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6話 悪意ある侵入者

魔法の詠唱文考えると難しいし、すごく恥ずかしいですね。

 特に予定は無いのだが、早く目が覚めたてしまったリエルは今日一日の過ごし方を考えながら、一人、ゆったりと朝食の野菜と肉の入ったミルク風味のスープを楽しんでいた。


(そうだ、弓の弦が緩んできてたんだっけ。テルマさんの所に行ってから森に行かなくっちゃ。)


 大事な、訓練道具の状態を思い出し、忘れないようにと心にメモをしながら、今日の予定を立てているリエル。


 まだ子供のリエルではあるが、年齢の割にかなり保守的な考え方をする部分があったりする。


 例えば、村での仕事についてなのだが、リエルくらいの年齢ならまだそこまで本格的な作業に参加する義務は無いのだが、彼女は12歳になると同時にリリーナに、村での仕事への参加を申し出たのである。理由を聞いてみたリリーナに“将来生活する上でお婆ちゃんやエリック兄さんに迷惑のないように、備えておきたい”というような理由をだった。理由を聞いたリリーナは、驚きと困惑で頭がいっぱいだったが、見方によっては立派な考え方だともおもうのだが、やっぱり釈然としない感じは否めなかった。


 食事を終えたリエルは、テーブルの見える所に、森に行ってくる事を書置きを残すと、今日の行動を開始するのだった。


 まず、リエルが向かったのは村の雑貨屋。テルマの店へと姿を現した、


「すみませーん」


「はーい。あら、いらっしゃい、リエルちゃん」


「こんにちわ、テルマさん」


 普段と変わらない様子のテルマが姿を現し、軽く挨拶をする。そのまま店の一角に移動すると、弓の弦が綺麗に束ねられて置いてある棚へと向かい、その中から一つを選びカウンターへと向かっていく。


「おねがいします」


「はいよ。張り替えようの弦だね。一束2銅貨になるけど長さは足りるかい?」


「大丈夫です」


 そういってリエルはポケットから銅のコインを2枚取り出すとテルマへと手渡した。


「はい、たしかに。それにしても魔法だけじゃなくて最近は弓までは扱うようになったのかい?」


「まだ練習中なんですけどね。訓練用の弓が緩んできたので、張り替え時かとおもって」


「なるほどねぇ。だからこの間、エリックさんがあんな物もってきたのかい。なるほどなるほど」


「エリック兄さんがどうかしたんですか?」


「いやいや、これはあたしの口から言っていいものかどうか。すまないが、聞かなかったことにしといてちょうだいね」


「はぁ。それじゃ、あたしの用事も済んだのでこの辺で」


「はいよ。また来ておくれ」


 世間話もほどほどに、リエルは足早に店をでると、森へと向かう。と、その時、村の入り口の方から走ってくる男達の姿が飛び込んできた。中にはエリックとナイルの姿も見受けられた。ナイルも今では狩猟班として、森へと入るようになり、腕はなかなかの物だと、エリックから聞いていたリエル。せっかくなので挨拶でもしておこうと、しばし立ち止まると、エリック達もリエルに気づき速度を少し落とし近づいてきた。


「リエル!」


「エリック兄さん?そんなに急いで、何かあったの?」


「あぁ、話はあとだ。リエル、お婆ちゃんと一緒に村の避難所に行きなさい。お婆ちゃんなら多分、錬金工房の方にいるだろうから場所はわかるね?俺はみんなに知らせないといけないから先にいってなさい」


「え?どういうこ・・・」


 答えを聞く時間も惜しいといった様子でエリックは村の中を走っていく。


「森の中で、不審な集団を見つけたんだよ。身形から恐らく盗賊団じゃないかって話で、エリックさんと僕の二人がこの話を知らせるため村に戻されたんだ」


「盗賊・・・団?」


「ああ、もうすぐそばまで来てると思うから、僕もみんなに知らせて来ないと。またね」


 そういってナイルも村の中を走り抜けていく。


 リエルとナイルの話を聞いていた村人達は不安や困惑、恐怖といった感情をそれぞれ顔に浮かべて、それでも皆、避難所へと向かい行動を始めていた。リエルは、踵を返すと再び雑貨屋の扉をあけてテルマに、今の話を告げるのだった。話を聞いたテルマは、近くにあったポーションを数本を、腰のポーチへ忍ばし、愛用の短刀2本を反対側の腰へと差すと、リエルの手を引いて避難所へ向かおうとする。


「あ、待って!お婆ちゃんの所にいかないと!」


「リリーナさんの所だって!?・・・場所は知ってるのかい?」


「エリック兄さんが錬金工房にいるだろうって!」


「よし、じゃー二人でリリーナさんの所までいくよ。急がないと!」


 避難所はちょうど村の中心地点に建てられた建物で、魔法による衝撃耐性向上の効果が掛けられた頑丈な作りになっている。有事の際に備えて用意された物だが、今までこんな事はなかった為、一度も使われたことがまだなかった代物である。工房はその避難所の場所より村の奥、村の入口が隣の町まで続く街道側なら、山側へと向かう山道側に作られた建物で避難所を一度通り過ぎる必要があるのだ。


 テルマはリエルの手を引きながら、工房へ向かう先々で、まだ盗賊の話を聞いていない人がいるかもしれないと、なるべく声を上げながら目的の場所へ向かっていく。エリックとナイルの二人だけではやはり、手の回っていない所があるのだろう、この事実を知らない者も何人か見受けられた。声をかけながら二人は目的の場所に到着し、急いで扉を開けて中へ入る。


「誰かいますか!?いたら急いで避難所へ向かいますので集まってください!盗賊団がこちらに向かってきてると狩猟班の方からの知らせです!」


「おばあちゃん!?いないの!?」


 建物のなかで声を上げるテルマとリエル。中には数人の人影があり、その中にリリーナの姿もあった。


「おばあちゃん!」


「リエル!テルマ!なぜリエルが一緒に、避難所ではなくこんな所にいるんだい!?」


「私がテルマさんに頼んでおばあちゃんを探しにきたの!盗賊達がくるから急いで避難所に行けってエリック兄さんとナイルさんが!」


 話を聞いたリリーナがリエルの傍にいたテルマへ顔を向けると、テルマは黙って頷き、リリーナもそれを理解し、言葉を発した。


「皆、聞いた通りじゃ!ここにいる者は急いで避難所へ向かうのじゃ!」


 リリーナの号令で、その場にいた者たちは速やかに、慌てる事なく迅速に避難行動を開始した。


 動ける者から後を待たず行動するよう言われ、速やかに避難所へと向かう様子を最後まで確認すると、リリーナ達は残っているものがいないか確認し、自分たちも避難所へと向かいだした。エリック達から話を聞いて、ここまで時間にして15分ほどだが、三人は急いで避難所へと向かう。


 走り出して少しすると、避難所の建物が見えた。その近くに傷ずき倒れたエルフの男達と、まだ、避難所を守ろうと戦っているエルフの者達の姿も捉えるのだった。戦っている者の中にはエリックとナイルの姿もあった。すでに入口の傍は盗賊に陣取られており、入る事は叶わない状態へと事態は進んでいたのだった。


「エリック!」


「母さん!?それにリエルまで、どうしてそんなところにいるんだ!?」


「え!?母さん!?母さんまで!?」


 いまだ奮闘してるエリックとナイル、数名のエルフの男達だが目の前の人間達の数は対比にして3:7といった差があった。既に戦闘不能の状態になってしまっている者達の数も多く、残りの者達がやられるのも時間の問題だと思えるほどに状況はまずい物だった。だがそこへ来たのがリリーナだったのは幸いであった。リリーナは魔力を解放すると得意とする【地精霊魔法】を詠唱する。


「《大地の精霊よ 我が魔力の契約に従い 現世へとその理を具現せよ 大地の大剣(グラウンドエッジ)!!》」


 【地精霊魔法】【大地の大剣(グラウンドエッジ)】。【精霊魔法】は、特定の碑文から持たされた魔法ではなく、契約した精霊から直接授かるのが特徴で、発揮される威力が一般の魔法とは違って非常に強力なのだが、精霊との契約が必須であるため、扱うには才能に左右される部分が大半を占める魔法である。

 その卓越した才能を持った、村で一番の魔術師と言われているリリーナのその力が牙を剝く。


 盗賊達の足元の地面から、巨大な岩の刃が突き上げられる。しかし、致命傷を負ったものは一人も見受けられなかった。不意の一撃にも対応して見せた相手の技量もまた、十分な力量を感じさせるものだった。


「ちっ、精霊魔術師(エレメンタルユーザー)か、流石はエルフ、厄介だな。おい!」


 盗賊の中の一人が不敵な眼差しでリリーナを見て言葉を漏らす。そして周囲の者へと声を飛ばすと、了解の意を示し周囲の味方と間隔を開けるように展開する。その様子を見たリリーナは、相手がかなりやり手の盗賊団だと即座に理解する。互いの距離を取りながらもお互いがフォローできる距離を保ち、陣形を組んでいる様子から、【精霊魔術師】と過去に対峙したことがあるのが伺える。【精霊魔法】は威力と効果範囲に優れているため密集する隊形では的になるという事を知っている、戦闘経験が豊富な証拠だと判断したのだ。


「テルマ。お主は実戦から離れて長いが平気かい?」


 リリーナの問にテルマは何を言う事もなく、エリックの横に立つと二本の短剣を堂に入った形で構え、相手をみる。その態度でテルマの意思を察し、続けてリエルに言葉を投げる。


「リエル!ナイル!避難所に入るのはどうやら難しい。儂等でこやつらを抑えるから二人は森の、リエルの知ってるあの場所まで逃げるのじゃ!」


「いいねナイル!ここは母さん達に任せて、あんたはリエルちゃんをしっかり守ってあげるんだよ!」


「嫌よ!!あたしも一緒に戦えるわ!!」


「我儘言うんじゃないリエル!すまないがナイル!リエルを連れて山道の先の森へ向かってくれ!俺達なら大丈夫だからリエルを頼んだよ!」


「でも!・・・っ!」


 言葉を返そうとするナイルだが、三人を見てその言葉を飲み込み、リエルの方へ走り寄るとその手を掴む。振り払おうとする手を無理矢理引っ張り、リエルとナイルは森の方へと走り出した。


「大丈夫だから!僕らがいない方がエリックさん達は戦い易いはず!さぁ行くよ!」


 リエルに掛けた言葉は本心からの言葉であり、ナイルとリエル、二人を守りながら戦うよりずっといいと、悔しい思いを飲み込み納得する。そう言葉を掛けられ、リエルも抵抗するのをやめて自分の意思でナイルと一緒に森を目指して走りだす。しかしその後ろから声が上がる。


「ガキが二人逃げたぞ!捕まえろ!!」


 振り返るナイルの目に映ったのは、果敢に立ち向かっている三人の姿と、二体のゴーレム。その守りを抜けて追ってくる数人の男の姿だった。二人は必死に走るが、ナイルは兎も角、まだ12歳の少女であるリエルではどうしても速さが足りず、追手との距離が縮まっていく。ナイルは即座に振り返り弓を絞り牽制の矢を1射、2射と続けて放つ。正確な狙いで放たれた矢は、1射は躱されたが、2射目の矢は、先頭を走っている男の左足を射抜いた。


 森の入り口まで残り僅かの所で、突如飛来した矢で怯んだ盗賊達はその速度を若干落とす事になり、ナイルの思惑は成功する。だが、一瞬の安堵、一瞬の油断が、盗賊から放たれた手裏剣の様な投擲武器の存在に気づくのを遅らせた。飛来する鉄の刃は、ナイルの肩を掠め、先を走っていたリエルの背中へと直撃する。鮮血が散り悲痛の声が響く。


「リエルちゃん!」


 倒れたリエルに慌てて駆け寄り、傷の状態を確認する。幸い致命傷を与えるほどの威力はなかったが、リエルは痛みで瞳に涙を溜めていた。だが、ゆっくりしている時間はないと、ナイルはリエルを立たせて軽く背中の傷を抑えるように手持ちの布をリエルが持っていた弦で抑える様に縛ると森へ急ぐように促し、二人で走り出した。目の前まで迫っていた森の入り口にリエルが入ったのを確認すると、


「そのまま走って!振り向かずに走るんだ!」


 叫びをあげて、リエルを見送る。その場に残り盗賊の足止めをするのが自分の役目だと考えたナイルは向かってくる盗賊を決意の籠った瞳で見る。恐らく自分では大した時間は稼げないだろうと、命を落とすかもしれないだろうと。だけど少しでもあの子が逃げる時間を稼ぐのだと。覚悟を決めたナイルは迫る盗賊に向けて矢を放つ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。

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