Ättestupa
BGM View From The Soyuz - Ättestupa
人工知能なんて東大合格が関の山だろという時代はいつのことだったか。もはや人工知能で解けない問題は、「そもそも人間が問題と把握してない」「解いたところで人間には理解できない」「最初から問題でない」もの程度に限られた。
生徒がGenerationを開く。先生が、黒板に問題を映す。それを各自読み込み、生徒は教師のサポートと人工知能の支援を得ながら、それぞれにあった解法を導いていく。
大学入試や各種テストは、凡その予想に反してのこった。結局人間の資質を測るにはそれが丁度いいからと、ペーパーテストとそれに向けた勉強システムは残存している。
ただ、それをといたところで「別に役に立たない」ことを、皆知っていた。
役に立たないというと、妙にネガティブ地味た空気があるのかと思われそうだが、別にそうではない。
やりたい人は勉強する。覚えたいものは覚える。
テストで要るから、勉強する。そんな空気。
そのカラッとした雰囲気が、副島陸にはあっているようだった。
解き方はカラッとしてないが。
「どうした副島、カバンガサガサして」
「ノート使い切ったんで予備探してます」
「また? タブレットと電子ノートつかえよ……」
「タブレットは画面が硬いんで苦手です」
そして彼は、黒くなった手をブラブラさせて、また問題を解き始めるのだった。
学校終わり。部活に勤しむクラスメイトやそれを指導する顧問たち。日はまだ高く、青い空から校舎と校庭を照らす。校庭端にあるザクロの木々が、陰を作って野良猫の涼み場になっていた。
陸はその様子を一目見て、帰路につく。電車に乗って、乗り継いで、自宅最寄りの、都内にしては簡素な駅へ。降りて、コンビニに寄ってコーラを一本買って、陸は帰宅した。
在宅勤務中の母がいた。夜ご飯カキフライにするけどいい? いいよ、でも揚げ物? 仕事忙しいんじゃないの、手間は大丈夫? うん、あとはKlausに投げればなんとかなりそう。
こういう時代である。数学の問題解く能力なんかあったところで? と、思わざるを得ない陸だった。陸は冷蔵庫から冷えたアイスをつかみ、部屋に戻って食べることにした。
その日、陸は夢を見た。何度か見た夢。何度もあった、彼女の夢。
彼女はそのままだった。すらっとした姿。長い髪。はかなげな表情が、暗がりにまぎれていたが、間違いなく彼女のそれだと分かった。
彼女は言った、いつか、一緒におっきなことしてみたいね。
そのためには、色々なことをクリアしないとだね--
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少しの日が経って。
その日、昼休み前の授業がまさに数学であった。いつも通りの大量の計算をこなし、陸は伸びをし、授業終わりの礼まで天井を見つめていた。
その日の課題は、大学生向けの微分方程式であった。AIでの教材カスタムと個人分析が進んだこの時期にあっては、もはや皆に向けたカリキュラムはあってないようなもの。
陸は、まあ大学受験くらい余裕でしょということで、教師からも一歩進んだアドバンスシステムを解くことを認められていた。
その様子を、後ろから見ている少女がいた。莉奈である。
「相変わらずだねー疲れない?」
「疲れる」
「じゃあなんでそんなことしてんの? てか、難易度下げちゃえばいいじゃん。どうせ受験でそこまで使わないんだし」
そうはいっても、と思う陸。
莉奈の方を見返す。そこに、クラスメイトの彼女はいた。小柄で快活、出るとこ出てると、クラスの中ではだいぶ--いや、学校全体でみてもなかなか魅力的な美少女。
明るい色の、短い髪が耳にかかって跳ねていた。
「なーにー? 見ても何も出ないぞ、色男」
「そういうお前は人の心配してる場合か」
魅力的な分、成績はどこかに置いてきたらしい少女でもある。
「カワイイからっていえば、大学受験なんとかならないかな。昔のアイドルみたいに、かわいいだけじゃ、ダメですかって試験官にアピールして」
「なんとなかったら、それは受験ではないな」
オーディションではあるが。ちなみに、アイドルもだいたいAIでおきかえられつつある時代である。生身の人間が売りのオーセンティックスタイルも、それはそれで人気であり続けてるけれど。
「陸くん、なんでそんな勉強してんの? そんな頑張らなくたって、学年一位くらい余裕でしょキミ」
いちどタブレットを置き、陸は言う。
「追いつきたい人がいるんだよ」




