第肆拾壱話 速戦
蒼武対蒼武の戦いは簡単なものだ。
円形のサークル内で互いに向かい合い、相手を倒せば勝ち。制限時間は20分。それが一般的だ。現に士官学校での戦いはそれが採用されている。
今回の劉備&鈴と曹洪との闘いはそれを踏襲したものになる。
直系50メートルほどの円の中で2機の蒼武が向かい合う。劉備の祖帝号と、曹洪の蒼武・子廉カスタムだ。
互いに武器は左手に光弓、右手に重工剣という一般的なもの。盾は使わず、さらに副兵器や特殊な装備は取り外される。素の状態での一騎討ちとなる。
そうなった時に、劉備たちの祖帝号には弱点があった。元が古い機体だ。出力は高いものの装甲は薄く機動性も低い。その打たれ弱い貧弱な素体を孔明は過剰な装甲を加えて補おうとした。しかし今回、その装甲は剥がされることになる。
対する曹洪は一般的な蒼武だが、それはすなわち現在で最も量産され信頼性が高く、目立った長所がない代わりにこれといった短所もない。そこにさらに、荀彧が曹洪に一番合ったカスタマイズを行っているのだから並みの蒼武ではない。
この時点での基本性能では曹洪の方が圧倒的優位となるのだった。
「劉兄ちゃん、あの蒼武。強そう」
「……大丈夫だ、鈴。俺がついてる」
思わず本音を漏らす鈴に、劉備は半ば言い聞かせるように告げる。
「とにかく相手と距離を取ろう。それで様子を見る」
「う、うん。分かった」
対する曹洪は独り、蒼武の操縦席で武者震いしていた。
「さっさとしろよ、孟徳。あの生意気なガキをぎゃふんと言わせてやるんだからよ!」
血気に逸る曹洪。だがそれを虚言にしない実力は彼にはあった。曹操の従兄妹4人は、身内だからという理由で蒼武を任されているわけではない。曹操はそこの辺りは完全実力主義だ。それぞれ4人に適性があり、なおかつ他に追従を許さない実力を示したからこうして曹操を補佐する立場にいられる。
夏侯惇は4人のまとめ役で、曹操のご意見番としてあり、それでいて蒼武の実力は全てが並み以上のオールラウンダー。
夏侯淵はこれまで示したように、光弓による狙撃が軍中随一の実力を誇る。
曹仁は堅実で思慮深い性格に表されるように巨大な盾を持ち、それで味方を守る戦いが得意。
そして曹洪。
この男の蒼武は装甲も可能な限り削り落とし、エンジン部分と足回りに改良がされてある一点に特化している。
それはすなわち――
『第3試合。よぅい――はじめ!!』
審判用の蒼武が空に空砲を撃つ。この蒼武は先ほどまでの整備課に配属された旧式の蒼武ではない。夏侯惇の蒼武で、乗っているのも当然当人だ。
これは蒼武が監視だけではなく、仲裁に入ることも意味する。模擬戦用の武器を使うとはいえ、蒼武はその長大な腕で殴るだけでもすさまじい威力を発揮する。いくら強化されているとはいえ、何発も同じところを殴られれば潰れる。それが操縦席なら命に係わる。
もちろん、そんなことはお互いしないのが暗黙の了解だが、勝ちにこだわるあまりに万が一が起きる可能性は否めない。
それがゆえの夏侯惇が審判として、あるいは仲裁役として蒼武に乗って監視しているのだ。
(子廉がムキにならなければよいが……)
そう、夏侯惇は内心で曹洪の心配をする。
対する劉備は開始の合図に即動いた。
「鈴、まずは距離を取る! 場外の枠線を超えないよう注意して!」
「わ、分かった!」
前部座席が蒼武の脚部を動作する。完全分業された2人乗り用蒼武。1人乗りが基本の中、なぜこの蒼武だけ2人乗りなのか。それを所持している劉備も、研究していた諸葛亮も知らない。だがそこに意味がある。そう思って改修し、劉備の愛機に育て上げた。
鈴を前部座席に座らせるのは、戦いになる以上、相手の命を奪うことはあり得る。その最後のトリガーを彼女に引かせないという劉備なりの親切心。そして何より。あの楼桑里で見せた異常な操縦技術。そこに惹かれるものがあって、彼女をそちらに乗せた。
鈴は早速、操縦桿を動かし機体を制御する。
やはり速い。走破モードであることを差し引いても、曲がる際にかかる円運動を最小限に抑えて加速に転じる。それはもはや天性の感性だ。劉備にやれと言われてもできないだろう。
「お兄ちゃん、敵は!?」
「っ、ああ。敵は……」
蒼武を操るのに必死の鈴に、外部の状況を判断する余裕はない。索敵と監視は劉備の役目で、それを怠っていたことに劉備は内心反省する。
外部から取り込んだ映像を映し出すモニターで必死に探す。敵、曹洪の蒼武を。だが――
「いない……どこ――ぁ!!」
「きゃあ!!」
衝撃が2人の体を揺さぶった。劉備がたまたま上げていた左腕に、重工剣が叩きつけられたのだ。よろける蒼武の体を必死に立て直す鈴。
そしてあろうことか、先まで対峙していたはずの敵――曹洪の蒼武が目の前に屹立しているのをモニターに捉えた。
『いきなり逃げ腰たぁ、いけねぇよなぁ!!』
曹洪の叫びが外部音声機により劉備たちの耳に届く。
「くそっ!!」
劉備が怒りを吐き出すと同時、光弓を敵に向けて発射した。
それは反射的な動きで、機体制御と攻撃を分業しているがゆえに行えた、超高速の反撃。
だが吐き出された弾丸は、何もない宙を貫くばかり。
「ど、どこに!?」
劉備が左右を見渡そうと振り返ったと同時に衝撃が祖帝号を揺さぶる。曹洪の拳が祖帝号の胸部を叩いたのだ。
「きゃああああっ!!」
「くっ……鈴! 大丈夫だ!」
「っ!!」
鈴は驚異的なバランス感覚と、蒼武の操縦技術で態勢を立て直すと、相手からさっと距離を取る。連撃はさせずに、一度仕切り直す。そのための移動だが、曹洪の蒼武との距離が縮まらない。曹洪は鈴の動きにしっかり動きを合わせていた。
「は、速い!!」
曹操麾下の4人の中で、その秀でた特性はすなわち攻撃。
限界まで削った装甲に、エネルギーの出力を脚部に集中させ、短時間ながらの超高速移動を可能にする。そして光銃を捨て、重工剣で敵を叩き割る。
超攻撃近接格闘型。
それがのちに曹操四天王と呼ばれる曹洪、字を子廉の蒼武だった。




