64話 東の森の略奪者 その5
誤字脱字は時間があるときに修正します。
投稿日の設定をミスってました!ごめんなさい!
最初に一言発した後、仮面の男は距離を保ったまま動きを止め、リエル達の出方を待っているかの様に佇んでいる。
その油断とも取れる振る舞いをミヤビは見逃さなかった。
天眼を使って男の実力がどれほどの物かを読み取ろうと試みるミヤビ。
(やはり全てを見透かす事はできんか)
男から発せられる魔力の強さから只者ではない事はミヤビも予想はしていたが、何らかの解析阻害系スキルを保有している様で、盗み見る事が出来た情報は少ない。
しかし、ミヤビはそこから妙な違和感を感じ始める。
(此奴・・・見られていることに気づいておらんのか?)
そう、【天眼】による解析を阻害しているという事は、見られている本人はそれを感じる事が出来るという事。
にも関わらず目の前の男にはまるで変化がなかったことに疑問を覚える。
意識することからくる肉体の強張りなどの変化はおろか、魔力の流れにも乱れは無く、依然として男は動き出す気配が無かったのだ。
(これだけの力を持っておると言うのに見られていることに気づかないなどと言う事があり得るのか?)
外面から感じ取れる強者の気配と比べると余りにもチグハグな振る舞いに困惑するミヤビ。
そんなミヤビの様子にナシタが気づき、何か重大な問題でも起きたのではないかと考え問いかけてくる。
〖ミヤビ様?何かまずい事でも?〗
〖え?どうしたの?〗
弓を構えたまま男を睨みつつ警戒しているリエルもミヤビの様子に不安を感じ始めてしまう。
そんなリエル達の無言の態度に、しびれを切らした男が動きを見せる。
「このままじゃ埒があかないなぁ。まぁ君達が僕の敵だって言う事は間違いないだろうし――」
そう言葉を漏らした仮面の男は魔法詠唱を開始する。
「《昏き底で呻きし怨嗟の声よ 失われし肉体を今一度取り戻し 偽りの生にて怨敵に復讐する機会を与えん 【偽りの生命】》」
油断していた訳では無いのだが疑問に気を取られていた事が災いし、リエル達は先手を取られ魔法の発動を許してしまう。
放たれた未知の魔法に対抗する為、ミヤビは即座に四人を包み込むドーム状の魔力障壁を展開するが、男の放った魔法の向かう先はリエル達とは別の方向・・・一箇所に集められていた死体へと向かっていた。
「さぁて、死なない敵を相手にどうするかな?お手並み拝見といこうか!」
仮面男が機嫌良さそうに声を上げると魔法のかけられた死体が脈動し始める。
『クルシィ・・・』
『グ、グルルゥゥ・・・』
『イイィタァァァイ・・』
動き出した人間の死体は上半身で地面を這いずり分かたれた自分の半身の元へ苦しみの口にしながら移動を始め、バトルウルフの死体は頭部に空いている穴からどす黒い血を吹き出しながら唸り声を上げている。
〖死体が動いてる!?〗
〖ミヤビ様!これはもしかして禁術の――〗
〖此奴!屍使いか!?〗
「リエルさん気をつけて!来るわ!」
放たれた魔法の効果で仮面男が禁術とされている死者の反魂に関する魔法の研究者――ネクロマンサーである事が分かったのも束の間、偽りの命を手に入れたバトルウルフがリエルに襲い掛かろうと動き出したのを見てベルセフォネも声を上げる。
「死体が相手だとちょっと気持ち悪いけどっ!」
番えた弓を襲い掛かろうと走ってくるバトルウルフへと向けるとリエルは弦の緊張を解放する。
勢いよく放たれた矢は空中に跳び掛かる体勢を取っているバトルウルフを射抜くとそのまま体を貫く。
が、バトルウルフの勢いは止まらず牙を剥き出しにするとそのままリエルへと襲い掛かる。
驚いたリエルは咄嗟に弓でそれを防ごうと防御の姿勢を取るが、リエルへの攻撃をナシタが許さなかった。
〖無礼者がっ!!リエル様に指一本触れられると思うなっ!!〗
リエルの前へと素早く移動し立ち塞がるナシタは、直前まで迫ってきているバトルウルフに向かって恐るべき速さで前足を繰り出すと、容易くバトルウルフの頭部を殴り飛ばして粉砕する。
ナシタの一撃で吹き飛んだバトルウルフは建物の壁へと激突し、体内から血飛沫をあげ地面へと落下する。
〖どこかお怪我はございまいませんか!?〗
〖大丈夫、ありがとナシタ〗
〖妾の展開した障壁があるから別にナシタが張り切る必要はなかったのじゃがな〗
そのまま不動の姿勢で、偽りの命を与えられたバトルウルフの群れを睨み付けているナシタを見た仮面男は驚いたように口を開く。
「すごい威力!女の子の弓も凄かったけどそっちのペットもかなり強そうだね。でも――」
そう漏らすと、たった今、殴り飛ばされ頭部が弾け飛んで失われたバトルウルフがビクビクッと痙攣したかと思うと体を起こして再びリエル達へと向かって行く。
それを口火に、両断された肉体を一つにした二人の男の死体と他のバトルウルフも一斉に走り出し、リエル達の命を奪おうと襲い掛かり始める。
リエルは次々とそれに向かった矢を放ち、ナシタも駆け出し次々と死体の軍団を殴り飛ばして行くのだが、偽りの命を持った死体は痛みや恐怖を感じる様子は一切見せず、肉体の一部を失おうともお構いなしで動き続けリエル達に襲い掛かろうと向かってくる。
「お~!やるねぇ!でもそんなんじゃ何時まで経っても終わんないよ?」
リエル達の戦いの様子をただ見ているだけで全く自身で仕掛けてくる気配のない仮面男がおどけて見せる。
〖これじゃきりがないわ!〗
〖強くはないのですが殴った感触が気持ち悪いのでそろそろ何とかしてほしい所です!〗
リエルとナシタがそう嘆くとミヤビが考えるのを一時保留して行動を開始する。
〖やれやれ、面倒な魔法を使いおるわ。じゃが全て焼き払ってしまえば済む話じゃろうが〗
〖ならさっさと何とかしてよ!〗
〖あいわかった。リエルよ、魔法で奴等を一ヵ所にあつめるんじゃ〗
〖了解っ!〗
弓を射るのをやめたリエルは素早く魔力を練り上げ、ナシタが殴り飛ばして散らばっていた死体の集団、その中心に目標を定めて魔法を発動する。
「【サイクロン】ッ!!」
詠唱破棄されているとはいえリエルには【オーバーマジック】の能力がある為その威力は絶大であり、解き放たれた魔力は恐るべき吸引力を伴う竜巻を生み出し、その力に抗う事を許さず周囲の死体を飲み込み細切れにしていく。
リエルの力を知らないベルセフォネに言葉はなく、驚きの表情でその光景を見つめていた。
〖これでいい!?〗
〖うむ、助かる〗
リエルの様子には焦りが見えているが、ミヤビは至って冷静に物事を進め始める。
ミヤビはリエルの傍から少し離れると、自身の周囲に一つ、二つと次々に火球を生み出して漂わせ始める。
合計七つの火球を生み出したミヤビがそのスキルの名を一言呟く。
〖【罪滅の燐火】〗
発動したスキルによって七つの火球はリエルの生み出した竜巻の周囲を囲むように位置すると、その周囲を回転し始める。
そして次の瞬間、目標周辺の大気が歪むほどの熱気を周囲に放ちながら巨大な火柱が天へと立ち昇る。
「やり過ぎ・・・」
ぽつりと一言洩らしたリエルを、唖然としていた表情のベルセフォネが見ているが、ベルセフォネに言葉はない。ただただ目の前の子供に驚く事しかできなかった。
そしてその気持ちは仮面男も同様であったようで黙ってその光景を仮面の下で見つめていた。
やがて火柱が収まると、そこには形ある物は何も残っておらず、赤熱した地面が見えるだけだった。
(さて、生ゴミはこれで全て片付いたな。残りはあの男だけじゃが・・・)
ミヤビは仮面の男の様子を伺いつつリエルの元へと歩いていく。
「え、何この人達。これってボス戦か何か?」
仮面の男から今までの落ち着いた様子とは違う、困惑する心境を感じさせる言葉が零れ落ちる。しかし男は逃げ出す様な事はせず、ただ目の前の者達――白いフォックスウルフに対する強い好奇心に思考が染まっていく。
「仕方ない。これはちょっと遊んでられるような相手じゃないっぽいし――」
思考を切り替え、即座に男は動きを見せる。
仮面の男がその場でしゃがみ込み地面に手を触れると、男を中心に未知の魔法陣が展開される。それはこの世界でいう召喚魔法の法陣に酷似しているのにベルセフォネが気づいて声を上げる。
「召喚魔法か!?」
「こんな所で呼び出す様なペットじゃないんだけどし――」
ミヤビは男の行動を再び見逃す様な事はしなかった。軽く地面を蹴ったミヤビは瞬時に仮面の男との距離を詰めるとすれ違いざまに男の首を鋭利な爪で切り落とす。
振り返ったミヤビは地面に落ちていく途中の首を見ながら小さく声を掛ける。
「そう何度もやらせるとおもうたか?このたわけが」
その言葉の直後、男の首は地面へと到達すると、ドサッと音を立てて体も倒れ込み動きを止める。展開され掛けた魔法陣は魔力の供給源を失いガラスが割れたかのように砕け散る。
(やれやれ、此奴の正体は結局解らず仕舞いになってしまったが仕方あるまい)
リエルの元へと戻ろうとミヤビが仮面の男の傍を通り過ぎようとしたとき、事態は急変する。
「・・・油断したね?」
仮面の男の首からそう言葉が発せられると、男の体は素早くミヤビの首根っこを掴み上げる。
「なっ!?」
「ミヤビッ!!」
「ミヤビ様ッ!!」
突然の出来事に念話も忘れた三人が声を上げる。
「いやぁ驚いたよ。ホントに凄いねこのフォックスウルフは!これはいい素材が手に入ったよ!ハハハッ!」
ばたばたと暴れているミヤビを物ともしない男の体は足元に転がっている自身の首を拾い上げるとと元の位置へと持っていく。
すると切り離された男の首から黒い液体の様な物が流れ出し、それは体の断面に吸い寄せられていき元の状態へと戻り始める。
「ミヤビを放しなさい!!」
リエルは手に持った弓を男に向けて素早く矢を射るが、それを遮る様に地面から巨大な翼が姿を現し、放たれた矢を男の代わりにその身で受け止める。
「あ~・・・よしよし。一回死んじゃったけど、こんないい物が手に入るなら対価としては安い買い物かな?」
「ミヤビ様を放せ!無礼者が!」
地面から生えている翼飛び越え男の頭上を取ったナシタがそのまま襲い掛かろうとするが、今度は巨大な尻尾の様な物が地面から現れ、頭上のナシタを弾き飛ばす。
「ぐっ!?」
「ナシタ!?」
弾き飛ばされたナシタを見てリエルが声を上げるが、ナシタは体勢を整え地面へと激突するの何とか避けて着地する。
「そっちのフォレストウルフも凄そうだから貰って行こうかな」
「貴様!調子にの――」
悠長に喋っている男にミヤビが魔法を繰り出そうと声を上げた瞬間、ミヤビが今まで体験した事のない程の激しい苦しみが襲い掛かる。
それはミヤビを掴んでいる男の手から漏れている黒い液体の様な物がミヤビの体を徐々に蝕み始めているのが原因であった。
「ペットは大人しく僕に従ってればいいんだよ」
「グググッ――!アアァッ!?」
それはリエルが今まで一度も聞いた事が無い、ミヤビが苦痛に耐えかねて上げる悲鳴であった。
「ミヤビッ!?」
「ミヤビ様!今助けます!」
「おっと!?君達の相手はこっちがやってくれるよ」
ミヤビを助けようと駆け出すリエル達に男はそう告げると、足元から翼と尻尾を見せていた存在がその全身をリエル達の前に露わにする。
『グオオオオオオオオォォォッッ!!』
「ド、ドラゴン!?」
「馬鹿な!?人間如きに使役できるようなレベルの存在ではありませんよ!」
咆哮と共にその全身を見せた巨大なドラゴンに、リエルとナシタも驚愕の声を上げてしまう。
「あれは・・・【ホーリードラゴン】!?」
結界を維持する為に動くことができず、見ている事しかできないベルセフォネがその存在の名を口にする。
「よくわかったね!こいつを捕まえるのには苦労したんだよ?しかも全然屈服しないもんだから結局殺してゾンビ化させる羽目になっちゃってね。おかげでまともに能力すら使えない近接馬鹿になっちゃう始末だよ」
「貴様!なんてひどい事を!」
「ハハハッ!僕はもっとひどい目に会ってきたからね!せっかく得られたチャンスなんだから自由に生きないとね!ハハハ、ハハハッ!!」
ベルセフォネの言葉に意味の分からない言葉を返し、仮面の男は高らかに笑う。
しかし、リエル達にとってはそんな話はどうでもいい事であった。今重要なのはミヤビを助ける為に目の前のドラゴンをどうにかする事なのだ。
リエルは男の手に捕まっているミヤビを助けようと動き始める。
「ナシタ!あたしがドラゴンの相手をするからミヤビを助けてあげて!」
「ですがリエル様!あれの攻撃は非常に強力です!リエル様でもまともに喰らえば一溜りもありません!二人で相手をしたほうが――」
「いいから!貴方はミヤビを助ける事に集中しなさい!」
そうリエルは告げると、ドラゴンに向かって駆け出す。
リエルは【ウィンドウォーク】を発動させ目に止まらぬスピードで走りながらアルターキエラに魔力を籠め、その力を全開にして魔刃を展開する。
以前見た時よりも更に大きな刃を形成したアルターキエラに高速移動をしながら矢を番えると、リエルはドラゴンの顔面目掛けてその矢を射る。
「ハアァ!」
地面と垂直に伸びた魔刃はリエルの気合いと共に放たれた矢と合わさり狙った顔面へと直撃すると、刃の十分な大きさによってドラゴンの首まで真っ二つに切り裂いてしまうほどの威力を発揮するが、ドラゴンは倒れる事はなくリエルに反撃の拳を突き出してくる。
『ゴアアアアアァァッ!!』
「リエル様っ!!」
その致命的な威力を内包しているであろう一撃をみたナシタは堪らず声を上げるが、リエルはそれを紙一重で体を翻して躱して見せる。
「大丈夫だからあなたは言われた事をやりなさい!!」
「くっ、しばし耐えてください!ミヤビ様を救出した後に私も参戦しますから!」
ナシタは駆け出すとドラゴンの脇をすり抜け仮面の男へと突撃する。
「ミヤビ様を放せ!!」
「取り返してみなよ?やれるもんならね!!」
仮面の男は何もない空間から一本の杖を取り出すと空いている手で握りナシタを遊撃する構えを取る。
二人が戦っている様子を見ている事しかできないベルセフォネは今すぐにでも助けに入りたい気持ちを堪えながら待ち続けるしかできなかった。
(くそっ!まだなの!?急がないと彼女達が!)
リエルが異常ともいえる程の強さを持っている事を考慮しても、アンデット化しているとはいえ元がホーリードラゴンでは相手にするにはあまりにも強大な存在だとベルセフォネは理解しているのだ。
手を貸さなければ間違いなくリエルは命を落とす結果が待っている事も。
そんなベルセフォネの思いとは裏腹に、リエルはさらに激しく攻撃を繰り出し始めるのだが――
矢継ぎ早に魔刃を展開してドラゴンの肉体を切り裂いていくリエルだが、痛みを感じていない様子のドラゴンがカウンター気味で繰り出してくる攻撃によって徐々に体にダメージが蓄積されていく。
まともに受けた攻撃は今の所一発もないにも関わらず、リエルは体に鈍い痛みが走り始めている事に困惑する。
(何なのこの痛み・・・あたしは全部躱してるはずなのに!)
体中をずたずたにされているのにも関わらず、ドラゴンの繰り出してくる攻撃は少しも鈍る事はなくリエルへと襲い掛かる。
それを再び紙一重の所で回避したリエルに激痛が走る。
「――!?」
その痛みに声も出ず、着地した先で膝をついてしまうリエル。そこへドラゴンの尻尾が追撃に振るわれるとリエルの体は軽々と吹き飛ばされて、そのまま地面へと叩きつけられてしまう。
「あぐっ!!」
「リエル様っ!!!」
「おっと?余所見なんてしてると――」
仮面の男と激しい攻防の最中、リエルの声に気を取られてしまったナシタに、男は杖の先から魔力の刃を撃ち出す。
「ぐあっ!!」
それを躱す事ができなかったナシタも魔力の刃で地面へと縫い付けられてしまう。
「ふぅ~なかなかスリルがあったよ。ゲームなんかじゃこの感覚は味わえないね。最後に教えてあげるよ。上位のドラゴンには【龍麟】っていう能力があってね。体の表面に流れている魔力は触れるだけで相手の肉体にダメージを与える事が出来るんだよ。だから紙一重で避け続けていたあの子はそれにやられたって訳さ」
仮面の男はそうナシタへと言葉を掛けると、倒れているリエルの方へと目を向ける。
「そっちは――別に要らないかな。殺していいよ」
男の言葉を理解しているのか、ドラゴンがゆっくりとボロボロになっている体躯を動かしその拳に力を籠める。
「う・・・ぐ・・・ミヤビ・・・ナ・・・シタ・・・」
地面に倒れたまま動けないリエルにそれを避ける事は不可能だった。
(力を使うべきだった・・・そうすればみんなを・・・)
途切れかけた意識の中、後悔するリエルにドラゴンの拳が迫ってくる。
それを見てリエルは静かに目を閉じる。
だが、次の瞬間何かに抱き抱えられるのを感じ、体が吹き飛ぶような浮遊感を受けた後、リエルの耳に女性の声が聞こえてくる。
リエルは何とか目を開くと、そこに映ったのは自分を抱き抱えたベルセフォネの姿だった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
その7くらいで東の森の略奪者編は終われそうです。
次回はちょっと間を空けて14日までには投稿します。




