The Final Episode (Let's Change The Channel)
BGM Asking Alexandria - The Final Episode (Let's Change The Channel)
二〇三〇年の秋も、二〇二五年の秋も、変わらないことはある。猛暑の名残が残る時期、セミは鳴き、日差しは肌を焼くエネルギーを残したまま。学生はその熱気の残る街を歩き、それぞれ学び舎へと向かう。
東京の少し西にある進学校、人見高校の通学路に、その集団はいた。
だるいて学校、夏休みどうだったよ、ずっとラグビーしてたわ。夏期講習行ったら先生がかっこよくて、シンガポール行ってきたよ、えーなっつん彼氏できたんだ。
その集団の中、お気に入りのクラシック音楽を聴きながら陸は歩いていた。特に誰と話すでもなく、前を見据えて。周りの人間を少し観察しながら、さて今日の授業は何だっけと思い返す。
一人、彼はポケットに手を入れ、スマホの音量を上げる。
これでも別に、陸は友人がいないわけではない。ただ習慣として、あまり群れず、そこまで集団行動に重きを置かない感じ。
「おー副島いるじゃん」
現にこうして声をかけてくる男もいる。大月冬矢、例の賭けを持ちかけた少年である。
「相変わらず仲いいわねー、で? 副島くん、相変わらず帰宅部のままなの? 今からでも遅くないから理科部入りなよー」
その後から、会話に加わるのは駿河莉奈。理科部部長で、スキさえあれば副島陸の頭脳を部活に引き入れようとしている。
陸に話しかける生徒は、実のところ多くない。あまりしゃべらない、人付き合いを積極的に仕掛けるわけでもない。どちらかといえば都内三番手〜五番手に甘んじるランク付けをされることの多い人見にあって、ブッチギリの優秀な成績を収めているせいか、少し浮いている印象すら持たれている。そう、後に同級生は語った。
おまけに陸は、ルックスが良かった。流し目の似合う儚げな雰囲気、長く茶色がかった髪、顔は小さく肌が白い。そこらの女子が羨ましがる特徴を兼ね備え、たまに「あの人芸能人?」なんて声が上がることもある。
彼は元々東京の出身ではない。たまたま親の転職と進学タイミングが重なり、人見に入学する段階で東京都調布市に引っ越した。
早い話、話しかけるべき友人がいなかった。加えて、異様な成績の良さに、北欧美青年の雰囲気。友人になろうと勇気を持ちあぐねる同級生の中で、真っ先に声をかけたのが、この冬矢と莉奈であった。
副島陸は、人見では珍しく部活に入っていない。
「せっかく成績いいんだからさー、うちで実験とかしてかない? 機材も薬も揃ってるよ?」
と、続けるのは莉奈の口癖になっていた。
冬矢と莉奈を見て、こいつらは変わらないな、と陸は微笑んだ。
授業が始まった。暑さとその光景の本質自体は、浅くとも三〇年昔から変わらない……幅広くとれば百年前の学校の姿もそう……なのだが。
この世代にあっては、一つの特徴がある。仮にかつての教育者や学生が、タイムトラベルをして観察する機会を得れば。明らかにそれと知る要素が。
先生が入る。タブレット片手。礼。して、はーい、じゃあAI立ち上げて。早速Generation使うぞ。
すなわち、人工知能である。人類史における転換点は、「コンスタンティノープル陥落」「ウェストファリア条約締結」「第二次世界大戦終結」等様々あるが、特に大きいとされるのが二〇二九年の八月。時の米国大統領ウェストが、半ば人間界全体を代表する形でこう宣言した。皆さん、すでに我々はシンギュラリティを迎えました。
不可逆、すなわち後戻りのないポイント・オブ・ノーリターン。人工知能は人間の能力を凌駕し、「人工知能が人工知能を開発する」「人工知能が人工知能に読ませる言語を作る」「人間には理解の及ばない理論で、各種ソフトウェアや機械を開発する」時代になった。




