43話 魔王(の娘)とミノタウロス
誤字脱字は時間があるときに読み直して修正するつもりです。
治療魔法を掛けられているミノタウロスは疑問を口にする。
「ナ・・・ゼ・・・俺ニ・・・コンナ真似ヲ?」
「これからわかる。答えによっては死んでもらうがな」
ミヤビはミノタウロスからの問に冷淡に答える。その口調から嘘はない事を感じ取ったミノタウロスは黙って治療を受けている。その大人しい姿は敗者の命運は勝者によって決められる事を理解してるからなのだろう。
治療を続けているリエルはミヤビに何を考えているのか説明を求めるが、”同じ説明を2回するのは面倒”との理由で却下された。
何が何だかわからないリエル。程なくしてミノタウロスの治療は終わり、リエルは立ち上がると一目散にミヤビの元まで走ってくる。
ミノタウロスはそれに手を出す様な事はなく、ゆっくりと体を起こすとそのまま座り込む。
「さて、とりあえずこれで話はできるな。リエルはその辺で残った薬草でも採集しておるといい。こいつは妾が話をする」
「え?大丈夫なの?」
「うむ。もしこいつがお主に襲い掛かろうとするならその時は容赦はせん故、かまわず依頼をすましてしまえ」
「わ、わかった」
依頼の事も大事なのは事実だったので、リエルは大人しくミヤビの言葉を聞き入れると、少し離れた場所で薬草を積み始める。
その様子を見ているミノタウロスは、特に行動を起こす様な仕草はなく、ただ目の前にいる自分より遙か高見にいるだろう存在の言葉を黙って待っている。
『・・・』
「貴様には聞きたい事がいくつかあるから生かしておいた。妾の問に答えるならよし、拒否するなら答えは言うまでもなかろう?」
『・・・何ヲ聞キタイ』
「まず一つ。貴様程の魔物がなぜこんな場所にいるのかじゃ」
『ソレニ答エラレナイ。正確ニハ答エヲ持チ合ワセテイナイ』
「自分でもわからんという事はどういう意味じゃ?寝ぼけとるのか?」
『気ガ付イタラ俺ハ コノ木々ノ生イ茂ル森ノ中ニ立ッテイタカラダ』
ミヤビはミノタウロスの言葉に心当たりがあったのだろう、何かを悟った様子で質問を続ける。
「・・・その場所は覚えておるか?」
『アァ 覚エテイル』
「ならば後でそこへ案内してもらうとして次の質問じゃ。ここでどれだけの時間、活動してきたか聞かせよ」
『正確ニハ覚エテイナイナ。ソレホド長イ時間デハナイト記憶シテイルガ 少ナクトモ五日程ハ経過シテイルノハ確カダロウ』
「その間妾達の他の【人間種】に手合った事はあるか?」
『コチラカラ見カケタ事ハ何度カアル。相手ニスル価値モナイ脆弱ナ存在ダ』
「つまり貴様から襲い掛かった事はないと考えていい訳じゃな?」
『ナイ。ソウスル必要性ヲ奴ラカラハ感ジナイカラナ』
「よかろう。ならば最後の質問じゃ。貴様はこの先どうしたい?」
ミヤビとミノタウロスのやり取りを薬草を積みながら聞いていたリエルだったが、ミヤビの質問の意図が全くわからない為話が終わるのを黙って薬草を積みながら待っていたのだが、ミヤビのこの質問で顔を向けて反応をしめした。
『・・・ドウイウ意味カ聞カセテモライタイ』
「どうもこうもない。そのままの意味じゃ」
『マ 待ッテクレ!ソノ意味ガ解ラナイトイッテイルノダ!?ナゼ敵対シタ相手ニ自由ナ権利ヲ与エルノダ!?理解デキナイ!』
「ふむ、ならば答えてやろう。理由がないからじゃ。強いていうなら貴様を殺してもメリットがない。どちらかと言うと殺した場合の方がデメリットが大きいと思ったからにすぎん」
「ち、ちょっと!?」『ドウイウ事ナンダ!?』
ミヤビの考えを全く理解できないミノタウロスとリエルは同時に声を張り上げてしまっていた。そんな中でもミヤビは態度を変えることなく淡々を自分の考えを説明する。
「まず、貴様は先ほど人間など相手にする価値はないと言っていたが・・・念の為にもう一度確認するが見かけた人間の命を奪った事はないのは間違いないか?」
『・・・ナイ、一度モナ』
「人に害をなさないのであれば、それは共存という形になるのだろう。まぁこれに関してはこれから貴様に案内してもらう場所次第で事情は変わってくるがな。次に妾達のデメリットの話じゃが、貴様を殺してその死体をギルドに持ち帰った場合、それこそフォッシルリザードの比ではないほどの騒ぎになるのは目に見えている。妾達の事情で、それは歓迎できる話ではないのに、そこら中から面倒な話が舞い込んでくる事になるじゃろう。リエルはそれでいいと思うか?」
ちらりとリエルを見ているミヤビ。
「たしかに・・・そ、それは困るわね」
「そうじゃろう?別にこいつを殺してその死体をチェストリングに永遠にしまっておく事もできるじゃろうが、結局現時点では無駄以外の何物でもない。なら一層の事、放っておけばよいと妾は考えている訳じゃ」
「言ってる事はわかるけど・・・どうなのそれ?」
「あくまで妾の考えじゃからな。決定権はリエル、お主にある。他にいい考えがあるなら妾はそれに反論する気はないぞ?」
二人のやり取りを見ているミノタウロスがどうしても気になっている事を堪らず問いかける。
『スマナイ 聞カセテホシイ。ナゼオ前程ノ者ガソノ脆弱ナ種族ニ従ッテイルノダ』
「リエルの事か?それは妾が形式上、この子の従魔だからじゃ。それにリエルは弱くなんぞないぞ?少なくともこれから先、妾と同等かそれ以上の存在になるじゃろう」
ミヤビの言ってる事がどういう意味なのか全く理解ができないミノタウロス。その視線は自然とリエルへと向かい、目の前の存在をじっと観察する。
「・・・よかろう。証拠を見せてやろう。リエル、体に負担を掛けない程度でよいからみせてやれ。お主の力の一端をな」
「え・・・え~と・・・いいのかなぁ~?」
「構わん。見せれば納得するじゃろう。じゃが軽くじゃぞ」
ミヤビに促され、仕方ないといった様子でリエルはその力を解放する。
『ナ・・・』
瞬間、ミノタウロスは目の前の存在に驚き、微かに声を洩らす。
自分よりも遙かに小さな存在から強烈に叩きつけられる魔力の暴風にその後の言葉は奪われる。溢れてくる魔力の波は瞬く間に周囲を侵食して、重さのない粘着質な水の中にいるような感覚をミノタウロスに与えた。
その暴風の中、目の前の存在をみればその瞳は赤く染まり、先ほど見ていたものとは比べ物にならない存在感を示していた。
「リエル、もう十分じゃろう」
凝縮された様な時間の感覚のなかで、言葉が発せられる。すると次第に嵐は弱まり、先ほどの静寂さが急速に戻ってくる。
ミノタウロスは理解した。自分がどれだけ小さな存在だったのかを。
「リエル、大丈夫か?」
「うん、問題ないから心配しないで平気」
『オ前・・・イヤ・・・貴殿等ハ一体・・・』
目の前の二人が自分とは次元の違う存在だという事を完全に理解したミノタウロスの言葉は力のない弱弱しい物になっていた。
ミノタウロスの言葉にリエルが教えてしまってもいいのか考えていると。
「この子の父親は魔王じゃからな。貴様如きではかなう相手ではない。ちなみに妾は神と肩を並べる存在といっても過言ではないぞ」
『魔王様ノ娘ダト!?』
求めていた答えを聞くことができたのが、それがあまりにも予想外の答えだったミノタウロス。そう叫ぶと絶句して固まっている。
魔王の娘と聞いた衝撃の為かはわからないが、ミヤビの正体については触れられなかった。
「言っちゃってよかったの?」
「別にいいじゃろ。あそこまでやったらこの際最後まで言った方が疑問もなくなる。それにこいつは人間ではないからな。変ないざこざに巻き込まれる事もないじゃろう」
絶句したままのミノタウロスは二人の様子をただ黙ってみている。その姿からはダンジョンの番人の威厳は完全に失われていた。
そんな様子のミノタウロスへとミヤビは再び話を振る。
「さて、妾達の事はもう十分じゃろう。後は貴様がなんなのか?それを確かめる故、さっさと例の場所へと案内しろ」
その言葉で自分を取り戻すミノタウロスはゆっくりと立ち上がり、改めてその巨体をリエル達へと晒す。
『姫殿下、ゴ案内シマス』
今までのミノタウロスとはまるで違う、敬意の籠った言葉と仕草に、今度はリエルが絶句する。
「姫殿下・・・って・・・あ、あたし!?」
「まぁそうじゃろうな?魔王の娘な訳じゃから、お主は王女に当たる訳じゃしな」
「ば、馬鹿な事言わないでよ!あたしはお母さんの娘なんだから唯のハーフエルフ・・・唯の・・・でもお父さんが魔王で・・・え~・・・」
改めて自分の生い立ちを意識すると、とても普通ではない事を再確認してしまったリエル。思考が付いて行かずにうわ言の様に口をパクパクとしている。
その様子にため息を付くミヤビは、リエルの背中を軽く押しながらミノタウロスの案内で森の奥へと歩いていく。
――――――――――――――
街道を三匹の馬にまたがった男女が疾走している。二人は男、一人は女の三人組だ。彼等が町を出てから二十分程、この街道を馬で移動している。
「見た感じ、リエルの姿はないな。町の中にいたりするんじゃないのか?」
「キャスさんと一緒に門番からリエルちゃんの話を聞いたでしょ?間違いなく町の外に出てるわよ」
「ですが、そうなるとわからないですね。なぜあの男は途中でリエルさんと出会わなかったのか」
「あの男はリエルちゃんを見てないって言ってたけど、確かに時間を考えれば出会ってなければおかしいとは私も思うけど。・・・あの子、言っちゃ悪いけど普通の子とはどこか違う感じをしてるからどこか寄り道をしてて、すれ違いになったって線はどう?」
「寄り道ってどこにだよ?」
「そんなの知らないわよ!可能性の話に決まってるでしょ!」
「仮にその寄り道をしていたと仮定したとしても、やっぱりおかしいですね。余計な時間を取っていたのならそれこそ、町から森までの距離を歩いて移動している事を考えても、私達が彼女と出会えない理由がわかりません」
「考えられるのは二つ。まだ寄り道をしているのか、既に森に到着しているのか。後者であった場合はやっぱりあの子、かなりの実力を持っている可能性があるわよ」
「まぁその場合は確かに足は速いな。異常なくらいに」
「そうですね・・・普通に考えれば前者の可能性のほうが高いと思いますけど」
アラーナの言っている事はカルツ達にも理解はできた。だからこそ後者はありえないと考えているのだが、完全にそうとも言い切れない何かをリエルが持っている事を感じ取っていた。
「森につけば何かわかるだろ。今は考えるよりもリエルがいるかもしれないこの街道を見落とす事の無い様に注意して進むしかないな」
カルツの言葉に二人も頷き、周囲に注意を向けながら森を目指して馬を駆る。
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ミノタウロスの案内で目的の場所へと到着した二人は周囲を見渡していた。
「なんか空気が重いわね」
「うむ・・・魔素の濃度はかなり高い。これは予想通りじゃろうな」
「一体何なの?」
「まぁまて・・・こっちか」
何かを感じ取って草木をかき分け歩いていくミヤビの後にリエルが、その後ろをミノタウロスが続いて歩いてる。
やがて先を歩いていたミヤビが原因だと思われる物を発見する。
「あったぞ」
ミヤビが指差す先には鈍い光を微かに放つ石の様な物が存在した。
「これは?」
「ダンジョンを生み出す存在、ダンジョン核じゃ。いやぁ懐かしいのぉ。昔はよく妾もこれで下界を騒がせてやった物じゃ」
「ダンジョン核?」
リエルはどうもピンと来てない様子でミヤビに言葉を返す。
「うむ。そもそもダンジョンがどうやって作られるのかを説明すると二通りある。一つはその土地の魔素が結晶化して自然発生するダンジョン核に生み出される物、もう一つは神や魔王が作為的にダンジョン核を下界に生み出し、そこから作り出させる物、この二通りになる訳じゃが、前者はいいとして後者には疑問があるじゃろう?」
「なんで神様達がそんな事するのかって事?」
「答えは単純明快。暇だからじゃな」
全くの予想外なミヤビの説明にリエルは聞き返す。
「へ?なんですって?暇?」
「言い方が悪いな。そうじゃな・・・神々や魔王からの挑戦状みたいな物じゃな。妾も天界にいた頃は下界を見下ろしてるのが退屈でな。勿論それぞれが司る、神としての領分という物はあるのじゃが、生憎妾はそんな大層な役目を持っている訳ではなかった故、精々下界を監視するくらいだった訳じゃ」
「ちょっと聞きたいんだけど、確か前にもそんな話を聞かせてくれたと思うんだけど、何のために下界を監視するの?神様達ってそこまであたし達に干渉するような事はしないんでしょ?」
リエルの疑問にミヤビは頷き、それに答えを返す。
「うむ。じゃが今言ったように暇を持て余している神や魔王というのは存在する。そういった者の中には下界で悪さをしようとする輩も少なからず存在する。それが、下界で悪いイメージしかない魔王や、運命を操作して下界の者を陥れようとする神の正体と言う訳じゃ。そして、その様な身勝手な干渉を続ける者を迅速に発見するために監視をする必要があるのじゃよ」
「・・・その話を聞くと、神様や魔王って・・・なんだろう・・・自由ね」
「世界のバランスを保つ為の行為でもあるんじゃぞ?まぁ逸れた話を元に戻そう。・・・え~と?ダンジョン核の話じゃったな。ダンジョン核は周囲の魔素を吸収して成長する訳じゃが、壊されてしまえばそこで終わってしまう。じゃから自身を守るための存在、【ダンジョンキーパー】を生み出し、必要な知識を与え、自身を守護させるのじゃ」
『ソレガ俺トイウ訳カ』
「そういう事じゃろうな。じゃがこのダンジョン核はどういう訳か自身を成長させることができなかったようじゃ。故に貴様を操作する事もできず自身を剥き出しのままで此処に存在しているのだろう。生まれながらに死んでいるような物じゃな」
「それがミノタウロスがここにいた理由って事か・・・。それでどうするの?」
「うむ、そこからは先ほどの質問に戻るという訳じゃ。貴様、これからどうするんじゃ?」
ミヤビがミノタウロスを見て言葉を発し、ミノタウロスは少し考えて言葉を返した。
『・・・コノ核ハ成長スル事ハ?』
「恐らくないじゃろう。先ほども言った通りこの核は既に機能を失っている。放っておいても数日したら自然に消滅するじゃろう」
『核ガ無ナクナッタ場合 俺ノ存在ハドウナルノカ聞カセテホシイ』
「無論、消滅する」
『ソウカ・・・』
ミヤビの答えを聞いたリエルは、なぜか目の前のミノタウロスの事が可愛そうだと考えてしまっていた。それが浅はかだったと頭を悩ます結果を後に生む事になる。
『頼ミガアリマス』
「何ですか?」
「約束はせん。聞くかどうかはわからんが言うだけならタダじゃからな」
『俺ヲ姫殿下ノ僕ニシテイタダク事ハデキナイダロウカ?』
「・・・へ?」「・・・なんじゃって?」
リエルとミヤビ。二人は揃って言葉を返すのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。




