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5話 幼少期の話 後編 母からの贈り物とその後

これで幼少期の話は終わりになります。

 リエルが起床する前まで時間を戻す。


 愛用の弓と短剣を備え、森へと向かったエリックは、リリーナから聞いた場所を目指し歩いている。


 歩きなれている森の中のはずだが、今日は妙な感覚が体に纏わりついているように感じるエリック。あたりの様子も鳥の囀りも聞こえない異様な雰囲気を出している。


(何やら森の様子がおかしい?こちらに以前来たときはこんな暗い感じではなかったと記憶してるんだけど・・・)


 静かすぎる森の様子に、例の結界が関係あるのだろうかと、警戒を少し強めるエリック。と、その時、前方から額に角の生えた兎のような生き物が姿を現し、エリックの方へと向かって来ていた。その姿は【ホーンラビット】種と呼ばれる魔物に属する物だとわかった。


 普通の動物に似たような姿をしている魔物も珍しくないのだが、魔物と動物、違いとして体内に存在する魔力量の差が一番の違いと言える。通常の動物でも魔力を体内に巡らせているのだが、微量な物でしかないのに対して、魔物に属する物は、その魔力を発する核、【魔石】を体内に持つため、内包している魔力は動物と比べて各段に違うのだ。そして同種のモンスターでも、その個体によっては、異なる能力や、外見に大きな違いが見られたりする場合がある。これが特殊個体、あるいは上位個体などと分類されているのである。


(ホーンラビットか。まぁ強い魔物じゃないけど、肉はおいしいからとって帰るのも悪くないかな。お・・・?)


 どうするか考えていたエリックだが、こちらを確認したホーンラビットが速度を上げて向かってきたため、観察するのを中断し背負っていた弓に手をかけた。


『ピギィィ!』


 勢いよく迫ってきたホーンラビットがその速度で飛び上がり、額の角でエリック目がけて飛び込んでくる。ホーンラビットが行う攻撃で一番強力な、魔力を纏った角での突進は、岩を貫くほどの威力を持っているため、当たればかなりのダメージを覚悟しなければならないが、当たればの話である。エリックは突撃してくるそれを、体を横に滑らせ難なく躱し、ホーンラビットはその角を地面へ突き立てる。攻撃に失敗したホーンラビットはそのままの態勢で上下反転した視界の先にいる、矢を番えて構えるエリックの姿を見る。直後放たれた矢によって眉間を撃ち抜かれ、感覚がなくなっていくのを感じながら意識は闇へと落ちていくのだった。


 10分ほどたった頃、肩から縄で縛ったホーンラビットをもってエリックは目的の場所へと到着し、結界で覆われた一画を見つけて近づいて行く。


(確かに不思議な魔力を感じる結界だ。確か中には卵があるって言ってたけど)


 聞いた話の内容を思い返し、周囲を観察しながら様子を伺うのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ただいまー!」


 帰ってきたリエルの声が家の中に響く。だが中から人の気配は感じられない。テーブルの上には暖かい鍋が置かれており、籠の中には山盛りのパンが入って置いてあった。リエルは皆出かけているのかと思い、外の庭へと移動し、その一角、母のお墓の前でリリーナの姿を発見する。


「おばあちゃんただいまー」


「おや、お帰りリエル。ちゃんと届けてくれたかい?」


「もちろん!ちゃーんとテルマさんに渡してきたよー!」


「ありがとう、リエル。それじゃーご褒美を上げないとね」


 えっへんという感じで胸を張るリエルに、にこりと笑いながら偉い偉いといった様子でリリーナは頭を撫でる。そして、頭から手を放すと、胸ポケットに手をいれると、そこには綺麗な真紅の光を反射する水晶のついた首飾りを取り出し、リエルを見る。


「リエル、ちょっと早いがこれを渡しておこうとおもう。エマリエから預かっていた物で、お主が大きくなったら渡すように頼まれておったものじゃ。本当はもう少ししてから渡した方がよかったのじゃろうが、今のリエルなら大丈夫じゃろう。いいかい?絶対に無くすんじゃないよ」


 そういうと、リリーナは、リエルの頭から優しく糸の輪を通し、首へと運ぶ。糸からリリーナの手が離れると、今度はリエルがその水晶を掴み太陽に向けて透かすように見上げる。水晶の中には微かに揺らめく炎のような物が見られる。


「うわぁ・・・綺麗な石・・・。これ、あたしがもってていいの?」


「もちろんじゃ、エマリエがお主のためにと儂に預けていったものじゃ。しつこく言うが絶対になくしたり、誰かに渡したりするんじゃないよ」


「うん。大事にする!」


 母からの贈り物。リエルがまだ赤子のときに死んでしまった母親からのプレゼントは、リエルにとって宝物といっても過言ではない。受け取った首飾りの服の下にしまうが、嬉しさのあまりに顔がにやけてしまうのを止められないリエルを、リリーナは笑って、それにつられてリエルも笑ってしまうのだった。


「家の中にいないからどこか行ったのかと思ったらこっちにいたのか。何やら楽しそうな声がきこえてきたけど何かあったのかい?」


「あ!おかえりなさいエリック兄さん!」


「おかえりエリック。いやなに、エマリエから頼まれいた物をリエルに渡しとったところじゃ」


「そうか・・・。リエル、大事にするんだよ。お母さんからもらった大事な物なんだからね」


「大丈夫!あたしの宝物にするの!」


 笑顔で言葉を口にするリエルに、エリックも微笑み、三人は家の中でちょっと遅めの昼食を取りながら他愛もない話をするのだった。


 昼食を終え、しばらくすると、テルマが家を訪ねてきた。昼食の時にリエルから聞いてた話だろうと、リリーナはテルマを招き自室で話しを始める。手持ち無沙汰になったリエルは庭でホーンラビットを解体しているエリックの元でその様子を眺めていた。興味深そうに眺めているリエルにエリックが手招きしてリエルを呼ぶ。


「そんなところで見てないでこっちに来ても平気だよ」


 それを聞いて嬉しそうに走り寄るリエルに、元気な子に育ってくれてた事を喜ばしく思いながら、話かける。


「リエルは見た事あるかい?こいつはホーンラビットっていう魔物で、肉はおいしく皮や角の部位は装飾品にも使われるんだ」


「エリック兄さんが捕ってきたんでしょ?怖くないの?」


「角による攻撃は強力で、油断してるときにその一撃で襲われると考えると結構怖いけど、駆け出しの冒険者でも問題ない程度の相手だからやっぱりそこまでではないだろうね」


「そうなんだ~。あたしも弓を扱えるようになったら捕まえられるようになるかな?」


「ははは、リエルは魔法が使えるだろ?おばあちゃんから聞いてるけど”すごい魔法の才能だー!”って驚いてたよ。もう【第二節魔法】の【ウィンドカッター】まで使えるってきいたけど、それだけの魔法が使えるなら十分な攻撃手段にはなるだろうね」


「そっかー!えへへ。あたしの魔法ってすごいんだよ!」


 褒められて、耳をぴくぴくさせながらニコニコと笑っているリエルに、真面目な顔をしてエリックは続ける。


「そうだね、正直リエルの年で【第二節魔法】が使えるって聞いたときは俺も驚いたさ。でもリエル。何事も絶対ってことはないからね。駆け出しの冒険者が、ホーンラビットだと侮って、油断から命を落とすなんて事も珍しいくはないんだよ。リエルだって魔法の威力はあっても、身のこなし、戦いの技術を持っていないと相手にするのは難しいだろうね」


「そうなんだ・・・。そうだよね。あたし、突然そんな魔物に襲われてもびっくりして何もできないとおもう」


「うん。魔物を狩るっていうのは、才能だけではうまくはいかない物さ。だから、いつでもその実力を発揮できるようにまずは訓練を積んで、慣れる事が大事なんだ」


 リエルにそんな物騒な事はしてほしくないと思いつつ、身を守るすべを知るのは大事な事だとも考えるエリックは、リエルに軽い戦闘の訓練と弓の使い方を覚える気があるかを確認し、リエルはそれを喜んで受け入れるのだった。


 しばらくして、テルマとリリーナが家から出てくるのが見えた。どうやら話が終わったようだと、庭でリエルに弓の使い方を教えていたエリックは二人の元へ歩いていく。リエルのほうは弓の練習に夢中になっているようで気が付いていないようだ。エリックはテルマへ挨拶を交わすと軽い世間話をすまし、村の中心部へと歩いていくテルマをリリーナと見送る。


「リエル、あんまり熱中しすぎると続かないからほどほどにするんだよ」


「ん~、もうちょっとやるー!」


「じゃーもう少ししたら、家に戻るんだよ。俺はおばあちゃんと話しもあるから先に中に入ってるからね。そろそろ日も暮れるから夕飯の準備もしないといけないしね」


「はーい」


 そう告げると、リリーナとエリックは家の中へと入っていった。そのままリリーナの部屋へと向かい、例の場所で見てきたことを話し始めるのだった。


「さてと、俺が今日行ってきたときの様子だけど、結果を先に言うけど中に入る事ができなかったよ」


 開口一番で結果を述べたエリックに、リリーナは成程といった感じで話を続けるように促す。


「たしかに、不思議な感じがする結界があったけど、中に入ろうと結界に触れたけど押し返されてしまってね。いろいろ刺激しないように試してみたけど結果は全部無駄だったよ」


「そうか・・・。考えられるのはリエルの存在に反応しているんじゃろうな。現れたピクシーもリエルを必要としていた事から恐らく間違いないじゃろう」


「そのピクシーは見なかったけど、その卵は相手をちゃんと識別して判断しているのは間違いないだろうね」


「うむ。して、どうおもう?」


「リエルにとっていい物かどうか、という事を聞きたいんだろうけど・・・あの場所、異様な感覚はあったけど、悪意のようなものは感じられないし、魔物もホーンラビットが1匹現れたくらいしか確認できなかったから危ない場所ではないと思う。リエルを認識しているって考えで言えば、今日見にいったのが俺だけだったから異様な雰囲気が感じられたってだけかもしれないしね」


「ほう。儂とリエルの時は普段の森と変わった感じはなかったんじゃがのぉ。しかし、ホーンラビットとはいえ、魔物がでおったか。ちと物騒じゃな」


「うーん。今のままだとちょっと一人で行っていいとは言いたくないのは俺も同じ意見だよ。けど、いつまでも子供扱いして、見識を広める機会を奪うのも少し違うような気もするし」


「儂だってそうじゃよ。あの子が立派に育ってほしいと思うのは同じじゃ。だがのぉ・・・。そういえば、さっき庭で何をやっておったんじゃ?」


「ん?俺が今日捕ってきたホーンラビットを見て、リエルが興味を持っていたからさ、戦闘の技術と弓の使い方を教えてたんだよ。身を守る方法を知っていても損はしないだろうからね」


「ふむ・・・」


 そこまで聞いてリリーナは少し考える。エリックから聞いた話を自分の中でまとめ上げるのに時間はそう掛からなかった。


「エリック、わしはリエルがあの場所に行くを認めようと思う。ただし条件付きじゃがな」


「母さんがそういうなら俺は納得するけど、条件って?」


「なに、簡単な事じゃ。お主に技術を学び、それが十分だと認められたら、遅くならないうちに返ってくる事を条件に、森の浅い部分まで立ち入るのを許そうとおもう」


「成程。最低でも自分の身を守る事ができるようになれば問題ないって事だね。すぐにすぐできる事でもないから、リエル自身の成長も待てるし悪くないとおもう」


「決まりじゃな。儂も時間があるときはリエルと一緒に結界の様子を見に行ってみるから、技術のほうはエリックに任せるよ」


 そういって話を終えた二人は、部屋をでる。リビングには、訓練を終えて汗をかいた顔を濡らした布で拭いているリエルの姿があった。二人に気づいたリエルが口を開く。


「お話し終わった?あたしお腹空いちゃった」


「おお、待たせてすまないねぇ。早速ご飯の支度をしようかね。今日はエリックが採ってきてくれたお肉もあるから、楽しみに待ってるんだよ」


「あたしも手伝う!」


 三人で食事の支度をして、テーブルを囲む席で、リリーナはリエルに先ほどの話を聞かせるとリエルはその条件を了承し、次の日から、訓練に励むようになるのだった。エリックから認められ、森への行き来が認められるようになったのは、それから一年後の話である。

次回から一話の続きへと戻りたいと思います。誤字脱字あったらごめんなさい。早く肝心の部分までいきたいです。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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