53話 魔弓
誤字脱字は時間があるときに修正します。
「なんだか久し振りに弓を射ったきがする」
そうリエルは呟くと二の矢を番え、地に伏しているロックベアの元へと歩いて行く。
自分でも驚く程ロックベアとは距離があったようで、結構歩くことになってしまったが、
途中別の魔物に遭遇する事なく獲物へと辿り着く。
「ミヤビ様の力も驚きましたが、リエル様も流石ですね」
近寄って死んでいる事を確認したナシタが賛辞の声をリエルに向けている。
リエルの放った矢はロックベアの頭部を貫通し、矢が出ていった場所は無惨な破壊の後が残っており、矢が抜けて行く際の衝撃の強さを雄弁に物語っていた。
「あたしの力というより、この弓の力だと思うけど」
「あー、忘れとったな。詳しく調べてみようと話をしておったな。どれ、丁度良いから少し見せてみろ」
ミヤビはリエルの手に握られている弓を天眼を発動させて調べ始める。
「ほほう・・・」
ミヤビが驚いたように声を洩らす。
「リエルの母君の使っていた物と言っておったが、こいつは割ととんでもない物かもしれんぞ。今確認できる能力じゃが、【敏捷強化・中】、【筋力強化・中】、【感覚強化・中】、【魔力再生・弱】、【魔力強化・弱】、【射撃補助】の能力が付与されておるのが見て取れるが――」
一拍置いて、再び口を開く。
「【魔吸強化】という珍しい能力が付いておるのに加え、妾にも読み取れない能力がいくつか付与されておる」
「【魔吸強化】?どんな能力なの?」
「私もスキルには詳しくないので気になります」
「うむ。このスキルは所謂、"魔剣"や"魔槍"といったカテゴリーの武器についている事が多いスキルなんじゃが、要は使用者の魔力を吸収して武具としての能力を向上させる事ができる能力じゃな。差し詰めこの弓は"魔弓"という事になる」
「へ~。あと、ミヤビに読み取れない能力ってどういう事?」
「それは妾にもよくわからんな。未知の能力であり妾の解析を弾く物なのか、もっと別の理由で確認できないのか」
「なんだか呪われた武器にも見られる特徴に近いですね」
「嫌な事言わないでよ」
「ナシタの言っている事は強ち的外れでもないかもしれんがな。このカテゴリーの武具は総じて呪いが掛かっている物が多い。強力な物になるほどその傾向は強くなる」
「で、でも、あたしは別に何ともないわよ?」
「あくまで多いだけで絶対とは言っておらん。それに妾とて世界のすべてを理解しておる訳ではないんじゃ。妾の知識が及ばぬ物とて存在するのが道理じゃろう」
「つまり、ミヤビ様でも判断できないのであれば、それを使うのは控えるべきなのではございませんか?」
「もっともな意見ではあるが・・・まぁ大丈夫ではないか?何度か使っておるが怪しい兆候はないし、呪いの武具特有の負の魔力は感じられんしな」
「結構適当ね」
「そうでもない。単純に魔王の血族であるリエルを呪い程度でどうにかできる武具がこの世界に存在するとは思えん」
「確かにリエル様の存在を考えてみればその通りですね」
「なんだか素直に喜べない」
「まぁともあれ、折角じゃから【魔吸強化】の能力を試してみたらどうじゃ?少しその弓に魔力を流してみれば変化がわかるじゃろう」
「あんまり気は進まないけど・・・」
リエルは握った弓に魔力を通し始める。すると、成りに沿って魔力が走り青白い刃を作り出す。握りの部分を中央にして、上下に片刃を付けているような形を見せている。
「おぉ?こいつはすごい。どうやら流された魔力を使って刃を形成している様じゃな」
「つまり、遠近での攻防を一つの武器で可能とする事ができるわけですか。便利ですね」
ミヤビとナシタが冷静に弓の能力を観察しているが、リエルは複雑な表情を見せている。
「う~ん・・・」
「どうした?中々の能力じゃとおもうが不満そうじゃな」
「不満というか、あたし、剣とか扱えないんだけど。ましてやこんな大きさだとあたしには無理よ?」
「ご心配には及びません!私が接近武器の扱いをご教授致します!」
「妾も長物の心得は持っておるつもりじゃから、リエルにその気があれば伝授してやらん事もないが?」
「とりあえず今は遠慮しておくわ」
「左様か。まぁ気が向いたらでよいと思うぞ。少々勿体ない気もするが、慣れない物を無理に扱う必要はない。武器に振り回されるような結果になりかねん。使うべき物に使われるようではいかんからな」
「じゃー元に戻すわね?」
ミヤビの言葉を受けてリエルは流していた魔力の流れを止めようとしたが、重要な変化に気付いたミヤビがそれを止める。
「まてリエル。そのままじゃ。先程見る事が出来なかった能力が見えるようになっておる」
「え、本当?」
「うむ。ついでにその弓の名前も分かるようになったぞ。【魔弓アルターキエラ】、それがこの弓の名らしいぞ。そして詳細が分かった能力が一つ・・・【魔刃同調】?」
ミヤビも聞いた事が無い能力の様で、口に出したのはいいがどんな効果なのかと首を傾げる。
「どんな能力なの?」
「わからん。聞いた事がない能力じゃ。その名から察するに形成された刃に何かあるんじゃろうが」
ミヤビの言葉で何か閃いたのか、ナシタが声を上げる。
「リエル様!宜しければ試していただきたいのですが、刃を展開したまま弓を射って貰えませんか?」
「・・・なるほど、そういう事か。確かにあり得るな」
ナシタの言葉にミヤビも理解を示す。リエルだけはそれに追いついてない様で、ナシタの言葉に頷いて、少し先に立っているの巨木に向けて矢を番えた弓を構える。
すると、成りに沿って形成された魔力の刃は、同じように番えたや矢の先端にも展開される。
そこまでくればリエルも察したのだろう弦を引き絞り、狙いを定めて力の籠った弦を解き放つ。
すると、成りに沿って展開されていた魔刃は放たれた矢と一体化し、一文字の巨大な刃となり風切り音を上げながら目標の巨木へと向かい飛んでゆく。
その矢は、木など存在しないと思わせるかの如く、巨木を容易く切断し、更なる破壊の連鎖を――生い茂る森の木を切断しながら飛び続け、やがて力を失い消失すると、遅れて木々が倒れる音が響き渡る。
「・・・」
目の前の出来事に唖然とした表情のリエル。
「これは・・・いくら何でもやり過ぎじゃぞリエル」
「す、すごい威力ですね・・・」
「あたし、こんな危ない物使ってたんだ・・・」
この能力はなるべく使わないように心に決めるリエル。弓の詳細を調べる事に区切りをつけると、仕留めたロックベアをリングへと収納し、リエル達は獲物を求めて森の探索を再開する。
森の奥へと向かう道中で、ソニックバードやロックベア、スワンプリザードなどに遭遇するが、その全てが例外なくリエル達の糧へとなっていく。
「ミヤビ様の索敵能力とリエル様の射撃能力。実に恐ろしい物ですね。やはりこの辺りに生息している魔物では物足りないのではありませんか?」
「別にあたしは強い魔物と戦いとか思ってないから、今のままでいいんだけどね」
「リエルの成長にはあまりいい結果はないと妾は思っておるんじゃが、本人がこれじゃからな」
「いいのよ!と言うかミヤビ達が血の気が多すぎるのよ」
軽口を言いながらも、周囲への警戒を緩める事のないミヤビとナシタ。ナシタの感覚も優れてはいるのだが、ミヤビと比べるとその能力は赤子と大人程の差がある。
やはり今回も先に気づいたのはミヤビであり、リエルに敵の存在を教える。
〖リエル、前方に何かおるぞ〗
〖さっきから随分多いわね〗
〖以前来た時より大分奥へと来たようじゃからな。この辺りから少しは手応えがある相手に出会いたいものじゃ〗
〖同感です〗
ミヤビ達の意見を聞いて、やれやれと言った様子のリエルではあるが、今まで同様、弓を構えて標的を探し始める。
やがてリエルの手元の輪に魔物が映し出されるが、その姿は今まで見てきた魔物とは少し毛色が違う存在であった。
〖あれは【キラーマンティス】じゃな〗
〖でっかい蟷螂みたいね〗
〖うむ。今までの獲物とは違って手強いぞ。〗
〖ならば、ここは私――〗
〖折角手応えのある相手が見つかったんじゃ。このままリエルにやってもらった方がいいじゃろう。その方がいい経験になると思わんか?〗
自分の力をリエルに見せる事ができると思ったナシタであったが、ミヤビが言っている事の方が正しいと理解し、動きを止める。
〖さぁ、リエル。お主の力であれを仕留めるんじゃ〗
ミヤビの言葉を受けたリエルは、キラーマンティスに狙いを定め始める。いつも通り致命傷を取れる可能性が高い頭部へと狙いを付けると、リエルはアルターキエラによって上昇している力を解放する。
キラーマンティスに向けて解き放たれた矢はいつもの様に凄まじい速さで目標へと迫りっていき、その命を奪うかに思えた。だが――
『キチキチッ?』
完全に背後を取った形で放たれた矢は、キラーマンティスには命中せず躱される。驚いているリエルではあるが、素早く次の矢を番えて2射目を放つ。
『キシャァァ!!』
飛んでくる矢を正面に見据える態勢を取ったキラーマンティスは、自分が何者かに攻撃されている事を完全に理解する。
飛来する矢を、淡い輝きを持つ硬質な外殻を使って防ぐと、背中の羽を広げ周囲を威嚇している。
(防がれた。固い・・・)
リエルは初めて【魔甲虫】に分類する魔物と対峙した訳だが、その体の硬度に驚く。
(矢での攻撃だとあの装甲は抜けそうにないわね・・・)
初めて戦う相手の情報をしっかりと観察し考えるリエル。今までリヴルの森で相手をしてきた魔物とは明らかに違う、強敵と感じ取れる魔物を前に自分でどう戦うべきかを思考する。
その様子を少し離れた位置で見ているミヤビとナシタ。危なそうなら助けるつもりではあるが、今のリエルの動きを見ながらミヤビは思う。
(そうじゃ。考えろリエル。そうでなくては成長は止まる。それではだめなのじゃ)
〖やはり【キラーマンティス】相手ではリエル様の分が悪いですね。私も加勢しましょう〗
〖だめじゃ。それでは意味がない。リエル自身でそれに気づく事が大事じゃろう〗
〖しかしミヤビ様。【キラーマンティス】の持つ【刺突耐性】と【斬撃耐性】の能力の前では、それに気づいても弓では勝ち目は薄いですよ?〗
〖心配はいらん。いいから黙って見ておれ〗
ミヤビの言葉を聞いたナシタであったが、心配なのだろう、今にも飛び出しそうな様子が見て取れる。
その一方で考えが決まったのか、リエルはキラーマンティスに向かって走り出す。
リエルの持っている能力、【身体能力向上:中】とアルターキエラの【敏捷強化・中】の効果により、その動きは実に素早く、目標との距離をどんどん詰めていく。
『キシャアアアアアアッ!!』
キラーマンティスもリエルの姿を補足したのか、金切り声にも似た感じの鳴き声を上げて動き出そうとしている。
その声に怯む事なく直進していくリエルは、走りながら弓を構えて素早く一射打ち込む。先程と同様にキラーマンティスの外殻に弾かれてしまうが、飛来する矢によってその動きを鈍らせたキラーマンティスの隙を、リエルは自身の速さを生かして側面へと回り込み、再び矢を放つ。
『キイイイイッ!?』
放たれた矢は外殻に覆われていない腹の部分を狙った一撃。横から突き刺さった矢によって受けた痛みのせいか再び声を上げているキラーマンティスだが、そこで終わりではなかった。
キラーマンティスはリエルに向けて鎌を横に薙ぎ払うと、一瞬空間に揺らめきが起きる。
「――っ!?」
それをみたリエルは態勢を地面すれすれまで落とし何かを躱す動きを取る。すると、自分の後ろから木が騒めく音と、巨大な影が地面を伸びてくるのを視界に捉える。
その音の正体は、リエルの首の位置程の高さの場所から切断された巨木が地面へと倒れて来る物であった。
伸びてくる影と音で自分の位置へと倒れて来る事を察知したリエルは、その場を離れるように再び動き出し、キラーマンティスの回り移動する。
(外殻は固いけど、内側なら矢が通る・・・)
得られた情報をしっかりと記憶し、その魔物に有効な方法を考えながら戦っているリエルは、戦い始める前と違って楽しそうな笑みを浮かべている。
これは、リエルの体に流れている父親、魔王の血の影響なのだが、本人は知る由もなかった。
『シャアアアッ!!キィ!キィイイイ!?』
自分の回りを走り回る小さな存在に怒りの鳴き声を上げているキラーマンティスだが、その速さに翻弄され、繰り出す斬撃はその存在を捉える事はなく、血飛沫の代わりに上がるのは、立派な鎌が虚しく空を切る音だけであった。
キラーマンティスの攻撃を回避しながらもカウンター気味に内側の柔らかい部分目がけて矢を射っていくリエル。
標的となっている腹部や節の部分には次々と矢が撃ち込まれてゆき、徐々にではあるがキラーマンティスの命を奪っていく。
(やっぱり手強い。今まで森で見た魔物とは違うわね)
油断する事なく、回避と攻撃を続けているリエルであったが、キラーマンティスも黙って倒されるつもりはなかった。
『キチキチ・・・キシャアアアアアアアアッ!!』
突如、羽を大きく広げ、激しく振動させ始めるキラーマンティス。リエルが鎌の攻撃を後方へ飛び下がり、矢を言ってくるタイミングに合わせたその行動は成功する。
羽から無数の斬撃が放たれ飛来する矢を弾き飛ばすと、そのまま空中に飛び上がった体勢のリエル目がけて収束する。
「きゃっ――!?」
咄嗟に腕を組み、魔力を高めて防御の姿勢を取るリエルであったが、放たれた斬撃の強力な衝撃を受けて宙に飛び上がっていた所を地面へと弾き飛ばされる。
纏った魔力による防御力が勝ったおかげで切断には至らなかったが、叩きつけらた衝撃はリエルの体に大きな痛みを与える。
「リエル様っ!!くっ!申し訳ありませんミヤビ様!私がゆ――」
ナシタが助けに行こうとした次の瞬間、強烈な威圧感に当てられてその動きを止める。
痛みに耐えながらも素早く体を起こして、その場から飛び退いて距離を取るリエル。
苦痛に息を荒くしているリエルは前のめりの体勢で顔を上げる。
綺麗な銀の髪の間から見える瞳は真紅へと輝きを覗かせて、キラーマンティスを見据えている。魔力こそ通常のままであるが、その風貌からくる威圧感は【魔力解放】状態に近い物をミヤビとナシタに感じさせていた。
「よくも・・・よくもやったわね」
リエルの威圧感に気圧されていたキラーマンティスであったが、リエルの内から発せられる殺気を受けて、自身の生存本能を刺激されたキラーマンティスは、すぐさま両手の鎌を構えて攻撃に備える動きを取る。
リエルはキラーマンティスに向かって正面から凄まじい速さで走り寄りながら、弓を自身の前に地面から垂直に構えて速度を緩める事なく突撃する。
それを迎え撃とうキラーマンティスは素早く腕を動かし×字に組んだ形でリエルに鎌を繰り出すが、繰り出した鎌がリエルの弓と接触する瞬間、キラーマンティスの腕は宙へと舞う。
アルターキエラはその力を発揮し、青白い刃によってキラーマンティスの腕を斬り飛ばし、そのまま頭部まで食い込む。そのままアルターキエラを全身の力に任せて地面へと導き、リエルは標的の頭から身体に掛けて真っ二つにして見せるのだった。
お疲れさまです。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。




