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第弐拾壱話 出撃

『かはっ! 地割れで俺もここまでと思ったが、これは当たり引いちまったようだなぁ!!』


 外部スピーカーから伝わる男の声。

 それに対し諸葛亮は眉をしかめた。この場でその声を拾うというのに、生身の人間のはずがない。すでに地下格納庫は人が生存できない地獄と化している。落盤により地面は岩石で埋まり、燃料や整備油などがその落盤による火花で出火している。人が住める世界ではない。

 それなのに男の声がする。それは1つの答えを示していた。


「この男が目の前の蒼武の!」


 どうやら地下格納庫周辺の地盤は、蒼武が移動するには脆かったようだ。仮に作られた当初は問題なかったにせよ、長い年月の劣化と蒼武の大型化がこの地盤沈下を引き起こし、共に落下してきたのだろう。

 どちらも予期しなかったタイミングでの遭遇戦。それに動いたのは劉備が先だった。


「孔明、前に出る!」


「馬鹿な! 武器もなにもないんだぞ!」


「この狭い中だ! 相手も動けない!」


「っ!」


 諸葛亮は言われたことを考えるより先に行動した。足を前に、敵の蒼武に向けて思いきり踏み込む。それと同時に劉備は上体を動かした。狭い格納庫だ。大振りすることなく突き出した拳が敵の蒼武を打つ。


『なっ、野郎!』


 相手の蒼武が慌てたように反撃に移ろうとする。蒼武が手にしているのは重工剣のみ。光弓(こうきゅう)は所持していないのか、あるいは崩落に巻き込まれて落としたかだろう。

 だからその重工剣を振ろうとするが、劉備が言った通りここは狭い地下格納庫。重工剣を振り上げればそれだけで20メートルを超える全長になる。

 だから崩れる天井に重工剣が当たり、動きが鈍る。


「い、ま、だ!」


 劉備が叫ぶ。それに連動するようにして諸葛亮は足をさらに前に突き動かす。

 蒼武を左半身にして、そのまま左肩にある円錐状に尖った肩あてを敵の蒼武にブチ当てる。本来ならその円錐状の肩あてを受けた蒼武は、その重量から来る衝撃に耐えきれず貫かれるのだが、この不整地で走破モードになれないこの状況では、ただ相手に衝撃を与えるだけだ。

 だがそれでも劉備は止まらない。左半身の状態から右腕を思いきり前に突き出す。こうすることで狭い格納庫の中でも思いきり右ストレートを放つことができる。


「うぉぉぉぉぉ!」


 それは相手の頭部を吹き飛ばすのに十分な破壊力を持った一撃だった。

 だが相手もやられぱなしではいない。


『くそがぁ!』


 体当たりの衝撃も冷めないままに、無理やり上体を起こして劉備の右ストレートを間一髪で回避する。

 そうなれば大技を狙った劉備は態勢を崩しており、相手は握ったままの重工剣――しかもそれが後退させられた動きで天井から離れて自由になっていた。つまりそのまま叩き下ろせば、劉備たちの蒼武の頭上を取る。


『ぶっ潰れろ!』


 諸葛亮は息を呑んだ。体温が一気に数度下がった感覚。まさに死を突きつけられた彼は、慌てた様子で親友を呼ぶ。


「玄徳!」


「孔明、俺の……いや、俺たちの蒼武を信じろ!」


「っ!」


 回避を、と考えた諸葛亮だったが、それもままならないほど切羽詰まった状態。だから諸葛亮は劉備に賭けた。いや、彼と共にこの2年間、ずっといじり続けていたこの巨大蒼武、祖帝号(そていごう)をだ。


「はぁ!!」


 気合一閃。

 劉備は左腕を頭上に掲げるようにして、相手の重工剣に対する防御とする。


『馬鹿め!』


 敵があざける。

 それもそのはず。重工剣は蒼武を叩き壊す最良の武器だ。剣というが研ぎ澄まされて相手を斬るような使い方は、およそ一般にはできない。することはただその重量と速度でもって叩き潰すことだ。

 足を叩き折れば相手は身動きできなくなるし、仮に腕でガードされてもその腕は確実に叩き折る。そうなれば相手の攻撃手段が1つ失われ、より有利になることは間違いない。さらにこの状況。上からの叩きつけに対し、頭部を守ろうと片腕を差し出すなど愚の骨頂。腕ごと頭を叩き潰し、上手くいけば操縦席(コックピット)すらも叩き潰す。

 現に相手の黄巾の男はそれで数機の官軍の蒼武を屠ってきた。だからその撃墜数が1つ増える。それだけだと思った。


 ――が、


『な……なにぃ!?』


 激しい金属音の後には、何も変わらない現実があった。

 重工剣は間違いなく劉備たちの蒼武の左腕、その上腕筋の辺りを確実に叩いた。なのに傷1つ、というわけにはいかず僅かへこんだ場所もあるだろうが、折れもしなければ斬り飛ばすこともない。頭部も破壊できていなければ、操縦席(コックピット)も潰れていない。当然、中の劉備と諸葛亮も無事だ。

 だが何故無事なのか。それを相手は理解できない。その隙に勝機がある。


「孔明!」


「ああ!」


 阿吽の呼吸で当意即妙の反応を現した。

 諸葛亮が足を動かして相手に向かって突進し、劉備が相手の脇の下に腕を入れる。

 そして信じられないことが起きた。


『ば、化け物!』


 蒼武はおよそ10トン以上あるとされる。それを持ち上げるほどの馬力を蒼武自身は持たない。だが劉備の祖帝号(そていごう)はそれを成す。黄巾の男にとっては寝耳に水の、ありえない現象。

 そしてありえない事象ということは、その対処法などもありはしないということ。もがけども離れることはできず、あとは電車道だ。一本道を滑空するように押された敵は、そのまま突き飛ばされる。


『ぬぉぉぉぉ!!』


 突き飛ばされた先、壁にぶつかった黄巾の蒼武は、その衝撃で振って来た岩石を受けて一瞬気を失う。

 対する祖帝号は押し切った態勢のまま止まっていた。それは別段故障したというわけではない。


「はぁ! はぁ! はぁ!」


 過呼吸のように響く劉備の息の音。いきなり初の実戦。もし祖帝号の装甲が普通より厚くなければ、今の一撃で死んでいたかもしれない未来。

 それが恐怖となって一気に劉備を襲っていた。

 ただ諸葛亮にとっては、すぐに頭を切り替える必要があった。


「おい、玄徳。マズいぞ、今のでさらに崩落が早まった! 脱出するぞ!」


「っ! 分かってる! とにかく外に出るぞ! 孔明、昇降機だ!」


「分かってる!」


 地下格納庫である以上、中にあるものを外に出す場所があるのは当然。そしてそれは昇降機として壁際にあった。祖帝号(そていごう)が大型なので昇降機も並の蒼武なら2機が入れるほどに巨大だ。

 諸葛亮はそこに祖帝号(そていごう)を移動させ、そして遠隔で昇降機を操縦した。ゴウン、と軽い振動と共に昇降機が動き出す。

 だがそれを知って劉備は焦ったように、


「孔明、あいつは!?」


 あいつ、とは今、彼らに襲い掛かってきた黄巾の男だ。敵をも心配する彼の優しさだが、それを諸葛亮は一刀両断する。


「玄徳、これからお前は修羅の道を歩むんだろう。なら敵に情けは無用だ」


 そう言い切る諸葛亮の冷たい声に、劉備は反論しようと思ったが、


「それに今から戻れば共倒れ。それともお前は目の前の敵のために、自分の夢を諦めるのか、玄徳?」


 劉備の夢。それは平和な世の中を取り戻すこと。

 そのために


「分かった。行こう」


「すでに動いている。あとは待つだけだな」


 昇降機は斜めにゆっくりと、劉備たちを地上へと運んでいく。崩壊していく地下格納庫だが、昇降機の方まではまだ影響はないようだ。

 とりあえずは一安心と劉備は深くため息をつく。


「玄徳」


「ん?」


「安心しろ。いつでも私はお前の味方だ」


「……ありがとう」


 直接的ではないものの、今、彼らは1人の命を奪った。それが戦いであることは疑っていない。けれどまだどこかで甘い考えがあったのかもしれないと劉備は考える。

 それでも彼を許してくれる友の言葉が胸にしみる。


 やがて昇降機は停止した。そこはすでに外の一部で、木々に囲まれた隠し出口だった。劉備の家から南に1キロほど行った場所。周囲は静かで人間の気配、そして蒼武の機械音は聞こえてこない。

 だが彼らは見た。離れたところにある劉備の家。それが燃えて、隣の桑の木も燃え盛っている。それに村の象徴でもある桃園も残らず火がかけられてるようだ。


「あいつら……!」


「くそ! 鈴、均!」


「孔明、あっちだ!」


 劉備が示したのは南西の方角。そこは村の中心でそこは家が燃え盛り、さらに蒼武が2機ほどいる。

 そこに敵がいる。自分たちの住む村を焼き払った悪魔の集団。それめがけて、祖帝号(そていごう)は地上を走る。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

ついに動き出す劉備たちの戦いの物語。曹操との合流までは今しばしお待ちくださいませ。


ブックマークや評価、感想をいただければ今後の励みになると思いますので、どうぞよろしくお願いします。

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