13話 両親の事とミヤビの事
リエルとミヤビのやり取りがメインです。
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そこは所せましと立ち並ぶ天を貫く透明な板で覆われた塔が建っている大きな町。町を包む光は夜を飲み込もうとその輝きを際限なく放っていてる。
群衆の姿は見えない静かな町の中に独り私は立っている。
町の中を歩く私の目に映るのは、見たこともない世界。
固い石のような物で整備された道、店の外に並ぶテーブルにはおいしそうな香りを立ち昇らせる料理が置かれている。
塔の中間あたりに設置されているパネルには、今の町とは違う自然の世界が映し出され、しばらくするとまた別の景色へと変化している。
私は匂いにつられて、店のテーブルに向かい、席につく。
ふと後ろを見ると母の姿、その隣には人の影が寄り添いながら私の後ろに立っていた。
母は腰を落とし、私に何かを告げ、もう一人の人影を、微笑みの眼差しで見ると、影は頷いて誰もいない建物へ向けて手を上げ何かを言っている。
すると、目の前のテーブルに、美しい装飾のような料理が運ばれてきた。透明な器にのった、白い雲のようなソースの中に黒いソースがかかり真ん中には黄色いぷるぷるした物体が乗せられていた。
私は驚きと好奇心に目を輝かせながら、母に振り向くと、笑顔で頷く母をみて、器の脇に置かれている銀のスプーンを手にとり、料理を口に運ぶ。
黄色いプルプルしたその食べ物は、この世の物とは思えない強烈な甘さとほのかな苦みを私の口の中へとまき散らし、思わず歓喜の声を上げてしまった。
はしゃいでる私の肩に手がおかれ、母と影は笑顔で私を見ている。
目の前の器が空っぽになると、段々暗くなっていく視界。視界がはっきりしてきたときには、その目にはよく知る家の天井を映し出していた。
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「お?目が覚めたようじゃな」
意識を取り戻したリエルに最初に入ってきたのは、どこかで聞いたことがあるよな声、寝ぼけた瞳に映ったものは、見慣れない服を着た少女の姿だった。思考の定まらないリエルは呟くように言葉を発した。
「・・・夢?」
「は?お主、大丈夫か?ほれ、まずはこれでも飲んで落ち着け」
少女はコップをテーブルから手に取るとリエルに差し出した。それに反応して受動的に手を出し受け取ったリエルは、コップを口に運び飲み干す。寝ぼけた頭が急激に刺激され、激しく咳き込むリエル。
「えほっ、えほっ!な、なにこれ!?」
「なんじゃ?唯の酒じゃぞ?そんな事もしらんのか?」
「お、お酒!?ちょっと!びっくりするじゃない!と言うかなんで子供にお酒を渡すのよ!・・・あれ?」
「別にいいじゃろ。妾だって飲んで居るんじゃから平気じゃ」
「・・・えっと、あなたは?」
酒の強い衝撃で脳が完全に目を覚ましたリエルが、目の前の少女の存在に疑問を持ち問いかける。少女は手に持ったコップにテーブルの上に置いてあった瓶から液体を注ぎ、それを一気に口へと流し込むと『プハーッ』と満足そうに声を漏らす。そのまま続けてリエルへ言葉を返す。
「妾は稲荷空孤のミヤビ。森でお主とは顔を合わせておるじゃろ。名前までは名乗ってなかったが細かい事は気にするな。よろしくの」
「稲荷空孤・・・ミヤビ?えっと・・・私の記憶ではその・・・貴方の様な姿ではなかったとおもうんだけど。」
「姿は少々違うが中身は変わらんぞ。口で言っても納得しずらかろう。ほれ、これでどうじゃ」
ミヤビは人化の術を解き、リエルの記憶の中にある者と一致した狐の姿を晒すとそのまま言葉を続ける。
「ほれ、これで合点がいくか?わかったならお主に確認したい事もあるゆえ先に進みたいのだがかまわんか?」
「確認?あたしに?」
少々訝し気な顔をしているリエルにミヤビはそのまま話を説明をする。
「うむ。少しばかりお主の事を調べさせてもらうぞ。・・・【天眼】」
ミヤビは【天眼】の能力を発動しリエルの情報を確認していく。ふむふむと一人納得しているミヤビを黙ってみていたリエルは、手持ち無沙汰のためあたりを見ていると、ふと自分の傍に盛り上がった毛布を視界にとらえる。徐に手を伸ばしそれをめくるとそこには見慣れた人物が寝息を立てているのを発見する。
(あれ?ナイルさん?なんでこんな所で?)
そんな疑問を抱いていると毛布を取られたことで、体温が下がっていくのを感じたのか、それを嫌がるように身体を丸めるナイルの様子を眺めていたリエルに、ミヤビは話かけてくる。
「ふむふむ、待たせたの。まずお主、自分についてどこまで理解しておるんじゃ?」
「どういうこと?」
「自分の出生の事とか聞きたい事はないか?今なら妾も随分情報を得られた事で、予想でいいなら答えられることもかなり増えたからの」
「自分の出生?生まれた時の事を言ってるのなら・・・お母さんの事は知っているけどお父さんは・・・知らない」
「ふむ、ならそこから聞かせてやるとしよう。最も妾の憶測の部分もあるから絶対ではないがな。まず母の事はわかっているのなら父親についてじゃな。」
「あたしのお父さんはダークエルフだってみんなはいってるけど・・・」
「そう思われても仕方ないじゃろうな。だが事実はもっと別でじゃな。お主の父は魔界の王の一人じゃろう。名前はしらんが、お主の中にある情報に【魔王の娘】の称号があるのを確認したからまずこれは間違いない」
「は?魔王?ちょ、ちょっとまって!言ってる意味がわからないわ!へんな冗談はやめて!」
突如告げられた事実に困惑を隠せず声を荒げるリエル。それはそうだろう。突然自分の父親が魔界の王だといわれて、はいそうですかと納得できるはずなどないのだから。そんなリエルを見ながらミヤビは言葉を続ける。
「信じられんのも無理はないじゃろうが事実じゃ。お主は母親と魔王の父親との間にできた子であるのは間違いない。妾の天眼を欺くなど余程のスキルがなければ不可能じゃからな」
「どうしてお父さんが魔王だなんてなんでそんな嘘をつくの!?お父さんは悪い人なんかじゃないわ!お母さんだって村で尊敬されたすごい人なんだってお婆ちゃんは言ってたのよ!」
「別に魔王だからといって悪い存在だけではないのじゃぞ?理の頂点、真理にたどり着いた者が最終的に得る称号みたいなものじゃからな。更にいうならお主の父に心当たりもあるぞ。」
その言葉を聞いたリエルは、少しだけ、本当に少しだが落ち着きを見せる。だが精神に残る動揺は遙かに大きく、瞳には涙が浮かんでいた。
「お主の父と面識はないがな。そやつは【天弓の魔王】、またの名を【獣魔をすべし王】と呼ばれ、お主の中にあるスキルに【天弓の魔王】がある所からまず間違いない。聞き及んでいる話だけになるが変わり者じゃが悪い奴ではないという話じゃぞ」
「悪い人じゃない・・・の?お母さんとお父さんは・・・」
リエルが激しく感情を露わにした理由。それは、自分の両親が、悪人呼ばわりされていると感じたからに他ならない。自分を生んでくれた母を侮辱されたと、あった事はない父親の事も、悪意の塊である魔王だといわれたと感じてしまったリエルが声を荒げるのは当たり前の事である。
「そうじゃ。お主は悪人の子供なんぞでは決してないぞ。だから泣くのはやめるのじゃ。妾が虐めているようで気分がよくないからのう」
「ぐすっ・・・うん」
ミヤビの言葉を受けて、リエルは涙を拭くと少し俯いた表情をしっかりと持ち直し、ミヤビを見る。
「よしよし。話の分かる娘で助かるのぉ。さて、ここからは今の妾の事も話しておきたいのだが何かほかに聞きたい事はないか?」
「お父さんは・・・魔界という場所にいるの?」
「それはどうじゃろうな。そもそも神や魔王という存在を比較する時に言われるのは、善は神、悪は魔王という認識を持っているのが下界の人間のようじゃが、実際は全然違い、魔界にも神はいるし、天界にも悪と言われているような、それこそ魔王の印象そのままの神だって存在してるのじゃ。それがお互いに顔を合わせるとよからぬ争いが起きる故、お互いがあまり関わる事ないように配慮しながら、互いに下界を観察し、世界を安定させているのじゃ。まぁ例外とか抜け道というのはどこの場所にもあって、魔王と仲のいい神だっているわけじゃがな」
聞くだけでまずそうな話を惜しげもなく話して聞かせてくるミヤビだが、リエルはその言葉をしっかりと聞きながら、続くミヤビの言葉に耳を傾ける。
「そういう訳で、すまんがお主の父親がいまどこにいるのか妾には把握する術がないゆえ、お主の質問には答えられぬ。じゃがお主の母親が父親と出会ったのは下界だと思うぞ?」
「どうしてそう思うの?」
「簡単な事じゃ、お主の母が魔界に行くには先ほどいった通り一つの極み、真理にたどり着き魔王や神に近い存在になる必要がある。お主の母は別にそんな存在ではなかったのだろう?そうなれば理由はわからんが、下界に来ていた天弓の者とお主の母が恋仲になった結果、お主が生まれたと考えるのが自然じゃろう。ただ魔界に行く方法は他にもあるからのぉ。下界で出会った可能性が一番高いというだけの理由じゃ」
そう告げるとミヤビは獣の姿のまま、器用にコップに酒を注ぐと口を突っ込んでごくごくと飲み始める。そうやって一息つくと再び口を開く。
「さて、そろそろ妾の状況について話させてもらうぞ。妾は今、お主と従魔契約を交わしている状態になってしまっておるのだが、お主、これを解除する事ができるか?」
「はい?何を言ってるの?あたしはそんな事した覚えなないわよ?」
「そうじゃろうな。恐らく様々な要因が重なって今の状態になっているのだと妾は考えているのだが・・・やはりアレかのぉ・・・。妾の予想じゃが、お主の願いを叶えると言った事があったじゃろう?そして妾はその願いを聞くだけで拒否した。それは覚えておるじゃろ?」
「えぇ、あたしが村を救ってほしいと言った時の話でしょ?」
「そうじゃ。それを拒否した事で、神の名を用いた約束を違えた結果となり、神としての存在資格を失ってしまったのだと妾は考えた。迂闊じゃったとしか言いようがない失態じゃ。さらに運悪く、相手がお主だった。【天弓の魔王】、【獣魔をすべし王】の血を引く者であるお主の能力が意識せずとも、神の加護を失った妾に、従魔としての縛りを施したのだろうと推測しておる。本来なら契約に同意しなければならないはずなのじゃが、妾が自由を取り戻す際に、お主の魔力を大量に分けてもらった為、意識せずとも主従の関係が築かれてしまったのじゃろうな。困ったものじゃ」
大まかな予想を口にすると、ミヤビは再びコップへ酒を注ぎそれを飲み干した。リエルの方はどうしてこんな事になってしまったんだといった様子で呆けた様子で沈黙していた。そこへミヤビが勢いよく言葉を放つ。
「そーいうわけでじゃ!妾は今や自由の身であるにもかからわず、お主の従魔という事になってしまっているこの状況に困っている訳じゃ!どうにかしてくれんか!?」
「そ、そんな事言われても、あたしにはどうしたらいいかなんて分からないわよ!」
「そうじゃろうなぁ。はぁ、どうして妾がこんな目に合わねばならんのじゃ…ちょっと悪戯が過ぎただけではないか…。難儀なものじゃ・・・」
気を落としているミヤビに、何を言えばいいのかわからないリエルは、これからどうしたらいいのかと頭を悩ませるのであった。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。お疲れさまです。楽しんでいただければ幸いです。
スキル解説
天眼:種族の持つ魔眼系のユニークスキル。いわゆる解析系スキルの上位版だと思っていただければOKです。




