65話 東の森の略奪者 その6
誤字脱字は時間があるときに修正します。
時間の見積もりが甘かった!今回短いです。
2018/1/17 ちょこっと加筆しました。
ベルセフォネは、リエル達の戦いを見ている事しか出来ない状況に歯を食いしばり耐えていた。
(まだなのか!?このままでは彼女達が!)
即座に結界を解いて助けに入る事も勿論可能なのだが、ベルセフォネにはそれをする事が出来ない理由があった。
建物内部の敵性勢力がどれだけいるのかは事前にミヤビからもたらされた情報で把握できているが、新たに現れた眼前の敵、さらに問題なのは召喚されたホーリードラゴンだ。
アンデット化したホーリードラゴンの身体から流れ出している強力な瘴気は、魔力の操作に慣れていない一般人にはとても耐えられるものではない。
“戦いの雄叫び”のメンバー以外に捕まっている者が一般人である可能性がある以上、結界を解けばどんな結果が待っているかは容易に想像が出来る。
(くそっ!このままじゃ・・・!!)
固唾を飲んで見守っていたベルセフォネだったが、ドラゴンの攻撃を空中で避けていた筈のリエルが地面に着地した直後、動きが突然止まる。
リエルの表情は苦痛を感じている様子を色濃く表しており、何らかの異変が起きていることは疑うまでもなかった。
ベルセフォネが何が起きたのかを考える間も無く、動きの止まったリエルにドラゴンの強靭な尻尾が直撃する。
その一撃は致命的なダメージをリエルに与えるに充分であった事は、リエルが吹き飛びながらその軌道に残していった血の跡が雄弁に物語っていた。
体の内側から外へと逃げる力の強さで肉が裂け、おびただしい量の血が宙を舞っていたのだ。
「リエル様っ!!」
仮面の男と激しい攻防を繰り広げていた彼女の従魔が声を上げる。
だが、その一瞬の隙を突いた仮面の男の魔法が従魔の動きをすかさず捉え、放たれた魔力の刃はその従魔の肉体を地面へと縫い付ける。
仮面の男が何か喋っているのがベルセフォネにも微かに聞こえてくるが、焦燥に駆られるベルセフォネには男の言葉を集中して聞き取るだけの余裕は無かった。
(私は・・・私はどうすればいい・・・)
冒険者であれば依頼の途中で命を落とすことは珍しい話では無いし、リスクに対する対価をもらって仕事をしている以上それは自己責任という言葉に行き着く。
リエルを――自分の村を救ってくれた恩人の娘を見殺しにするなんて事はしたくないベルセフォネ。
だが、結界を解いてリエルの助けに入れば、捕まっている者はドラゴンの放つ瘴気によって蝕まれ、たちまちその命を失ってしまうだろう。
両者を天秤にかけたベルセフォネは決断する――
仮面の男がドラゴンに向けて自分の意思を告げる。
「そっちは――別に要らないかな。殺していいよ」
主の意思を理解したドラゴンはリエルに留めの一撃をお見舞いしようと、ボロボロになった凶拳に力を込めてリエルへと撃ちだす。
しかし、放たれた拳はリエルの命を奪う事に失敗する。
ベルセフォネは素早くリエルを抱きかかえると迫りくる拳を、空間から現れた三本の剣を三角形を作る様に展開すると、その拳を受け止めさせる。
直撃を避ける事は出来たがその衝撃はリエルを抱きかかえたベルセフォネにも剣を通して、自身の体へと重くのしかかってくる。
ベルセフォネは大地を蹴り、後方へとそのまま力を受け流す形で宙を滑る様に移動すると静かに着地しリエルを見る。
ベルセフォネの視線が、ゆっくりと瞼を上げたリエルの視線と重なる。
「ベル・・・セ・・・」
たどたどしい言葉がリエルの口から洩れるがベルセフォネはそれに被せる様に言葉を告げる。
「助けるのが遅れてごめんなさいね。直ぐに従魔の方も助けるから、もう少し辛抱して頂戴」
そうリエルに告げると、ベルセフォネは羽織っていたマントを脱ぎ地面へと落とすとリエルをそこへゆっくりと降ろし立ち上がる。
「邪魔しないでくれるかな?君達はモルモットを助けに来たんだろ?そいつらは持って行っていいから引っ込んでいてくれないかな?」
仮面の男がベルセフォネを見ながら、イラつきを感情に込めて言葉を口にする。しかしベルセフォネはそれに対して魔技を発動させることで自分の意思を示す。
「《具現せし刃》」
魔技の発動によって、ベルセフォネの背後に複数の剣が姿を現す。それはそれぞれ異なる輝きを纏っており、中にはひと際激しい光を放っている物もあり、数にして七本の剣が静かに主の命令を待っている。
未知の能力を見た仮面の男は、興味が沸いたからか、それとも警戒からか、棒立ちだった体勢をすぐに動けるような姿勢へと変化させる。
「なん――」
――ギャリリッ!
仮面の男が言葉を発したと同時に何か金属同士がぶつかり合うような高い音が響く。直後――
――ドシャッ
何か重い物が地面へと落ちた音で、仮面の男は自分に何が起きたのかを理解する。
それはミヤビを掴んでいた腕が、ベルセフォネに操られた剣によって、金属の手甲ごと切断された事によって生じた金属音、そしてミヤビの体が地面へと落下することで生じた音であった。
「うおっ!?」
驚きの声を上げた男は、一歩、その場から後ずさる動作を取るが、次の瞬間には新たな危機が自分に迫っている事に気づかされる。
前方にいるドラゴンの体を剣で貫き大穴をあけ、そのまま突っ込んでくるベルセフォネの姿を視界に捉えたのだ。
「――っ!!」
男は避ける事出来ずに、ベルセフォネから繰り出された剣の一撃をその身に受ける。
その一撃は胸骨を砕き、そのまま貫通し、剣の唾まで体に突き刺さると激しい痛みを男に与え始める。
「痛い痛い痛いいいぃぃいいい!!?」
絶叫を上げる仮面の男にベルセフォネは剣から手を放すと体を捻り、追撃の回し蹴りを男の顔面目掛けて叩き込む。
――バゴンッ!!
という音がすると、男の体は頭を勢いよく引っ張られるかのような体勢でベルセフォネが蹴った先へと吹っ飛び、そこにあった木へと激突すると、ベルセフォネの放った回し蹴りの威力が瞬時に分かる大きな激突音が周囲に響く。
「ごはっ!!」
地面に落下しうずくまっている男から血を吐くよう声が上がるが、直ぐに怒りの言葉を吐き出し始める。
「よくも・・・僕を!!汚い大人の癖に!!この僕に!くそがああああああああああ!!!!」
怒号を上げ立ち上がった男はベルセフォネに向かって杖を向ける。が――
「っ!?どこだ!?」
先程まで自分が立っていたで在ろう場所にはベルセフォネと、捕えていた二匹の従魔の姿はどこにも見当たらず、切り落とされた自身の腕だけが残っていた。
『グルルルルアアァァァァ!!!』
そこに響いたドラゴンの雄叫びによって、ベルセフォネがどこに行ったのかを認識した仮面の男は、杖をドラゴンへと向ける。
そこには目まぐるしい速さで飛翔する幾本もの閃光が、ドラゴンの肉体を細切れにしようと飛び回っており、それに混ざる様にベルセフォネの姿が、そしてその奥に倒れているエルフの少女の傍には二匹の魔獣が横たわっていた。
ベルセフォネの激しい攻撃によってドラゴンの体は自由を失い、たちまち立っている事すらできない状態へと追い込まれ、その巨躯を大地へと預けてしまう。
それでもベルセフォネの攻撃の手は止まる事はなく続き、ついにはドラゴンであった痕跡すら残さないレベルで、ドラゴンの体を細切れの肉片へとその姿を変貌させる。
その光景を見ていた仮面の男は、ベルセフォネという存在が理解できない驚きから自然と口が開いてしまう。
「馬鹿な・・・ただの人間にしか見えないお前みたいな奴に、アンデット化したドラゴンをここまで完全に殺しきる事なんてできるはずがない・・・できるはずがないのに・・・!!」
そんな言葉を口にしている男を見てベルセフォネも口を開く。
「あまり時間をかける訳にもいかないんでね。さっさと終わらせてもらうよ」
ドラゴンとの闘いで費やした時間のせいで仮面の男の体は元の状態へと回復してしまったようだが、ベルセフォネは決着をつけるべく、大地を勢いよく駆ける。
「調子に乗るなっ!!!」
仮面の男も杖の先端に魔力の刃を形成すると、ベルセフォネを迎え撃つべく構えを取る。
両者の獲物が接触すると、そこを中心にして魔力の衝撃波が周囲へと駆け巡る。接近戦では圧倒的にベルセフォネに分があるようで、仮面の男は何とか魔力障壁を駆使しつつ立ち回っているが、ベルセフォネの飛翔する魔力の剣による死角からの攻撃でどんどん体に傷が作り出されていく。
「くっ!?強い!!でもねぇ!!」
男は激しい攻防を続けながらも不敵な笑みを見せている。
「成程。その忌々しい笑みの理由はそれか」
男の傷から溢れてくる黒い液体状の物質が、その男の肉体を修復していってる事にベルセフォネが気づく。
「そうさ!つまり君に僕を殺す事なんてできやしないよ!僕は選ばれた存在なんだからねえええ!!!」
ベルセフォネが放った突きを男はその身で受け止めると、即座にベルセフォネに向けて魔法を放つ動きを見せる。だが、そんな男に再び強烈な痛みが襲い掛かる。
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!?!?」
「やっぱり。これが貴方の弱点って訳ね」
無数の傷を受けても痛みを感じる様子を全く見せる事が無かった仮面の男が絶叫を上げる。引き抜かれた剣から逃れる様に距離を取る仮面の男が荒々しく言葉を吐き出す。
「貴様!!それはまさかっ!!」
「貴方の力の本質が闇であるなら、これには抗えないでしょうね」
「【聖剣気】か!!」
「ご明察」
魔法には五大属性である火、水、風、土、雷の他に上位属性としていくつかの属性が存在し、その中の一つに闇が存在し、それに対をなす形で聖という属性が存在する。今ベルセフォネが使った能力の正体が、剣聖と呼ばれる一部の達人だけが使う事ができる、聖なる力を宿した気――聖剣気なのだ。
ベルセフォネは距離を取った仮面の男に剣を突きつけると言葉を告げる。
「覚悟はいいかしら?」
その言葉に男は激怒する。
「だから!調子に乗るなといってるだろう!!僕を見下すな!!!」
男は地面に手を付けると言葉を発する。
「聖剣気を使える貴様には通用するとは思ってないけど、後ろの奴らはどうだろうね!!?」
「――!!」
その台詞の意味をベルセフォネは即座に理解しリエルの元へと走り、男はその魔法を発動する。
「《増幅する瘴気》!!」
魔法の効果は即座に現れ、細切れになったドラゴンの死体が黒い光を発したかと思うと強い瘴気を放出しながら消滅し、たちまち周囲を、目に見える程の濃密な瘴気が包み込む。
瘴気は接触した木々から緑を奪い黒い爛れた物体へと変化させながらどんどん膨れ上がり、その拡散は止まる事なく森を黒く塗り替えていく。
留まる事を知らない瘴気の波はこのまま森の外まで流れていくかと思われたが、突如その拡散速度を急激に落とし緩やかな速度へと変化していく。
侵食を求めてやまないといったような意思すら感じさせていた瘴気の流れはそのまま広がりを止めると、今度は飲み込んだものを吐き出す様に後退を始める。
触れる物全てを変質させてしまう程の高濃度の瘴気に中、仮面の男は魔力障壁すら張ろうとはせず、ただその濃霧の中で、先にいるであろう者達に視線を向けていた。
(やっぱり直接的な攻撃でないと効果はなし――か・・・強すぎだろあの女・・・)
発動させた魔法が急激に力を失い始めたのは、ベルセフォネが原因だという確信はあったが、仮面の男にはそれを最後まで見ているほどの余裕は残っておらず、瘴気によって足止めができている間にその場から離れる事に思考を切り替え、薄暗い森の中へと姿を消す。
(この世界、思った以上に強者がいるみたいだなぁ。こっちに来るときに手に入れた力があっても油断は禁物か・・・。もう暫くこの組織を利用して情報を集めさせてもらうとしよっと)
男はその仮面の下で不気味な笑みを浮かべながら、これからの行動に胸を膨らませるのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
次回は19日くらいには投稿したいです。




