11話 事態の把握と語るべきではない真実
予約投稿を試してみました。これからは切りのいい時間に投稿すると思います。
意識を失い倒れているリエルにリリーナ達が一斉に駆け寄り、小さな身体をエリックは優しく抱き上げる。近くの木でできたベンチにリエルを寝かせるとリリーナは【治療魔法】を、テルマはポーチからポーションを取り出しリエルにありったけを振りかける。
「そんな・・・傷が塞がらない!リリーナさん!?」
「ダメじゃ! 魔法でも全く効果がでん!どういう事じゃ!?」
自分のような年寄りが生かされて、幼い命が消えて行くなど許されない。リリーナは残ってる魔力を搾り出しながら治療に励むが、リエルに変化はなく、身体中から止めどなく流れ出る少女の血でベンチは染まって行く。どうしたら良いのか分からず、必死に治療を試みているリリーナ達の背後から聞きなれない声で、言葉が掛けられる。
「無駄じゃ。その傷は普通の傷では無い。その子の命を削る程の力、下界の理から外れた力の行使からきた反動、並みの魔法では効果は皆無じゃろう。」
突然背後から掛けられた言葉に驚いて振り向くリリーナ達。そこには見慣れない服に身を包んだ少女が立っていた。
「何者じゃ!?さては、そやつ等の仲間か!?」
「違うわ、この戯けが!言うに事欠いてこんなゴミ共と一緒にするとは無礼な奴じゃ!」
(・・・ん?成る程、確かに有象無象と一緒にされるのは腹がたつ。娘がヘソを曲げるのも納得できるな)
「ならばお主は何者じゃ!?」
「それよりもまずはその娘の怪我の方が重要だと思うがのぉ?ほれ、さっさとそこを空けよ」
そういうと、少女はテルマとエリックの横を素通りし、リエルの方へ近づいていく。だが、その後ろ姿を見たエリックは思わず声を上げる。理由は簡単。少女の御尻の部分から生えている尻尾を見ての驚きと警戒からの行動だった。
「あっ!?まて!お前なんだその尻尾は!リエルに何をする気だ!?」
「うるさいのぉ。尻尾くらい【獣人族】にだって生えておるじゃろうが、何者だのなんだのと喧しい奴らじゃ」
「や、喧しいだと!?当たり前だ!お前の様な得体のしれない奴が、家族に何をするかわかったもんじゃないだろ!」
「あ~、わかったわかった。兎に角、しばし黙っておれ。気が散ってしかたないわ」
面倒くさそうにエリックに声を返すと、そのままリエルの傍まで歩いてゆき、リリーナに手で邪魔だと合図を送るとリエルの隣に座り込む。少女はリエルの身体を確認すると、おもむろに自分の口に指を運び軽く噛み傷を付ける。その傷から流れ出る血の雫を、リエルの身体へと落としていく。すると、リエルの身体を隅々まで淡い光が包み込み仄かな光を発し始めた。その光景を横で黙ってみたリリーナの顔には明らかな驚きが見て取れた。その光は見る見るうちにリエルの傷だらけの肌を綺麗な状態へと修復していき、やがて光が消えるとリエルの身体から流れ出ていた血は止まっていた。
「よしよし。どうやら今のままでも種族能力に問題はないようじゃな。よかったよかった」
「お主は一体・・・。種族能力じゃと?一体何者なんじゃ?」
「む?そうじゃのぉ。ここで話すのもあれじゃしな。取り敢えずこの娘はこれで大丈夫だとおもうぞ」
「そ、そうか。よくわからんが助かった。感謝する」
「うむ。感謝する事は大事じゃな。じゃがそれだけじゃちとたりぬゆえ、一つ頼みを聞いてくれんか?」
そういうと少女は立ち上がり胸をはって言葉を続けた。
「腹が減ったのじゃ!何か食わせてたもれ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつものリビングに、リリーナとテルマ、尻尾の生えた少女の姿が、傍の長椅子にはリエルとナイルが毛布を掛けられて横に寝かされている。エリックは避難していた人達に状況を説明してくると言い残してこの場から去っていった。台所に立っていたリリーナが3人分の器と鍋を持ち、テルマは籠に入ったパンを運んでくる。椅子に座っている少女は机に突っ伏しながら項垂れている。パンの入った籠が置かれ、鍋から器へスープが盛られ少女の前に差し出しされると、少女はガバッと起き上がり器のスープに凄い速さで食いついた。そして熱さに驚き咳き込む。気を取り直して供えられた木製のスプーンでゆっくりと口に運ぶ少女。
「ん!これはなかなか・・・はふはふ。うむうむ。これはいける・・・」
口にスープを運びながら器用に喋っているが、もごもごいっていて聞き取れる言葉は多くはなかった。ただ出された食事は気に入ったようですぐに御代わりを要求する少女。その器に再び並々とスープがよそられると、今度は籠からパンを一つ掴みとり、スープに浸しながら口に運び始めた。その表情からは満面の笑みが零れ落ちている。食事を楽しんでいる少女へ、水を差すようにリリーナから言葉が掛けられる。
「さて、聞かせてもらえんか?お主が一体何者なのか?リエルを救ってくれた事にはとても感謝しておる。だがお主にはわからん部分が多すぎる」
「はふはふ・・・。ん?なんじゃ、せっかちな奴じゃな。もう一人おったが・・・ズズゥ・・・そやつには聞かせんでいいのか?んぐんぐ・・・同じ話を二度するのは妾は嫌じゃぞ。アムッ・・・。む、御代わりじゃ!」
食べる事に夢中な少女は器をリリーナへと差し出し催促する。ため息を付きながらこのままでは何時まで経っても話が進まないと確信したリリーナは器を受け取ると、再び言葉を発する。
「質問に答えたら御代わりを出してやろう。まずお主は一体何者じゃ?」「むむ!汚いぞ!それがいい歳した大人のやる事か!情けない!」「うるさいわ!さっさと質問に答えんか!」「ぐぬぬっ!いつか貴様には天罰が下るぞ!これだから短い時の中でしか生きれない者共は・・・」「何が天罰じゃ!それが実際にあるなら儂等でなく、あの盗賊共に落ちておるのが自然じゃろうが!」「ぐっ、た、たしかにあいつらは気分屋じゃが・・・じゃ、じゃが食いながらでもよいじゃろう!」
子供の喧嘩の様な言い合いになってしまっている様子を見ていたテルマはため息をつく。だが事態が把握できない今の状況で、詳細を一番知っているのは、間違いなく目の前の少女なのはテルマにもわかっている。余裕のないリリーナが急かすのは当たり前なのかもしれない。理解はできるのだがこのままでは埒が明かないと思ったテルマは、そっと自分の器を手に取り、少女へ差し出す。それを見たリリーナが声を上げる。
「テ、テルマ!何をしとるんじゃ!?」
「お!そうじゃそうじゃ!それでいいのじゃ。お主は話の分かる奴じゃな!褒めて遣わすぞ!」
「さ、これで私達は貴方の望む物を渡したわよ。次は貴方が私達の望む物に答えるのが正しい事じゃないかしら?」
「む?ま、まぁそうじゃな。わかったわかった。そうじゃな・・・妾が何者かというと、神と呼ばれる存在”だった”者とまずは言わせてもらおう。ずずぅ~」
一部分を強調していたが、さらりととんでもない事を口にした少女は器のスープに口を付ける。リリーナとテルマは言われた事を脳が理解するまでお互いほうけた顔を見合わせているが我に返ったリリーナが慌てて言葉を返す。
「つまり・・・なんじゃ。お主は神の使いとでもいうつもりか?いくら何でも言ってる事がめちゃくちゃじゃぞ?」
「そうは言われてものぉ。あ、違うぞ?神の使いなどという使いっぱしりではない。神と同列と思ってもらえればよいかの。稲荷空孤という種族なんじゃが、決まった名をもたぬゆえ、そうじゃな・・・(確か昔、人に姿を借りて暮らして居った時、ミヤビと名乗っておったからそれでよいか)うむ、妾は稲荷空孤のミヤビじゃ。これで満足か?次は其方が名乗るばんじゃぞ?ハフハフッ・・・んぐっ」
そういって器のスープを楽しみ始めるミヤビ。その様子をリリーナとテルマが訝しげに見ているがミヤビに気にする様子はなくパンとスープを平らげていく。言葉を返せずにいる二人に、食べていた手を止め、ちらりとその様子を見てくるミヤビの視線を受けて、捻り出す様にリリーナも言葉を返した。
「ん。そ、そうじゃな。儂はリリーナ、こっちはテルマという者じゃ。先ほど出ていった男は儂の子供のエリックに、そこに寝ている女の子が儂の孫のリエル、隣の男がテルマの子のナイルじゃ」
「うむ、リリーナとテルマじゃな。よろしくたのむのじゃ。・・・御代わりじゃ」
「え、ええ。よろしく」
突然の事過ぎて間の抜けた返事で返すことしかテルマにはできなかったようで、その表情はやはりどこか唖然とした感じを露わにしている。一方のリリーナは、次第に、ミヤビの言ってる事がどういう意味を持っているのかを理解し始めていた。その切っ掛けは、先ほどでた稲荷空孤という言葉であった。古い知識をよく知るリリーナは、悠久の時を生きた妖狐が、善の気を蓄積して変化する事で神に近い獣、空孤という伝説の魔獣として存在した事が書かれた書物を見たことがあり、稲荷空孤というのは恐らくその最上位の存在であるのだろうと考え始めていたのだ。スープの御代わりを要求しているミヤビに、リリーナは手に持った器にスープをよそり差し出すと質問を投げかける。
「今のお主の姿は恐らく本当の姿ではないじゃろ。儂が書物でみた内容に、空孤は人の姿に変化することができ、その変化した姿で人に交じり生活する事ができると書かれておったと思うが」
「うむ。その通りじゃ。妾のこの姿は人化の術による姿じゃからな。真の姿は・・・ほれ、この通りじゃ」
ミヤビは持っていた器をテーブルに置き、椅子から降りると、一瞬の光を発したと思ったら、ミヤビがいた場所に少女の姿はなく、かわりに銀色の美しい姿に黄金の瞳をもった一匹の狐が行儀よく座っていた。目を丸くしてその様子を見ていたテルマと、なるほどといった様子のリリーナ。対照的な二人の様子などお構いなしに、ミヤビ本人は再び人の姿へと変わると椅子に座って食事を再開するのだった。
そこへ、村の方へ出ていたエリックが姿を現す。
「ただいま。早速で悪いんだけどテルマさんと母さんも一緒にきてくれないか?今、バランディアに助けを呼びにいった狩猟班の人達が衛兵隊と一緒に返ってきたんだけど・・・事情が事情だからどう説明したらいいのか俺には判断できなくてさ。正直リエルの事や、その子の事を話すのは多分よくない事が起きそうだし、疲れてるだろうけど頼むよ」
「そうか。無事に戻ってきてくれたか。それは良かったが、確かにこの子等の事を話すのはかなりまずいだじゃろうな・・・。まだこちらも全て把握できているわけではないしのぉ」
「私も同感だね。まぁ正直私はもう頭の中がいっぱいいっぱいだけど、少なくともこの子やリエルちゃんの事は黙っておいた方が無難だとおもうよ」
「きまりじゃな。せっかく来てもらった者達に隠し事をするのは少々気は引けるが仕方がないわい。この子達の事は隠しながらうまく説明するしかないじゃろう」
三人とも同じ意見で一致し、村の入り口へと向かう事になった。
「む?どこかいくのか?妾はここで飯を食っているから用事なら済ませてくるといいぞ。どうせ妾もこの娘にようがあるしの。・・・うむ。食うても食うても飽きの来ない。実に美味じゃ!」
ミヤビは相変わらず満面の笑みで食事に舌鼓を打っているのだった。
お疲れさまでした。ここまで読んでいただいてありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。




