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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ世界へ。 バランディアの町編
51/99

51話 領主様は変人?

誤字脱字は時間があるときに修正します。

 二人と二匹が静かに待っている部屋の中に、扉をノックする音が響く。キャスが椅子から立ち上がり、扉へと向かい扉を開ける。

 慣れた様子で挨拶を交わし、外で待っていた人物を招き入れ、キャスの方は部屋から出て行く。

 最初に入ってきたのはマルドゥク、後に続く様に二人の人物が姿を見せる。


 〖あれって、クラウスさんよね?〗


 〖誰ですか?〗


 〖うむ。間違いないな。すると、その前にいる人間が、例の領主と言う訳じゃな〗


 〖あ、あの・・・クラウスとは最後尾の人物の事ですか?む、無視しないで頂きたい・・・〗


 ここの所ずっとこんな役回りばかりな気がしてがっかりしているナシタであるが――


 〖後で教えてあげるから我慢してね〗


 そう言いながらリエルはナシタの頭を優しく撫でる。


 ナシタはリエルに撫でられると即座に機嫌を治し、"リエル様に撫でて貰えるならこれでもいいかも"などと内心考えてしまうのだった。

 そんなナシタの考えなど露知らず、頭を撫でているリエルに声がかかる。


「リエルさんがいつまでたっても来てくれないのでこちらか出向いてしまいましたよ」


 普段のイメージとは違う、軽い感じで話しているクラウス。

 リエルも椅子から立ち上がると、クラウスに挨拶を返す。


「クラウスさんもお仕事ご苦労様です」


「いやいや、これが私の仕事ですからね。ですが、お心遣いありがとうございます。やはりリエルさんは礼儀正しくて、話していて気分がいいですね」


 クラウスがちらりと目を向けた先にいるのはハボット。

 皮肉を言ったつもりのクラウスなのだが、何やらハボットの様子がいつもと違う事に気づく。


 ハボットはリエルを見つめ、口を開けたまま、心ここに在らずといった言葉がぴったりな様子で立っている。

 嫌味が帰って来るとばかり思っていたクラウスだったが、特に何も言われないならそれに越したことはないと考えて気にしないことにする。


「それで、あたし達に何の御用なんですか?」


「その話をする前にこの方の事をちゃんと紹介しておくよ。この町を収めている領主のハボット様です」


「お目にかかれて光栄です。ハボット様」


 クラウスに紹介される形になったハボットに、挨拶をしるリエル。

 その姿を変わらずに見つめていたハボットがようやく口を開く。


「ハボット・オークランドだ。いや、です。お見知り置きを、リ、リエル、さん」


 どうも様子がおかしいハボットに、クラウスが首をかしげる。


「どうかしましたか?」


「い、いや!何でもないぞ!おほんっ!いや済まない。リエルさん、よろしく頼む」


「はい。こちらこそお願いします」


「はうっ!」


 リエルが言葉を返すと突然、奇声を上げるハボット。部屋の中にいる者達がその声に反応し、一斉に視線はハボットへと集まる。


「いかがなされたました、ハボット様?先程からどうも様子がおかしいですが。お疲れでしたら私に任せてお戻りに――」


「だ、大丈夫だ。うん、何でもない!」


 クラウスの言葉を遮ったハボットは、ゆっくりと歩き出し、それに続く様にクラウスも後ろを歩く。

 いつのまにか席について冷めた紅茶を啜るマルドゥク。

 本来ならハボットが席に着くまでは遠慮すべき行為なのだろうが、マルドゥクはそんな礼儀など気にするつもりは無いらしい。

 実際気にした様子もなく、マルドゥクの隣の席へとハボットも座り、クラウスもハボットから一つ席を空けた場所へと腰を下ろす。


「あぁ、嬢ちゃんも立ってないで楽にするといい。公式の場という訳でもないから礼儀なんて気にせんでいい。こやつもそっちの方が話しやすいじゃろう」


 立ち上がって待っていたリエルに、マルドゥクが気を利かせて声をかけてくれる。


「じゃーそうさせてもらいます」


 リエルもそれに答えて今まで座っていた場所に座ろうと椅子に手をかけようとする。


「ま、待ちなさい!」


「はい?」


 突然上がった声に間の抜けた返事をするリエル。

 声の主はハボットであり、何か言いたそうに口を動かしている。


「えぇっと、どうかしましたか?」


「う、うむ。そんな遠い席で―――くくないか?もっと――らの席に――てもよいの――」


「え?」


 何を伝えたいのかさっぱり分からなかったリエル。ハボットの声は容姿とは裏腹に非常に小さく、リエル達へ音を伝えるにはあまりにも弱弱しかった。

 マルドゥクが何かを察したのか、ハボットの言いたかったであろう事を代弁する。


「そこでは声が聞き取りづらいじゃろうから、こっちの席に座ったらどうじゃ?」


「そ、そうですね。確かにあまり聞き返すのは失礼ですよね。そうさせてもらいます」


「そ、そうだな!そうしてくれ!」


「ハ、ハボット様?本当に大丈夫ですか?気分が悪かったら我慢する事はありませんよ?」


 どこか悪いのではないかと本気で心配してしまうクラウスに、ハボットはおかしな音程で言葉を返す。


「大丈夫だと言っている!む、むしろ気分はすこぶるいいぞ!まさに天にも昇る気持ちという物だ!」


「はぁ・・・。そ、それならよいのですが、体調がすぐれないなら言ってくださいね」


 これ以上余計な事を言って機嫌を損ねられるのも面倒だと思ったクラウスは、気にしないように努める事にする。

 そんなクラウスの心情など知らないハボットは、対面の席から近づいてくるリエルの姿に目を輝かせて見つめている。


(な・・・なんと可愛らしい姿だ・・・。なんとも可憐でありながら、秘めた美しさは・・・くうううぅう!)


 実はハボット、領主を務めているが年齢はまだ20代後半と言ったところでかなり若い。顔つきも貴族だけあって非常に整った、美形と言っても間違いない容姿をしているため、町の女性からの評価は高い。

 若くして領主の座に就いたのも影響して彼の事をよく思っていない貴族達も少なくないのだが、マルドゥクやキャス、ハボットの館で働いている者といった、一部の人間達は彼が真面目な男だということを理解しているし、本人も無能な貴族達がどう思おうがどうでもいいと考えている。


 だが、そんな彼にとって、気にすべき部分が強烈に刺激される事態が起きてしまっているのが問題であり、今ハボットの心は際限なく高揚し、顔を紅潮させながら、リエルに視線を釘付けにしている。


 〖なんかすごい顔してあたしを見てる気がするんだけど・・・〗


 〖き、気持ち悪い奴じゃな・・・〗


 〖なんていやらしい目でリエル様を見てるんでしょうね!!許せません!ぶちのめしましょう!〗


 一人だけ過激な事を考えているが、三人は大体同じ意見で一致しているようで、第一印象は最悪といっても差し支えない物だった。

 リエルは少し離れた位置の椅子へと手をかけて、座ろうとする。


「な、なに、遠慮する事はない!こちらが空いている。ここに座るといいぞ!」


 ハボットは、椅子に座ろうとしているリエルを呼び止めると、自分の隣の椅子を引いてリエルを見ている。わざわざ呼び止めてまで隣に座る事を求められるとは思ってないかったリエル。どうしようかと一瞬硬直する。


「あらあら~ありがとうございます~。ならば、そこは私が頂きますね~」


 その一瞬の間に、椅子へと着席したのはキャス。いつの間に部屋に入って来たのか、彼女の手には二つのティーコップが乗った盆があり、一つをハボット、もう一つをクラウスの前に静かに差し出す。


 あんぐりと口を開けてキャスを見ているハボットと、何食わぬ顔でニコニコしているキャス。そして、それをみてため息を付くマルドゥク。三者三様の見せられて反応に困るリエル。


 クラウスは我関せずといった様子で差し出されたカップを口にしている。


「キ、キャス!なんでお前が座っているのだ!?」


「おやおやこれは異な事を。てっきりお茶を運んで来たので、手が塞がっている私のために椅子をひいてくれたのかとおもいましたが?まさかハボット様、リエルちゃんの隣に居たいなんて変態さんみたいな事考えていた訳ではないですよね?」


「な、なんて無礼な奴だ!あ、当たり前だろう!?わ、私はただ――」


「オホンッ!!」


 ハボットとキャスの諍いが大きくなる前に、マルドゥクは大きく咳払いをしてその場を収める。


「あまりリエル嬢ちゃん達を待たせるのは失礼じゃろう。要件を聞かせてくれんかね?」


 その言葉を聞いたはずのハボットなのだが、彼は変わらずキャスを睨み、キャスも不敵な笑みを浮かべている。


「あ~、私からお話しさせて頂いても?」


 やれやれと言った様子でクラウスが口を開いてマルドゥクに確認をとり、彼もそれに頷く。


「まず、リエルさんは今朝、町の大通りで倒れていた冒険者達の事を知っていますか?」


「え?それってあたしが治療に関わった人達の事ですか?」


「おお。やはりリエルさんで間違いありませんでしたか」


「はい。随分ひどい怪我だったみたいで、近くにいた衛兵さんに協力を申し出たんです」


「ありがとうございます。私も報告だけ聞いたので確信がなかったのですが、従魔を連れた少女と聞いたので、この町だと該当する人物はリエルさんしか私は知りませんが、念の為確認させて頂きました。おかげで怪我をしていた者達は命に別状はありませんでした」


「それはよかったです」


「それで、その者達から詳しい事情を伺った訳ですが、どうやら、魔物に襲われたようなんですけど、その魔物っていうのが問題でして・・・」


 ここまで話してクラウスは少し言葉に止める。


「どうやら、その魔物というは誰かに使役されている可能性があるんだよ」


 代わりに口を開いたのはハボット。クラウスの話を聞いている間にキャスとは一時休戦となったようで、彼が事態を説明し始める。


「そう思われる理由は、冒険者達を襲った魔物は彼等の命より、持っていた荷物を奪う様な動きを取っていた事からだ」


「食べ物とかであれば魔物もそういった行動をとるのでは?」〖ミヤビならやりそうね?〗


 〖やらんわ!〗


「確かにその可能性はある。だが、その魔物共は明らかに食べられない剣や矢筒といった物まで口で銜えて持ち去っていったと襲われた者達は話しているそうだよ」


「魔物によってはゴブリンなどは武器を持ってたりしますけど、そういう事ではないんですか?」


「誰に使役されているのかは分かりかねるが、重要なのはその襲撃してきた魔物の種類で、被害にあった者の話では襲ってきた魔物は【魔狼種】、数は四体ほどだったという事だ。リエルさんが従えている従魔も、偶然にも【魔狼種】のようだが」


「つまり、あたしが怪しいんじゃないかと思っていると?」


「そんな事はない!君の様な可――いや、君の様な優しい子が、そんな悪事を働くなんて私は思っていない。とういかそんな事を言うやつがいたら唯じゃおかない!もし町でそんな言いがかりと付けてくる奴がいたら私を頼ってくれて構わないよ!そんな無礼な奴は牢獄へぶち込んでやろう!」


 ハボットは鼻息を荒くして、力強く言葉を口にしながらリエルの反応を待っている。


 〖なんぞ急に危ない事を言い始めたな。こんなのが領主で本当に大丈夫なのかこの町は?〗


 〖ミヤビ様と同意見です。それに、私達がリエル様についているのですから、そんな輩が居たら私がぶちのめしますので安心してください!〗


 〖ありがたいけど、ぶちのめしたらご飯抜きよ〗


「え~と?そうなると何の為にあたしに会いに来たんですか?」


「そうですよね~。リエルちゃんの事を疑ってないのなら態々会いに来た理由はなんなんでしょうね?」


「それは直接会っておい方がいいと思ったからだよ。事情を知らない者がリエルさんを見たら、先程ハボット様が言っていたようにリエルさんに変な言いがかりをつけてくる人が出てくるかもしれない。でも、私やハボット様が直接話を聞いたという事が町に広まればそんな輩から、リエルさんも要らぬ誤解を避けられるだろうからね」


「あぁ、成程。つまり表向きのアピールって事ですか~。なかなか気が利く事をしますね。少しだけ見直しました。少しだけ」


「その言い方は癪に障るがまぁいい。つまり、私がここに来たのはリエルさんの事をおも、思って・・・思っての事だという訳なんだよ。わ、わかってもらえただろうか?」


「はい、ハボット様。わざわざあたしなんかの為にありがとうございます。領主様ともなると色々大変なんですね」


「な、なに。私も従魔連れの少女がいるという話は小耳に挟んでいたからね。き、興味もあったからこうして足を運んだまでだ。気にする必要はない」


「それでも、頼りになる領主様でこの町の人は幸せですよ」


「そ、そうだろうか?それならいいんだがね」(ふあああぁぁ!!!?り、リエルさんが私を頼りにしている!頼りになる素敵な殿方だと認識しているという事か!?つ、つまり、彼女は私の事を――くふううううぅ!!!)


 リエルにとっては何気ない言葉を発したつもりだったのだろうが、ハボットは特大に意味を捻じ曲げて捉えているらしく、その感情は爆発しそうな歓喜に包まれていた。

 そんな事を知らないリエルはハボットの言葉に笑顔を返す。


 その笑顔を見たハボット。


 バゴンッ!!


 大きな音を立てて机に頭を叩きつける様に突っ伏してしまう。その様子に慌てクラウスが声をかける。


「ど、どうしたんですかハボット様!?や、やはり体調が悪いんじゃないですか!?」


「いや、多分別の事柄のせいじゃとおもうぞ・・・。なんというか残念な奴じゃな・・・」


 ハボットの事をよく知っているマルドゥクは呆れた様子でクラウスに言葉をかける。


「・・・変態です。やっぱりリエルちゃんに近づけるべきではないですね」


 マルドゥク同様、キャスもハボットの性格は知っているので、ハボットの様子をみて明らかな軽蔑の眼差しを送っている。

 理解の及ばないクラウスとリエル達は突っ伏したままのハボットに何が起きているのか分からずに、その様子を見ているしかなかった。


お疲れさまです。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


残念なイケメン。でも、こういう人いたら楽しそうですね。

もうちょっと続きを書きたかったのですが仕事が忙しくてここまでで。

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