第参拾話 模擬
「で? なんでこんなことになってんだ、玄徳兄ぃ?」
張飛がうんざりした顔でぼやく。
「まぁ、なんだ、その……流れっていうか」
「流れで模擬戦って話になるかぁー!? 敵と戦ってる最中だろうが!」
張飛が雷を落としたのも仕方ないだろう。
軍議が行われた翌日。なぜか曹操軍と劉備軍で模擬戦を行うということになった。
曹操いわく、
『どちらも初見の相手だ。どれほどの力量を持っているか、互いに知っておいたほうがいい』
とは言うものの、その裏に隠されているのは1つ。
(義勇軍と言っても、所詮は素人。だが興味深いところもある。どれくらいできるか見せてもらおう)
ということだ。
そしてそれは劉備たちにも十分に伝わっていた。
「ご、ごめんなさい。私が変なこと言って」
「いや、鈴は悪くないぞ。というよりあの時の鈴はすごかった!」
「ふむ。孔明はお主のことを勘のいい子だと言っていたが、そうなのか?」
劉備が鈴をなだめ、関羽はその勘が気になったらしい。
「うーん。なんというか。ここら辺がちょっと違う色かなって」
「違う色?」
「うん。地図でここと黄巾の砦は赤くてすごい嫌な感じだったんだけど、こっちの方は、ちょっとぼやーっとしてあんま怖くない感じだけど、気になる感じだったからここかなって」
「それで敵の補給基地だってのが分かったってのか? 嘘くせー」
「益徳、お前までそれを言うな。これまでも何度かあっただろ、鈴の勘に救われたのは」
「あー……まぁ、そう、だな。すまん、鈴」
「ううん、いいの益徳兄ちゃん」
「くぅー、本当にいい子だなぁ。これの兄が孔明ってのは」
「益徳!!」
「あ、す、すまん。鈴」
「大丈夫、私はそれを受け入れて走るから」
「そ、そっか。強いな、鈴は」
(ううん、私は強くないよ。けど劉お兄ちゃんがいるから。皆がいるから、進めるんだ)
そう、鈴は内心で首を振った。
「しかし、どうしますか兄者。曹操が言ってきたのは3つの勝負。1つが兵の指揮、1つが素の身でのの一騎討ち。そして最後が蒼武での一騎討ちということですが」
「うーん、そうだなぁ。とりあえず鈴のことを考えると、俺と鈴が最後のに出るしかないな」
「じゃあ俺が指揮するから、アニキは一騎討ちで魅せてくれよ」
「いいのか、益徳。お前は2戦目にすると思ってたぞ?」
「なぁに、俺だって少しはやるってこと、見せてやろうって話でさぁ!」
「お前、指揮を忘れて結局一騎討ちになりました、とかやめろよ?」
「ば、馬鹿にすんな、玄徳兄ぃ! 俺だって、こう……ショーキって奴を見せてやるよ!」
「将器な。まぁそうだな。そういうところも今のうちに体験しておくのもいいな。じゃあ先陣は任せたぞ、益徳!」
「おぉ!! 敵の首根っこ引っこ抜いて圧勝してやりますよ!」
「兄者、急に不安になって来ました」
「俺もだよ、雲長……」
劉備と関羽の憂鬱は終わらないようだ。
他方、曹操側はというと。
「俺は絶対、三戦目だからな! そこ予約ー!」
案の定というか、曹洪が一番うるさく騒いでいた。
それに対して夏侯惇はどこか淡白に、
「おい孟徳。本当にやるのか? 明日には出撃だぞ?」
「兵たちに少しは息抜きは必要だ。張りつめ過ぎた弓が壊れるように、どこかで弦を外してやらんとな」
「だからって今やることじゃないだろうに」
「不満か?」
「模擬戦とはいえ本気でやることだろう。けが人や蒼武の修理、明日の出発に間に合うのか?」
「そこはまぁうまいようにやってくれ」
「丸投げかよ……」
「必要なことだよ。何より、命を預ける相手の実力。知っておきたいだろう、なぁ子廉?」
「おおよ! 二度と立てないようにぶっ壊してやる!」
鼻息の荒い曹洪に、夏侯惇はげんなりと肩を落とし、
「味方の戦力を減らしてどうする……はぁ。仕方ない。(夏侯淵)妙才、お前やれ」
「了解。なら一騎討ち」
「分かった。で、子廉が三番だろ。じゃあ初っ端は」
「俺、かい惇の兄貴?」
「ああ。(曹仁)子考たのむ」
「ま、少しはやってみるさ」
「うん、なら決まりだな。1戦目は曹仁、2戦目は夏侯淵、3戦目が曹洪だ。お前ら、模擬戦だからといって手を抜くなよ。勝って曹操軍の力を示して来い!」
そう、曹操が締めると、3人は揃って、
「おぉぉぉ!」
そう覇気を示した。夏侯淵は小さく、だが。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
曹操軍と劉備軍の激闘が幕開けます!
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