48話 町の中を散策
誤字脱字は気づいたときに直していきます。
のほほん回です。
〖うーむ。いい香りが漂ってくるのぉ。まだかのぉ〜〗
パタパタと尻尾を振っているミヤビの姿にご機嫌の様子のシエラ。
「ミヤビちゃん撫でられて嬉しそう!リエルお姉ちゃんもそう思うでしょ?えへへ」
「そうね。ミヤビも構ってもらえて嬉しいみたい」
ミヤビの言葉が聞こえているリエルは“食べ物の事しか考えてないよ”なんて言える訳もなく、その様子をナシタと眺めながら寛いでいる。
〖意外と従魔は人に怖がれていないのですね。てっきりもっと敵意を向けられる物かと思っていたのですが〗
〖そうね。あたしも初めてミヤビを連れてこの町に入った時は色々と起きると思ってたけど、入ってみればそんな事もなく安心したわ〗
〖この子供が特別という訳では無いのですね〗
ナシタはまだダンジョン核に生み出されてから間もないため人の町の知識など全く無い。その為、自分が原因でリエルに問題が起きないか不安だったが、それも杞憂に終わる。
「お待たせしました。ご注文の料理を持ってきましたよ」
そこへメルヴィンが料理を持って姿を現わすと、ミヤビはシエラの手を離れて、リエルの元へと向かって来る。
テーブルの上に料理を置くと、ナシタに目を向ける。
「こちらが新しい従魔ですね。ナシタちゃんで良かったですかね?私はメルヴィンっていうのでよろしくお願いしますね」
律儀にナシタへ自己紹介するメルヴィンの意外な行為に、ナシタは少し驚きながら軽く鳴き声を上げて了解の意を示そうとする。
それをメルヴィンも察したのかナシタへ頷いている。
うるさいミヤビの前に運ばれてきたプレートを置いて、もう一つをナシタの前に同じ様に置いてあげるリエル。
ミヤビは直ぐに食事に口を付け始め、それをみたナシタもリエルへと一度視線を返して、リエルが頷くと、恐る恐る料理に口を付ける。
一口食べるとナシタの尻尾がピンっと上がり、そのまま料理を頬張り始める。
「ナシタちゃんにも気に入ってもらえましたかね?」
「そうみたいですね」
「それにしても、ミヤビちゃんといいナシタちゃんといい、とても賢いですね。綺麗に味わってるような仕草で食べているのを見ると、とても魔獣とは思えませんよ」
「食い意地が張ってるだけですよ。それでメルヴィンさん。話ってなんですか?やっぱりあのノートの事ですか?」
「おっと、そうでした」
ミヤビ達の食べっぷりを見ていたメルヴィンが思い出したかの様に、リエルの言葉に反応する。
「あの後、何度か【ころっけ】を試してみたんですけど、結構うまくいきそうな感じなんですがね?"揚げ物"という料理らしくて、調理法自体はそこまで難しくはないんですけど、【ころっけ】という料理自体も初めて聞く物なのでなかなか苦労していますよ」
リエルも料理に手をつけながらメルヴィンの話に耳を傾ける。
「大量の油で"アゲル"という調理法自体は先ほども言ったように難しい話ではないとおもうんですけど、この【ころっけ】の場合、温度の問題だとおもうのですけどタネが油の中で破裂してしまって結構難しいです」
「材料自体の問題はないんですか?」
「恐らくですけど。なんでもこの【ころっけ】という料理はタネの種類がたくさんあるみたいで、私が試しているのは肉と芋で作ったタネを使うんですけど、【ころっけ】の中には肉だけの物やチーズなんかもいれたりするみたいで、かなりバリエーションに飛んだ料理みたいですね。基本ができればいろんな物が作れそうなので、今から私も楽しみですよ」
「ミヤビも楽しみにしているみたいですよ」
「任せてください!油の温度を変えながら試行錯誤してみますよ。恐らく夕食には試作品をお出しできるかもしれませんから楽しみにしてもらって大丈夫だとおもいますよ!早速、厨房に戻って【ころっけ】に挑戦してみますよ」
「上手くいくといいですね」
「それじゃ進展具合のお話もこれくらいにして私は厨房へ戻りますね。時間を取らせてしまって悪かったですね。どうぞごゆっくり食事を楽しんでいってください」
そういうと足早に厨房へと戻っていくメルヴィンとそれに付いて行くシエラを見送り、リエルも食事に集中する事に努める。
〖なかなか期待できる話をきけて、妾も満足じゃ。これは夕食が楽しみじゃ。それで、これからどうするんじゃ?〗
〖そうね。揚げ物料理も気になるけど、少し町を回ってみようと思ってるんだけどどうかな?〗
〖よいと思うぞ?まだこの町は見ていない場所が多い。何か面白い物があるかもしれんからな〗
〖もぐもぐ・・・〗
これからの予定を考えているリエルとミヤビを他所に、料理を楽しんでいるナシタ。
〖ナシタもここの料理、気に入ったみたいね?〗
〖もぐもぐ・・・。はぐっ・・・もぐもぐ・・・〗
〖だめじゃな。飯に夢中のようじゃ。まぁわからんでもないが従魔としては主の言葉はしっかり聞くべきじゃとおもうがな〗
〖いいわよ別に。ご飯くらいゆっくり食べさせてあげましょう〗
そこで自分が呼ばれていた事に気づいたナシタが顔をリエルに向けて反応する。その様子に軽く笑みを返してリエルも食事を再開する。
食事を食べ終わり、エイダが持って淹れてくれた、香ばしい香りのする食後のお茶を飲みながら、チェストリングの中を確認したりとのんびりしているリエル。
〖そういえば気になった事があるんだけど、ミヤビは人の姿の時でも服を着ているけど、それって魔法で作り出しているの?〗
〖そうじゃが、それがどうかしたか?〗
〖ナシタが人化の術を使った時にその・・・服を着てなかったから、ミヤビの人化の術との違いって何なのか気になったのよ〗
〖ふむ。そうじゃなー。人化の術は使い慣れてくれば人に化けるのと同時に着衣をある程度、自分の魔力で生み出す事ができるようになる。そこは自身の知識とイメージを具現化する魔力操作の精度によるが、ナシタも慣れれば素っ裸で人の姿を取る事もなくなるじゃろう〗
〖お任せください!必ず使いこなして見せます!〗
〖そ、そうね。そうだと助かるわ〗
疑問も解消されたリエルはお茶を飲み終えると、食堂のカウンターに食事代を払い、宿の外へとでる。
リエル達はそのまま街の中を色々見て回りながら必要な物が売っていそうな店を探す。
リエルが探しているのは鍋やフライパンといった調理用の道具である。
〖母君の道具を使えば良い物を。調理器具にしてもわざわざ新しいものを用意しなくても良いのでは無いか?〗
〖そうなんだけど、ただ調理器具はあたしの体だとちょっとお母さんが使ってた物は大きくてね。だからちょうどいい物があればそれがほしいかなって思ったんだけど〗
チェストリングの中には、生前母親の使っていた道具も残っているのだが、使い方がわからない物や自分で使うにはちょっと問題があったりする物もあり、少々考えた結果、新たに自分の目で確認して必要な物を買い揃える事にしたリエル。
街の中を歩きながらちょうどよさそうな店を発見したリエル達は、その店へと入っていく。
店の中を見て回りながら、手持ちの資金と相談しつつ商品を手に取り、そこで調理道具を見繕うと、代金を払って店を後にする。
〖色々あって便利なお店で助かったわ〗
〖必要な物が集まったのならよかったな。しかし街の中を散策するにしても情報がほしくなるのぉ〗
〖う~ん。確かにそうね。毎回お店の中に入るのも時間が掛かるものね。宿でカレンさんにでも町の事とか聞いて来ればよかったわね〗
〖そうじゃな。まぁ失敗の結果は別の形で生かせばよかろう。そこで一つ、妾としては気になっている場所があるのじゃが行ってみる気はないか?〗
ミヤビの意外な提案に耳を傾けるリエルとナシタ。
〖私は町の事はわかりませんので、リエル様に従います〗
〖あたしは別に構わないけど、どこに行きたいの?〗
〖それはじゃな、魔術師ギルドとやらに少々興味がある。町に来るときに出会った冒険者がおったじゃろう?其奴等がいっておった魔法の教本とやらが少し見てみたい。それにリエルにとっても為になるかもしれんからな〗
〖そういえばそんな事言ってたわね。断る理由はないし、早速行ってみましょうか。でも場所がわからないから――ギルドでキャスさんにでも聞いてみましょう〗
リエルの言葉に二匹は頷くと、ギルドへ向かって進路を取るリエル達。ギルドに向かう途中、いつものサンドイッチを売っている屋台を見つけたので寄っていき、いくつか購入してチェストリングへとしまい込むリエル。
そしてギルドへ到着すると中へと入っていく。
受付からリエル達の姿をいち早く確認したキャスが声をかけてくる。その声に答える様にリエル達もキャスの元へと歩いていく。
「こんにちわキャスさん」
「は~い、リエルちゃん。何か御用ですか~?」
「ちょっと道を聞きたいんですけど、魔術師ギルドって何処にあるんですか?」
「おや?魔術師ギルドですか?口頭で説明するのもいいですけど・・・そうだ!せっかくなのでリエルさんに納品して頂いた依頼の品を届けにいくついでにご案内しますけどどうです?」
「じゃーお願いします」
リエルの話を聞いたキャスは、すぐに近くの職員へ受付の仕事を押し付けると、そのまま奥へと向かい、少し大きめの包みをもってリエル達の前に戻ってくる。
「それでは一緒にデートですね。うふふ。行きましょう!」
何やら上機嫌のキャスの様子に少し身構えてしまうナシタ。ミヤビもどうやらキャスが苦手らしく、少し距離を取っている。そんな二匹を他所にリエルとキャスはギルドの外へと向かい歩き出す。
「それで?魔術師ギルドへはどんな御用なんですか~?」
歩きながらリエルへ質問をするキャス。
「なんでも魔術師ギルドでは魔法の教本を扱っていると聞いたので、興味があったので見に行こうとおもったんです」
「あ~なるほど。確かに入門用の簡単な物を販売していますけど、リエルちゃんはそんな物必要ないのでは?ゴブス相手に使っていた【エアバレット】にしても大分おかしな威力でしたからね~」
「そ、そうですか?」
「えぇ、そうですよ~?本気でリエルちゃんがゴブスと戦っていなかったのはわかってますけど、あの威力は正直驚きましたからね~。クラウスさんと話している様子も少し妙でしたし、リエルちゃんって一体何者なんですか~?お姉さんはとっても気になります」
何やら話がまずい方へと進んでいるような気がしてきたリエルは何とかごまかそうと考える。
「や、やだなぁ。あたしは唯の小さな村で生まれ育ったハーフエルフですよ」
「そうですか~残念ですね~。まぁリエルちゃんの秘密がいつか聞ける日が来る事を楽しみにしてますよ。うふふ」
「あ、あはは・・・」
リエルを見ながらニコニコと笑っているキャスであったが、その表情の奥底にある何かは恐らく別の物なのだろうとミヤビは感じ取っていた。
ナシタも同様、キャスの不気味な気配を本能が察知したのか、リエルの傍を離れる事なく歩いている。
「さぁ着きましたよ。こちらが魔術師ギルドです」
到着した建物を見ながらリエルが口を開く。
「外見はギルドと違ってそこまで目立つ作りではないんですね。予想より普通です」
「まぁこちらに来る人はそこまで多くないですからね。さ、中に入りますよ」
キャスはすたすたと建物の中へと歩いていき、その後ろを慌ててリエル達も続いていく。中に入ると薬品の匂いなのか少し変わった匂いが鼻へと入ってきて、リエル達は思わず顔をしかめてしまう。
〖く、臭い!?なんですかこの匂いは!?は、鼻が!〗
〖確かにこいつはきついのぉ。妾達は外で待っていてもかまわんかリエル?〗
〖あたしでも結構匂うと感じるんだから二人は相当なんでしょうね。外で待ってて〗
〖い、いえ!私は御傍でリエル様をお守りします!〗
〖ではナシタに任せて妾は外で待っておる故、手早く頼むぞ〗
そう告げるとミヤビは踵を返して外へと出ていく。その気配を察知したキャスが振り返ると口を開く。
「おや?ミヤビちゃんはどうしたんですか?」
「どうやらこの匂いがダメみたいで、入り口で待ってるそうです」
「あぁ~。確かに、この町の魔術師ギルドは錬金ギルドと建物を共有してますからね。きっとそのせいだとおもいます」
「錬金術ギルドですか。この匂いは薬を作っている匂いって事ですか?」
「そうですね。ポーションや医療用の薬などですね。この町の規模では魔道具などを作る設備はないので主に作っているのはそっち系の薬剤などですけど」
受付へと向かいながら軽く解説してくれるキャスに続くリエル。やがて受付に到着すると椅子に座って何かを見ている男性に声をかける。
「こんにちわ~。冒険者ギルドから依頼の品を届けにまいりました」
「あれ、キャスさん?珍しいですね、あなたが来るなんて・・・ん?そちらの方は冒険者ですか?従魔を連れているとは珍しい」
「はい、新人冒険者で私のお気に入りのリエルさんです。従魔の方はナシタちゃんですね。本当はもう一匹いるんですけど、この匂いに我慢できなかったみたいで入り口で待っているみたいです」
「ははは。確かにこの匂いは鼻のいい方には耐えがたい物でしょうね。それでは品物をお受け取りしても?」
「はい。こちらですね」
キャスが包みをカウンターの上に置き、男性はそれを受け取ると包みを開いて状態を確認している。
「それはですね~、こちらのリエルさんが集めてくれた物なんですよ~。状態もかなりいい物だと思います」
「確かに、なかなかの魔素を含んでいるいい物ですねこれは。量も申し分ありませんし。いい仕事をありがとうございます、リエルさん。助かりましたよ」
「い、いえ。お役に立ててよかったです」
「いや~、しかしいい品ですね。これならいいポーションが作れますよ。もしやリエルさんは薬草学の知識もお持ちなのでは?」
「小さい頃お婆ちゃんに薬草について色々と教えてもらったので、それなりにですけど心得ているつもりですけど」
「そうですか。そのお婆様も随分立派な方みたいですね。ここまでしっかりとした摘み方を学ばせている辺り大したものですよ」
「お話し中に申し訳ないのですが~。受け取り完了の伝票に署名をお願いしてもよいですか~?」
「ああ、すいません。いい仕事を見せてもらってつい。・・・はい、これで問題ないですね。キャスさんもご苦労様です」
「いえいえ~。またよろしくお願いしますね~。それでは私はこれで失礼しますね~」
キャスはリエルに笑顔で手を振るとギルドへと帰っていく。残ったリエルは男性に喋りかける。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、魔法の教本っておいてありますか?」
「ええ、初級の教本になりますけど大丈夫ですか?」
「はい、それで結構です」
「では、お持ちしますので少々お待ちください」
男は立ち上がるとカウンターの一角にある本棚へ向かい教本を手に取り、リエルの元へと戻ってくる。
「こちらですね。銀貨五枚になりますけどよろしいですか?」
「はい。・・・これでいいですか?」
リエルは銀貨を五枚取り出し、男性へと手渡す。
「はい、確かに頂きました。リエルさんは冒険者とお聞きしましたが、ランクは今どれくらいなんですか?」
「まだ日も浅いので一番低いFランクですけど、どうかしましたか?」
「ランクが高い上位冒険者になれば、中級、上級の魔法書や、古代魔法に関する文献も閲覧できるようになりますから、がんばってくださいね。リエルさんからは何か底知れない物を感じるので、魔術師ギルドとしても気になりますからね」
その言葉に内心焦っているリエルであるが、流石にこの展開にも慣れてきたのもあり、その返しに同様はなかった。
「ははは、そうだといいんですけどね。取り敢えずその事は覚えておきます。では、入り口で従魔も待っているのでこの辺であたしも失礼します。お世話様でした」
「はい。またいらしてくださいね」
リエルは受付の男性にお辞儀をして、ギルドを出る。入り口で待っていたミヤビがそれを見てゆっくりと起き上がるとリエルの元へと歩いてくる。
〖どうじゃ?目的の物は手に入ったか?〗
〖ええ、大丈夫よ。それと冒険者ランクが高ければ古代魔法とかに関する資料も見せてもらえるそうよ?〗
〖ふむ、まぁ其方に関しては追々じゃろうな。興味はあるが今必要な物でもないしな〗
〖意外ね。ミヤビなら飛びつくと思ったんだけど〗
〖リエルよ。妾は生きてきた時間が遙かに長い。古代の魔法といっても大して真新しい情報はないと思わんか?〗
〖そういえばそうだったわね。どうもミヤビは子供っぽい所があるから、長い時間を生きてきたって事を忘れちゃうわね〗
〖む?なんじゃ?馬鹿にしとるのか?失礼な奴じゃな〗
〖違うわよ。あたしとしては一緒にいて話しやすいから助かってるって事よ〗
〖わ、私もいますよ!リエル様!〗
〖ナシタはなんか話し方が畏まっててなんか慣れないのよね。もう少し何とかならないの?〗
〖が、がんばってみます〗
ガックシと肩を落とすナシタを軽く笑い、リエル達は街の中を再び散策し始めるが、あまり目に付く物は見つからなかった為、宿へと帰る事にする。
街の中をうろうろしていたリエル達も日が落ちてきた頃には宿へと帰ってきたリエル達。ここの料理が人気なのはリエルも知っているのだが、目の前にできている人の列は、村ではお目にかかる事はできなかった人の数であった為、驚きで目を丸くしている。
〖なにこれ?〗
〖ん~?なんじゃろうな?〗
〖もしかしてですけど、例の料理のせいでは?〗
〖それじゃ!!〗
ナシタの言葉に反応してミヤビが宿の中へと飛び込んでいく。慌ててリエル達もミヤビの後をおって宿の中へと入っていく。
ナシタの予想は的中し、食堂まで続く列が宿の中にもできているのを目にするリエル達。
「いらっしゃいま――リエルさん!お帰りさない!今はちょっと手が離せないのでお部屋でまっててもらっていいかしら?すぐにいい物をお持ちしますから!」
「は、はい」
リエル達は忙しそうなカレンに声を掛けられると、邪魔にならないように自分達が泊まっている部屋へと歩いていく。
〖すごい人の数でしたね。例の【ころっけ】でしたか?そんなにすごい料理なんでしょうか?〗
〖く、食いたいぞ・・・。妾達より先に完成品を口にするとは許せん!メルヴィンめ!目にもの見せてやるぞ!〗
〖い、いいじゃないのミヤビ!カレンさんの言葉だと持って来てくれるみたいだから我慢してよ!〗
完全に憤慨しているミヤビの様子に、何かしでかさないかと不安のリエル。食べ物の恨みは恐ろしいというが、ミヤビの場合、冗談ではすまなそうな雰囲気がありありと見て取れる。
そこへ部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。
扉を開けると、そこにはエイダが料理をもって姿を現した。
「ごめんなさいねリエルさん。完成した【ころっけ】を食堂で試食してたシエラが騒ぎ始めちゃって、こんな騒ぎになっちゃってね。気が付いたら行列ができてしまって、結局お出しする事になっちゃったのよ。リエルさんには最初に食べてほしかったのに申し訳ないって夫が申してましたよ」
「いえいえ、気にしなくても平気ですから。それで、もしかしてそれが【ころっけ】ですか?」
「ええ!食堂は混雑してるのでお部屋にお持ちしました。とってもおいしいから召し上がってくださいね。私も急いで戻らないといけないので悪いんだけど失礼するわね」
「はい。わざわざありがとうございます」
部屋のテーブルへと結構な量のコロッケの乗った皿を置くと、エイダは急いで食堂へと戻っていく。リエルは扉を閉じるとテーブルへと近づいていく。香ばしい香りと湯気を立ち昇らせているコロッケに目を釘付けにしているミヤビが口を開く。
〖リエルよ!はよう!はよう食わせろ!〗
〖わかったから落ち着きなさいよ。今取り分けてあげるから〗
リエルはチェストリングからお皿を二枚取り出して、そこにコロッケを何個か乗せてミヤビとナシタの前に差し出す。
〖これってこのまま食べていいのかしら?〗
そう疑問を浮かべているリエルを他所にミヤビの元からここ地位良い音が聞こえてくる。サクッサクッとしたコロッケの音だ。
〖こ、これは美味いぞ!はふはふっ・・・この衣のサクサクとした触感に、包まれたアツアツの餡から出ている芋の香りとホクホク感、混ぜ込まれた肉から出る肉汁も実にいい味を出しておる!あぐあぐっ・・・〗
既にコロッケを口に運び、歓喜の声を上げているミヤビをみて、リエルとナシタも思わず唾を飲み込む。
〖り、リエル様!私達も頂きましょう!〗
〖そ、そうね!食べてみればわかるわね!〗
リエルも椅子へと座ると、皿からコロッケを一つ自分の受け皿へと乗せて勢いよく噛り付き、それを確認したナシタも続いて心地よい音を出してコロッケを口に運ぶ。
「あふっ!・・・はふはふ・・・」
勢いよく噛り付いた為、中の熱さに少し驚きながらも、コロッケの味を確かめるリエル。サクサクとした最初の触感とは違い、中のホクホクとした芋の触感がリエルの口の中で心地よい感覚を与えてくる。
「美味しい!はぐっ!・・・このサクサクした感触・・・。これは癖になりそうね!」
〖そうじゃろう!?触感も素晴らしいが、この優しい味わいもよいのぉ。それでいて油を使って"アゲル"という調理法により実に満足感を感じさせてくれる料理じゃ!実に美味い!もぐもぐ・・・〗
〖あっ!?ちょ、ちょっとミヤビ!取り分けてあげた皿の奴、もう食べちゃったの!?あんた食べ過ぎよ!〗
いつの間にか人の姿になって、テーブルのコロッケにも手を出し始めているミヤビ。
〖リエル様!申し訳ないのですが私にも下さい!リ、リエル様!?〗
ナシタも自分の皿のコロッケを平らげてしまい、激しいコロッケ争奪戦が繰り広げられている中、今日も夜を迎えるのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
これからも一日置き投稿という形が続きそうです。
また仕事が落ち着いたら一日一話投稿していきたいです。




