69話 町に現れた脅威
誤字脱字は時間があるときに修正していきます。
「――ベルから聞いた仮面の男の事は各町のギルドに警戒するように伝達済みじゃ。昼間から行った拠点調査の方も、襲撃時の冒険者達に引き続き手を貸してもらい、大体の事は無事に終わっておると言った感じじゃよ」
「先ほど言った通り私以外の冒険者達はもうギルドには残っていない。皆目的があるからね」
自分が寝ている間にあった出来事を、マルドゥク達から一通り聴き終えたリエルは、サンドイッチを頬張りながら晴れない疑問について考える。
(そんなに長い時間、あたしは眠ったままだったんだ・・・。アラーナさん達もみんな無事なのはよかったけど・・・)
「ねぇミヤビ。どうしてあたしはこんな長い時間眠っていたの?」
「ん?それは受けたダメージを回復するのにそれだけの時間が必要じゃったからに決まっておるじゃろ?」
「そうじゃなくて、今までみたいに治療魔法とかでどうにかできなかったの?」
「勿論やったぞ。じゃがお主が受けた攻撃、アンデット化した【ホーリードラゴン】から受けた【龍燐】による影響が厄介でな」
ミヤビは紅茶を一口含むと、軽く息を吐いて話を続ける。
「肉体が受けた傷は魔法で癒すことは出来る。じゃが、【龍燐】によるダメージは外傷とは少々違って状態異常の効果に近い厄介な物なんじゃよ」
「それがあたしが眠り続けていた事と関係があるって事?」
するとミヤビは少し表情を硬くして口をつぐみ、 その場にいる面々を流し見してから再びリエルに視線を戻し、リエルの疑問に対する答えとは別の話を切り出す。
「リエルよ、お主は妾達がこうして人前で普通に話をしている、妾に至っては人化状態まで見せている事を不思議に思っておるじゃろう」
その言葉を聞いた途端ナシタがやや不機嫌そうな様子で喋り始める。
「リエル様に確認してからのほうがいいと私は言ったのですが、ミヤビ様が"一部の人間に見られている以上隠していてもしょうがない"と言って聞いてくれないのです」
ナシタがそう言い放つとミヤビはムッとした表情を作りナシタを見る。
「うるさいのー。仕方ないじゃろうが。元はと言えばナシタが不甲斐ないせいでこうなったのではないか」
「ミヤビ様だって、偉そうに油断するなと言いながらあの男に捕まるような失敗をしてるではないですか!私だけのせいにされても心外です!」
「ほう・・・中々でかい口を叩きおるではないか」
ミヤビから沸々と湧き出る魔力には怒りを感じさせるのに十分な圧力が混じっている。
だが、その視線こそナシタに向けられているが、怒りの矛先はどうやら別にあるようにリエルは感じとる。先ほどの意味ありげな仕草もどういう事なのかいまいち分からないリエル。
一体どうしたというのか?少し考えるがリエルにはその理由までは分からなかった。しかし睨み合っている二人の様子を見て考えるのを後回しにして声を上げるリエル。
「やめなさい!あたしは二人が悪いなんて思ってないから喧嘩しないでよ!」
リエルの言葉が響くが二人は睨み合った視線を目の前の相手から逸らそうとはしなかった。
「ま、まぁなんじゃな。ミヤビ殿がこうして自分の秘密を見せるくらいには、儂等を信用してくれたということではないのかのぉ?」
「ミヤビちゃんが人の姿に変化したのを見て最初はビックリしましたけど、その姿も可愛いですねー」
マルドゥクとキャスが何とか場を和まそうとフォローを入れてくれるが依然二人に変化はない。
「こんな状況の中で申し訳ないけど、これを返しておくわね」
黙って話を聞いていたベルセフォネは丁度いい間が訪れるのを待っていたのだが、どうにも話が進みそうに無いと判断し、ここでアイテムポーチから一張りの弓を取り出し、それをリエルに差し出す。リエルは少し驚いた様子で弓を受け取るとベルセフォネを見る。
「どうしてベルセフォネさんがこれを?」
「貴方が眠っていた間、回収した私が預かっていたの物よ。エマリエさんから受け継いだ大事な物なのに返すのが遅くなってしまって悪かったわね」
少し申し訳無さそうなベルセフォネを見て、リエルは微笑みを返してみせた。
その様子を見ていたマルドゥク。
「ベルから聞いたんじゃが、なんでも嬢ちゃんはエマリエ殿の娘なんじゃろ?」
「はい。やっぱりマルドゥクさんもお母さんの事をご存知なんですね」
「まあのぉ。しかしあの娘っ子が母親になっておったとはのぉ。たまげたわい」
いつもの様に髭を撫でながら、ふむふむ頷いているマルドゥク。恐らくこの仕草がマルドゥクの癖なのだろうと、見ていたリエルにはそんな事を考える程度に余裕が出てくる。
だが、すぐにリエルの興味は母親の事に切り替わる。
「お母さんって、どんな人だったのか聞かせてもらうことって出来ますか?」
「んん?それは構わんが儂が知っているのはかなり昔の話になるぞ?」
「私も詳しい事は知らないですし、資料に書いてある“とんでもない冒険者”という事くらいしか・・・ちょっと興味があります」
キャスも紅茶を手にマルドゥクが話す事に興味を示す。
「とんでも・・・」
表情が引きつっているリエルを見てベルセフォネが横で苦笑していると、ミヤビが声を上げて話を遮る。
「それよりも先に!リエルよ!お主の意見を聞かねばならん事がある!」
突然大声を上げたミヤビに全員の視線が一斉に集まる。せっかく母親の話を聞けると期待していたリエルは少し不満げにミヤビに言葉を返す。
「何よ?」
〖妾達の目的に必要な情報のために、この者達に事情を話そうと考えておる。リエルはそれについてどう思うか確認したい〗
〖なっ!?〗
念話に切り替えて語られたミヤビの提案内容に驚きを隠す事なく反応するナシタ。だがナシタとは違いリエルの反応は意外にも普通だった。
〖ミヤビがその姿は隠そうとしてないのは、それが理由だったのね〗
〖言っておくが、知っておるのはここにいる者だけじゃぞ。公に見せておるわけではない〗
しかしナシタはミヤビの意見に喰ってかかるのをやめなかった。
〖私は反対です。何故、人間如きにリエル様の正体を明かす必要があるのですか?情報を得る為とは言ってもそこまでこちらの情報を与える必要などないではありませんか〗
〖では聞こう。リエルがどうやって【龍燐】の呪縛を解いたのか説明するつもりじゃ?先程は詳しく話さなかったが、あれは最強の種族に数えられる上位のドラゴンが持つ非常に強力な能力なんじゃぞ?それを、対応する魔法も薬も無しに自身の回復力だけで無力化する様な存在が、納得のいく説明も無しに自由に歩き回れるとお前は思っておるのか?〗
〖そ、それほど強力な能力なのですか?〗
〖なんだか話が穏やかじゃ無いわね・・・〗
龍燐という能力を知らない者は勿論いるだろう。実際ナシタとリエルは、今のミヤビの説明を聞くまではそこまで強力な能力だったとは知らなかったのだから。
だがベルセフォネやマルドゥク達はどうだろうか?
ベルセフォネは兎も角、ギルドマスターであるマルドゥクであればそれくらいの事は十分に承知しているだろうから、リエルの異常な回復力に疑問を抱いてもおかしい話では無い。
返す言葉が見つからずにいるナシタにミヤビはそのまま続ける。
〖恐らくこの者達はそんな盗み見や監視をつける様な真似はしないじゃろう。じゃが、あの仮面男の様な存在がいる以上、ここで有耶無耶にしてしまうより事情を説明しておいて、いざという時に力を借りられる様にしておいた方が妾はメリットがあると考えておる訳じゃがどうじゃ?言いたい事があるなら言っておいたほうがいいぞ?〗
ナシタに黙り込むしかなかった。そんなナシタの頭に手を置いてリエルは語りかける。
〖ナシタがあたしの事を気にするのは分かるけど、ミヤビの言っている事はあたし達にとってもいい事があるんだし、ここはミヤビの意見に賛成しようと思うんだけどナシタは嫌?〗
〖いえ、リエル様が宜しいというのであれば私はそれに従います〗
〖そう。ありがとねナシタ。ミヤビも〗
〖うむ。納得して貰えて助かるぞ〗
「どうじゃ?相談は終わったかのぉ?」
三人の様子を見て頃合いだと思ったマルドゥクが声をかけてくる。
「うむ。待たせたな。妾達の意見は決まった故、今から大事な話をさせて貰いたいのだが構わんか?」
「ほほう。中々興味深い事ではあるのぉ。じゃが以前も言ったと思うが無理に話す事は無いんじゃぞ?」
「よい。これは妾達にも利がある事じゃから気遣いは無用じゃ。じゃが話を始める前に――」
ミヤビはおもむろに席を立つと少し広めの場所に移動して、以前見た事がある黒い石碑をその場に呼び出し魔力を込める。
「お主達と交わした制約を解除する故、こちらに来て欲しい」
「良いのかね?儂等をそこまで信用しても」
「これから話す内容は制約に触れる部分がある為、ベルセフォネが新たに含まれている以上仕方がないんじゃ」
「何のことだが分からないが、私が邪魔なら席を外すが?」
「良い。お主も一枚噛んでいる以上話を聞いて欲しい」
ベルセフォネはリエルを見ると、リエルもそれに無言で頷く。
「なら、ミヤビ殿の言う通りにした方が良さそうじゃな。よっこらせっと」
「マスターはおじいちゃんですから席を立つのにも一苦労ですねー。そうはなりたくないですねー私は」
立ち上がりミヤビの元に歩いて行くマルドゥクを軽口を言いながらキャスが追従する。
それぞれ石碑の前に揃うと、ミヤビの指示で三人は石碑に手を触れ、合わせてミヤビが制約の終了を告げる呪文を唱え始める。
長い詠唱文をミヤビが終えると、石碑は役目を終えその形を崩し、破片は粒子になって消えていく。
「これでお主達を縛るものは無くなった。これからはそちらの判断に任せる形になる訳じゃから信用させて貰うぞ」
「制約を結んだ時と違って随分あっけないもんじゃったのぉ。いまいち変化が実感できんが、信用には応えさせて貰うつもりじゃよ」
「ええ。と言うかミヤビちゃんは私がリエルちゃんに不利になる様な事をすると思ってるんですかー?」
「妾が言っているのはそう言う事では無い。本人の意思とは関係なく情報を引き出されるような目に合わんように気をつけろと言ってるんじゃ」
「成る程。ミヤビ殿の言う通りじゃな。肝に命じておくとしよう」
ミヤビ達が席に戻ろうと歩き始めた時、部屋の中に扉をノックする音が響いてくる。と言うより叩く音といった感じの方が正しい様な勢いだ。
「マスター!!いらっしゃいますか!?至急お知らせしたい事が!」
響いて来たのはベリンダの声だ。歩いているが俊敏な動きでキャスが扉の前に移動するとそのまま外へと姿を消す。
「何かあった様じゃな。どれ――」
椅子に座って緩くなった紅茶を飲みながら、ミヤビが魔力による感知能力を使い周囲を確認してみる。
(―――む、これは・・・?いや、こっちか!)
ミヤビが席から立ち上がると扉の方に歩いていく。
〖リエル。どうやらこれはあの男絡みと見て間違いなさそうじゃぞ〗
〖それって・・・あいつが町の中にいるって事!?〗
〖分からん。じゃが、あの男が纏っていた特有の魔力の波長が複数感知できた。しかも纏った場所で非常に強力な魔力をな〗
〖どうする気なの?〗
リエルの問いかけにミヤビは湧き上がる魔力を抑えながら不敵な笑みをリエルに返す。
〖決まっておるじゃろう?妾に無様な声を上げさせたあの不届き者の魂を冥府に送り届けてやるわ!〗
〖私も行きます!私もあの男の存在は非常に不快であり、リエル様に無礼を働いた者を生かしておくのは使える者として恥ずべき行為です!〗
〖良く言ったぞナシタ。じゃが彼奴が居ったらならば妾がこの手で仕留める。邪魔にならんようにする事じゃ〗
〖あっ!ちょ、ちょっと待ちなさい!ミヤビ!ナシタ!〗
リエルは先程ミヤビが怒りを見せた理由を何と無くだが理解する。詰まる所、自分に恥をかかせた仮面の男を思い出して怒りを露わにしたのだ。
慌てて二人を止めようと席を立つがミヤビの行動は早かった。
ミヤビは真っ赤な炎の中から薙刀を手に取り勢い良く扉を開く。扉を開けると丁度キャスがこちらに戻ってくるところだったのだろう、あわや激突という距離を扉がかすめていく。
「わわっ!ど、どうしたんですか?そんな物騒な物を持って!」
「仮面の男が出たのじゃろ?妾がぶちのめしてあの世に送ってやる故手出しは無用じゃ」
「ちょっとミヤビ!落ち着きなさいよ!」
「これが落ち着いていられるか!妾のこの怒りは、あの無礼な小僧の血と肉と魂で償わせてやらねば気が済まん!なりふり構っている時では無いのじゃ!」
怒り狂った様なミヤビの言葉でベルセフォネも何があったのか察してミヤビの元に歩いてくる。
「あの男が近くにいるのね。そう言う事なら私も行くわ。あの男は野放しにしておくには危険すぎるものね」
ベルセフォネも仮面の男の危険性を十分に理解している為、ミヤビを止める様子は皆無であった。
「報告があったのは、皆さんが捕らえた黒手袋の者達が、異形の姿になって兵士詰所の牢を破り暴れているそうです。至急応援が必要との事ですが、マスター」
キャスは上がって来た報告をマルドゥクに告げると、その決断は早かった。
「手の空いている冒険者に町民の避難誘導に手を貸す様に要請してくれ。それと、怪我人がいた場合、その治療を行う者もだ。件の相手はベルとリエル嬢ちゃん達に任せた方が良いじゃろう。恐らく並みの冒険者では相手にならんのじゃろう?」
「並みというのがどの程度なのか判断に困るが相応の実力が必要じゃろうな。異形の者というのは見てみんと分からんが、感じ取れる魔力の強さは非常に強い」
ミヤビの言葉にマルドゥクは頷き、再びキャスに指示を飛ばす。
「やむを得ない状況でない限り標的に攻撃を仕掛けるのは止める様に徹底させてくれ。避難を最優先に行動させるんじゃ。良いな?」
「了解しました」
指示を受けたキャスはすぐに動き始める。それに合わせてミヤビ達も行動を開始する。
「何をしておるリエル。モタモタするなら置いて行くぞ」
「分かったわ。あんまり無茶しないでよね」
「どれ、儂も勤めの励むとするか」」
マルドゥクも加わり、急ぎ足で部屋を後にするのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
次回は8日くらいに




