34話 冒険者とリエル
誤字脱字は時間あるときに修正していきます。
「いやぁ一時はもうだめかと思ったが・・・。いや、俺達だけだったら死んでたよほんと」
倒れているゴブリンを見ながらそう呟く剣使い男に、槍使いの男が反応する。
「あぁ、あの人がいなかったら護衛の依頼どころではなかっただろうなぁ」
「まさかこんな場所でゴブリンの群れに襲われるなんて予想してなかったからな。運がいいんだか悪いんだか」
「それで?俺達の命の恩人様はまだきてないのか?」
「いや、見えてきたぞ。一体どん・・・え?」
「どうし・・・は?」
近付いてきた人物を見た二人は予想外の相手に声を失う。歩いてきたのは自分達よりも小さな、エルフの少女だった。更にその隣にはフォックスウルフの姿もあって思わず面食らってしまう。
「お怪我はないですか?ゴブリンに襲われてるのが見えたので手をお貸ししたのですが、ご迷惑だったでしょうか?」
見た目通りの子供の声で喋りかけてくる少女に、我に返った槍の男がそれに答える。
「あ、あぁ・・・。いや、大丈夫だ。助かったよ。一応聞きたいんだけど、隣のフォックスウルフは?」
「あたしの従魔ですから気にしないでください」
「じ、従魔って・・・失礼かもしれないがその年で従魔を連れてるとは驚きだな。先ほどの射撃の腕も見事だったし、てっきりもっと厳ついのが出てくるかとおもってたから面食らってしまったよ」
肩をすくめおどけた仕草をとる槍使いの後ろから、剣使いの男に連れられ馬車の乗ってた人達も集まってくる。老夫婦がリエルに軽くお辞儀をするとそれに合わせて小さな女の子を連れた母親と思われる者も頭を下げた。
「助かりました。私達はヒルリアの村から馬車でバランディアに向かっていたのですが、御覧になったようにゴブリンの群れに遭遇してしまって・・・本当にありがとうございます」
そういうと老爺は再び深く頭を下げて感謝の言葉を口にす
「そんな、別に大したことじゃないですから!頭を上げてください!」
そんなやり取りをしているのを他所にミヤビがふと視線を感じてその出所を見る。それは母親の脇にいた少女の物だった。少女は好奇の目でミヤビを凝視している。
(なんじゃ?何やらすごい視線を向けてくるが・・・)
そんな事をミヤビが思っていると、少女は母親の傍を次第に離れて、ミヤビの方へと近づいてくる。リエルに気を取られてその様子に気づいている者はなく、徐々にミヤビとの距離が縮まっていく。すると少女は声を上げてミヤビに飛びつく。
「かわいい犬さんだ!?」
その声に周りの者達も気づいて少女の行動に目をやり、母親がそれをみて慌てて声を上げる。
「シエラ!?な、なにやってるの!?だめよ!」
シエラと呼ばれた少女はミヤビに抱き着いたまま離れようとはせず、ミヤビの体を撫でまわしている。それを引き離そうと駆け寄る母親の表情は硬かった。
従魔と言われても一般の人から見れば魔物と変わらない。言ってしまえば恐れを抱いているのだ。
そんな物に自分の娘が手を出して無事で済むとは、母親は思えなかったのだ。
母親によってミヤビから引き剥がされたシエラは、抵抗を試みるが力ずくではどうにもならず、ついに泣き出してしまった。
〖はぁ・・・リエルよ。妾は構わんから母親に言ってやれ。触れても大丈夫だとな。うるさくて敵わん〗
〖え?いいの?〗
〖別にどうという事もない。それよりもあの鳴き声は妾の耳にはうるさすぎる〗
「あの、大丈夫ですよ。この子も触ってもらって問題ないみたいです」
「え、で、ですけど・・・」
リエルの言葉に戸惑う母親。その隙をシエラは逃さず母親の手から逃れミヤビに再び抱き着いた。ミヤビも尻尾をぶんぶん振り回し安全だという事をなんとか示そうと努力している。
その様子をみたリエルは笑いそうになってしまうが何とか堪える。
ミヤビに抱き着いているシエラに、リエルが声をかける。
「この子はミヤビっていうのよ。仲良くしてあげてね」
「ミヤビちゃんね!あたしはシエラっていうの!よろしくね!」
『ウォンッ!』
ミヤビの鳴き声に思わず吹き出すリエルであったが、そこで思い出したようにその場にいた者達に話を切り出す。
「ごめんなさい。あたしはリエルと言います。で、こっちが従魔のミヤビです」
その言葉にはっとした他の者達も、まだ自己紹介もしていない事に気づいて同じように自己紹介を返してくれた。
老夫婦の男はリカルド、女性はアンナ、シエラの母親はエイダといい、バランディアに店を持っているエイダの夫であるメルヴィンと一緒に暮らすために、住んでいた村から移動中だった事を話してくれた。
そして、槍使いの男がオーラフ、剣使いの男がフィルといい、バランディアの冒険者ギルドでメルヴィンから護衛の依頼を受けて、リカルド達を馬車で連れてくる途中にゴブリンに襲われた事も話してくれた。
一通りの事情を話し終えたオーラフ達は話を続けた。
「もし、リエルさんがバランディアに向かうのであればどうでしょう?我々と一緒に向かいませんか?」
「と言いますと?」
「見たところリエルさんは徒歩でバランディアに向かっているようですが、まだここから四時間は歩く必要がありますよ。なので、馬車での移動なら、時間を短縮できますからリエルさんの手助けになると思うのですけど」
「それは助かりますけど、いいんですか?」
リエルの言葉にオーラフは、リカルドへと同意を求める様に顔をむけ、リカルドも快くそれに答えた。
「ええ。私達に異論ありませんよ。それに、折角助けて頂いたのにこのまま別れるのも失礼かと思いますからね」
「正直、俺とフィルの二人だと、またあんなのに襲われたら護衛を全うできるかわからないから手を貸してほしいていう下心もあるけどな。で、どうだろうか?」
リエルはオーラフの提案を受け、ミヤビを見る。
シエラにわしゃわしゃと毛並みをもみくちゃにされているが、それを気にする事なく佇むミヤビ。
〖別に良いのではないか?歩かずに済むのは楽でいいじゃろうし、時間が短縮できるのも助かるしな〗
〖じゃ~断る必要なないわね〗
〖うむ。妾はそれでいいと思うぞ〗
「わかりました。それじゃーお言葉に甘えてご一緒させてもらいます」
「いえ、我々の方が感謝したいくらいですよ。なぁフィル?」
「あぁ、よろしく頼むよ」
そういうと、オーラフ達とリエルは握手を交わし、辺りに散乱している荷物を速やかに馬車へと積み直して、皆で馬車に乗り込むとフィルが馬を走らせるのだった。
馬車の中は至って普通で、皆先ほどの襲撃を忘れ、穏やかな時間が流れている。シエラはミヤビの事をすこぶる気に入ったらしく、今も頭や背中を撫でたりして笑っている。
最初は警戒していたエイダもその光景に慣れ始め、安心した様子でその様子を見ている。
馬車が走り出して一時間ほど経過するが、各々がのんびりと馬車で揺られている。
「ところで、リエルさんはなんでバランディアへ?」
オーラフがリエルに問いかける。
「大したことじゃないです。お母さんが冒険者で、世界のいろんな場所を見てきたから、あたしも世界を旅してみようと思って」
「なるほど。俺とフィルも冒険者なんだけど、まだまだランクは低いのであまり遠くへは行った事ないんだが、リエルさんのお母さんはやっぱりすごい人だったんじゃ?もしご迷惑でなければ聞いてみたいんだが」
「別に迷惑なんかじゃないです。でも、冒険者だったくらいしかあたしは知らないんです。あたしがもっと小さい頃に病気で亡くなってしまったので」
「あ・・・それはわる・・申し訳ない!。興味本位で悪い事を聞いてしまって」
「あ、いえ。だから迷惑じゃないので気にしないでください。ただ、そういう訳なのであまり詳しい事はあたしも知らないんです。あ、あと別に普段通りの話かたであたしは構いませんよ」
「え、それじゃお言葉に甘えて、普段通りで行かせてもらうよ。慣れない言葉遣いってのは難しくてな」
軽い笑いが馬車の中に響いた。
「あたしはまだ冒険者じゃないですからね。オーラフさん達は言ってしまえば先輩という訳ですから、気にする必要ないじゃないですか」
「正直、リエルさん相手に先輩面なんてできそうもないけどな!ただ、その話の流れだと冒険者登録をするためにバランディアに?」
「目的の一つではありますけど・・・バランディアにも冒険者ギルドはあると思っていいの?」
「あぁ、あまり大きくはないけどちゃんと冒険者ギルドはあるから安心していいぞ」
オーラフの言葉にリエルは安堵し、ミヤビへと顔を向ける。
〖これで冒険者として登録はできそうね〗
〖意外なところで有益な情報が聞けてよかったな。それにしても・・・〗
ミヤビはシエラを見ながら若干疲れた様子で言葉を続ける。
〖この娘、そろそろ相手にするのもつかれてきたんじゃが・・・それに腹も減った・・・〗
〖そういえば、そろそろお昼時ね〗
リエルはオーラフへと視線を戻すと聞いてみる。
「オーラフさん、あとどれくらいでバランディアに到着できそうですか?」
「ん?そうだな・・・。この速度で何事も無くいってもあと一時間ちょっとは掛かるんじゃないかな?どうかしたか?」
「ミヤビにご飯上げないといけないので少し止めてもらっても平気ですか?」
「あぁ、確かにもうそんな時間か。リカルドさん、そろそろ昼食時ですけどどうしますか?」
「そうですな。ずっと座っていてもお疲れになるでしょうし、後一時間ほどで到着するなら、この辺でいったん休憩をとるのもよいのではないですか?」
間接的な雇い主になるリカルドに確認し、問題ないと判断したオーラフ。
「リカルドさんから同意も頂けたから、一旦昼食休憩だな」
そういうとオーラフは、御者席の後ろの位置にある窓を中からあけ、馬を引いているフィルへと停車を要求し、フィルもそれに従い、馬を止める。
全員が馬車から降りると思い思いに体を伸ばしたりして、体の疲れを取っている。
リエルはなるべく回りから見られないように離れた位置まで移動すると、チェストリングからソニックバードの切り身と食器を取り出し、アイテムポーチの中の、道中の森の中で拾い集めた薪を数本取り出し、ミヤビにどうするか問いかける。
〖ここだと簡単な事しかできないから火を通すだけで平気?〗
〖ん、それでよいぞ。焼いただけでも十分ソニックバードの肉はうまかったからな〗
〖それと、どうやって火を起こすかだけど・・・〗
ちらりとオーラフ達へと目を向けるリエルとミヤビ。
彼らが口にしているのは干し肉とパンと言った簡単な食事で火を起こす必要がない物なのでリエル達はどうしたものかと考える。
〖うーむ。ここで肉を焼いた時点で出所に疑問を持たれるのは避けられんだろうが・・・。まぁごまかしようはある。リエル、そこに薪を積むんじゃ〗
〖わかったわ〗
リエルは薪を組んで焚火の用意をする。
すぐに組みあがった薪をみて、ミヤビは周囲を確認してから【狐火】という能力を使って薪に火を付ける。
〖よしよし、これでいいじゃろう。さ、早く肉を焼くのじゃ〗
〖はいはい〗
ミヤビに催促され、リエルは食器と一緒に取り出した串を肉に通して焚火の近くへ次々と突き立てる。暫くすると肉の焼けるいい匂いにつられたのか、その様子に気づいたオーラフが声をかけてくる。
「な、なんだ?肉を焼いてるのか?生の肉を持ち歩いてるなんて驚いたな」
やはり驚きの声が上がったかと、リエルが困惑しそうになるが、ミヤビはそれに対する回答を念話ですかさず伝えてくる。
〖道中でたまたま狩った魔物の肉だとでも答えればよい〗
「え、えぇ。オーラフさん達に会う前に遭遇した魔物の肉ですね」
「へぇ~。まぁリエルさんの腕なら納得だな。それにしても・・・」
漂ってくる肉の香りに興味を持つなというのも無理な話だろう。オーラフの顔は何とも言えない顔を見せている。それをみたリエルは笑顔で口を開く。
「よかったら、食べますか?ミヤビの分も十分ありますし、皆さんの分も何とか足りると思いますけど」
〖なっ!?だめじゃ!こ、これは妾のめ――〗
〖しょうがないでしょ!ここであたし達だけでこんなの食べてたら居心地が悪いじゃない!〗
「え!?いいのかい?実にいい匂いだから何の肉か気になってしまってたんだよ。他の人も呼んでくるけどほんとに平気かい?」
「ええ、大丈夫ですよ。皆で食べた方がおいしいと思いますからね」
「よし!早速呼んでくる!ひゃっほう!」
歓喜の声を恥ずかしげもなくあげ、馬車の方へと走っていくのだった。
お疲れさまです。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。




