49話 ギルドマスターとリエルの秘密
誤字脱字は時間が取れた時に修正します。
騒がしい夜から一夜明けた次の日、朝からリエル達の姿は食堂の一角にあった。
その傍にはメルヴィンの姿もあり、昨日の件で話をしている。
内容はコロッケが思わぬ形で知れ渡ってしまった事の謝罪と、このレシピを他の店にも教えてあげたいという頼みだった。
「あたしは構いません。別にあたし達が考えた料理という訳ではありませんし、こんなに美味しい料理がいろんな場所で食べられる様になるなら願ったり叶ったりですよ」
「そうですね。出来上がったものを食べて見たら私も驚きましたよ。ですが正直これで完成とは思っていません。なので、たくさんの料理人に協力してもらってより完成へと近づけられたらとおもいまして、レシピの共有を考えた訳です」
「あれで完成じゃないんですか?あんなにおいしいのに」
「どうやら【ころっけ】にはソースをかけて食べるのが本当の食べ方みたいです。残念ながらソースのレシピは載っていなかったので完全な手探りになりますけど、挑戦する人が増えれば完成も早いと思いますからね」
「楽しみですね。あたしはそれに文句を言うつもりはありませんから、メルヴィンさんにお任せしますよ」
「ありがとうございます。あ、このノートはお返ししますね。正直他のレシピにまで手を付けていたら【ころっけ】の完成は無理でしょうからね。いい物をありがとうございます」
メルヴィンからノートを受け取ったリエルは、会話を切り上げて、朝食を摂った後宿舎をでると今日もギルドへと向かう。
〖リエルよ、いつまでこの町にいるつもりなんじゃ?〗
〖そうね。あんまり長くいると町を離れづらくなるから、今日依頼を何か終わらせたらどうするか考えましょう〗
〖リエル様の旅の目的は一体なんなのでしょうか?教えて頂いてもかまいませんか?〗
〖確かにナシタは知らなかったわね。あたしはお父さんに会いに行く為に旅を始めたのよ。まぁどこにいるのかはわからないんだけどね〗
〖なるほど、お父上に会いに行く為ですか。ですが、リエル様のお父上となると魔界の王の一人なのでしょう?なぜリエル様はこの世界にいるのですか?〗
〖あたしのお母さんは普通のエルフだからよ?お父さんとどこで出会ったのかもわからないけど、お母さんの残した地図を頼りに町を回ってるって訳。まぁお母さんが見た世界を見てみたいっていうのも旅の理由の一つなんだけどね〗
旅の目的を説明しながらギルドへと歩いていくリエル達は向かう先に人集りが出来ているのを目にする。
〖何かしら?〗
〖何でしょうね?〗
〖ふむ、何やら騒がしいのう。行ってみるか?〗
興味が引かれたリエル達はその人混みに近ずいていく。
そこに居たのは怪我をして倒れている男が二人とそれを介抱している衛兵の姿があった。
〖喧嘩かしら?〗
〖倒れている人間は随分とひどくやられてますし、喧嘩にしては少々物々しい感じがしますが――〗
〖どうやら違うみたいじゃぞ?あの男の怪我は鋭利な爪でつけられたと思われる物や噛み傷が目立つ。恐らく魔物と遭遇して、ここまで逃げてきたと言ったところではないか?〗
〖考えていても仕方ないわね。倒れてる人の怪我も不味いみたいだし、手を貸しましょう〗
〖言うと思ったぞ。全く厄介ごとにすぐ首を突っ込もうとするのはどうかとおもがのぉ〗
人混みをかき分けて進むリエル達は、怪我をしている男達の元にたどり着くと側にいた衛兵に声をかける。
「お邪魔でなければ手を貸しますよ。あたし、治療魔法が使えます」
「助かります!手持ちのポーションでは応急処置が精一杯で困っていた所でして。少々危ない状態なので是非お願いします」
衛兵はリエルに場所を空けると治療をお願いする。怪我した男の元に腰を下ろすと、リエルは傷を確認しながら治療魔法をかけ始める。
「一体この人達、どうしたんですか?」
「すみません。私も住民から人が傷だらけで倒れていると連絡を受けてやって来たもので、詳しい事はまだ何もわからないんですよ」
どうやら原因は分からないようなのでそれ以上質問するのをやめたリエルは、目の前の男の怪我を治す事に専念する。
【グランヒール】の治療効果でみるみる傷が回復していくのを見ている周囲の野次馬は、少女が使っている魔法の効果に驚き、少しざわついている。
〖リエル。その辺で大丈夫じゃろう。騒ぎが大きくなってくると面倒じゃからここから離れるぞ。詳しい事は後でクラウスにでも訪ねてみればわかるじゃろう〗
〖わ、わかったわ〗
「これでこの人は大丈夫だと思います。それじゃ、あたし達は行きますね。お勤めご苦労様です」
「はい!ご協力ありがとうございました!」
衛兵に挨拶をしてから、リエル達は足早にその場を離れる。
ギルドまではまだ距離がある為、歩きながら今日一日どうするかを考えているリエルに、ミヤビが話掛けてくる。
〖先ほどの男の傷、近くで確認したがやはり魔物に襲われた痕で間違いないじゃろうな。一匹や二匹という感じではなかったから群れと遭遇して不覚を取ったといった所じゃろう〗
〖魔物の群れって。そういえばこの町に来るときにもゴブリンの群れに遭遇したけど、そんなに頻繁に群れで移動する事なんてあるの?〗
〖それはなんとも言えんな。【魔狼種】や【亜人種】なんかは社会性が強いため、群れによる行動が多いが、別に単独で行動しない訳ではないし、普段は単独で行動する魔物でもどういう訳か群れで現れる事だってある。ある程度の傾向というのはあるが、それが絶対という事はない〗
〖へ~。それだと立て続けに群れが町の近くに現れても別におかしいって事はないのね〗
〖群れの場合はそれを統率する者がいる事が多いのじゃが、その個体は大体特殊な個体である場合が多い。あのゴブリンの中にも一匹【ゴブリンリーダー】が混じっておったが、所詮ゴブリンじゃから大した違いはないがな〗
そんな話をしながら数分、そろそろ通いなれてきたギルドへと到着する。
いつもの様に中へと入っていくと、何やら少し騒がしい様子が見て取れた。
取り敢えずリエル達は掲示板の前へと向かうと、依頼に目を通し始める。
「あら、リエルさん。調度よかったわ」
「ベリンダさん?」
受付からリエルに声をかけてきたのはベリンダであった。リエルは受付のベリンダの元まで歩いていくと言葉を返す。
「調度よかったというと?」
「今朝早くにギルドマスターが帰ってきたんですよ。キャスがリヴルの森の件を報告したのが切っ掛けみたいですけど、戻ってくるやいなや、二人して会議室に閉じこもってしまっているので、こっちは人手不足で大変なんですよ。大体キャスの奴、仕事中だっていうのに――」
愚痴を言い始めるベリンダと、話が見えてこないリエル。そうこうしている間に会議室からキャスがゲンナリとした雰囲気で現れる。
「あ、キャスさん。でてきましたよ?」
「――って、あら。どうしたのかしら?」
愚痴を言い続けていたベリンダも、リエルの言葉でキャスの方を見るが、いつもと様子が違う事に気づく。
「キャス?どうしたの?」
「あ~・・・ベリンダさんですか。それと――っ!」
リエルの姿を確認した途端、キャスは目にも止まらぬ速さで駆け寄るとベリンダの横へとやってくる。
「いや~リエルちゃん!私に会いに来てくるとは何ていい子なんでしょう~!リエルちゃんの姿を見たらあの爺の小言なんて吹き飛んでしまいますよ~」
説教をされていた事を察したベリンダは、ため息を付きながらキャスを窘める。
「あんた、それマスターに聞かれたらまた説教部屋行きよ」
「おっと、失礼しました。つい興奮してしまいまして。内緒にしてくだしゃびっ!?」
「誰が爺じゃ!この大馬鹿者が!」
突如後ろから何かで頭を小突かれたキャスは、聞いたこともないような声を出し、頭を押さえながらしゃがみ込んでしまう。
その後ろにいたのは立派な髭を生やし、手には簡素ではあるが、作りの良さそうな杖を握っている老人だった。
「目を離すとすぐこれじゃ。全く、特殊ギルド員としての自覚が全然足り取らんな!しかも儂の事を爺とはなんて言い草じゃ!やはりまだ説教が足りんようじゃな!?」
(特殊ギルド員?なんじゃろうな?)
老人の口から出た一つの言葉に反応するミヤビ。キャスが普通ではないのは前々から感じてはいたが、やはり何か特別な存在であるという確信をする。
キャスへ小言を言い始めた老人を見たべリンガが恐る恐る声をかける。
「あ、あの~、マスター?」
「なんじゃ!?」
「い、いえ。コホン。こちらがミノタウロスの件でお話ししたリエルさんです。取り敢えずキャスの事は置いといて、マスターは聞きたい事があると仰ってませんでしたか?」
「なに?この娘っ子が?」
老人はリエルを見て、そのまま流れる様にミヤビとナシタへと視線を動かす。するとその眼は険しい物へと変わっていく。
「ふむ。ここではなんだな。娘っ子、悪いが話が聞きたい。会議室まで一緒にきてもらえんか?」
「え?は、はい。大丈夫ですけど」
「よし、ならばついてきてくれ。キャス!上等な紅茶とお茶請けをもってきなさい。それとベリンダ。しばらく会議室には他の者は入れんようにしてくれ」
「わかりました」「はいはい、了解しましたよ~。―――に・・・あいたっ!?」
「聞こえとるわ!この馬鹿者!」
小さく何か呟いていたキャスの頭に再び杖が振られる。とばっちりを恐れたベリンダはその場を離れて仕事を再開する。
老人に連行されるように会議室へと連れていかれたリエル達は、広い部屋に設置されている椅子の一つに腰を降ろすと、老人もその正面に位置する場所へと腰かける。
「さて、まずは自己紹介をさせてもらおう。儂がこの町の冒険者ギルドの責任者、マルドゥクじゃ。お主の名前はリエルであっておるか?」
「はい。よろしくお願いします」
「うむ。礼儀正しい娘じゃな、感心感心」
顎鬚を撫でながら笑っているマルドゥクは、先ほどと同様にリエル達を観察するように見ている。その直後、ミヤビがマルドゥクが行っている行為に怒りを露わにする。
「貴様、誰の許しを得て妾を品定めしておるんじゃ!?無礼な人間めが!」
「ちょ、ちょっとミヤビ!?」〖ミヤビ様!?〗
「ほうほう、やはり言葉を理解しておるか。まぁそれくらいはできても当然か」
「弁解する気はないわけじゃな。ならば覚悟はできとると取るがかまわないな?」
「それは困るので謝罪しよう。申し訳なかった。儂でも得られる情報が僅かでしかないとは驚いた」
ここでリエルとナシタは、マルドゥクが何をしていたのかを理解する。
マルドゥクがリエル達に使ったスキルは解析スキル。自分の情報を無断で調べようとしている事に気づいた為、ミヤビは敵意を向けたのだ。
「貴様・・・どうやら口で言ってもわからん見たいじゃのう?」
「ミヤビ!落ち着きなさいよ!あんただって勝手に人の事盗み見たりするでしょ!」
「それとこれとは別じゃ!放っておく訳にはいかん!」
「だ、だめよ!ここで暴れたらもう美味しい物も食べられなくなっちゃうわよ?いいの?」
「ぐっ。し、しかしだぞ!?このまま何もしないでいたらリエルにとってもデメリットでしかないんじゃぞ!?」
納得できないミヤビを何とか宥めようとしているリエルであるが、マルドゥクは髭を摩りながらそれを他人事のように観察している。そこへ会議室の扉がノックされる音が響き、気づいたリエル達は口を閉じると次に姿を現したのはふくれっ面をしたキャスであった。
「はいはい~、お茶とお菓子をもってきましたよ~。おや?何やら揉めているみたいですね~?どうです?そのおじさん?失礼極まりないでしょう?」
「キャス。さっさとお茶をお出ししてお前も席に着け。面白い物がみれるぞ」
「はい?何ですか面白い物って」
事情が分からないキャスは全員の前へお茶を置くと自分も椅子へと腰かける。
「さて、改めて謝罪させてもらおう。失礼な真似をして申し訳なかった。ギルドの責任者として知っておかねばならん事だった為、どうか許してほしい」
黙っているミヤビの代わりに口を開くリエル。
「それはわかりましたが、あの・・・」
「あぁ、キャスの事なら構わん。こいつは大丈夫だから安心してもらっていい。儂も別に君達の事を公にするつもりはない。それで聞かせてほしいんじゃが――」
「ミノタウロスの件ですか?」
「違う。その話はキャスから報告を受けておる。儂が知りたいのはお嬢ちゃんの正体じゃよ」
その言葉に心臓が大きく跳ねた様な感触を受けたリエル。
「な、なんですか?正体って?あたしはただのハーフエ――」
「唯のハーフエルフであればこんなことは言わんよ。どうか儂を信用して話てくれんか?」
その言葉を聞いたリエルは、普段他人には見せた事はないような強い口調で口を開く。
「仰っている意味がわかりません。仮に何か秘密があったとして、初めて会った人を信用しろと言われてもそれは無理な話ではないですか?まして、断りもなく相手の情報を知ろうとする人間であればなおさらだと思いますけど」
〖そうじゃ!いってやれリエル!〗
「マスター。また勝手に解析の能力で情報を盗み見たんですか?それはどう考えてもあなたが悪いです」
「う、確かにそうなんじゃが、儂の立場上、冒険者の情報はある程度知っておかないと有事の際に困るんじゃよ。解析の能力を使った事は悪かったと思うとる。許してはくれんか?」
「あたしは気づかなかったし、ミヤビが反応しなければバレなかったと思いますのでその件は別にいいですが、やはり信用しろと言われても難しいです。これは相手がマルドゥクさんだからと言う訳ではなく、そう簡単に人に話せるような内容ではないからです。逆にお聞きしますけど、なんであたし達の秘密が知りたいんですか?」
「単純に興味があるという理由ではダメか?それにミヤビ殿といったか?そっちの従魔も先ほどの様子もだが、解析で分かった情報だけでもおかしな点が多すぎるからな」
「ミヤビの何処がおかしいんですか?」
「人語を理解して扱っている点と解析の結果、何も分からなかったという点じゃな。【フォックスウルフ】であるなら、儂の解析を防ぐなんて無理じゃよ。普通ならな?」
マルドゥクの言葉に少し驚いた様子のキャス。
「ミヤビちゃんって言葉を話せるんですか?」
「・・・どうせそこの男に聞かされるじゃろうから隠していてもしょうがあるまい」
「うわっ!本当に喋ってますね」
「ごめんなさい、キャスさん。あたし達の事情で、あまり公にする訳にはいかないのでこの事は内密にお願いします」
「ええ、それは勿論です。リエルちゃんが困るのであれば私はそんな真似はしませんのでそこは安心してもらっていいですよ。そうなると私もリエルちゃんの事情っていうのに興味が沸いてきましたね。どうしても話してもらえませんか?」
「無論、その事は儂とキャスだけの秘密にしておく。何か手助けが必要であればできる限りの協力を約束しても構わん。それでは釣り合わんか?」
「別に見返りを求めている訳ではないんですけど――」
リエルは考える。この人達が自分の秘密を知ってしまったらどうなるだろうかと。そこでミヤビが言葉を発する。
「お主等は約束を破ったとき、命を落とす覚悟があるか?」
「なんじゃって?」
「妾達の秘密をしり、その秘密を口外した時に命を落とす事になっても話を聞きたいかと聞いておる」
「構わんぞ?元々口外するつもりなんてさらさらないからのう」
「どうするつもりなの、ミヤビ?」
「魂の制約を結ばせる。約束を違えればその命はたちまち冥府へと飲み込まれる最強の制約魔法。解除するにはお互いの同意が必要不可欠であり、片側だけでは絶対に解呪できない呪いの様な物じゃ。つまり、契約さえ結べばお主の事が他に漏れる事はない。それに、これから先、ある程度の伝手はあった方がいいのは確かじゃと妾は思う。どうするかは任せる故、後はお主が決めるがいい」
ミヤビの説明を受けて、リエルはどうするかを再び考え始める。その答えを待っているマルドゥクとキャスは、意外にも呑気にお茶と運ばれてきたクッキーをそれぞれ口にしながら待つのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。




