33話 力の使い方と弓の能力
バランディアを目指して森の中の道を歩いていく。町と村との間に交流を持つようになってからできたこの道は、森を切り開いただけの物であり整備をしっかりされている訳ではないので、街道とは名ばかりの物と言っても差し支えない。そんな森の中を歩き始めて2時間ほど経過し、やっと森の終わりへと差し掛かる。
「な、長い・・・。隣の町と言ってもまさか森の中をこれほど歩くとは・・・」
ミヤビが不満の声を洩らす。その言葉にリエルは口を開いて同意する。
「元々は人から隠れる様に作られた村みたいだからね。人の町が離れてるのはしょうがないと思うけど、歩いて半日ってやっぱり遠い過ぎるわ・・・」
「エルフ族と人間族の過去の確執を考えればわからん事もないが・・・。気長に行くしかないか・・・」
「走ってもいいわよ?」
「まぁ多少は早く町へ着くじゃろうが・・・。む、そうじゃ!せっかく時間があるんじゃ。早速、力を使いこなす為の訓練をしながら進むのがよいのではないか?」
「あたしはいいけど、何をする気なの?」
ミヤビの提案に素直に反応するリエル。リエルもただ歩いてるだけでは退屈だったのは事実なのでミヤビの提案はリエルにとっても調度よかった。
「そうじゃな。お主、先日【魔力解放】の能力を使っておったが、体に異変はあるか?」
「少しだけしか使ってなかったし、今も特に何ともないわよ?」
「よしよし、なら歩きながら【魔力解放】状態でどれだけ動けるか調べてみるとしよう」
「え・・・大丈夫なの?」
「それを調べる為にやるんじゃろ。少し危険やもしれぬが、折角見晴らしのいい草原なんじゃ。周りに誰かいてもすぐに視認できる故、魔王の力を使ってもばれる心配もない」
「なるほど。確かにそうかも」
「そうじゃろ?では、早速やってみせよ」
「じゃー行くわよ」
隣を歩くミヤビに短く言葉を返すと、リエルは歩く速度を維持しながら【魔力解放】を発動する。
静かだった周囲に圧倒的な魔力が解き放たれ、少し前までいた後方の森の中からたくさんの鳥達が飛び立つ音が響く。
リエルの横を歩くミヤビも、その圧倒的な魔力の圧力を受けているが、周囲を張り巡らせている警戒を緩める事はなく、平然としている。
そのままの状態で歩いていたリエル達だが、すぐに異変がおきる。
「・・・っ!?」
「むっ!リエル!すぐに能力を切れ!!」
「う・・・、うん・・・」
ミヤビの言葉に苦痛の声を上げながら答えるリエルは、即座に魔力解放を解除する。すると魔力の暴風はやみ、先程の静けさが戻ってくる。額に冷や汗を浮かべるリエルにミヤビが問いかける。
「大丈夫か?まだどこか痛むか?」
「・・・平気。多分もう大丈夫」
「そうか・・・少しひやっとしたぞ・・・。無茶をさせてすまぬな。じゃがおかげで今のお主がどれだけその状態を維持できるか確認する事ができたぞ」
チェストリングから水筒を取り出し、水を口にするリエルに、ミヤビがそのまま言葉を続ける。
「お主が【魔力解放】状態を維持できるのは、今の様子だと約60秒と言ったところが限界とみていいじゃろう。ただ歩いているだけその程度じゃから戦闘中の使用となると20秒前後になるじゃろうな」
水筒をしまったリエルは、ミヤビの考えを聞いて言葉を洩らす。
「20秒・・・。まだまだ使いこなすには時間がかかりそう」
「そうじゃな。じゃが焦る事はない。逆に言えば20秒は全力で魔力を使う事が出来るという事じゃ。切り札としては申し分ないじゃろう」
「ここぞと言う時に使う様にしないといけないわね」
「そうじゃが、人前では使うのは避けるべきじゃろうな」
「わかってるわ。・・・そういえば、ミヤビはその恰好どうするの?」
「ん?どういう意味じゃ?」
「え?だって今まで人前では姿を隠してたじゃない。これからもそれだと問題にならないかな?」
リエルの疑問をすぐに理解し、ミヤビはその疑問に対して答える。
「もちろん町の中でも普通に姿を見せたままでいるつもりじゃぞ。村で姿を隠していたのは、リエルの事を見知っている者だ大多数じゃろ?そんなリエルが急に魔物なんぞ連れていたら大変じゃろう。その点、これから先はリエルの事など知っとる者なぞおらんから、従魔を連れていても何の問題もないという訳じゃ」
「あ、そういう事か。確かに村であたしがミヤビを連れていたら大変な事になるわね。でも、町に入るときにミヤビの事を聞かれたらあたしはどうするの?たしか・・・稲荷空孤だっけ?それってすごい存在なんでしょ?」
「そうじゃな・・・いつぞやの盗賊共が妾を見てフォックスウルフと判断しておったな。なら、フォックスウルフとでも説明すればよいのではないか?正直フォックスウルフ如きと一緒にされるのは腹立たしいが仕方なかろう」
「分かったわ。もしミヤビの事を聞かれるような事があったら従魔のフォックスウルフって説明するわね」
「それでよいじゃろう。しかしお主、意外と考えてるもんじゃな。すこし見直したぞ」
「あ、あたしだってちゃんと考えてる事くらいあるわよ!」
「カカカッ!まぁこれからもしっかりとやるんじゃぞ。これはお主の旅なのじゃからな」
「そうだけど・・・ミヤビの事、頼りにしてるんだから相談には乗ってよね」
「勿論じゃ。妾が言っているのは、全てを妾に委ねる事がない様にしろと言う事じゃ」
「うん、ありがとねミヤビ」
「うむ、気にしなくても良いぞ。しかし町が遠いのぅ・・・。む?なんじゃあれは?」
「え?なに?」
前方に何かがある事に気づいたミヤビ。それに気づいたリエルも目を凝らして道の先をみる。それは馬車のようだが、何やら様子がおかしい。
やがて人の雄叫びと悲鳴が風に乗ってミヤビの耳へと入ってくる。
どうやら魔物に誰かが襲撃を受けているらしい事を把握する。
「どうやら魔物に襲われてるみたいじゃぞ?どうする?」
「え!?大変じゃない!助けに行くに決まってるでしょ!」
「まぁそう言うじゃろうとは思っておったが。なら急ぐとしよう」
二人はまだ距離があるその馬車に向かって駆け出す。やがて、リエルの耳にも人の声が聞こえてくる。
リエルは走りながらもチェストリングから弓と矢筒を素早く取り出し、臨戦態勢を整え、魔物の姿を確認でき次第攻撃する考えで馬車へと急ぐ。
「む、どうやら相手はゴブリンのようじゃが、数が多いな。かなり押されている様子じゃから助けるならもっと急いだほうが良い」
「わかった!」
走る速度をさらに上げるリエルはミヤビを追い越し、地を駆ける。ミヤビも走る速度をリエルに合わせてあげていく。
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二人の男が数十匹からなるゴブリンの群れを相手に、数名の人を守りながら武器を振っている。
『ゲギャギャ!』『ギャッギャッギャ』『キキキキッ!』
「くそっ!数が多い!ゴブリン共がっ!」
「そっちは大丈夫か!?」
「何とか持ってるけどこのままじゃまずい!乗ってた人達はどうなってる!?」
「こっちも何とかしてるけど状況は良くないね!まったく!」
ゴブリンの群に防戦一方になっている二人は焦りの表情で声を上げている。その二人の後ろで子供を抱いている母親や老夫婦が目の前の魔物をみて怯えて竦んでいる。
「くっそー!このままじゃ持たねぇ!おい!あんた達!早くここから離れろ!長くはもたねぇ!」
槍を握っている男の一人が後ろで怯えている者達に言葉を放つ。
「む、無理ですじゃ!・・・儂等だけではとても・・・」
「あぁ・・・神様・・・」
女子供や老夫婦達だけではとてもではないが逃げ切る事が出来ない。動くことができずにその場で神に祈るくらいしかできる事がなかった。
次の瞬間、後ろに気を取られている男の隙を付いて1匹のゴブリンが手に持つ、無骨だが凶悪な形を見せる石斧を頭部に目がけて振り下ろす。
(やべぇ!よけきれねぇ!)
男がよけられないと覚悟した時、斧を振り下ろそうとしていたゴブリンの頭部を、何かが貫いた。
「え・・・」
『グギャッ!?』
何が起きたのか理解できないでいる男。次の瞬間、再び別のゴブリンを何かが貫き、頭部を貫かれたゴブリンが一瞬の呻きを上げて地面へと倒れる。見るとゴブリンの頭部は矢によって貫かれているのを確認できた。
立て続けに二人の仲間が倒れたのを見たゴブリンも何が起きたのか理解できずに、警戒の声をあげ、あたりを見渡す。
その様子を見ていたもう一人の剣を握っていた男が、ゴブリンの遙か後方にいる人影を発見し、驚きに言葉を洩らす。
「あの距離から・・・?」
その言葉に、槍の男もその人物に気づいて声を上げる。
「どうやらこちらを援護してくれる見たいだぞ!助かるかもしれん!やるぞ!」
「あ、あぁ!」
槍の男が声をかけ、剣の男も我に返ると目の前の慌てているゴブリンの隙を付いて攻撃へ転じる。
「おらぁ!!」
『ギャッ!?』
隙を突かれたゴブリンはその剣を的もに喰らってあっけなく絶命する。その間も飛来する矢によって瞬く間にゴブリンの命が射抜かれていく。
槍の男も2匹のゴブリンを仕留めるが、二人で3匹を仕留める間に矢で射抜かれ倒れているゴブリンは5匹となっていた。
それを見た二人の男に余裕が戻ってくる。
「こいつはすげぇな。とんでもない使い手だぞありゃ!?こっちも負けてらんねぇぜ!」
「いやいや、一時は死を覚悟したんだが・・・少しは神様を信じてもいいかもな!」
二人は1匹、また1匹とゴブリンを仕留めていく。自分達が挟まれている事に気づいて行動が乱れていたゴブリン達は瞬く間に数を減らしていき、ついに最後の1匹も正確無比な矢による射撃を受け、その命を失うのだった。
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「どうミヤビ?まだどこかに隠れてたりする?」
「いや、今のが最後じゃな。馬車に乗ってた者は無事のようじゃぞ」
「はぁ・・・よかったわ」
「しかし、間に合わないと見るやこの距離で弓を射始めるとはな。というかその母君の使っていた弓の性能、大したものじゃな。まさかそんな能力を持っていると驚いたぞ」
リエルの弓の握りの部分に光の輪の様なものが浮かんでいるのを見て、ミヤビが驚きの声を上げている。
それはこの弓の能力の一つ。
長射程による狙撃を行う際に、光の輪が目標を拡大して映してくれる能力だった。
「あたしも黙って見てられなかったから、何とかここから当てようと矢を番えたら、突然この光の輪が浮かんで驚いたわよ・・・。このお母さんの弓、後でしっかり調べた方がいいんじゃない?」
「その必要があるな。後で妾が確認してやろう。じゃが今は向こうが先じゃろう。怪我をしておる者がおるかもしれん」
「そ、そうだった!急がなきゃね」
リエルは弓をしまうと、馬車まで急ぎ向かうのだった。
お疲れさまです。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。




