50話 話し合い
誤字脱字は時間があるときに修正していきます。
自分正体を明かすべきかどうかを考えているリエルと、結論を待つマルドゥクとキャス。
「マスター。【魂の制約】ってなんですか?」
キャスは聞いた事が無い魔法の事を心配しているのかマルドゥクに疑問を投げ掛ける。
「【魂の制約】とは昔の呼び方じゃから、お前が知らんのも無理もないか。【遵守の楔】と言われている制約魔法の一種の事じゃよ。先ほどミヤビ殿が言っていたように最強と言っても問題ない効果を発揮する制約で、いくつか形式があるのじゃが、扱える者は国に一人か二人程度と言われている。ちなみに儂でも扱うのは無理な代物じゃよ」
「それはつまり、ミヤビちゃんはそんな魔法まで使える"何か"って事ですか。これはいよいよとんでもない話になってきた気がするのですが」
「まぁリエル嬢ちゃんが答えを出せばわかる事じゃろう」
ズズッと紅茶啜り、呑気にクッキーを口に運んでいるマルドゥクに、キャスは続けて質問をする。
「ちなみに私に拒否権はないんですかね?興味はありますが危ない制約はお断りしたいんですが」
「儂の右腕である以上諦めろ。これは命令じゃ」
「はぁ~。仕方ありませんね。その代わり、少しは私の行動にも目を瞑ってもらいますからね。そうじゃないと私もやってられません」
「全てとはいかんがある程度は譲歩してやろう」
その言葉を引き出せただけで十分だと考えたのか、キャスもそれ以上は何も言わずに、紅茶を飲みながらリエルの結論を待つ事にする。
それから少しして、答えが出たリエルが、真剣な眼差しでマルドゥクを見る。
「今から話す事は全てではありません。話せる――というより、あたしの持っている秘密をお見せします。勿論、詳しい詳細はお教えできませんし、見た物は秘密にしてもらいます。全てを話せないのは、あたしの家族ですら、隠している秘密のすべてを知っている訳ではないからです。それを初めて会った人に全て語る気には、あたしにはなれません」
「なるほど。肉親にすら話せない内容という事か。そんな話を無理して聞くような真似をして申し訳ないのぉ」
「それだけなら、あたしは制約の上で貴方達に見せてもいいと思ってますけど、どうしますか?」
「ふむ、なかなかこちらに不利な条件じゃが、現状ではそれがリエル嬢ちゃんが譲歩できる限界という事か。いいじゃろう」
「もともと私は拒否権がないみたいなので、リエルちゃんにお任せしますが、二つほど確認させてください」
「はい、なんでしょうか?」
「制約の内容は、私達がリエルちゃん達の秘密が公になるような言動の禁止という感じと考えて構いませんかね?今まで通り普通に接する分には何も問題と思っても?」
キャスが改めて確認してきた事に、ミヤビが答える。
「あぁ、それで構わん。制約の内容はそのままそれを使わせてもらおう」
「分かりました。それともう一つ。これから事態が変わる事があった場合、その制約は解除してもらえるんですよね?」
「どういう事ですか?」
「つまり、リエルちゃん達の隠している事が何かの切っ掛けで公になった場合などの時、私達に掛けられた制約は意味をなさなくなるじゃないですか?そうなった時に問題なく解除できるかどうかの確認ですね」
「それは問題ない。そうならないように気を付けているがな。もしその様な事態になったのであれば、必ず解除する事を約束するぞ」
「ありがとうございます。ならば!私から聞くことはなさそうですね」
「さて、こちらは問題ないぞ。お嬢ちゃんが何を見せてくれるのか、そろそろお願いしてもよいか?」
「制約が先じゃ。見てから同意を拒否されたら堪らんからな」
お互いの同意がなければ効果を発揮しない制約である以上、譲るつもりはないミヤビが口を挟む。
リエルが何を見せようとしているのか察しているミヤビだが、念のため確認をしてくる。
〖リエル。本当にいいのじゃな?〗
〖クラウスさんもここまでは知っているから、あたしはいいと思う〗
〖ならば、制約の儀を開始するが、先ほどキャスが言っていた内容でそのまま制約法陣を紡ぐが問題ないか?〗
〖ええ、お願い、ミヤビ〗
「では、制約を結んでもらう故、お主達もリエルの傍までくるんじゃ」
ミヤビはマルドゥク達に傍まで来るように促し、マルドゥクとキャスはそれに応じてリエルと向かい合うように、傍へと移動する。
「これでよいか?」
「うむ。では、契約を始めるぞ」
ミヤビは制約魔法の法陣を構築する詠唱を開始する。
ミヤビの使っている魔法言語はリエルには理解できない物であったが、その言霊が持つ力の強大さを感じ取ったマルドゥクは明らかな驚きを表情に見せている。
(これは古龍言語?たまげたな・・・。もしやミヤビ殿は龍神に何か関係がある存在という事か?儂の解析を弾くだけの力があるのは納得じゃな・・・。)
心中でミヤビの存在について思考を巡らせるマルドゥクは、これだけの存在を目の前の少女がどうやって従えているのか?そこにはどんな理由があるのかと、彼は年甲斐もなく好奇心で胸の中が満たされていく感覚を覚えていた。
《――この制約を違える振る舞いを取るならば、その命の光は、深淵より昏き氷獄にて安息なき重苦との魂の封縛を迎える。制約に異を唱える事なく遵守する事を、汝等に求める――》
マルドゥクがそんな事を思っている間にミヤビが詠唱を完了さたようで、リエル達を取り囲むように、魔法陣が展開される。
陣の中央、リエルとマルドゥク達の間の地面から、黒い石碑のような物が現れる。そこに血のような物で文字が刻まれていき、それが終わると石碑は光の粒子へと変化し、その魔法陣の中にいた者達へと吸い込まれていく。
すると、魔法陣も光を失い始め、ガラスが割れるようにその形を失う。
「これで制約魔法は完了した。今一度言っておくが、約束を違えれば終わり無き苦しみが待っておるからな」
ミヤビの脅しともとれる言葉を聞いたマルドゥク達だが――。
「いや~!いい物をみせてもらった!【遵守の楔】の中でも、かなり特殊な形式の様じゃったが、とんでもない魔力を秘めた物じゃったのぉ!」
「正直、これほどの魔法とは予想してませんでしたね~」
キャスは兎も角、マルドゥクの反応は予想と違う物が返ってきた。
「呑気な奴等じゃな。普通はもっと心配すると思ううじゃがな」
「何、誰かに話すつもりなぞ、内緒からない以上なんの問題もないから心配する必要もないじゃろ?」
「そうだとよいがな」
「さて、これでリエル嬢ちゃんも例の物を儂等にみせてもらえると思ってよいかな?」
「はい。そのつもりです」
そういうとリエルはマルドゥク達から少し離れた場所へと移動すると、静かに目を閉じる。そして次の瞬間、目を開け、真紅の瞳を露わにすると、室内の空気は一気に変化する。
リエルから流れてくる魔力の圧力は、周囲に設置されている椅子やテーブルなどを吹き飛ばしてしまうかの様に強烈な物で、視覚で捉える事ができるほどの濃密な魔力が止めどなく放出されている。
「これがあたしの秘密です。話せない理由が少しはわかってもらえたと思います」
静かな声で喋るリエルの言葉は、荒々しい魔力が充満する室内でも、かき消されることなくマルドゥク達の意識に響いてくる。
常人では到底ありえないような魔力を見せられた二人は、目の前の光景に息を呑む。
「そこまでで十分じゃ。魔力を抑えてもらってよいかな?この部屋は幾重にも結界が張られているが、嬢ちゃんの魔力を抑え込むには少々不安があるからのぉ」
マルドゥクの言葉を聞いた為か、リエルから放たれていた魔力は徐々に小さくなっていき、室内に広がっていた威圧的な魔力の波は緩やかになっていく。
完全に元の風貌を取り戻したリエルが目の前に姿を現すと、マルドゥクがおどけた様に口を開く。
「ふぅ。とんでもない娘っ子じゃな。この建物がぶっ壊れるかとおもったぞ」
「いや~。これはとんでもない物を見せられてしまいましたね~。こんな事になったのもマスターのせいですからね?」
「そうじゃな。これは正直予想外すぎた。全くもってとんでもない物を見せてくれたものじゃ」
「ふん。お主等が見せろと言い始めた事じゃ。知った事ではない」
辛辣な言葉を吐き出してそっぷを向くミヤビにマルドゥクは頭を書きながら言葉を返す。
「う~む。まだ怒っておるのか?ひどい言い方じゃな。それにしても、リエル嬢ちゃん達が悪意のある存在でなくてよかったという所じゃよ。暴れだしたら到底止められるかどうかわからん程の力じゃったからな」
「よくいう。そっちの娘とて、得体のしれない能力を持っている事を妾がしらんとでも思っておるのか?」
その言葉で、キャスの糸目がすっと開き、ミヤビを射抜く。
「なるほど~。やはりあの時感じた感覚は貴方の仕業でしたか。私に出所を掴ませないとは流石と言うべきなのでしょうかね~」
「詰まる所、それが特殊ギルド員とやらの実力という訳じゃな。妾のスキルを弾くほどの存在がどれだけいるかはしらんが、並の力ではないはずじゃ」
「まぁ特殊ギルド員の数は多くはないが、この子が並ではない事は確かじゃよ」
妙なところでお互いが相手の腹の内を探り合うような状況になってしまっているのを見かねて、リエルが割って入る。
「キャスさんが悪い人ではないのは知っているつもりなので、あたしは別になんだっていいです。それよりも確認します。あたしの秘密をお見せしましたが、マルドゥクさんはどうするつもりなのか聞かせてください」
「ん?別にどうもせんよ?興味があったから聞いただけじゃからな。リエル嬢ちゃんは今まで通り、ギルドで依頼を受けてもらってかまわんし、これからは儂等にできる事であれば協力するというのも嘘ではないぞ?無理に話を聞こうとしたのは儂じゃからな。信用できると分かってもらえれば、少しは心配もなくなるじゃろう?」
「確かにそれは助かりますけど・・・」
「他に聞きたい事はないか?」
マルドゥクの言葉にリエルは首を横に振り答える。
「いえ、大丈夫です」
「よろしい。では、こちらからお願いがあるんじゃが聞いてもらえるか?」
「なんですか?」
「なに、リエル嬢ちゃん達はさっきも言ったようにこれからも普通にギルド利用してもらって構わん。そこでじゃ、有事の際にできる限りで構わんから、手を貸して貰えればと思っておるんじゃがどうじゃね?」
「・・・内容次第なら構いません。ですか、最初に言った通りあたし達の秘密が明るみに出る様な恐れがある場合は難しいです」
「それで構わんよ。少しでも力のない者達の助けになってもらえるなら大助かりじゃ」
マルドゥクはリエルの答えに、髭を摩りながら笑っている。
その時、会議室の扉がノックされる音が聞こえて来る。続いて聞こえて来るのはベリンダの声だった。
「マスター、お取り込み中のところ申し訳ないのですが、お客様がいらしてますけど」
ベリンダに部屋の外から掛けられた言葉にマルドゥクは首をかしげる。
(誰かと会う約束はしとらん筈じゃが。はて?)
「すまんが席を外させてもらうが、少し待っていて貰えんか?」
「どうぞ」
リエルの了承を得て、マルドゥクが扉を開ける外へと出て行く。
「どなたでしょうね〜?リエルちゃんはどう思います?」
「あ、あたしですか?さ、さぁ?あたしには見当も付きませんよ?」
「お!いつも見ているリエルちゃんらしい反応ですね!それで良いんですよ!私にとってリエルちゃんはそれなんですから~。あの爺のせいで困った事になってしまって、私とリエルちゃんの関係が進展しなくなったらどうしてくれるんでしょうね~?」
先程までとの様子とは違い、いつもの振る舞いをしているキャスを見たリエル達も、自然と警戒心が薄れて行く。
「そうですね。いつまでも警戒していても仕方ないですからね」
「そう!その通りです!なので、これからも仲良くしてくださいね〜。うふふふっ」
いやらしい笑みを見せているキャスに笑顔で返すリエル。ミヤビはため息を付いている。
(わ、私の・・・私の事、皆さん忘れていないですよね?)
話には入れずに大人しくしていたナシタの心中は穏やかでは無かった。
各自がそれぞれ考えを巡らせてる中、再び部屋の扉が開かれる。扉を開けて現れたのはマルドゥクであり、何やら浮かない顔をしている。
部屋に入ると扉をしめて、申し訳なさそうに口を開く。
「あー、すまんな。突然で悪いのじゃが、リエル嬢ちゃん達に会いたいという者が着ておるんじゃが、その・・・」
何やら歯切れが悪いマルドゥクの様子にキャスも何事かと考え込む。
「あたし達にですか?それは構いませんけど・・・先程言った通り――」
「あー、大丈夫じゃ。嬢ちゃん達の秘密とかそういった話ではないから安心してくれ。もっと別の事が原因じゃから、直接関係はない」
「なんですかマスター?勿体ぶっていてもしょうがないと思いますけど」
「そ、そうじゃな。唯、少々性格に問題がある奴なんで、不快に感じるかもしれんが気を悪くせんでほしい」
何の事だかわからないリエルは間の抜けた声で返事を返す。
「はぁ。一体どんな方なんですか?」
「この町の領主を務めているハボット殿じゃ」
マルドゥクの口からでてきた人物の名前に焦りの声を上げるキャス。
「げ!ハボット様ですか!?あの変人がリエルちゃんになんの用があるんですか!?だめですよ!リエルちゃんは私のです!」
「いつ、嬢ちゃんがお前の物になったんじゃこの馬鹿者!勝手な事を言っとる場合か!それにハボット殿が変人なのは否定せんが、もっと言い方があるじゃろう!」
「駄目です!あの変態をリエルちゃんに近づけたら何をするかわかりません!」
二人のやり取りを見ていたリエル達は、そのハボットという人物がとんでもない人だという事は何となく理解する。
〖今日は色々と面倒な事がよう起こるな。しかも来ている者は話から察するに相当に印象は悪い〗
〖そうですね!わ、私もミヤビ様の仰る通りかと思います!〗
〖どうしたのナシタ?急に大げさな反応して〗
〖い、いえ?そんなに大げさでしたか?し、失礼しました〗
〖でも、変人だとか、へ、変態だとか言われてるけど、そんな人があたし達に何の用なんだろう?〗
〖さぁのぉ?皆目見当が付かんな。まぁあの様子では拒否する事はできんのではないか?〗
ミヤビは顎をしゃくり、激しい言い合いをしているマルドゥクとキャスを見る様に促す。リエル達の視線に気づいたのか、キャスはマルドゥクから顔を背けてふくれっ面を見せており、マルドゥクはため息を付きながらリエル達へと向き直る。
「あー、すまんな。それで、こちらにハボック殿を連れてきてもよいかな?」
「さっき言った事を変える気はないです。何か事情があるのでしょうから」
「そうじゃな。ハボック殿は悪い人ではないのでそこは安心してくれ。それじゃ、こちらに連れてくるぞ」
そういうとマルドゥクは再び部屋からでて、外にいるハボックを呼びに行くのだった。
お疲れ様です。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。




