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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ世界へ。 バランディアの町編
40/99

40話 一夜明けて

読んで頂いて本当にありがとうございます。

仕事の関係で間が空いてしまってすいません。

 空も大分暗くなってくる頃、ハボットは黙々と村で行う予定の駐屯所計画書の作成に勤しんでいた。

 ギシリと音を立てて背凭れに寄りかかると大きく体を伸ばして固まっていた体の凝りをとろうと動いている。



「ふぅ・・・」


 疲れを感じさせる息を吐き出しハボットは机に置いてある冷めた紅茶に手を伸ばし、一口含むとカップを元の位置へと戻す。


(中々手がかかる作業になるだろうが、大事なエルフ達の村を守るなら手を抜く訳にはいかん。エルフを攫って私腹を肥やそうなどという輩の好き勝手には絶対にさせん)


 ハボットは再び計画書へ目を落とすと、今までの部分で不備がないかを確認する。

 実はこの男、悪い噂が非常に多いのは事実なのだが、街の管理や仕事の手際は実に優秀で、領主としての能力は非常に高い。

 よく聞く悪徳貴族特有の高飛車な態度のせいで、ちょっとした事でも噂の種になってしまうような性格をしている為、特大な尾ひれがついて現在のようなイメージが定着してしまっていた。


 そして隠された彼の特殊な趣向が、周りの人間に対する接し方に問題を起こしてしまうのも原因の一つであった。


 それはハボットは人間ではなく、エルフ族や獣人族といった異種族を好む性癖の持ち主で有った為だ。

 その為人と接する事が非常に下手で、どうしても高圧的な態度を取ってしまうという部分があり、周りから反感を買ってしまう事が多々あるのだ。

 そのくせ、いざエルフ族や獣人族に接する機会が得られても緊張してしまい、まともに話しも出来ないくらい上がってしまうので直ぐにその場から離れようとしてしまう。


 そんな事は知らない者がその様子を周りで見ていたら、揃ってこう思うだろう。


 ”彼は異種族を認めない横暴な人物”だと。


 無論、そういう噂が立っている事はハボットも承知してはいるのだが、噂を鵜呑みにするような者など相手にする必要などないと考えており、それを弁解しようとはしなかった。

 ハボットの回りに付いている護衛の者や、屋敷で働いている者の中にはハボットの性格の実態を理解している者も存在するのだが、雇われている自分達が主人の誤解を解こうとしても無駄だと考えており、自分達にできるのは、そんな不器用な雇い主をしっかりと補佐する事に万進する事くらいだった。


 ハボットは計画書に目を通し終えると、再びペンを取り、机に向かう。


(私の理想の存在がいるかもしれないエルフ達の村を守るために、速やかにこの計画書を仕上げなくては!)


 噂を物ともしないタフな精神のおかげなのか、はたまた自分の理想の存在に出会うためなのか。彼は夜遅くまで計画書と向き合う。


 -----------


 一夜空けたとある宿屋。

 まだ静かな町の様子とは裏腹に、食堂では大勢の人がごった返しおり、厨房では忙しそうに鍋を振るっているメルヴィンと、それを手伝っている彼の家族の姿があった。

 朝食は一日の大きな原動力、おいしい食事にありつこうとこの宿屋の食堂はいつもこんな感じで人で賑わっている。


 朝の忙しい時間が過ぎていき、食事を済ませた者達が町へと繰り出していくようになってくると、メルヴィン達も食事を摂り始める。

 一日前とは違い、今は家族全員で食事が出来ているこの時間に、彼は幸せを実感していた。

 そんな中、早々に食事を済ませたシエラが席を立つ。


「リエルお姉ちゃんはもうお仕事いっちゃったの?」


 シエラの言葉にエイダが口を開く。


「あら、そういえばまだ見てないわね。まだお休み中なのかしら?」


「・・・起こしてくるっ!!」


 エイダがそれを制止しようとするが、シエラは逃げる様に厨房から走り去っていく。彼女の目的は美味しいご飯をリエルに食べてもらいたいという事と、ミヤビをわしゃわしゃしたいという点にあり、ここで捕まる訳にはいかないという断固たる決意により行動していた。


 足早に部屋の前までやって来たシエラは、そっと扉を開ける。

 軽く開いた扉の隙間から中を覗き込むと、コンモリと盛り上がった布団と、傍の椅子にはリエルが身に着けていた衣類が置かれていた。

 シエラは静かに部屋に入ると、布団が軽く動き微かな声が聞こえる。

 その様子を見たシエラは忍び足で布団へと近づいていき、のぞき込むように声をかける。


「リエルお姉ちゃん~、朝だよ~?」


「う・・・う~ん・・・」


 リエルが気の抜ける呻きを上げると、それとは別の存在が布団の中から飛び出してきた。それは言うまでもなくミヤビである。

 寝ている間にリエルに揉みくちゃにされたミヤビの毛並みはひどい寝癖の様に逆立っていた。


「あ!ミヤビちゃんだ!・・・一緒の御布団で寝てたんだー!いいな~」


 大人しく座っているミヤビに近づくと、シエラは逆立った毛並みを整えるように撫で始める。ミヤビもまんざらではなく、気持ちよさそうにしているが、実際考えている事は全く別の事だった。


(・・・腹が減った)


 昨日の夜、ご馳走された料理に甚く満足していたミヤビは、周りの者、リエルですらも驚くほどの量を平らげていたにも関わらず、既にミヤビのお腹は空腹感に襲われていた。


(しかし、朝からこの娘は元気じゃな。・・・兎に角リエルを起こすとするか)


 ミヤビはシエラの手から離れると、ベッドへと向かいまだ気持ちよさそうな寝息を立てているリエルの上へと飛び乗る。


「うっ・・・お、おもい・・・」


 〖おい、起きろリエル。起きるのじゃ〗


 ばしばしと布団を前足で叩くミヤビの様子を見ているシエラはクスクスと笑いながらベッドへと近付いて、リエルに声をかける。


「リエルお姉ちゃん~朝だよ~?」


「う・・・あれ・・・シエラちゃん?・・・むぎゅ」


 ベッドから体を起こしてシエラを見るリエル。まだ寝ぼけているリエルにミヤビが前足を顔へと押し付ける。


 〖起きろリエル。いくら昨日の夜、手紙の内容を考え遅くまで起きていたとはいっても起きる時はしっかり起きんと駄目じゃぞ〗


 肉球を押し付けぐりぐりとリエルの顔を突っつきながら語るミヤビ。


「わ、わかったらかそれやめて・・・起きるから」


「リエルお姉ちゃんってミヤビちゃんが何言ってるかわかるの?」


 シエラの言葉にリエルの心臓が一瞬跳ねる。寝起きで自然にいつものやり取りをミヤビと行っている自分の行動に焦るリエルだがごまかそうと口を開く。


「そ、そうよ?な、なんとなくだけどね!」


 相手がシエラでよかったと言った所だろう、シエラは目を輝かせながらリエルを見ていた。


「朝ご飯できてるから早くきてね~」


 シエラはそう告げると部屋から出ていき、再び部屋に静けさが戻ってくる。リエルは体を伸ばすとベッドから降りて部屋に備え付けられている洗面台へと歩いていく。

 金属でできた蛇口を軽く捻ると寝起きの体には応える、冷たい水が流れ出してくる。

 それを手で掬いあげて顔を洗うリエル。


 〖みた事もない設備だけど、便利な物ね〗


 〖そうか?まぁあの村にはなかったものじゃからな。世界は広い。お主のこれから多くの物を見て、多くの事を知ることになるじゃろう。楽しみじゃろう?〗


 〖そうね。その通りだと思うわ〗


 備え付けられているタオルで顔を拭き、身支度を整えてたリエルは、ミヤビと共に部屋を後にする。

 食堂へと向かうとエイダに叱られているシエラの様子が伺えた。エイダもリエルに気づいて近づいてくる。


「おはようございます。よくお休みになれましたか?」


「おはようございますエイダさん。おかげ様でぐっすり眠れました」


「それはよかったです。さ、朝食もできてますからあちらで受け取って、空いてる席で召し上がってくださいね」


「はい、ありがとうございます。行きましょミヤビ」


 二人は食堂のカウンターへと向かうと中ではメルヴィンが待っていた。


「あ、おはようございますリエルさん。さ、冷めないうちに召し上がってください」


 そういうと各器に盛られた料理が乗っている配膳プレートを二つ、カウンターの上へと出してくれた。一つを持つリエルの後を、カウンターから出てきたメルヴィンが残る一つを持ってリエルの後ろを付いて歩く。

 近くの席へと移動するとリエルはテーブルの上にプレートを置き、もう一つのプレートをメルヴィンから受け取る。


「ありがとうございます」


「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。お二人の食べっぷりはみてて気持ちいいですからね」


 その言葉に若干恥ずかしくなるリエル。

 そう、昨日の夜、料理のおいしさのあまりに、かなりの量をミヤビと二人で平らげてしまった事を思い出してしまった為だ。


「は、はは。お恥ずかしい所をお見せしました」


「とんでもない!私の料理をあんなに喜んで召し上がってくれて嬉しかったですよ。たくさんの方が私の料理をおいしそうに食べてくれるのを見る事ができる喜びは料理人冥利に尽きるって物です」


 メルヴィンの言葉に軽くほほ笑むリエルをみたミヤビが我慢できずに声をかけてくる。


 〖リエルよ!早く!早く飯をよこすんじゃ!〗


 床をバシバシと叩き催促をするミヤビは、はたから見れば唯の犬にしか見えなかった。その様子をみたリエルとメルヴィンは笑いを洩らす。


「はいはい、わかったらかそんなに暴れないでよ」


 リエルは机に置いたプレートの一つをミヤビの前にそっと置くと、それに飛びつくミヤビ。


「ミヤビはメルヴィンさんの料理がとても気に入ったみたいです」


「ハハハッ。それは光栄です。それにしてもミヤビちゃんはとても賢いようですね。フォックスウルフって人に懐かない魔獣だと思ってましたけど、こうして見てみると普通の動物のようで、とても愛嬌があるのだと驚きます」


「ミヤビは特別だと思いますよ。あたし達の出会い方は少し変わった形でしたから」


 そういってリエルも目の前の料理に手を付ける。スープを軽く口にしたリエルは、ふとある事を思いつく。


「そうだ。メルヴィンさんに見せたい物があるんですけど」


「私にですか?」


 リエルはアイテムポーチに手を入れる仕草をするが、実際はチェストリングの中から一冊のノートを取り出して、メルヴィンへと差し出す。


「これって料理のレシピだと思うんですけど、聞いたこともない材料や調理法だと思われる内容が記されているんですけど、何かわかりませんか?」


 ノートを受け取るメルヴィン。


「拝見しても?」


「はい、お願いします」


 リエルに確認をして、ノートを開くメルヴィン。すると次の瞬間のぞき込むようにそのノートを顔に近づけて何やら震えている。

 朝食を再開したリエルはその様子に気づいておらず、焼いた肉の腸詰を口へと運んでいた。ぱりっと音を立てて弾ける腸詰のおいしさに幸せそうな笑みを浮かべるリエルに、興奮した様子でメルヴィンが問いかけてきた。


「リエルさん!なんですかこれ!?」


「ひゃい!?にゃ・・・んぐっ、何がですか?」


 驚いたリエルは口の中で味わっていた料理を飲み込むとメルヴィンへと聞き返した。


「あ、す、すいません。お食事中に大きな声をだして。・・・これ、一体どこで手に入れたんですか?」


「えっと、あたしのお母さんが持っていた物なので、入手した経緯はわかりません。ただ、料理人のメルヴィンさんなら何かわかるかと思って」


 その言葉にメルヴィンも腕を組んで考え込む。

 それは彼でも聞いた事が無い材料や調理法が数多く書かれていた為だ。


「なるほど。・・・リエルさん。恐らくですけど、このノートに書かれているレシピは一般に出回るような物ではないのかもしれません。例えば一部の王族などが食べる料理であったり、詳しくは知らないのですが、もしかすると異世界で作られている料理である可能性があります」


「なるほど、やっぱり異世界の料理かもしれない訳ですか」


「正直憶測でしかないですけどね。私も長い事この道を歩んできましたけど、ほとんど聞いた事が無い調理法ばかりですから。ただここに書かれている料理、【ころっけ】と書かれてますけど、材料の中には聞いた事がある物が多く見られますね。さっと目を通しただけですべては読んでないですけど、丁寧に解説が書かれているので、もしリエルさんがよろしければ試してみたいんですけど・・・」


 その言葉に食事を頬張っていたミヤビがすかさず反応する。


 〖リエル!どうせすぐに町を発つ予定はないのじゃ!任せてみる事を妾は提案するぞ!〗


 〖そうね。あたしも興味あるからお願いしようかしら〗


 〖うむ!〗


「はい。あたし達もまだ町を発つ予定はありませんから大丈夫ですよ」


「ほ、ほんとうですか!?早速材料を探しに町へ行ってみますよ!うおぉー!燃えてきたぞー!」


 挨拶をするのを忘れて厨房へと走っていくメルヴィンを見送ると、二人は再び食事を再開するのだった。


 ーーーーーーーーーーー


 食事を済ませたリエル達が向かったのは冒険者ギルドである。到着するとギルドの扉を開き中へと入っていく。

 室内は前回来た時よりも多くの人達で溢れていた。リエル達はその中である人物を探して受付へと歩いていく。


「おい?なんか生意気に従魔を連れている子供がいるぞ?なんだあれ?」


「お、ほんとだな。まぁあの様子だと依頼でもしに来たんじゃないのか?従魔連れってのは珍しいけど」


 周囲の者がそんな話をひそひそと口にしているが、リエルは気にする事はなかった。だがミヤビの耳にもその声はしっかりと届いており、軽くため息をつく。


(昨日の今日でまた厄介事に巻き込まれなければよいが・・・)


 そんな事を思っているミヤビだが、昨日の一件は無駄ではなかったと数秒後に理解する。

 リエルを観察している者達には、昨日の一件を知っている者達もいるようで、図らずもリエルの事を説明してくれていた。


「お前ら昨日はいなかったから知らないだろうけど、あの子だよ。ゴブスの奴をぶっ飛ばした新人って」


「え?嘘だろ?」


「いや、ほんとだぞ。俺も途中からみてた口だけど、かなりの使い手みたいだったぞ」


「嘘つけよ。俺達を担いだってなんの得もないだろ」


「全く、親切に教えてやってるっていうのに・・・。あとな、ゴブスの奴、その後キャスさんにぼこぼこにされたって話だぞ。自業自得だし、いい気味だな」


「あぁ~・・・納得だな。そりゃそうなるわな」


 話を聞いていたミヤビは昨日のゴブスの事を思い出す。


(あの不愉快な男、どうやらあの娘にひどい目に会わされた訳か。そしてリエルの事もそれなりに知れている様じゃし、昨日の様な事になる心配はなさそうで安心じゃな。しかし・・・)


 先を歩いているリエルが受付へとたどり着くと、そこにはキャスの姿があった。


(あの娘・・・ただ者ではないな。どれ・・・)


 ミヤビは密かに【天眼】を発動させるとキャスの情報を読み取ろうと試みる。だが【天眼】をもってしてもキャスの能力を確認する事ができなかった事に驚くミヤビ。そしてキャスの方も何かを感じ取ったらしく雰囲気が変わりあたりを注意深く、しかし動きは見せずに探っていた。


(気づかれた?やはりこの娘・・・普通ではないかもしれん。これは要注意じゃな・・・)


【天眼】による情報解析を防ぐにはかなり高い阻害能力が必要になる為、そうそう防がれることはないのだが、それを可能にしているだけの能力をキャスが持っている事にミヤビの警戒心が強くなる。


 そんな事もつゆ知らず、リエルはキャスへと話しかける。


「おはようございます。キャスさん」


「あ、リエルちゃん~。おはようございます~。今日も朝から可愛いですねぇ~。お姉さん、朝からテンションあがってしまいますよ~」


 ニコニコと笑いながらリエルの言葉に答えるキャス。ミヤビからするとその笑顔が不気味な物にしかみえなかった。


(まぁ昨日の様子からもリエルに敵意を持っている訳ではなさそうじゃが・・・下界にもかなりの実力者はいる訳か。妾も油断しておれぬな)


「ちょっとお聞きしたいんですけど、手紙を出すのってギルドへの依頼でいいんですか?」


「はい。ただこちらで内容を確認させて頂いてから、専門の職員がお届ける形になりますけど問題ないですか~?」


「はい。大丈夫です。じゃ~これをお願いします」


 リエルは一通の手紙をキャスへと差し出すと、宛先を確認する。


「はいはい~。場所はレインウッドの村ですね。早ければ明日にでも届くと思いますよ~」


「じゃ~よろしくお願いします」


「は~い。確かに受け取りました~。それで?今日はそれだけですか~?」


「いえ、依頼も何か受けてみようと思ってますけど」


「そうですかそうですか。それじゃ~よろしくお願いしますね~」


 リエルはキャスへと軽くお辞儀をし、依頼の張り出されている掲示板へとミヤビと歩いていく。そんな二人を見ていたキャスが言葉を洩らす。


「・・・先ほど見られている感覚がありましたが、一体どなたでしょう?」



お疲れさまです。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂けたら幸いです。


これからの時期、仕事の関係で間が空くことがあるかもしれません。

なるべくお待たせしないようにがんばりますっ!

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