第拾話 移動
「しっかし(袁紹)本初もケチだ。蒼武はやれないが蒼武はやる、とか言って旧型のポンコツを押し付けるとは」
曹操は蒼武の中でひとりごつ。
洛陽で仕事を終えた曹操は、その日のうちに野営地に帰還。2日の休養の後に、次の赴任地、南に向けて移動しはじめた。
移動といっても600人以上はいる部隊なのだから、それは単なる移動ではなく行軍といってよい動きだった。蒼武6機に、移動型の巨大トレーラー10台が続く。
当然、それは敵に補足されるものだが、曹操は気にしていない。彼の行き先はその経路で分かるだろうし、分かったとしてそれを妨害できる戦力はこのエン州にはいなかった。
『そりゃそうだろ、孟徳。蒼武は虎の子、そうやすやすと渡す馬鹿はいないって』
『いや、子廉。どちらかというと、それでもそのポンコツをもらってくる孟徳も孟徳だと思うぞ』
曹操の独り言に、通信で曹洪がうんざりするように言い、それに曹仁が同調する。
『ま、いいじゃないか。予備のパーツが現地調達できると考えれば悪いことじゃない』
と前向きなのは夏侯惇。
『どっちでもいい。あたしにはあんま関係ないし。でも使えるなら使う。狙撃の練習の的とかに』
と冷めた返答は夏侯淵だ。
『まぁ確かにな。旧式とはいえこれで蒼武6機。戦略の幅も広がるもんだ』
『兵の中から蒼武乗りに上げるのか? いいねぇ、選抜戦しようぜ!』
曹仁、曹洪、それに夏侯惇が和気あいあいと今後の戦術について話す中、曹操は小さくため息をつく。
そして彼女の中での決定事項を口にした。
「新しい蒼武は荀彧のものにする」
『ええ!? もったいねぇ!』
曹洪が一番に文句を垂れた。
「文句あるのか、子廉?」
『いや、そういうわけじゃねぇけどよ』
『孟徳。旧型とはいえ蒼武は蒼武だ。兵の中から適正のあるやつを乗せた方がいいんじゃないか?』
『あたしもそう思う』
夏侯惇の言葉に夏侯淵が頷く。
なるほど。旧型とはいえ、それは戦力だ。蒼武を倒すのに旧型とはいえ歩兵なら500は割く必要になる。それに蒼武との戦いで矢面に立たせずとも、後方から光銃を撃つだけで敵には脅威になる。
だが荀彧に与えるとなると、話しはまったく変わって来る。荀彧は基本、後方でのお留守番だ。まったく戦力にならないのはもったいない、と前線に立つ彼らが思うのも無理はないだろう。
それに対して曹操は理路整然と返す。
「後方、整備班にも蒼武は必要だ。万が一、敵に襲われた時に蒼武がいるいないで彼らの生存率が大幅に上がる。蒼武がいない部隊なら見るだけで攻めるのを躊躇わせるほどにな」
『それは……そうかも、だが』
曹仁が渋々納得した様子で言う。
彼らとて後方支援の大切さは分かってる。分かっているが、それを前線に投入した方が自身の生存率を上げるとなれば複雑な思いだろう。
「それに荀彧が言うには、整備にも蒼武があった方がやりやすいらしい。大きくメンテナンスをする時など、蒼武でパーツを外したりできるから、整備の質がグッと上がるともな。それに移動中の運搬、工事など多岐にわたり活躍もできる。だからこれも戦力だと思って後方に譲ってやれ」
『まぁ、そういうことなら。旧型蒼武にも出番を譲ってやりますか』
と夏侯惇が締めた。
そして曹操らが出発して6日ほど経った頃だ。
『前方に爆炎を確認!』
部隊の先頭を行く夏侯惇から通信が入った。一番前に戦闘経験豊富な夏侯惇と曹洪を置き、その後ろに歩兵集団と大型車両の群れが続く。それを守るように曹仁と荀彧の蒼武が左右につき、その後ろを曹操、そして最後尾を狙撃手の夏侯淵が務める。
これは仮にどこを攻撃されても、前なら夏侯惇、中なら荀彧、後ろなら曹操が指揮できるようにした移動用の布陣だった。
これまで敵の反応はなく、斥候からも連絡はなかったが、前を行く夏侯惇――おそらくはセンサー類を強化してある曹洪が真っ先に戦闘の形跡を発見したようだ。
「距離は!?」
『およそ3里(1200メートル)前方!』
「3里……」
もうすでに豫洲に入っている。近くは潁川郡で、波才という地方最大の賊の首領がいて、そこに河北(黄河の北の領域)から援軍として入った、黄巾の首領である張角の末弟、張梁が合流し勢いをさらに増しているという。
それに対する官軍は2人の将が存在している。
1人は皇甫嵩。字は義真。
もう1人は朱儁。字は公偉。
どちらも蒼漢王朝生え抜きの軍人で、左右の中郎将に任ぜられてこの地方の将軍として軍を率いて戦っていた。
1つの戦場に同等の指揮官2人を送るとはどういうことだ、と曹操は考えているが、どうやら2人の指揮官はそれぞれ仲たがいせずに張梁と波才に対しているという。
『孟徳、どうする? 加勢するにしても、登録がまだだ』
通信で夏侯惇が聞いてくる。
どうするとは、もちろん前方の戦闘に参加するかどうかだ。移動とはいえ敵襲がある場合に備えているので、このまま戦闘に入っても問題はない。
だが問題は彼らが出て行った場合に、味方がしっかりと識別してくれるかだ。着任して官軍であるとの識別信号を認めてもらえなければ同士討ちの危険性がある。黄巾の蒼武が黄色く塗られているとはいえ、一瞬の判断が生死を分ける戦場で敵か味方かも分からない蒼武は脅威でしかない。もしかしたら敵に鹵獲(奪われて使われること)された蒼武かもしれないのだ。
だから先に着任の挨拶と共に味方の登録をするのが一般的だ、と夏侯惇は言う。
さらに問題の2点目が荀彧らのこと。
森や川といった遮蔽物があるものの、ここから戦場までは平地だ(だから戦場になるのだが)。そこに荀彧らを置いて蒼武だけで先行した場合、荀彧らは取り残されることになる。
いくら蒼武があるとはいえ、ここは敵との最前線。しかも戦闘中ということは敵の援軍が来ているかもしれない。いくら蒼武があるとはいえ旧式だ。そんな連中を相手にはできない。つまりここで荀彧ら後方を切り離すのはかなり危険だった。
ある程度の防御柵を設ける野営地を建設してからだと戦闘が終わってしまうかもしれない。
そのジレンマに曹操は悩む。
だが一瞬後には決断を下した。
「荀彧! このまま南下し、官軍の野営地に飛び込め。曹操の軍だと言えば相手も伝わる。それでも敵が来たら信号弾を射出しろ! そうなったら私たちがすぐに戻る!」
『承知しました! ご武運を!』
「惇、淵、仁、洪! 敵の背後から一気に突き崩す! 私に続け!」
『っ、おおおおおっ!!』
頼もしい仲間の声を聞き、曹操は静かに唇を弓にすると、そのまま蒼武を走破モードに切り替えた。
読んでいただき大変感謝いたします。
好き勝手やっての三国志×ロボットバトルですが、ようやく10話。まだまだ続きます。
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