63話 東の森の略奪者 その4
あけましておめでとうございます。
いつまで続くか分かりませんが今年もよろしければ読んであげてください。
誤字脱字は随時修正していきます。
拠点襲撃作戦をどのように進めるか?
出揃った意見を考慮し、自分の中でイメージするベルセフォネ。
(速攻作戦という発想は悪くないと思う。だが、やはり不確定要素が多い中では確実性に欠ける・・・か)
ベッキーの出した案は、目の前の建物に潜む相手が道中で捕まえた敵程度の力量なら可能なのかもしれない。だが、屋内がどういう構造になっているのか分からないまま――下の階への道が隠し通路のような物だった場合、見つけるのに時間が取られてしまう。
そこで時間をかけた結果、下の階の奴等に襲撃を察知されでもしたら捕まっている者達に危険が及ぶかもしれない。
人質という形で使われるのが最悪だろう。
考えを巡らせていたベルセフォネは一つの方法を導き出す。
「リエルさんの従魔で捕まっている人達がどの位置、正確には地上から何メートルの位置にいるかわかる?」
「それは大丈夫だとおもいますけど・・・」
ちらりとミヤビに視線を移すとリエルに"問題ないぞ"というミヤビの答えが返ってくる。
実はミヤビの感知能力というのは、生き物であれば必ず持っている魔法力を、ソナーの様に自分の魔力を広域に放って感じ取る能力なのだが、これは100パーセント間違いなく感知できるという訳でもなかったりする。
というのも、カーラが使っている幻術魔法やミヤビも知らないような特殊な能力次第で、自分の魔力を隠すことが出来る余地があるためだ。
例を挙げるなら、ミヤビの天眼を防いだキャスの能力がまず一つ。他にも【猜疑の碑文第八節魔法】超越魔法【完全消失】という物があるのだが、これは呼んで字のごとく、存在を完全に消し去ることが出来る強力な隠蔽効果を発揮する隠蔽系魔法で、この状態を看破するのは不可能に近いとまで言えるほどである。
そういう未知の能力や、強力な魔法がある事はミヤビも承知しているのだがそれを含めても尚、"問題ない"とミヤビは答える。
何故なら、そんな強力な魔法などを行使できるような者がこんな場所で、こんな下らない事をしているはずがないとミヤビは考えているからである。
実際この場所にはそんな使い手はいないのだが、この人を侮った思い込みが問題を生む事になるのは、まだ後の話――
ベルセフォネの突然の問いかけにどんな意味があるのかリエルには分からなかったが、リエルはミヤビから告げられた正確な位置をベルセフォネに伝える。
「地上から約12メートルの場所、捕まっている人数は5名だそうです」
「12メートルか。それなら問題ないか・・・」
リエルから伝えられた情報で、ベルセフォネの作戦は決まった。
「作戦はベッキーの出した案で行きましょう。ただ私は捕まってる人達に危害が及ばない様に守りの結界を施してそれを維持する事に集中させてもらうから、敵の掃討は貴方達に任せるけど自信はあるかしら?」
期待通りと言うべきか、ベルセフォネの言葉に反対の意見はでない。
「生け捕りじゃなくてもいいんだよな?」
ベッキーが質問する。
「可能なら生け捕りが望ましいけど、人質の安全を重視して、やりやすい方で任せるわ」
「人選は?」
「私は外の敵を掃討した後すぐに人質のいる場所に結界を展開、維持するから身動きが取れなくなる。そこでリエルさんに周囲の警戒と私のサポートを頼みたいんだけどお願い出来る?」
まだ森の何処かには見張りとして展開している敵が残っているだろう。何らかの理由で襲撃がバレた場合、こちらが襲撃を防がねばならない為、優れた感知能力を持っているミヤビの存在が必要という訳だ。
「分かりました。何とかやってみます」
「では、私とルエルさんを除いた全員で屋内に突入、敵の無力化と人質の安全を確保してほしい」
ベルセフォネの指示で着々と準備を進めて行く。
〖ナシタの奴も呼び戻した方が良いのではないか?〗
〖そうね・・・。あたし達でベルセフォネさんのサポートとなると、ナシタにも手を貸してもらって万全の状態で臨む方がいいわね〗
ナシタに念話で大まかに作戦を伝え、戻ってくるように促すリエル。
しばらくするとナシタが姿を現し、ベルセフォネの言葉に従って作戦が開始される。
「行くわよ!」
その一言でその場にいた全員が一斉に、ミヤビによって得られた敵拠点へと走り出す。互いがカバーし合える距離を保ちながらも、かなりの速度で目標との距離を縮めていく。そんな中――
〖手早く済ませちゃいましょう〗
〖妾は先に行っておるからな。ナシタよ、リエルは任せる〗
〖お任せください。リエル様の安全は私がお守りします!〗
先に走り出した者達よりも少し遅れる形でリエル達も動き出す。しかし、拠点へ向かったのはミヤビ一人で、リエルとナシタはその場で跳躍し近くの木へと飛び乗る。
リエルはそのままアルターキエラを取り出し、慣れた様子で矢を番える。番えている手には数本の矢が握られていた。
〖そろそろ先に向かった者達が番犬共に感知される距離に入る。手加減はしなくてよい故さっさとやってしまえ〗
ミヤビから届いた声にリエルは了解の意を返すと、アルターキエラのリングに映る目標に向けて次々と矢を放ち始める。放たれた矢は先を走っている冒険者達の頭上を気付かれる事なく通過し目標――建物周囲のバトルウルフを撃ち抜いていく。
握っていた矢を全て放つとリエルはミヤビへと確認する。
〖撃ち漏れはないわね?〗
〖うむ、大丈夫じゃ。番犬共は全員片付いたぞ〗
〖おっけー。ナシタ、あたし達もいくわよ〗
〖畏まりました〗
リエル達は木から飛び降りると颯爽と走り出し、先を行くベルセフォネ達の後を追う。
一方先を走っているベルセフォネ達も、目標を視界に捉える。
捕捉した男達は何やらバトルウルフの様子を確認しているようで、こちらに気づいている気配は微塵もなかった。
木々の間から最初に飛び出したのはベルセフォネ。それに続く形で他の冒険者達も飛び出してくる。
血を流し倒れてピクリとも動かないバトルウルフ達を見たベルセフォネは、何があったのかを考えるよりも先に、二人の男に襲いかかる。
飛び出した自分をみて声を上げようとしている男に向けて、左右に手にある魔力で形成された青白い光を微かに放っているロングソードの様な武器が振るわれる。
横薙ぎに振られた一撃で男の頭を切り飛ばし、その命を容易く奪ったベルセフォネは素早くもう一人の獲物に狙いを定めて地面を蹴る。
「ひぃっ!?」
もう一人の男がやっとの思いで紡いだ言葉は一言の悲鳴。
同僚の命を瞬時に奪ったその刃が目の前に迫ってくる影を最後に、男の意識はそこで途切れる。
しかし、男の最後の言葉は、建物内のいた者に異変を知らせる事に成功する。
木製のドアが開き中から三人の武器を手にした者達が現れる。
「どうかし・・・?な、なんだて――」
先頭の男が声を上げかけた直後、既に動き始めていたガーランドがその男に肉薄する。
男はそれに驚き咄嗟に身を守ろうと手に持った斧を盾にするが、ガーランドの剛腕によって振るわれた大剣の前では無駄だった。
体を横の一回転させ勢いをつけた大剣の横薙ぎによって、斧を持った男とその後ろにいた別の男の二名が胴体を上下に分かたれ絶命する。
辛うじで難を逃れた最後の一人は、慌てて引き返し建物内に逃げ込もうとするが、視界の外から突然、扉の前に現れたミヤビに飛び掛かられ地面に押し倒されてしまう。
そこをカーラの魔法が見逃す事なく追撃する。
「《土の枷よ!かの者の自由を奪い取れ!【アースバインド】》」
高速詠唱から放たれた魔法は、倒れている男の体を岩のように硬質化した土が覆い尽くし、捕らえた男を強く締め付け始める。
「うぐぐっ・・・く、くるし・・・や、やめ――」
強力な力で締め付けられている男は堪らず助けを求め呻きを上げるが、締め付けの強さのせいで、その声量は消えそうなほど小さいものだった。
何とか苦しみから逃れようと体を捩る男であったが、耳元で地面に何かが突き刺さる音が聞こえてくる。
男の意識は自然と音の聞こえた方へと移り、自由が利く頭を動かしそれを見る。
ガーランドが持つ、鮮血の香りを纏う血に濡れた幅広の刃が己の頭のすぐ横に突き立っているのを目にすると、男の表情は締め付けられる苦痛と恐怖で見る見る青ざめていく。
「時間がないから手短に聞こう。建物内にいる奴らの他に仲間は何人いる?」
ベルセフォネは足元で青ざめている男に質問を投げ掛ると、男は恐怖しつつも助かる望みを掛けてそれに答え始める。
「も、森の中で見張っている奴等が十人と、ミルドワに行ってるリーダーが一人!」
「なるほど。お前達が捕えている者達は無事なんだろうな?」
「け、怪我をしている奴もいるけど死んじゃいない!」
「よし。なら最後の質問だ。建物中に罠や隠し通路といった物は?」
「下に行くには階段を使えば行けるし罠も設置されてないから警戒する必要はないよ!こ、これだけ教えれば十分だろ?だ、だから助けてくれ!」
「今死ぬか後で死ぬか程度の違いしかないだろうがね。しばらく寝てるといい」
ベルセフォネが男の傍を離れると、カーラは拘束をより強くするように魔力を籠める。やがて男はその圧力に耐えられなくなり、口から泡を吹きながら気を失う。
それを確認したカーラが魔法を解除すると、男を包んでいた土は崩れ始める。横で剣を突き立てていたガーランドが倒れている男をアイテムポーチから取り出した縄で縛りあげていく。
そこへ丁度リエルとナシタも到着し、先に到着していたミヤビの元へと近づいて状況を確認する。
〖どんな感じなの?〗
〖外の連中を始末したら都合よく中からそこの三人がでてきおったから片付けたところじゃ。どうやら下の連中はまだこちらに気づいていないみたいじゃな。魔力に動きがない〗
〖悠長な奴等ですね。自分達が襲撃されるとか考えないのでしょうか?〗
「どうやら相手はこちらの存在には気づいていないみたいですよ」
ミヤビからの情報を全員に伝えるリエルにベルセフォネが聞き返してくる。
「このバトルウルフはリエルさんの仕業かしら?」
「ええ。まぁそうですけど・・・まずかったですか?」
その言葉にベルセフォネ、他の冒険者達も驚いた様子を見せているが、騒ぎ出す様な者はいなかった。そんなリエルの言葉に静かに言葉を返すベルセフォネはそのまま次の行動を口にする。
「いいえ?ただ・・・ちょっと驚いただけよ。さて、相手がまだこちらに気づいてないのは都合がいいけどのんびりはしてられないわね。私はすぐに人質達のいる場所へ結界を展開するから、リエルさん達は周囲の警戒をお願いね。それが完了次第、突入チームは内部の制圧作業を開始して頂戴」
そういうとベルセフォネは手頃な場所へと移動すると結界魔法の詠唱に集中し始める。残りの者はベルセフォネを待っている間に、地面に転がっている死体を一ヵ所に集める作業に取り掛かっている。
周囲を警戒しながらその様子を見ているリエル達。
〖人間の死体って改め見るとちょっと堪える物ね。うっ・・・〗
〖リエル様?大丈夫ですか?〗
〖人間を粉微塵にしておった奴が何をいっておるのやら〗
〖あの時は別よ。こうやって普通に見るのはやっぱり嫌な物なの!ううぅ。・・・あれ?あれって何をやってるの?〗
リエルが疑問に思ったのは、ベッキー達が集めた死体にポーチから取り出した謎の粉末を掛けている行為の事だ。
〖あれは死体の匂いを消すために、消石灰をまいておるんじゃろう。そのままにしておくと死体の匂いで周囲の魔物が集まってくる恐れがあるからな〗
〖へぇ~・・・〗
ベテランの冒険者の手際に関心しているリエルに、結界を張り終えたベルセフォネが問いかけてくる。
「リエルさん。結界の位置は問題ないか確認してくれない?」
「あ、わかりました。ミヤビ、お願い」
〖ふむ・・・。うむ、流石にAランクと言うだけの事はあるのぉ。なかなか強力な結界が地下の集団を包み込むように展開されておるな〗
「大丈夫です。捕まっている人達はみんな結界の中に納まっているって言ってます」
ベルセフォネはリエルの答えに安心したような表情を一瞬みせるが、すぐに元の表情に戻ると声を上げる。
「こちらは準備は完了したわ。私はこのままこの結界を維持する事に専念させてもらうから後はよろしくお願いするわね」
「そこまでお膳立てしてもらって失敗しました何て事にはならねぇよ」
カリウスが答えると他の者も自信の表情をベルセフォネに返した後、ガーランドを先頭に突入チームが建物の中へと入っていく。
「それじゃ引き続き周囲の警戒をお願いね」
「はい。任せてください」
残されたリエル達はベルセフォネを守る様に三方向を囲むように位置を取る。位置に着いたリエルはリングから矢筒を取り出すと腰にセットし、次にアルターキエラを取り出して矢筒から生成された矢を番えて遊撃体勢を整る。
その直後――
「リ、リエルさん!?その弓は!?」
ベルセフォネから驚愕の声が上がる。その声に驚いたリエル達の視線はベルセフォネへと集中する。
「び、びっくりした・・・。ど、どうかしましたか?」
「ご、ごめんなさいね!で、でも―っ!?もしかして貴方のお母さんの名前ってエマリエって名前じゃない!?」
自分の母親の名前である事をリエルが間違えるはずもなく、リエルはそれに即答する。
「確かにあたしのお母さんの名前はエマリエですけど、お母さんを知ってるんですか?」
「やっぱりそうなのね!エマリエさんは今どうしてるの!?」
母の事を知っている人に会えた喜びも束の間、次にベルセフォネから出てきた言葉でリエルの高揚しかけた感情は一気に冷めていく。
「・・・あたしが生まれて少しして、病気で亡くなりました」
リエルの口から出た言葉を聞いたベルセフォネは、無駄に興奮してしまった自分の浅はかさに罪悪感を覚える事になる。
「それは悪い事を聞いたわね・・・。もう一度会いたかっただけに残念ね・・・」
「・・・やっぱり、ベルセフォネさんはお母さんの事を知ってるんですね?」
「そうね・・・。まだ私がリエルさん位の年齢の頃、住んでいた村が人攫い目的の黒手袋共に襲われた事があったのよ。大きな村じゃなかったから衛兵だっていないし、戦えるような人だって多くはなかったから抵抗する事なんて、とてもじゃないけど無理だったの。そんな絶望的な状況の村を救ってくれたのがリエルさんのお母さんだったわ。その手に握られている弓と、強力な魔法をつかってね」
ベルセフォネはリエルの持っているアルターキエラを指差してそう話を告げると、何かを思い出すかのように空を仰ぐように見上げる。
そして、再びリエルに視線を戻し口を開くベルセフォネ。
「そんなエマリエさんに憧れて私はこの道を進んできたの。その結果エマリエさんの娘さんにこうして会う事になるなんて、神様も捨てたもんじゃないわね」
「あたしもそう思います」
〖別に巡り合わせを操作するほど神の奴等は気が利くような奴等ではないがな〗
〖ミヤビ様。リエル様にとって喜ばしい出来事であるのならよろしいではないですか〗
「聞いてもいい?」
「なんですか?」
「どうしてリエルさんは、その年で冒険者になろうと思ったの?」
ベルセフォネからの質問にリエルは素直に答える。
「お母さんが見た世界に興味があったから・・・ですね」
「本当にそれだけかしら?」
「どういう意味ですか?」
ベルセフォネからの問いかけにどんな意味があるのかリエルには分からなかったが、悪意や敵意といった物は感じなかった為、リエルも普通に疑問を返してみる。
「普通はランクFの冒険者がこんな依頼に組み込まれる事なんてありえないの。それでもギルドマスターから推薦される様な人物となれば、何か特別な事があるんじゃないかと思ってね」
「それは・・・」
リエルが答えるべきか迷っていたその時、突如ミヤビが警戒の声を上げる。
〖リエル!話は終わりじゃ!こちらに向かってくる者がおる!〗
その言葉にナシタもすぐに臨戦態勢を取ってミヤビが見ている方向を睨み始める。
「どうやら敵がこちらに向かってきているみたいです」
「・・・人数は?」
〖どうなの?〗
〖一人じゃ。じゃがこいつ・・・かなり強い魔力を発しておる!〗
〖ミヤビ様の言う通りです!この距離で私が感知できるほどの魔法力となれば尋常ではありません!〗
続けてナシタから上がった言葉でリエルに緊張が走る。
リエルも魔力を感知しようと試みると、不慣れなリエルでも微かに感じるられるほど異質な魔力が確かにある事に気づく。それはベルセフォネも同様であった。
リエルは弓を弾き絞り、その魔力が流れてくる方向へと構えを取り、その存在が姿を現す瞬間を見逃すまいとミヤビとナシタも神経を張り巡らせている。
短いはずの時間がとても長く感じられた頃、森の中から一つの人影が姿を見せる。
「君達が僕のペットを殺したの?」
現れたのはフード付きのマントに身を包んだリエルより少し高い背丈の持ち主で、声の感じからは少年の様な印象を感じさせる仮面をつけた人物だった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
【大地の碑文第三節魔法】低位魔法【アースバインド】 硬質化した土が相手の自由を封じる魔法
年末年始はお年玉をせびられひどい目に会った方も多いのではないでしょうか?私もお年玉がほしい。
年も明けて仕事にも余裕が出てきたので次回は少しはやめに投稿できそうです。
次回は九日くらいに




