の様子にもしっかりと意識を向ける。
だが、渾身の一撃をお見舞いしてやったはずの化け物の傷口は、見る見るうちに切断面が元の状態へと、まるで時間が巻き戻っているかのように修復されてしまう。
『ヴォオオオオオオオォォォォォオオ!!!』
「――化け物め」
そうこうしているうちに同士討ちで倒れていた他の化け物達も動き始め、再び不利な立場に立たされるマークスは、腹に力を入れ剣を構えてさっき切りつけた奴に目標を定めて走り出す。
(アイツの動きは鈍い。ここでもう一度同士討ちを狙い時間を稼ぐ!)
リスクを覚悟でその先のチャンスを掴むべく、マークスは化け物の群れとの距離を一気に詰め、動きの速い突きでの攻撃を脈動する心臓の様な部分に向けて繰り出す。
「でいやああぁぁ!」
やはり相手の動きはマークスの速度について来る事叶わず、最初と同様にその剣の一撃をその身で受ける事になる。だが、今度は先ほどの様にはいかなかった。
『シャドォォボルト・・・』
聞こえてきた声にマークスは慌てて突き刺した剣を離してその場から即座に離脱する。
化け物は防御や回避の動作を全く取らず、逆にカウンターで魔法を唱えてきたのだ。
解き放たれた魔法は先程までマークスが立っていた場所に降り注ぎ、砕けた道路の破片が回避行動を取っていたマークスに勢いよく飛んでくる。
マークスにダメージと言えるほどの外傷を与えることはなかったが、攻撃はその魔法一つではなかった。
周囲にいたはずの一体がいつの間にかマークスの側面へと回り込んでおり、その太い足から繰り出された前蹴りは、致命的なダメージを与えるのに十分な威力が込められているのがマークスにも一目でわかった。
「グホァッ!!」
まともに腹部へ突き刺さった前蹴りの一撃により、マークスは口から血反吐を吐き出しながら宙に浮き上がり、そのまま道路に落下する。
「マークスさん!?」
二人の兵士に治療を施していた兵士が、治療を中断してまで、マークスの窮地を救おうと走り出す。
だが、既に化け物の一体は追撃を加える体制を見せており、兵士との距離はマークスを救うのに絶望的なほど離れていた。
『ヴォオオオオオオオォォォォォ!!!』
「やめろおおお!!」
兵士の叫びは化け物は届く事はなく、その凶腕はマークスに向けて振り下ろされる。
だが、マークスに打ち込まれるはずの一撃は間一髪で動きが止まる。淡い光を発する二本の剣が、化け物の拳を妨げる様にそこに浮かんでいた。
そして次の瞬間――
『ヴィイイイアアアアァァァ!?!?』
繰り出していた化け物の巨大な腕は、咆哮と共に宙へと舞い上がり地面へと落ちてくる。
ドサッという音を立てて地面に落ちた異形の腕を、驚いた表情で言葉なく見つめる兵士の耳に、何とも場違いな声が聞こえてくる。
「間一髪と言ったところか?しかし急いで来た甲斐はあった様じゃな」
聞こえて来た子供の様な声色に、兵士の視線は自然とその声の持ち主を探し始め、倒れたマークスと化け物の間にその姿を発見する。
見たこともない美しさの衣服に身を包んだ少女が、小さな体に不釣り合いな立派な薙刀を携え不敵な笑みを見せている。
頭から飛び出た耳とお尻の部分から生えている尻尾を見て、少女が獣人族の冒険者だろうと判断して手を貸そうとするのだが。
『ヴヴヴガガアアアアアアアアアァァァ!!!』
腕を片方失っても、化け物はもう片方の腕を少女に向けて繰り出そうと咆哮を上げる。
「うるさい奴じゃな」
少女は目にも留まらぬ薙刀捌きでその腕も斬り飛ばし、そのまま自分の三倍ほど大きさの相手を、容易く十字に切り裂いて見せる。
化け物はそのまま崩れ落ち、四つに切り裂かれた肉片になってバラバラと地面に転がると、不気味に脈打っていた肉体はその動きを止める。
自分達では手に負えなかった相手を、いとも容易く葬った少女の実力を目の当たりにして兵士は言葉を失ってしまう。
「大丈夫ですか?」
少女に釘付けになっていた兵士は、その人物の接近に気付かず、急に声をかけらた事でビクンッと体が跳ねてしまう。
「ひゃい!?」
「あー、驚かせてしまったようで申し訳ない。話を聞いて駆け付けた冒険者のベルセフォネです」
異形の姿を見せる化け物が目の前にいるこの状況下で、場違いな程に落ち着いて接してくる目の前の女性。
一気に色々な事が起きたせいで、兵士はまともな反応をする事が出来ず、口をパクパクさせている。
そこにリエルとナシタ、マルドゥクも駆け付け、リエル達は止まる事なくミヤビの元へとそのまま走って行き、ベルセフォネも同様に兵士の側から離れ、化け物に向かって走って行く。
呆けた様子の兵士にマルドゥクが歩み寄ると、兵士の方も相手が誰がなのか認識して我に帰る。
「無事な様じゃな。ここは儂等に任せて、住民の避難と、怪我人をギルドまで運ぶのに回って欲しいんじゃが任せても良いか?」
「は、はい。ですがギルドマスター殿、気をつけてください。あの化け物は魔法も使って来ます」
「なるほど。他に何かわかっておる事は無いかね?」
兵士は自分が知っている事を手短に報告すると、怪我人を運びながらその場から避難する。
リエル達以外に人間が居なくなった衛兵所に、化け物の咆哮が響き渡る。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
シャドーボルト=リエルさんが以前つかったエアバレットの闇属性版みたいな物。単発のエアバレットに対して複数の小さい弾丸を一斉に飛ばす感じです。
次回は13日くらいに




