68話 前触れ
誤字脱字は時間があるときに修正します。
真っ暗な視界が広がる静寂に包まれた世界。その中で確かに感じている微かな痛みによって徐々に意識が覚醒していく感覚を覚え始めた少女は瞼をゆっくりと持ち上げる。
その目に映ったのは自分の記憶には覚えのない、部屋の天井だった。
ゆっくりと体を起こした少女はボーとした顔で周囲を見渡す。
(・・・ここは?)
リエルの他には誰もいないその部屋の中、窓から入る夕暮れの赤い光に照らされた室内を眺めていたリエルは、自分に何があってこんな場所にいるのか考える。
リエルの寝ていたベッドは綺麗に整えられているが、内装は全く飾り気のない質素な見た目で、体を休めるという一点のみに集中しているのを強く感じさせる作りだった。
そんな場所でどうして自分が一人で寝ていたのか?
目が覚めたばかりのでまだはっきりしない思考を回転させて記憶の糸を辿っていく。記憶に霞みがかった様な不快感を感じながらもリエルが最初に思い浮かべたのは――
(ミヤビとナシタは?)
周囲に姿が見えない二匹の所在について疑問を抱いたリエルは、直後、ハッとした表情を見せて声を上げる。
「そうだ!ミヤビッ!!ナシタいないの!?」
慌ててベッドから飛び出すと部屋のドアを勢い良く開いて部屋から出る。
「うぶっ!?」
「っとと!」
何かに激突して尻餅をついてしまったリエル。
「起きたと思ったらそんなに慌ててどうしたの?」
リエルが顔を上げると、立っていたのはベルセフォネだった。
即座に立ち上がったリエルはベルセフォネの服を掴むと姿の見えない二匹の事を問い詰めようと喋り始める。
「ミヤビとナシタがいないの!まさかあの男に連れていかれちゃったの!?そうなら私が助けに行か――」
「ちょ、ちょっと!?落ち着きなさい?」
ベルセフォネはリエルの口元にすっと指を当ててリエルの言葉を止めると、顔をリエルの目線まで落として廊下に並んでいる扉の一つを指し示めす。
「あの子達ならそっちの部屋でご飯を食べてるわよ」
そう告げるとリエルの頭に手を置いて軽く撫でた後にもう一言。
「だからリエルさんが考えている様な事にはなってないから安心しなさい」
そこまで聞いたリエルは、少し間を置いてから項垂れた姿勢で大きく息を吐いて見せた。
「は~・・・。無事で良かった・・・」
「ええ、二人共物凄い勢いで夕飯に噛り付いてるところよ」
ベルセフォネからミヤビ達の所在を聞いて安堵していたのもつかの間、続けられた言葉を聞いてキョトンとした表情を見せているリエル。
(・・・夕飯?・・・!?)
「どうかした?」
徐々に記憶がはっきりとしてきたリエルは目を見開いて、再びベルセフォネに問い掛ける。
「そうだ!ベルセフォネさん!依頼は!?捕まっていた人はどうなったんですか!?」
「ああ、依頼の件なら安心して。報告は完了してるし、捕まっていた人も全員無事。チームも解散して、今ここに残っているのは私と貴方達だけよ」
「そ、そうですか・・・」
依頼が失敗に終わってなくて――人質を無事に救出する事がで来た事に安心したリエル。
しかし、リエルにはまだまだ聞かなくてはならない事が沢山残されている。
ベルセフォネに問いかけようとした時、別の人物から声が掛けられる。
「おや!?やっと目を覚ましましたねー!」
「気分はどうじゃ?どこか異変は感じたりせんかね?」
目をやると、そこには料理の盛られた皿を配膳台に乗せて運んでいるキャスと、その後ろには髭をさすっているマルドゥクが揃ってこちらに歩いて来るところだった。
(キャスさんとマルドゥクさん?じゃーここって・・・)
二人を見てここが一体何処なのか察しがついたリエルは三度、ベルセフォネに視線を戻す。
「冒険者ギルド?」
「そうよ?」
「おやおや?もしや問題でも?」
配膳台を押しながら側までやって来たキャスは立ち止まり、何かあったのかと心配してベルセフォネに問い掛ける。
「いえ、先程目を覚ましたばかりですが見た感じは問題なさそうですよ。ただ状況が分からず少し困惑しているといった感じですね」
「ふむ、聞いた話ではだいたい丸一日眠っておった訳じゃから、それも仕方ないじゃろう」
「・・・丸・・・一日?」
リエルの口から声が溢れる。
「そうですよ?皆さんが町に戻ってき――」
キャスが言葉を続けるのを遮るように一室の扉が勢い良く開き、中から一人の少女と一匹の狼が姿を見せる。
それを見たリエルが声を上げる。
「ミヤビ!ナシタ!」
「おぉリエル。声が聞こえてきたからもしやと思ったが、やっと起きおったか」
「リエル様っ!?」
一目散に駆け寄って来るナシタとは対照的にミヤビは落ち着いた様子でこちらに向かって歩いて来る。
リエルの元にやってきたナシタは、しきりに自分の体をリエルの足に擦り付け始める。それに応える様にリエルはナシタの頭を優しく撫でる。
「身体の調子はどうじゃ?何か違和感を感じたりはせんか?」
リエルの元へ歩いてきたミヤビが体調を気にした様子で言葉を掛けて来る。
「少し頭がぼーっとするけど大丈夫よ。ミヤビとナシタは平気?」
「私は問題ありません!」
「うむ。見ての通り心配はいらんぞ」
リエルに異常がない事を確認し終えるやいなや、ミヤビはキャスの運んできた配膳台に歩み寄ると、乗せられた料理に目を輝かせ満面の笑みを浮かべている。
「まぁこんなところで立ち話するのも病み上がりには応えるじゃろう。嬢ちゃんも腹が減っておるんじゃないか?」
「いえ、あたしは――」
きゅるるる・・・
言いかけたリエルの腹の虫が微かに漂ってきた料理の匂いに反応して可愛らしい音を立てる。
お腹を抑えて顔を赤くするリエルを見たベルセフォネとキャスがほんわかとした笑みを浮かべている。
「詳しい話は飯でも食いながらで良いじゃろう。ほれ、お前達もさっさと部屋にゆくぞ」
マルドゥクは先程ミヤビ達が出てきた部屋に行くように全員を促し、それに従うように皆揃って歩き始める。
部屋に入るやいなや、リエルの目に飛び込んできたのは、中央に設置された大きなテーブルに乗っているお皿の山だ。
「これ、二人でこの量を食べたの?」
「ん?そうじゃが?ここの料理も中々の味じゃぞ」
若干呆れた様子のリエルであったが、ミヤビは特に気にする事もなく椅子に腰掛けると、食べかけの料理にフォークを刺して口に運ぶ。
「お二人は本当によく食べますねー。太ったりしないんですかねー?」
「まぁこの子達に関しては常識では測れそうに無いですからね」
感心するキャスの言葉に何じゃ悟ったような台詞で答えるベルセフォネ。
「リエル様もお召し上がりください。丸一日眠っていた訳ですから食事は必要かと思います」
リエルに食事を取ってもらおうと計らうナシタの言葉に、マルドゥクが同意する。
「そうじゃぞ嬢ちゃん。子供はしっかり飯を食って体を作らんとな」
マルドゥクも椅子に座ると、テーブルに置かれたティーポットに手を伸ばして、中の紅茶をカップに注ぎ込むとリエルに差し出す様にテーブルに置く。
ベルセフォネは動かないリエルの背中に手を回すとテーブルの方へと連れて行き椅子を引く。
「不思議に思っているのは分かるけど、まずはお茶でも飲んで落ち着きなさい。聞きたい事はちゃんと教えてあげるから」
リエルはベルセフォネの言葉に頷き、椅子に腰掛け、マルドゥクに差し出された紅茶を手前に引くと、一拍おいてからカップに口をつける。
配膳台の料理をテーブルへと移し終えたキャスもマルドゥクの隣の席に座り、ベルセフォネとナシタもリエルの側に腰を下ろす。
「さて、リエル嬢ちゃんが聞きたがっている疑問じゃが、順を追って説明するんで少し長くなるが良いかな?」
「え、ええ。お願いします」
「よしよし。勿論食いながら聞いてもらって構わんからな」
マルドゥクはそう前置きを入れると、リエルが眠っている間に何が有ったのかを順を追って語り始める。
リエルは適当に料理を口に運びながらそれに耳を傾けるのだった。
――――――――――――――――
日が落ちて赤焼け空が見られるこの時間、東門から町に入ってきた一人の女性は、慌ただしい様子を見せているバランディアの大通りを歩いている。
その女性は白色のローブを身に纏った、一見すると魔法使いと思われるような雰囲気を感じさせている。
腰には一本のロングソードが下げられ、燃えるような赤い長髪が特徴的な人物である。
(結構大きな町だな。さて、どうやって探そうか・・・)
女性は何かを探るように周囲を観察しながら、門番から教えてもらった場所を目指して町の中を歩いて行く。
暫くすると目的の場所に到着したその女性は目の前の建物を見つめている。
(間違いなくこの中から魔力を感じる・・・)
強い意志を感じさせるその瞳に映っているのは、この町の冒険者ギルド。
大きく深呼吸を一度した後、女性は建物の中に入っていく。
中に入ると、多くの冒険者が仕事の報告をしたり、酒や食事を楽しむ者達の姿が目に入ってくる。
女は取り敢えず空いてる席に座ると注意深く周囲を観察し始める。
(あの仮面の男が何処かにいるはず・・・)
女は辺りに注意を配りながらも、魔力感知に力を入れて自分の探している魔力の出所を掴もうと集中する。
そして――
女は立ち上がると、受付の方へと歩き始める。己の目的を果たす為に。
お疲れさまです。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。
次回は3日くらいに




