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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ世界へ。 バランディアの町編
63/99

62話 東の森の略奪者 その3

誤字脱字は随時修正していきます。

 森の中、生い茂った木々に光は遮られ昼間でも薄暗いこの場所で二人の人間が話をしている。


「今回は仕事はかなりいい稼ぎになったんじゃないか?」


「物は結構集まったからな。それに奴隷として売れる人間も何人が捕まえたって話だぜ?」


「へぇ~!そいつはいいな!女はいるのかよ?」


「そこまではしらねーが、かなり威勢のいい冒険者が中にはいたらしい。情報だとCランクの冒険者でかなりやり手の相手だったとかって話だ」


「だけど、そいつらも捕まえたんだろ?正直あの男、得体が知れない奴だがこうしていい思いができるんならこのまま纏め役として続投してくれたって俺は構わなねぇ位だぜ」


「あいつが連れてきたこの従魔共も優秀で助かるってもんだしな。しかし――」


 おしゃべりをしている二人の男の近くには二匹のバトルウルフの姿があり、接近する存在がいないかを持ち前の鋭い感覚で警戒している。


「【従属の首輪】っつってたか?強力な魔物ですら無理矢理従わせる事が出来る魔道具だそうだが、こんなすげー物をよくあれだけ用意できたもんだ。ホントにあいつ、何者なんだ?」


「俺が知る訳ねーよ。最近組織に入ったって言ってたけど、俺達にとっては悪い事はねぇーんだ。気にしねーよ」


 手をぴらぴらと振りながらおどけて見せている楽観的な男に、もう一人の男は言葉を続ける。


「確かに下っ端の俺達が気にする事じゃねーってのは分かるけどよ・・・。俺だったら、そんな物もってたらわざわざ組織になんかはいらないで自分だけで気ままにやりたいようにやっちまうもんなんだがなぁ」


「まぁ人それぞれって事だろ。同じ立場に――」


 男の言葉はそこで途切れる。


 突然現れた襲撃者――ベッキーによって後頭部を強打された結果、男は自分が殴られた事にも気付かずに意識を失う事になる。


「なっ!?なん――」


 もう一人の男が腰の剣に手を掛けようとしたが、その動きよりも早く、背後から大柄の男、ガーランドが新たに現れ、直後その手に持った巨大な剣がフルスイングされる。

 大きな剣の腹の部分で殴られたその男はきりもみ回転しながら、先にいるベッキーに向かって吹っ飛んでいく。

 ベッキーは、それを飛んできたボールを打ち返すかの如く、手に持った盾で追撃のシールドバッシュをブチかまし、男を大地に叩き落とす。


 瞬く間に辺りは静寂さを取り戻し始める中、ガーランドにベッキーが詰め寄り声を上げる。


「ちょっと頼むぜおっちゃん!殴るならもうちょっと方向を考えてくれよ!」


「すまん。」


「アタイじゃなかったら一緒に吹っ飛んでたよ?」


「それより、従魔の方は――問題なさそうだな」


「アタイの事は問題じゃないのかよ!ったく」


 二人の男女の視線の先にいるのはバトルウルフ。それぞれ背中に矢を一本ずつ撃ち込まれてぐったりと倒れ込んでいる。

 その二匹は撃ち込まれた矢に塗られた痺れ薬によって、体の自由が奪われただけで死んでいる訳では無かった。


「なるべく殺さずに捕まえるって言ってたけど、殺しちまった方が面倒が減るんじゃないの?」


 そう口にするベッキーは、手に持ったショートソードを器用に回しながら、抵抗できないバトルウルフを軽く警戒しつつ、足元に倒れている男を見つめている。

 少しして、それぞれ別の方向からベルセフォネとカーラのペア、リエルとミヤビはカリウスとのペアでベッキー達の元に集まってくる。


「念のため周囲を取り囲む布陣を取ったけど不要だったわね」


 ベルセフォネが周囲を見渡した後、リエルに視線を向けて何かを促す。

 リエルも事前に打ち合わせした通りにベルセフォネの求める事を理解しているためそれに応える。


 〖ナシタ、四人程こっちに連れて来てちょうだい〗


 その場に姿のないナシタへと念話を送ると――


 〖畏まりました。しばしお待ちください〗


 ナシタから了承を示す言葉が返ってくる。


「ここに来てもらうように伝えました。少ししたら到着すると思います」


「ありがとう。その間にこいつらを縛り上げておくとしよう」


「従魔の方は薬が効いてる限りはまともに動けないだろうが、そう長くは持たないからそっちも何とかしないとだぜ」


「分かった。そっちも口と脚を縛っておくとしよう。周囲に敵の気配は?」


 〖半径300メートル以内には敵と思われる者の気配は無いから大丈夫じゃぞ〗


「ミヤビは周囲300メートルぐらいは問題ないって言ってますね」


 ベルセフォネは感心した様子でミヤビをみている。


「かなり特殊な個体の【フォックスウルフ】だとは思っていたけど、そこまで広域を感知できる能力があるとはね。今まで出会ったテイマー達が連れていた従魔と比較しても、かなり優秀ね」


 その言葉にベッキーとガーランドもつられて声を上げる。


「ホントすげーな!優秀なテイマーの従魔ってここまでやるもんなんだなぁ!」


「周囲の状況が分かるおかげで奇襲もやり易くて助かる」


 皆、驚きの言葉を次々に掛けてくるの事に少々むず痒い気分になるリエル。ミヤビは当たり前だと言わんばかりに胸を張って尻尾を振っている。


「罠の感知は出来ないみたいだけどな」


 面白くなさそうなカリウスは一言そう呟く。勿論ミヤビはいい気はしない為、首をグリンと回してカリウスを睨むが、問題が起きる前にリエルが口を開く。


「はい。ミヤビの感知能力は罠には使えないので、カリウスさんの観察力でないと難しいです」


 その言葉を待っていたと言わんばかりのカリウスは、上機嫌でリエルの言葉に反応する。


「子供の割によく分かってるじゃねーか。まぁ罠の見極めってのは経験が物を言うからな。そこは俺様に任せておきな」


 カリウスは気付いていないが、その振る舞いに周囲の者は冷ややかな感情を抱いているのをミヤビは感じとっていた。


 〖確かに優秀ではあるが、オツムの方はナシタ以下じゃな〗


 〖それ、ナシタのいる所では言わないでね〗


 〖残念ながら聞きえています!私とその無礼な男を比べないで頂きたいです!〗


 〖む、意外に早かったのぉ〗


「お待たせしました」


 ナシタと共にやって来たのはクラウスと三名の兵士達。


「首尾の方はどうですか?」


 クラウスがベルセフォネに状況を確認する。


「今のところ順調ですね。所々に奴等が仕掛けた罠がありますがカリウスの働きによって問題にはなりませんし、リエルさんの従魔の索敵能力もあって奇襲も容易ですから」


「流石ですね。すると、そこで倒れているのは黒手袋(ブラックハンド)の者と、表立って行動していた従魔という事ですね」


「ええ。まずはそいつ等の護送、投獄をお願いします。私達はこのまま先へと進みますので、手筈通り森の周囲の警戒を引き続きお願いします」


「町から護送用の馬車を送ってくれる様に伝令も出しましたので、こちらの方はお任せ下さい。また人手が必要であればすぐに駆けつけますので」


 ベルセフォネと情報のやり取りを終えたクラウスは、捕らえた者達を連れて行く準備をしている部下達の方へと歩いて行く。

 彼等をここまで案内するという役目を担っているナシタはと言うと、リエルの側で尻尾を振って自分の働きをアピールしている。


 〖ご期待に添えられたでしょうか!?〗


 〖ええ、ありがとねナシタ〗


 リエルはナシタの行動に応えて頭を優しく撫でると、何ともだらしない表情を浮かべ始める。


 〖また必要になったらお願いね〗


 〖お任せ下さい!〗



 彼等がこの森の状況を確認し考えた作戦。それは単純ではあるが今ある戦力を効率よく運用する事が出来る少数精鋭による隠密作戦である。


 全員で森の中に入ると隠密性が損なわれると考え、中に入るのは冒険者組だけにして、クラウス達は森の外を警戒するという、それぞれ役割を分けて行動する事にしたのだ。


 その上で従魔と念話で意思の意思疎通が可能というメリットを活かすために、ナシタをクラウス達に預けて必要な時には人手を送ってもらう方法を使う事で、目立つ事なく迅速に行動できる訳だ。


 勿論ナシタはリエルと離れる事に猛抗議をしていたが、結局最後はリエルの言葉によって渋々納得した。


 リエル達はその場をクラウス達に任せて、薄暗い森の中を先へと進む。

 カリウスとベルセフォネを先頭、後方はガーランドとベッキーが担当し、それに挟まれる形でリエルとミヤビとカーラの布陣で隊列を取っている。

 カリウスが罠を発見、無力化し、ミヤビが敵性存在の感知を行う。

 その感知能力で捕捉した相手を、カーラの【猜疑の碑文第三節魔法】【カモフラージュ】、【サイレンスムーブ】の補助をうけたガーランドとベッキーが襲撃を担当する。

 必要であればカリウスが弓による援護をして、ベルセフォネは不測の事態に備えてメインの二人のサポートをすると言った具合で行動している。


「敵の位置が分かるっていうのは心強いですね。魔法での補助を効率的に使えるから魔法力の負担が抑えられてとても助かりますよ。従魔というのは、皆そういう事が出来るものなんですか?」


 森の中を進みながらカーラが好奇心から話をリエルに振ってくる。


「さ、さぁ・・・。どうなんでしょう?あたしの従魔はミヤビとナシタだけですし、他のテイマーの方とはあった事もないので・・・」


「アタイとカーラも従魔連れの冒険者って見た事ないからな~。おっちゃんは?」


「何度かテイマーの者は見た事があるが、一緒に仕事をした事がない。済まんが俺には答えられんな」


「そもそも本物のテイマーっていうのはそこまで数は多くないのよ。今相手にしている奴等みたいに、【従属の首輪】や呪術での強制がほとんどなのが現状なの。そして強制的な縛りを与えられている従魔というのは、本来もっている力を100%使い切る事はできない。勿論リエルさんの様にお互いの意思で契約を結んでいる者も中にはいるけど、私が見てきた限りではここまで優れた感知能力を持っている従魔を見るのは初めてよ」


 〖そうじゃぞリエルよ。妾はとてもすごいのじゃ〗


 〖でも、それってちょっとまずいんじゃない?〗


 〖む?〗


 ベルセフォネが話してくれた内容に含まれた問題にミヤビは気づいていなかった。


「一体どこでこんなとんでもない魔獣をテイムしたんだ?というかほんとにこいつ【フォックスウルフ】なのかよ?よく見るとなんか不思議な威圧感があるし、能力からしたって普通じゃないぜ?」


 カリウスが疑問に思うのは仕方がない事であり、これがミヤビには分からなかった、感覚の違いからくる力のさじ加減の問題だ。

 ミヤビにとってはこの感知範囲にしたって力をセーブして展開しているのだが、如何せんその普通と想定しているラインが既に高すぎるのだ。


「あたしが危険な目に会っていたとき、ミヤビが助けてくれたんです。それ以来一緒にいるので・・・」


 何時までも黙っている訳にもいかず、話せる部分だけで何とかごまかす事にしたリエルがカリウスの疑問に答える。


「はぁ~・・・不思議な事もあるもんだな。魔物が人を助けると――ストップ!」


 先頭を歩いていたカリウスが話を中断して声を上げる。その言葉で一行も歩みを止めてカリウスの様子を伺う。

 ゆっくりとカリウスは前方に少し進み、地面を触りながら入念に辺りを確認し始める。すると――


「罠だな。解除するからちょっと待っててくれ」


 そう言うと、カリウスは腰のナイフを取り出し罠の解除に取り掛かる。


「さっきの話だけど、知性の高い魔獣は無益な争いを好まない個体が多いと言われているわね。有名な例を挙げればこの大陸の北に位置するヘイム山脈に住んでいると言われている【ホーリードラゴン】の話があるわね」


 手持ち無沙汰にベルセフォネが自分の知っている話をリエルに聞かせてくれた。


「昔、この世界に突然現れた強力な悪魔によって滅ぼされそうになった町を守るために、その悪魔と激しい戦いを繰り広げ、見事悪魔を退けたって話よ。詳しい部分は割愛するけどそんな感じ。結構有名な話だと思ったけど知らない?」


「あたしの村では聞いた事はないです」


「昔の話だから知らなくても不思議じゃないのかしらね。まぁ高位の魔獣なんかはそういう所があるって話よ。無益な争いをするよりも共存の道を選ぶって事ね。ミヤビちゃんも、もしかすると神の使いとかなのかもしれないわよ?ふふっ」


「そ、そうかな~。あ、あはは・・・」


 苦し紛れの愛想笑いでごまかすリエル。元々ミヤビは神獣である為、ベルセフォネの言葉に含まれた一言に、一瞬ドキッとしてしまうが不振に思われずに済んだようだ。


 〖う~む。やはり他の従魔連れを見ていないと加減がわからんな。少し気を付けるとしよう〗


 〖そうしてちょうだい〗


「待たせたな。罠の解除は完了だ」


 丁度カリウスの方も作業が終わり、一行は森の中を再び歩き始める。



 歩き始めてから何度か罠を解除し、途中黒手袋(ブラックハンド)の見張りを2ヵ所で発見するが、一行は迅速に対処し、最初と同様に捕らえた者をクラウスへと引き渡す。


 やがて先へと進み続けた一行は問題の建物付近まで到着する。


 〖どうなのミヤビ?〗


 〖あの建物じゃが、どうやら地下に空間が続いてるようじゃぞ?下の方からも人の魔力を感じる。位置から察するに3階層分のフロアがあの建物の地下には存在しているようじゃな。よくもまぁこんな場所でこれだけの建物を作った物じゃ〗


 〖敵の人数とか捕まってる人の場所は分かりそう?〗


 〖容易い事じゃ。とはいっても魔力の位置からの推測になるがな。捕まっている者は一番下の階に纏められている奴等がそうじゃろう。それとは別の人間が――見えている建物内から三人、そこから下に向かって二人、四人、一番下は掴まっている者達だけじゃな。後は【バトルウルフ】が建物の周囲に五匹と人間が二人。これで全部じゃ〗


 ミヤビの感知能力で周辺と建物内部の状況を丸裸にすると、リエルは得られた情報を皆に伝える。手に入れた情報を考慮し、どうやって制圧するのかをベルセフォネを中心に皆で作戦を考えるのだが。


「流石に拠点ともなると数が多いな・・・」


 ベルセフォネの言葉にベッキーも今まで通りにはいかない事を感じて意見を述べる。


「アタイもこの数になると隠密は正直自信ない。こうなると・・・最下層まで一気にいって捕まってる奴等の安全を確保しちまうっていう作戦はどうよ?」


「俺もそういう方法なら助かるのだが、それでは黒手袋(ブラックハンド)の連中を取り逃がす可能性が出てきてしまうんじゃないか?」


 ベッキーの提案する作戦の問題点をガーランドが指摘するが、カリウスがそれに対して解決案を口にする。


「建物の周囲を制圧した後でチームを二つに分け、居残り組は入り口で張って逃げようとする奴を始末し、突入組は最下層までさっさと向かい、捕まっている奴等を守り抜けばいいんじゃねーか?」


 それぞれが意見を出しながら、ついに作戦が決定する。その方法は――。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 森の外で周囲を警戒している兵士達。そこにいるナシタは地面に伏せ瞼を閉じ、主人からの連絡を心待ちにしていた。

 そんなナシタの耳がピンッと立ち上がり、ゆっくりと体を起こすのを、横にいたクラウスが目にする。

 ナシタがその様子を見せてから数分、ナシタは周囲に他の兵士がいない事を確認しながらクラウスに顔を向ける。


「リエル様から連絡があった」


 今まで鳴き声で必要な人数や連絡があった事を告げていたナシタが突如、人語を離した事にクラウスは目を丸くするがそこまで驚いた様子はない。


「・・・まぁ、ミヤビ殿が喋れる辺り、ナシタ殿がそうだったとしても驚くような事でもないか。それでリエルさんはなんと?」


「これから敵のアジトを襲撃するに伴い私が呼び戻された。貴方達は引き続き森の周囲を警戒していてほしいとの事です。確かに伝えましたよ」


 一方的にそれだけ言うと、ナシタは大地を蹴り森の中へと猛スピードで消えていった。残されたクラウスはその様子を見ながら呟く。


「何事も無く終わってくれればいいが・・・」


お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです


【カモフラージュ】読んで字のごとく、周囲の背景に近い幻を体に纏う。何かしらの衝撃を感知すると効果が切れる。


【サイレンスムーブ】一定時間、魔法に掛かった対象から出る音が小さくなる。



次回投稿は1/6までには!


では良いお年を!

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