42話 リブルの森の異変
誤字脱字は時間があるときに修正します。
男はキャスに事情を説明している。
「素材集めの依頼で森までいったんだよ!そこで見たんだって!大きな斧を振り回しているミノタウロスを!」
「それだと短絡的過ぎてわからないって言ってるんですよ?頭悪いんですか?」
話を聞いているキャスが明らかにイライラした様子で男に喋りかける。その威圧感に思わずたじろいでしまう男であったが、必死に説明を続ける。
「だ、だからな?今朝受けた依頼でリブルの森に入ったんだよ!最初は普通にラットブルやホーンラビット、フォレストウルフなんかを順調に狩ってたんだけど、突然大きな音がしたから何事かと思って見に行ったんだよ!そしたらそこにロックベアを大きな斧で殴り飛ばしてるミノタウロスが居たんだって!」
「俄には信じがたい話ですね。ミノタウロスなんかがこんな所に出るなんて今までありませんでした」
「う、嘘じゃねぇーって!」
「別に嘘だとは思っていません。ただ、そんな魔物があの森にいる理由が何なのか解らないから考えているだけです。しかしこれはまずいですね・・・」
実は今すぐにでもリエルの安否を確認しに行きたいキャスなのだが立場上そうはいかない為、彼女のイラつきは大きかった。
「ベリンダさん。私ちょっと行ってきてもいいですか?」
「私は戦いは専門外だから資料でみた情報しか知らないけど、ミノタウロスってそこまでやばい相手なの?」
「ミノタウロスが相手となると、生半可な冒険者では死体になって帰ってくるのが見えてます。かと言って放っておいては私のリエルちゃんが死体で発見される事になってしまうかもしれませんし、やっぱり私が行くしかないと思うんですけど」
「そうね・・・。キャスがそこまで言うなら私は止めないけど、マスターに無断でそんな事して大丈夫なの?」
「うっ。確かにそれはまずい気がします。確認してからいく事にします」
キャスが受付から離れようとすると、解体用倉庫の扉が開いて三人の男女が姿を見せた。
「ん?何騒いでんだ?」
「おや?”戦いの雄叫び”の皆さんではないですか。いつの間に?」
「え?二時間くらい前かしらね?気づいてなかったの?」
アラーナの言葉に首を傾げるキャス。それを見たべリンダが思い出したように口を開く。
「そうよ!あんたがお熱の子を見つめてる間に私が受付して解体所を貸したんだったわ!」
「ベリンダさん。そういう大事な事を忘れてもらっては困ります。ですが、これで何とかなりそうですね」
「あん?なんの話だ?」
「ギルドから”戦いの雄叫び”の皆さんにお願いがあります。リヴルの森に現れたというミノタウロスの討伐を依頼したいのですが引き受けて頂けないでしょうか?無理であればリエルちゃんを連れ戻すだけでも構いません。その場合はミノタウロスはギルドマスターの許可が頂け次第、私が処理します」
「ミノタウロス?なんだってそんな化け物がリブルの森にいるんだよ?」
カルツが少し驚いた様子で口を開いた。
「情報が少ないため今は理由はわかりません。緊急性を要するため報酬は悪くない額をお約束します」
「リエルちゃんって言ってたけど、もしかしてあの子が森に向かってるの!?」
「はい。リブルの森へ向かった冒険者は依頼では二つだけですから、あなたとリエルちゃんの二人で他にはいないはずです」
指を差されたミノタウロスの情報を知らせてくれた男は慌てて口を挟む。
「そんな馬鹿な。町に戻る途中では誰にも合わなかったぞ!?まだ町の中にいるんじゃないのか?」
その言葉にキャスが少し安心した様子で喋りだす。
「なるほど。その可能性は確かにありますね。ならそちらは私の方で確認しますので、ミノタウロスの件について”戦いの雄叫び”の皆さんはどうしますか?」
「そうだな・・・こいつがリエルを見逃した可能性もなくはないだろう」
「そうね・・・。そうなると私の答えは一つしかないけど、あんた達は?」
「俺は行くぞ?報酬も悪くないって事だし、ミノタウロス相手なら腕が鳴るぜ」
「二人が行く気なら僕も行くしかないでしょう?」
「よし!なら決まりだな」
――――――――――――――-
目的の場所へと到着したリエル達。【ウィンドウォーク】の移動速度で予想よりかなり早く到着する事ができた二人は森の入り口に立っている。
「ここがリヴルの森か~」
「うむうむ。【ウィンドウォーク】は本来これほど長時間使うような魔法ではない。戦闘時に一時的なバフとして使うのが普通なのじゃが、こんな使い方が可能なのはお主の魔法力の異常さ故じゃろな。しかし、なかなか広大な森林に見えるが、ここから感じられる魔素の様子じゃと、それほど強い魔物が生息できるレベルではなさそうじゃな」
「・・・」
何となく間の抜けた顔でミヤビを見つめるリエル。
「なんじゃ?」
「なんか普通に話してるミヤビを見るのが久々な気がする」
「ん~そういえば確かにそうじゃな。実際念話は便利なんじゃが、周りに人の気配もないからな。別にかまわんじゃろう」
「あたしはその周囲の様子を感知するような事はできないから、ミヤビが平気だっていうならどっちでもいいけどね」
「その点は問題ない・・・はずじゃ」
「はず?」
「ん・・・。なんでもないぞ。問題ないから大丈夫じゃ。ほれ、いつまでも突っ立っとらんで薬草を探しにゆくぞ」
「・・・何か隠してない?」
リエルのじっとりとした視線がミヤビに突き刺さる。その視線を受けて、ミヤビの尻尾を振る動作が次第に乱れてくる。やがて耐えられなくなったミヤビが観念して口を開く。
「む・・・え~とじゃな・・・。キャスの事じゃがな?【天眼】を駆使しても奴の力量を把握する事が出来なかった故、妾も油断はできんと思っただけじゃ」
「あ!?ミヤビ!またそんな事してたの!?」
「し、しょうがないじゃろう!癖みたいなものじゃ!」
以前も敵意のない相手に無断で【天眼】を使っていたミヤビに似たような話をした記憶があったリエルだったが、やはりしっかりと言わなければだめだった事を後悔する。
「ミヤビ!人の秘密を勝手に盗み見るような事ばっかりしてると、いつかひどい目に合うかもしれないわよ!だからその癖は直しなさい!」
「な、なんじゃ婆臭い事いいおって!妾はそこらの生き物よりずっと偉大な存在なんじゃぞ!?」
「そんなの関係ないの!ダメな物はダメ!いい!?約束よ!もし約束を破ってるのがわかったらご飯抜きだからね!」
「だ、駄目じゃ!それは困るぞリエル!わ、わかったぞ!要はバレなければいいんじゃろう!?キャスも違和感を感じてはおったじゃろうが妾の仕業だという事はわかっておらんじゃろうから大丈夫じゃ!・・・多分」
「ち、ちょっと!それって相手にばれるの!?早速問題が起きてるじゃない!この馬鹿!」
「だ、大丈夫じゃ!ばれていたら今朝会った時に何かしらの行動があったはずじゃ!それがないという事はキャスも妾の事には気づいていないという事じゃ!・・・恐らく」
「さっきから”多分”とか”恐らく”って言ってるじゃないの!」
リエルが拳を振り上げると、ミヤビは振り下ろされるより早く森の中へと走っていく。
「あ!こら!待ちなさ~い!!」
ミヤビの後を追って森へと入るリエル。今では契約の結び付きもかなり強い物になっているため、お互いの位置が感覚でわかるくらいにはなっている為、リエルはミヤビを見失う事なくその後を追いかける。
先を走っていたミヤビがふと、森の雰囲気、ひいては目の前の物体を見て足を止める。
〖リエル、静かにせい〗
〖何よ!まだ言い訳するつもり!?〗
追いついたリエルもミヤビの傍まで来ると目の前の光景を見て息を呑む。そこには真っ二つになったロックベアの死体が転がっていた。
それを見たリエルは自然とチェストリングから矢筒を取り出し腰へと装着し、弓を手に備える。
〖・・・近くに何かいるの?〗
〖いや・・・近くに何かがいる気配はないな。この死体も血の具合から、こうなってからそれなりの時間が経過しているとみえる〗
〖見事に真っ二つだけど、他の冒険者の仕業とかじゃないの?〗
〖そうかもしれん。じゃが、警戒するに越した事はないじゃろう。気を引き締めてゆくぞ〗
〖ええ、わかってるわ〗
ロックベアの死体を後にし、二人は森の中での薬草探しを開始する。初めて入った森のだったが、もっと小さい頃から森の中を歩いてきたリエルにとっては苦労する要素はなく、しっかりとした足取りで森の中を進んでいく。
やがて開けた場所へとでると、軽く周囲を見渡す。
〖どう?回りに何かいたりする?〗
〖・・・今の所は問題ないな。じゃが魔素が入り口と比べると少し濃くはなっている。薬草を採集するなこの辺りがちょうどいいじゃろう〗
〖あたしは周囲を感知するのは無理だからミヤビ、おねがいね〗
〖うむ、採集は退屈じゃから手早く頼むぞ〗
ミヤビはそういうとその場に伏せると大きく欠伸をして、眠り込むような態勢を取っている。リエルは辺りに群生している植物から目的の物を見つけるためにせっせと動き始める。
〖あ、あったあった。オトギリウム!手早く集めちゃおう〗
リエルは見つけた薬草群から状態のいい物を選別して摘み取っていく。すべて摘み取ってしまうとそこには生息できなくなってしまう為、十分に集まったのを確認するとリエルは立ち上がりミヤビへと話し掛けながら残りの一種類を探す。
〖これでオトギリウムは十分だわ。あとはオモナエシンだけよ〗
〖順調じゃな。そっちも早く見つけてしまえ〗
リエルは不動のままリエルに答える。
目的の物を注意深く探しながら辺りを歩くリエル。そして目的の物を発見する。
〖あった!ミヤビ!見つけたわよ〗
〖・・・リエル。弓を持て。どうやらこちらに近づいてくる者がおる〗
〖魔物?〗
〖まず間違いない。しかもこの感じは・・・〗
何かが近付いてくる事を感知したミヤビ、次第にその存在が発する気配が鮮明になっていく。
〖かなりの魔力を放出しておるな・・・。リエル、準備はよいか?〗
〖だ、大丈夫よ〗
次第に強くなってくる魔力をリエルも感じ取り、声には少し震えがみえた。やがてメキメキという音がミヤビが見つめる前方から聞こえはじめ、ついにその存在が姿を現した。
〖ミ、ミノタウロスじゃと!?なんでこんなのがおるんじゃ?〗
明らかに場違いな魔物であるミノタウロスに驚いた様子のミヤビ。
ダンジョンの番人として有名で、その身に宿る強力な力で敵対する者に破壊と死を振りまく凶暴な存在。
ミノタウロスはミヤビを見ると、手に持った凶悪を体現するような大きな戦斧を振り下ろす。
『グオオオオオオッ!!』
〖甘いわ!〗
振り下ろされた戦斧は大地を揺るがすし土煙を上げるが、ミヤビは後方へと難なく躱しミノタウロスとの距離を取っているリエルの前へと降り立つ。
地面にめり込んだ戦斧をゆっくりと持ち上げるとミヤビと、その傍にいるリエルを赤く光る瞳で見据える。
『キサマ、何者ダ?タダノ フォックスウルフ デハ ナイナ?』
「しゃべった!」
思わず声を上げるリエル。
「ほう?言葉まで喋るか。お主もどうやらまともな存在ではなさそうじゃな?」
『驚イタナ。俺以外ニモ 喋ル魔物 ガ イルトハナ。楽シメソウダ。』
「悪いが貴様如きでは妾の相手は務まらんぞ?」
『フハハハッ!!小サキ者ノ分際デ笑ワセル!ナラ、ソレヲ俺ニ示シテミセヨ!!!』
再び荒らしい音を立てながらミヤビへと迫るミノタウロス。その迫力は少し離れた位置にいるリエルも圧倒される物であった。
繰り出される戦斧からの攻撃を難なく避けているミヤビの様子に、リエルは手を貸そうと弓を構える。それを視界に捉えたミノタウロスは雄叫びの如き声を上げる。
『邪魔ヲスルナ!脆弱ナ種族ヨ!大人シクシテイレバ命ハ取ラン!俺ハ弱イ存在ナド興味ハナイ!』
「妾を相手によそ見とはずいぶん余裕じゃな?阿呆が」
ミヤビはミノタウロス目がけて体に捻りを加えた後ろ蹴りを打ち込む。かろうじで戦斧での防御が間に合ったミノタウロスだが、その衝撃で巨体を持つミノタウロスは遙か後方へと吹き飛んでいく。
『ヌウゥ!?ナ、ナントイウ威力!?ヤハリ唯者デハナイナ!面白イ!』
「まだ力の差がわからんのか?・・・それよりお前、一体なぜこんな所におるんじゃ?」
『ソンナ事ハドウデモイイ!強イ者ガ俺ノ前ニ現レタ。ソレダケデ十分ダ!』
そう叫ぶとミノタウロスは手に持っていた戦斧に魔力を籠める。そしてその斧を振り上げると地面へと叩きつける。
解き放たれた魔力が大地を割りながらミヤビへと走っていく。
「やれやれ。相手の力量すらわからんとはな。愚かな奴じゃ」
大地を突き進む魔力の刃はミヤビへと直撃し、大きな土煙と衝撃を周囲に撒き散らす。
「ミヤビ!?大丈夫!?」
その衝撃からミヤビが心配になったリエルが声を上げる。しかしその心配は杞憂に終わる。
「うむ。問題ない。じゃが少々不愉快じゃな」
土煙の中から帰ってくるミヤビの言葉には明らかな怒気が含まれていた。一変して周囲を押しつぶす様な強烈な圧力が土煙に交じって辺りへと広がっていく。
その威圧感をミノタウロスも感じたのだろう、恐れを含む声を土煙ぬけて発する。
『バ、馬鹿ナ!一体ナンナノダ!オ前ハ一体!?』
「じゃから言ったじゃろう。貴様如きでは妾の相手は務まらんと」
土煙から次第に見え始めたミヤビの姿は、二本の脚で大地に立ち、手には炎が形を成したかのような紅の光を発する薙刀が握られていた。【人化の術】を使った姿で立っていたのだ。
「小僧に見せてやろう。神へと上りつめる事が出来る存在、その力の一端をな!」
『!?』
ミヤビは地を蹴ると瞬く間にミノタウロスとの距離を無かった物にして肉薄する。無論ミノタウロスは反応する事は敵わず、振り払われた薙刀をその身に受け入れる結果となる。
両断された戦斧はすぐさま溶解し、斬られた腹の部分は焼け焦げ、炎が上がる。
『グオオオオアアアアアァアアアッ!?!?ガアアアァァァ!!!』
斬られた場所から発生した炎は、ミノタウロスの体を焼き尽くすがの如き勢いで全身を覆い隠す。絶叫を上げ地面を転げまわるミノタウロスを見るミヤビが言葉を発する。
「これで理解したか?貴様如きでは妾の足元にも及ばぬ事を」
そういうと、ミヤビは燃え盛る炎に包まれて暴れているミノタウロスへと口から息を吹きかける。すると炎は消え去り、煙を上げているミノタウロスが姿を現した。
「生きとるか?」
『ウ・・・グァ・・・。』
「いかん。ちとやり過ぎたか?」
『タ・・・シカニ・・・見セテ頂イタ・・・強キ者ヨ・・・確カニ・・・俺ナンカデハ・・・』
「リエルよ。こいつを治療してやってはくれんか?聞きたい事がある故このまま死なれては困る」
完全に蚊帳の外だったリエルに、ミヤビから突然の声がかかり我に返ったリエル。
「ち、治療って?だ、大丈夫なの?」
「いいからはようせい。さっさとせんと本当にくたばってしまう」
「ど、どうなっても知らないわよ!?」
リエルはミヤビの元へと駆け寄り、恐る恐る倒れているミノタウロスに治療の魔法を掛け始めるのだった。
お疲れさまです。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。
随分前の話なんでけど、ミヤビが人型の時に着ている服装を書いてあった話があったのですが、表現が下手だったので理解頂けるか微妙だった為、後書きに書こうとしていてすっかり忘れてました。
単純に着物ですね。
和風の武器、すごく好きです。でも薙刀って日本が発祥っていっていいんですかねぇ?某ペディアさんでは大刀という中国の武器が元らしいですよ。(違ってたらすいません!)




