Kaleidoscope
BGM Graupel - Kaleidoscope
陸はテスト会場である早稲田大学構内にはいる前に、近くの目についたコンビニでコーラを買った。ふたを空け、喉にそれを流し込む。炭酸の刺激が、舌と首から頭の中をかき回す。この少し苦しい感覚が、陸は好きだった。
彼は門をくぐった。自分と同じ、代表選考試験を受けに来たのだろう少年少女、それを誘導するスタッフ、警備員の姿を見る。
ふと、陸の目をポスターが捉えた。数学オリンピック代表選考会場はこちら……という張り紙の横にある、人工知能のセミナーの告知。その隣には、人工知能の学会のメンバー募集案内。
世は人工知能の時代である。二〇三〇年。とある国のトップが、世はすでにシンギュラリティを迎えたと声明を出し、実際そのとおりと幾つかの団体・国家も賛同した。
結果そうなった。そうなのだ、人工知能はあらゆるところに浸透し、誰もが使うインフラになった。二〇二五年あたりの「シンギュラリティに備えよ、来るかもしれないぞ」という議論は何だったのか。
もう、それはそこにあった。大概の問題は人工知能で解ける。調べ物には、ChatterP。高校の勉強をサポートしてほしい? なら数学と語学に強いGeneration を。会社に入りたい? うちはAlan を使ってるけど、Alanの強みとプロンプトの打ち方はわかってる? のように。
それをよく、陸は知っていた。アメリカ在住の従兄弟は、少し前までは優秀なプログラマーだったが、会社から「もうAIでいいから」と解雇されてしまった。日本でも、新卒の仕事はなかなかないという話が飛び交う。
でもそれでも問題ないのだ。仕事をしない人が増えても、社会の生産性は上がっているので、ベーシックインカム――皆に配られるお金、富――の制度が、完成まであとすこし。端的にいえば、別に勉強しなかろうが、働かなかろうが、たいして問題でない時代が、もうすぐそこに来ていた。
来ていたと言うより、そこにあるのだろう。すでに。じゃあ、なんで働くの? なんで大学目指してんの? という疑問は浮いたまま。そこに仕事が、会社があるから?
スーツ姿の若者が、彼の横を抜けて大学外に歩いていった。
少しすると、彼は会場の教室にたどり着いた。よく冷房の効いた、大きな講義室だった。それが高校のものとは異なるが、アニメでみた大学の様子とほぼ一緒であることに、陸は感動を覚えた。
いつの間にか、コーラは飲み干していた。その空きボトルをゴミ箱になげ、陸は座ることにする。
とりあえず、今日はこのテストを終えないことには話にならない。
※※※
「で、賭けって何? 金なら払わんぞ」
そのとき、陸はこう言った。今なら分かる、断りたいといえば良かったのだと。
それを同意とみなした同級生はこう言ったのだ。
「受けてこいよ。タダだし」
そんな理由で受けていいものか。というより、フェアな視点で見て。こいつに勝ち目はあるのかと陸は思う。
「賭けは……一次試験にお前が通るかどうか。とりあえず上位三〇人に入れば、代表選抜試験の合宿に呼ばれるらしいから、そこにたどり着けば」
「上位三〇……微妙だなあ」
「お前の好きなプロテイン二か月分奢ってやる」
「オッケー、ブランドはZANで味はチョコな」
「現金だなあお前、いや現筋か」
筋トレのお供がかかるとあれば仕方ない、と受けたはいいのだが。




