67話 帰還と報告
誤字脱字は時間があるときに修正します。
町へと帰る準備が整うまでに時間はそれ程掛からなかったが、ふと、カリウスが建物内で発見した物の事を思い出す。
「そーいえば、地下で略奪品の山があったがそれはどうすんだ?」
「私達の依頼には含まれていない物だから、こちらで回収するよりも衛兵隊に任せる方が問題が起きずに済むだろう。取り敢えずはそのままでいい」
「俺達の武器や道具は回収済みなんだが、それは持って帰っても構わないだろ?」
念の為カルツが自分達の持ち物について尋ねてくる。
「それは構わないわ。他に何もなければ移動を開始するが問題ないかな?」
特に反対する言葉も無かったため、一行は来る時に通ったルートを辿り、森の外を目指す事にする。
救出した人達を前後から守る隊形を組むとカリウスを先頭にして移動を始めるが、背後を受け持つ事になったベルセフォネはその場を離れる前に周囲を軽く見渡す。
(それにしてもあの男、出来ればここで仕留めたかったが・・・ん?)
ベルセフォネは、草叢からチラリと姿を見せている、リエルの使っていた弓を視界の端に捉える。
それに近づいて拾い上げるベルセフォネは、弓を見ながらリエルの戦っていた時の様子を思い出す。
(ドラゴンの攻撃を受けた時の衝撃で飛ばされたのね。目を覚ましたら返してあげましょう)
肩から斜めに弓を背負うとベルセフォネは先を歩いているメンバーの元へ急ぎ足で向かうのだった。
森の外で包囲網を展開していた衛兵隊の一人が森から出てくる集団の人影を確認する。
別の位置にいたクラウスもそれに気づいて出てきた者達を観察すると、ホッとしたような表情を見せる。
「どうやら依頼は無事終――」
すぐに誰だか認識したクラウスが安堵の声を漏らしかけた時、負傷者なのか抱き抱えられている者がいるのに気づいて腰のポーチから単眼鏡を取り出し覗き込む。
「・・・リエルさん!?それに―――え!?」
覗き込んでいた単眼鏡を勢い良く下げると、今度は肉眼でそれを凝視し、見間違いではない事に驚くクラウス。
リエルの事も驚いたのだがそれに輪をかけてクラウスに衝撃を与えたのは、ナシタの背中でグッタリとしているミヤビの存在が目に入った為である。
リエルが外見からは測りきれない何かを備えているのは理解しているつもりのクラウスだったのだが、あれほど威風堂々とした佇まいを見せていたミヤビまでもが負傷する様な状況というのは全くの想定外だった。
「彼等に手を貸すぞ!負傷者の姿もある為、そこの台車も持っていけ!急げ!」
クラウスの命令で周囲にいた兵士達は素早く行動を開始し、必要な物を持って森から出て来た者達の方へと走り始める。
「天に上がっていた火柱といい、響いて来た咆哮といい何か起きているとは思っていたが、一体何があったと言うのだ!?」
そうぼやいた後にクラウスも走り出すのだった。
(私が付いていながらリエル様は愚か、ミヤビ様までお助けする事もできなかった・・・。しかも、よりにもよって人間の手を借りる事にまでなるとは・・・)
自分の不甲斐なさに憤りを感じているナシタの目に、こちらに走ってくる衛兵隊の姿が映しだされる。
その中の一人、クラウスが血相を変えて、ベルセフォネに何があったのかを伺っているのを横目で見ているナシタ。
そのナシタの元に別の兵士が近づいて来て、背中に乗せたミヤビを担ぎ上げようと手を伸ばしてくる。
『ガルルルッ!!』
「うわっ!?」
虫の居所が悪いナシタは、いきなり手を伸ばして来たその男に威嚇の鳴き声を浴びせると、兵士の男は驚いてすっ転び尻餅をついてしまう。
その声に気づいたクラウス達が会話を中断してこちらに目を向ける。
「何事だ?」
「た、隊長!こ、この従魔、触れようとすると抵抗してくるのですが!?」
ナシタがミヤビ同様、普通の魔獣ではない事を思い出したクラウスは、尻餅をついている兵士を引っ張り起こす。
「なら、台車をここに持って来てくれ。彼方の少女も同じ台車に乗せるからこちらに連れて来てほしい」
「りょ、了解しました!ですが――」
兵士はクラウスに頼まれた事に了解を示すと、チラリとナシタをみる。
『ガウッ!』
「ひえっ!」
再び威嚇を受けた兵士は一目散に走り去る。
残されたベルセフォネとクラウスが互いに顔を見合わせて相手の出方を伺っている。
なんとも言えない沈黙が二人を包み込むが、それぞれ考えている事はナシタの事だ。
(さて、普通にナシタ殿と接しても大丈夫なのだろうか?どうにも機嫌が良くない様だし)
(クラウス殿はリエルさんの従魔の事を知っているんだろうか?どうにもこの子も気が立っている見たいだし)
お互い考えている事は同じ様なものなのだが、迂闊に喋っていい様な内容ではない事はどちらも理解しているからこその沈黙だった。
「あー、オホン。それではベルセフォネ殿。先程の続きですが――」
取り敢えずさっきまで確認していた話の続きを伺う意思を見せたクラウスに、ベルセフォネも頷いき、耐え難い沈黙から解放される。
「依頼の方は完了したという事ですが、奴等のアジトにはまだ略奪された物資が置いてあるとか?」
「はい。我々で回収するのも些か問題があると判断してそのままになってます。出来れば衛兵隊で回収して然るべき処置をお願いしたいのですが」
「了解しました。こちらで責任を持って管理させていただきます」
「奴等の一人から聞き出した情報では、我々が通ったルートの他の場所に見張りが数名残っている可能性がありますので、準備と戦力は十分にしていった方がいいと思います」
「わかりました。一度町へ戻った後チームを編成して現場に向かわせたいと思います。他に何か注意すべき事はありますか?」
すると、ベルセフォネは表情を強張らると、少しの間をおいてクラウスに言葉を返す。
「正直、かなり厄介な事が・・・。詳しい事はギルドマスターや領主様を含めて話そうと思ってますが、奴等の中に非常に危険な存在が確認されました」
ベルセフォネの言葉を受けて“やはり”といった表情を見せるクラウス。
「大きな咆哮がここまで聞こえて来ましたよ。巨大な火柱が上がったのも確認できましたから、何かがあったのは察してます」
「そうですか・・・。仮面で顔は確認できませんでしたが、特殊な魔法を身につけていてるらしく、通常の攻撃では首を落とされても健在だったほどです」
「それは・・・」
ベルセフォネの言っている事は事実なのだろうがクラウスは困惑せずにはいられなかった。
首を落とされても死なない人間なんて言われても、余りにも突拍子も無い未知の事象すぎて言葉を失ってしまうクラウス。
「ただ完全に不死身という訳にはいかない様で、聖なる気を受けた際にはしっかりとダメージは受けている反応を見せてました」
「その様子だとやはり?」
「はい。恥ずかしながら力及ばず、その男には逃げられてしまいました」
陳謝するベルセフォネ様子にクラウスは慌てて頭を下げる。
「いいえ!そんな奴を相手によく皆さん無事に依頼を完了して頂きました。領主様に変わって先にお礼申し上げます。本当にありがとうございます」
クラウスからかけられた言葉に、複雑な思いを口にするベルセフォネ。
「リエルさん達も仮面の男と戦ってくれたが、私が判断に時間をかけてしまったせいで辛い目に合わせてしまった。無事完了と胸を張れる結果ではありませんよ」
「そんな卑屈にならなくても良いではありませんか。私も以前リエルさん達の実力を拝見させてもらった事があるだけに、彼女達が負傷する様な事になるなんて思ってませんでしたよ。それだけ異常な相手だったのにも関わらず彼女達を守りきる事ができたなら十分だと私は思いますよ」
「そうなんでしょうかね・・・」
もっと早く決断していればリエル達が負傷することも、仮面の男に逃がすことも無く済んだかも知れないという考えを拭えなかったベルセフォネに突如、クラウスとは別の声が掛けられる。
「これは私の力が及ばなかったから起きた事。責められるべきは私であって、人間如きが気にする様な事では無い」
そう言い放ったのはリエルの従魔であるナシタであった。
クラウスとベルセフォネはどちらもナシタが人語を話せる事を知っていたが、突然のことだった為、驚きを見せてしまう。
「何を驚いている。お前達は私が人語を話しているところ見ているはず」
「そ、そうだけど突然喋られると驚いくわね」
「ベルセフォネ殿もご存知でしたか」
「私が知ったのはついさっきのことですけどね」
クラウスにそう返したベルセフォネは腰を落としてナシタを見る。
「ナシタちゃんだったわね。貴方は一体何者なの?こっちのミヤビちゃんもそうだけど普通の魔獣という訳じゃ無いんでしょ?」
「それを話すかどうかは私では決められない。ただ・・・リエル様とミヤビ様を助けてくれた事には礼を言う」
ナシタからの言葉を受け取ったベルセフォネは、その言葉の意味に興味を持つ。
「リエル様とミヤビ様・・・か」
そうベルセフォネが漏らしたところに、先程の兵士の声が聞こえてくる。
こちらに向かってくるその兵士に手綱を引かれながら一頭の馬が追従している。
馬の後ろには台車が繋がれおり、敷かれた毛布の上にはリエルが寝かされている。
「お待たせしました!こちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、すまんな」
兵士から手綱を受け取ったクラウスは兵士に礼をいうと、続けて問いかける。
「町に戻る準備はどうなっている?」
「はい。もういつでも移動できる状態は整ってますので、隊長達が言ってくだされば直ぐにでも」
「そうか。すぐにそちらに向かうのでもう少し待っていてくれ」
兵士にそう告げたクラウス。
「取り敢えず、話は町へ帰ってからすると言うことでいいだろうか?そろそろ日も落ちて辺りが暗くなってくる頃だ」
「私に異論はありませんよ」
ベルセフォネの答えを聞いたクラウスは軽く頷いた後に、今度はナシタを見る。
クラウスが何かを言うまでもなく台車に飛び乗ったナシタはリエルの側にミヤビを下ろすと自分もそこに座り込む。
一行は薄暗くなって来た街道を町へ向かって歩き始めるのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
次回は29日に投稿予定です
でも読みたい本があるのでもしかしたら遅れるかも・・・遅れたらごめんなさい




