第肆話 接敵
留は舌打ちをした。
部下である周の蒼武を狙い撃ったのは官軍だ。発射炎の見えない位置からの発砲。一発が頭部を吹き飛ばし、二発目で操縦席のある胸部を撃ち抜いた。周は即死だろう。それだけで相手が圧倒的な狙撃の腕を持っているのが分かる。
(呉は大丈夫なのか……?)
もう1人の部下と別れ、元官軍の軍営から左右に展開した。軍営では兵たちが喚きながら走り回っている。それらの顔ははっきり見える。すでに昼間のように周囲は明るかった。軍営にたかれたかがり火を、宿舎や柵につけて盛大に燃やしたからだ。
蒼武同士の戦いに歩兵は邪魔だ。敵にやられるだけならまだいい。むしろ留や呉による、味方を踏みつぶすことが最大の懸念となる。さらに万が一、彼らが敗北した場合。彼らに待つのは虐殺のみ。
だから今のうちに、官軍の軍営は放棄させて撤退するのが一番だった。
兵たちは逃げるが、留たち蒼武乗りは逃げるわけにはいかない。
敵の蒼武を排除しない限り、兵たちは常に危険にさらされるわけだし、何より、もしここで逃亡をはかればあの狙撃手に背中を見せることになる。それはすなわち死を意味する。
ならば味方のために戦った方が生き残る可能性が高く、仮に負けたとしても同胞たちを逃がすことができればそれでもいい。そう留は考えた。
「……ちっ」
留は舌打ちした。
遠く、轟音を立てながら土煙をあげて突進してくる人影が見える。いや、それは人影であって人ではない。距離があってその大きさを誤認しがちなだけだ。
蒼武。しかもその数は――
(2機、そして呉の方にも2機だと……!? 4機もの蒼武が共に動くということは、この近くに大部隊がいるというのか!? 我々の情報網に引っかからずに!?)
本当はあと夏侯淵の1機がいるのだが、彼からは距離もあって見えていない。狙撃手を巧妙に隠した曹操の戦術勝ちだ。
そもそも蒼武はそれ単体で動作するわけではない。
いや、戦闘自体は可能だが、その後が続かない。すなわち整備と修理、そして補給だ。戦闘のたびにメンテナンスを行わなければ戦場のど真ん中で故障して立ち往生ということは往々にしてあり得る。
かつての秦の最強将軍・白起は蒼武で3日3晩戦い続けて数十万の敵兵を虐殺したと言われるが、それも途中で整備の時間を設けた上での戦いだと言われている。
そのメンテナンスのために必要な人数は、蒼武1機につき約50人は必要となる。さらに汎用の武器弾薬のエキスパートが30人。さらに、それだけの人数を抱えて部隊を運用するには、運搬する人が必要だし、何よりそれだけの人数を食べさせなければならず料理人もいる。雑務をする人間だって必要だし、伝令や斥候、地形や戦況を分析・解析するチームも組まれている。
さらに蒼武のみで動くことは作戦都合上ありえない。
蒼武に一番必要なこと。それは敵の蒼武を潰すこと。蒼武を武装した人間が破壊するには、1機につき1千人と言われる。それだけの兵を消費すれば蒼武を多く持っている方が勝ちになる。
だから基本、蒼武は蒼武にぶつけて点の戦いを制し、その後に歩兵と騎兵で侵攻して面を制圧するという戦法が一般的とされている。
ゆえにそのための歩兵と騎兵が合計300ほどいるため、全部で合わせると曹操軍とも言える陣容は500人を軽く超える。
曹操ら5機の蒼武の後ろにそれほどの人数がいて、それだけの人数が移動したり陣を組んでいれば黄巾の諜報網に引っかからないはずがない。
そう留は考えたのだ。
(いや、今は考えまい。それより相手は2機に分けた……なら!)
1機に対して2機で当たる。それは正当な軍略だ。これが蒼武でなく歩兵同士の戦いであっても、数が多い方は同様の戦術を取るだろう。
特に蒼武では敵の背面を取ることが重要とされる。相手の蒼武と面と向かって戦うため、背面は前面に比べて装甲が薄い。ゆえに2対1ならば2の方が相手を引きつけつつもう1機で敵の背面から銃撃ないし斬撃を食らわせるのが普通だ。
それをさせないために、蒼武はチームを組んで戦う。
前衛、中衛、後衛と別れて相手に対する。
だが、今の留にはその前衛である周が失われている。
3機いればフォーメーションを組んで、相手の4機に対することもできたがそれもできないとなれば……。
「っ!!」
彼は思い切って林の方向から左へと蒼武を動かした。すなわち先ほどまでいた、遮蔽物のない平地。つまりいつ狙撃を受けてもおかしくない場所だ。
もちろん自殺願望があってのことではない。その証拠に、反対側からも蒼武がこちらに向かって走ってきているのが見えた。
「さすが呉だ!」
会心の笑みを浮かべる。
相手がこちらより倍も多いのであれば、個別に戦っても各個撃破されるだけだ。ならばどうするか。2機でまとまって4機を相手にする。1対2ならば圧倒的に2の方が有利だが、2対4になれば、コンビネーションで1機を倒すことができるかもしれない。敵を1機でも倒すないし行動不能に追い込めば、2対3でほぼ戦力差はなくなる。むしろ味方がやられた相手は動揺するし、こちらはあと1機で対等になれると勢いづく。
そうなれば勝ちだ。
だから彼は味方と合流する最適の行動をとったわけだが、それを相手も同じようにしたことで通じ合ったという思いが沸き上がって感無量だった。
さらに言えば、こうして平野に身をさらすことは危険に見えるが、もはやその時間は過ぎ去った。
敵の4機は留らが合流したことで左右から2機ずつ挟むようにして向かってくる。完全に接触するまであと数秒。そうなれば、もしもう1機、狙撃の蒼武があったとしても同士討ちを恐れて射撃できない。
そこまで考えての行動。さすがはエン州の一部を任された留は百戦錬磨の猛将だった。
「さぁ、来い! ぼんくらの官軍どもに、戦い方を教えてやる!」
そう叫び、呉と共に敵の4機のど真ん中に飛び込む。同時、呉の蒼武と背中合わせになった。
互いが死角をカヴァーして前面のみに攻撃を集中する。こうすれば敵に弱点である背中を狙われることもないし、目の前の敵だけを相手すればいいので気が楽だ。
もちろん、味方の動きを意識して行動しなければならず、万が一でもズレてしまえば無防備な背中を敵にさらすことになる。高度な操縦技術と、味方との阿吽の呼吸があってこその戦法だった。
それが上手くいった。
何より、相手の中に飛び込んだことで、相手は無闇に発砲できなくなった。射線が外れれば、それは反対側にいる味方に当たる可能性が出るから不用意に撃てない。
逆に留の方からは撃ち放題だし、それを嫌って近接戦を挑んで来ればそれは留にとって臨むところだった。近接戦闘こそ、彼が一番得意としている戦いだからだ。
さらに彼は狙いを定める。
それは当然、4機の中の1機。明らかに普通の蒼武と異なる精練されたフォルムの蒼武。
(あの細いのが隊長機か! なら、アレをやれば!!)
狙いを決めればあとは簡単だ。そしてそれは味方の呉にも伝わった。
呉は防御を捨てて敵に向かって光弓を乱射。さらに隊長機に一番近い敵に向かって高速接近し、接近戦を挑む。
それはすなわち、敵に背中を見せての捨て身の行動だが、それは留を敵隊長機に向けさせる絶好の好機となった。
味方の献身的な犠牲の上に勝利を得る。その重すぎる想いを受け取ってなお、留は迷わない。迷いこそ、呉に対する裏切りだと知っているからだ。
他の3機が呉によって釘付けにされているところで、留は一気に加速して敵隊長機に向かう。対する相手の動きが一拍遅れた。急に反撃してきたのに驚いたか。あるいは他の要因か。だがそれは留にとって天啓だった。
「動きが遅い! もらったぞ! 細いの!!」
ここまで読んでいただき大変ありがとございます。
ブックマークや評価、感想をいただければ今後の励みになると思いますので、どうぞよろしくお願いします。




