20話 逃亡者と組織の存在
リエルさんとミヤビさんは今回でてきません。おっさんがメインです。
「う~む」
エリックから貰った周囲の情報を書き込んだ周辺地図を見ながら唸りを上げるクラウス。獣道などの細かい情報も書き足された地図を眺めながらクラウスは考える。そのテントの中に戻ってきたヴレアが声をかける。
「たった今、この道を探索しに行っていた兵士達が帰ってきましたが、新しい足跡は見つからなかったそうです。こっちは外れですね」
地図を指さしながらヴレアは報告をする。クラウスは指を差された場所に鉛筆でバツ印をつけながら言葉をヴレアに喋りかける。
「ご苦労だった。そうなると残りはここだけか。・・・エリック殿の話では過去にフォッシルリザードが現れた事があったため今は使う者はいないが、沼地から街道へ出る事ができる道があるらしい」
「フォ、フォッシルリザードですか・・・。結構厄介な魔物ですねそれは」
「そうだな。個体その物も固い鱗に覆われいて力も強い上に奴が使う石化毒がな。動きは早く無いのは救いだが、解毒か解石の手段がない状態では戦いたくない相手だ。幸いその時はエルフの凄腕の人物が討伐を成功させ、今日まで村の周辺ではフォッシルリザードを新たに見たという話しはないらしい」
「では念のためその人達に同行を頼んで一緒にきてもらいますか?」
「いや、その方はもう既に亡くなってるそうだよ。直接会って話をしてみたくはあったが残念だ。それと一人で倒したそうだぞ。とても優秀な方だったのだろうな」
「一人でフォッシルリザードを討伐したんですか!?とんでもない方ですねそれは!」
「うむ。ぜひ会ってみたかったが仕方ないだろう。それは別として、早速何人かで隊を組んでこのルートを確認しにいく。念のため私も準備をして隊を指揮するつもりだ。お前はどうする?」
「もちろん私も行きますよ」
「よし、では早速用意に取り掛かるとしよう」
二人は可能性のある最後のルートを探索するために準備を始める。
程なくして、準備を終えたクラウスはテントの前で待機している数名の兵士に先に行くように告げる。その中にはヴレアも含まれていた。
「私は念のため村の雑貨屋で解石薬が置いてないか見てから向かうから、お前達は先に向かってくれ」
「分かりました。我々は先に向かいながら人が通った痕跡が無いか調査しますので、隊長もお早めににお願いします」
そういうとブレア達は一足先に最後のルートへと向かって走って行く。
(・・・用心するに越したことはないだろうが、私も急ぐとしよう。)
クラウスも雑貨屋へ早足で向かい始める。そこまで距離もないためすぐに到着し雑貨屋の扉に手を伸ばして中へと入って行く。
「おや?隊長さん、いらっしゃい。どうかしましたか?」
姿を見せたクラウスに店番をしているナイルが声をかけた。クラウスの方もそれに応えて言葉を発する。
「すいません、これからエリック殿に聞いた沼地の道を探索するので解石薬などは取り扱っていないか見に来たんですが有りますかね?」
「フォッシルリザード対策って事ですね。有りますけど以前現れた時の奴は討伐されてるって聞いてますけど、もしかしてまた現れたんですか?」
「いえいえ、違いますよ。逃走を続けている賊の捜索で向かうだけです。万全を期すために今手元に無い解石薬があったら念の為に買って行こうかとね」
「流石隊長さんですね。そう言う事なら・・・あったあった。どうぞこれを使ってください。使わなかったら返しに来てくれればいいので」
ナイルから差し出されたのは数本の瓶が入ったポーチであった。
「宜しいので?」
「ええ。村の為に危険があるかもしてない場所に向かんですからこれくらいは母さんも文句は言わないと思いますよ」
「助かりますよ。無論使うことがなかったら返しに来ますので。では他の者を余り待たせるのも悪いのでそろそろ行きます。有り難くこちら、お借りしていきます!」
「はい、またどうぞ」
ナイルの心遣いを受けて何としても盗賊の足取りを掴もうと意気込みを新たにし、先に向かっている本隊との合流を急ぎクラウスは走り出す。
走り続けること数分。クラウスの視線の先にヴレア達本隊の姿を捉える。既に沼地の入り口に到着していた本隊は捜索を開始していた。
「済まない、待たせたか?」
「いえ、先ほど到着したばかりですので問題ないです。丁度捜索を開始したところですので」
「そうか。逃げた賊が通るとしたらもうこのルートしか無い。盗賊どもの情報収集能力がどれ程の物かはわからんがこの辺りの地理ならばエリック殿の方が詳しいほうが道理。ならば後はここしかない。何としても足取りを掴むぞ」
クラウスの言葉を受けた兵士達はやる気をみなぎらせ、まるで戦っているような気迫を漂わせながら大地と睨めっこをしている。
程なくして一人の兵士が結果を出した。
「あ!隊長!見つけました!足跡です!」
「出来した!今行く!」
すかさず走り寄るクラウスは兵士の指差す部分を睨むように見つめる。
「間違いないな。これはつい最近ついたものだ。相手もこの泥濘んだ地面をここまで直接踏むのを避けながら草の上を歩いて来たのだろうがついに見つけたぞ」
「間違い無いでしょうね。私の方もあっちの草むらでこいつを見つけましたよ」
確認していたクラウスの後ろからヴレアの声がかかる。その手には衛兵隊の着ている服の上着が握られていた。それを見るクラウスに言葉を続ける。
「襲われた兵士から奪った物でしょう。これをきて村人の目を欺いてこのルートに入ったんでしょうね。兵士が村の中で周囲を探し回って移動していてもおかしいと思う者はいませんからね」
「此処まで来ればもう動きの邪魔になるであろうそいつは不要という事で脱ぎ捨てて行ったのだろうな。・・・だが街道の哨戒にも発見されていないといことはまだこの辺りに潜伏しているかも知れんな。油断せずに先に進むぞ」
まだ近くに逃走中の賊がいるのなら何としても捉えてやろうという意思を見せているクラウスに皆も頷き沼地の道を進んで行く。
暫くすると、周囲に目を配りながら道なりに歩いて行く一行の向かう先から何か響く音が聞こえてくる。
金属のぶつかり合う音だとその場に居た全員が気がつき、クラウスが、続いてヴレアが走り出す。
音の発生元までたどり着いた二人が見たのは黒いマントで身を包んだ二人と、それを相手に一人武器を振るっている一人の男だった。恐らく一人の方が逃走中の盗賊だろう考えるクラウス達。すると、
「チッ、仕事の失敗だけじゃなくて余計な者まで連れてく来ちゃうとか。これだから下っ端共の半端ぶりは嫌になるのよ」
黒マントの一人が口を開いた。その言葉に反応して盗賊が後ろをチラリと見る。その隙にすかさず黒マントの一人が攻撃を仕掛けるが、盗賊はすんでのところでそれを躱すと大きく後ろに飛び退きクラウス達の側に着地する。そして盗賊は口を開く。
「なぁあんた達、俺を追って来た衛兵隊だろ?取引しないか?あいつらを退けるのに手を貸してくれたらいい情報をや――」
「なぜ我々が悪党に手を貸さなければならない。貴様は勿論捕まえるし、向こうの奴等も同様まともそうでは無いからな。ぶちのめして口を割らせる事になるだろうな」
最後まで聞く事なくクラウスは当たり前の様に言葉を告げる。
「取り敢えず今死なずに済むならそれでも良いから、まずはあの二人を何とかしないとあんたらも殺されるぞ?俺と奴等は黒手袋の一員だが、俺は下っ端だけどあの二人は幹部候補。俺なんかよりずっと強いぞ」
「黒手袋だと?成程・・・」
クラウスは目の前の男の話を聞いて剣を抜く。ヴレアも既に剣を構え戦闘態勢を取っていた。そこへ他の兵士達もやって来てくるが事情が把握できず、クラウスへと視線が集まる。
「お前達はこの男を確保して村へ戻れ。俺とヴレアはこいつらを捕らえてからいくから先に行け。油断はするな。そいつは黒手袋の一員だ」
その言葉を聞いた男は潔く武器を落として手を頭の上に乗せて兵士達の側まで下がってくる。黒手袋と聞いた兵士達も油断せずに男に近づき腕を後ろで縛り上げる。
(今此処で死ぬよりはマシだろう。捕まってもまだ逃げるチャンスはある・・・。あいつらとやり合って絶対にくたばる道よりこいつらの相手の方が楽だしな・・・)
男、ベジャールはそう考え大人しく兵士達に縛られて村へと向かって連れて行かれる。
その様子をみていた黒マントの二人組は動かない、というより動くことが出来ない。
それは目の前の兵士が油断する事が出来ない相手だと経験から感じ取ったからだ。黒マントの一人が緊張感漂う場に言葉を投じる。
「・・・引くぞ」
「はぁ?本気?こいつらを殺してあの恥晒しの役立たずを口封じするだけの簡単な任務じゃない。引く理由が無いわ」
「・・・なら好きにしろ。死ぬならお前一人で死ね」
「そこまでこいつらがやるっていうの?」
「若い方はそうでも無い。だがもう一人の方はかなりやる。勝てない事も無いがメリットが無い」
「連れてかれっちゃったあいつはいいの?私等の事喋られる方がデメリットじゃない?」
「所詮下部組織の下っ端。喋られて困る情報など持ち合わせていない。それに――」
「相談はそこまでにしてもらおう!悪いが悪の芽はここで摘み取る!」
言葉を遮りクラウスだ突撃する。泥濘んだ足場を物ともしないその踏み込みは黒マントの一人との距離を瞬時につめる。
振り払う剣は風を切る音を立てながら勢いよく手前の黒マントに迫る。
しかしその剣は片手で握った短剣で簡単に受け止められてしまう。
「話の最中に攻撃とは、正義に燃える男と聞いているがこういう事も出来るとは意外な一面が観れたよ。クラウス殿。それとも二つ名の方で読んだ方が良いかな?」
剣を受け止めたまま、男の声の黒マントはクラウスに言葉をかける
「む!私を知っているか。・・・成る程、かなりやり手のようだな。だがっ!」
剣に力を込め男を吹き飛ばすと距離を取るクラウス。
吹き飛んだ男は空中で翻り体勢を直して着地する。
直後、赤い光が男の側まで迫って来ていた。ヴレアの放った炎の魔法である。それを見たもう一人の黒マントが手を振るう動作をすると、放たれた火球は弾けて消える。
「あんたも油断しすぎじゃない?まぁ確かにあっちは大した事ないみたいだけど」
女の声で喋る黒マントはヴレアに向けて明らかな挑発の言葉を向けるがヴレアはそれに応じることなく無言で剣を向けている。
「・・・行くぞ。これ以上は時間が惜しい」
「ハイハイ、分かりましたよ」
「む!にが――」
クラウスが咄嗟に斬りかかろうと動いた瞬間、黒マントの二人は景色に溶け込む様に姿を消す。残ったのは静寂だけだった。
(魔法か魔道具か・・・不可視化とは流石は裏の組織、黒手袋の連中だな。幹部候補と言っていたがかなりの実力者で間違いない。)
などと考えているクラウスにヴレアが声をかける。
「隊長?大丈夫ですか?」
「あぁ、私は大丈夫だ。すまんな、逃げられた様だ」
「捜索隊を編成しますか?」
「いや、やめておこう。さっきに二人は今回捕らえた奴らよりずっと強い。こちらの戦力では捕らえるのは残念だが難しいだろう。今回は諦めるしかない」
「・・・あれが黒手袋の実力者ですか。恐ろしい相手の様ですね・・・。【ファイアボール】をどの様な手段で打ち消したのかまるで分かりませんでしたよ・・・」
若干の悔しさ滲み出ているヴレアであるが直ぐに気持ちを切り替える。
「目的の賊は捕らたことですからが村へ撤収で宜しいですか?」
「そうだな。いつまでも此処にいる意味はない。村へ戻るとしよう」
これからの事を話しながら二人は先に村へと向かった本隊との合流を急ぐのだった。
お疲れさまでした。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。




