末代家族5:美保の章3「妹はギャルになった」
自分たちは浮いてる。
昼時を迎え、やや混雑したコンビニエンスストアの中で、美保は客観的にそう思った。店内は、お弁当やホットスナック、カップ麺等を買い求めに来た人が、レジに行列を成している。
注目したのは、その客層だ。近所に住んでいると思われるお年寄り。スーツを着たサラリーマン。配送業と思わしき制服を着た人。作業着を着た工事関係者。おおよそ、若い人がいない。レジで接客をしている店員も含めて、自分たち3人が恐らくこの店内で最年少だろう。
実際、珍しいようで、入店した時に店員や他の客からの視線が、自分たちに集まるのを感じた。中でも目立っていたのが、すぐ下の妹の詩織だ。
妹はギャルになった。
小学校・中学校時代の詩織は、スポーツ少女だった。小学時代は、ミニバスケットボール。中学時代は、陸上競技をやっていた。美保とは異なり、生まれつき運動神経の良かった詩織は、どんなスポーツもそれなりにこなしてみせた。
覚えているのは、小学生の頃。従兄の家に行った時。
近くの公園へ遊びに行ったら、たまたま誰かの忘れていったスケートボードが転がっていた。従兄たちが、それを乗りこなそうと四苦八苦してる中、詩織は
「ちょっとやらせて」
と言うや否や、ものの数分であっけなくスケートボードを乗りこなしてみせたのだ。
その後「俺も!俺も!」となった従兄たちに、再びスケートボードを奪われてしまったのだが、彼らが詩織のように乗りこなすことは、最後までできなかった。恐らく、詩織はあの時、生まれて初めてスケートボードに乗ったはずだが、あっという間にコツを掴んでしまった。
そこでスケートボードの面白さに目覚めて…とならないところも、また詩織だった。どのスポーツもそれなりにこなせる一方で、どのスポーツにも執着しなかった。小学校の頃のミニバスケットボールは、たまたま友達に誘われたから。中学校の時の、陸上競技はどうやら消去法で選択したようだった。
「チーム競技は、もういい」
中学校で陸上部を選んだ時に、詩織がそうボソッとつぶやいていたのを、美保は覚えている。
そんな妹は、中3になって部活を引退した頃から、髪を伸ばし始めた。それまでボーイッシュなベリーショートだったのが、半年以上かけてロングになった。今では、美保よりも長いくらいだ。
高校進学は、陸上部からの推薦枠もあったようだが、本人に陸上競技場を続けるつもりがなく、辞退していたようだ。高校選びの条件は、とにかく自由な校風なこと。ピアスや、髪の色にうるさくない校則であることを最優先に選んでいた。
そして、気が付けばスポーツ少女だった妹は、金髪にピアスを開けたギャルになっていた。
もともと詩織はタレ目気味の童顔で、愛嬌のある顔立ちをしている。痩せてからは、ややキツめの印象を持たれることの多い美保とは、対照的な顔立ちだ。ギャル化してからは、可愛さにさらに磨きがかかった。
自分もそれなりに努力して外見を変えてきたつもりだが、あそこまで大胆にはなれない。インナーカラーをピンクに染めた時も、自分としてはかなりの冒険だったのだが、詩織の金髪に見慣れていた両親は、美保の変化にもさほど驚きはしなかった。
美保は、姉妹の中でもパパが特に自分に甘いことは、なんとなく分かっていた。彼氏ができたことを知られたら、ちょっと面倒くさいかもしれない。いや、うるさいことを言って娘に嫌われたくないから、すんなり認めてくれるかも。
同じようにママは、とりわけ末娘のかずみを溺愛していた。かつては、美保ともよく2人で買い物に出かけていたが、小学校高学年になった頃から、美保の方から少しずつママに対して距離をとるようになった。ママがかずみをことさら可愛がるようになったのは、その頃からだ。
そして詩織は…彼女に対しては、うちの両親は、やや放任気味だったと思う。要領が良く、何事もそつなくこなせるタイプの詩織は、良くも悪くも両親の手を煩わせなかった。手がかからない子供だったのだ。それが、両親から関心を持たれにくい一因になっていたように思う。
だから、詩織が熱心に学校見学に行って、自ら決めてきた進学先の高校もすんなり受け入れたし、髪を金色に染めてきた時も、ピアスを開けてきた時も、最初は驚きこそしたものの、強くとがめるようなことはしなかった。
ただ、都内ならともかく、ここでは…
「なんか、うちら目立ってない?」
サンドイッチを選びながら、詩織がそう声をかけてきた。
「そりゃ、金髪ギャルは目立つでしょ」
「違ぇよ。ギャルじゃねえし」
東京病の流行に伴う、国の施策のことは既に充分知られている。ここに居る高校生たちが、学校をサボっているわけじゃないという理解は得られている…と思う。
ただ、やっぱり自分たちが浮いているのは確かだ。
あまり居心地の良いものではない。都内だったらよくある風景として溶け込める自分たちも、ここではそうではない。
「さっさと選んで、帰ろう」
かずみが、お弁当とお菓子の入ったレジかごを持ってきた。もう自分の昼食は決めたらしい。詩織はサンドイッチ2つと、ペットボトル入りのお茶。美保は、悩んだ挙句、おにぎり1個とサラダにした。レジ横で売っているフライドチキンも魅力的だったが、ここはガマンだ。もう2度と、ぽっちゃり体型には戻りたくない。とりわけママの隣にいると、そのことを意識せずにはいられない。だから、美保はママを遠ざけたのだ。ごめんなさいと思いながらも。
伯父さんが教えてくれたコンビニエンスストアは、案外近かった。歩いて10分くらい。自転車だったら、5分もかからないそうだ。伯父さんの両親、つまり自分たちにとっての祖父母の使っていた自転車も自由に使っていいと、伯父さんは言ってくれたのだが、今回は遠慮しておいた。
自転車が2台しかなかったのと、あまり整備されていなさそうだったのと、自転車の防犯登録が祖父母の名義のままになっていたからだ。ただでさえ目立ちそうな自分たちが、パトロール中の警察官に声をかけられる可能性は、決して低くはない。そんな時に自転車の防犯登録から、あらぬ誤解を受けるような事態は、絶対に避けたい。
けっきょく3人で歩いてコンビニエンスストアまで行くことになった。
そして、その帰り道。美保は、スマホに彼氏からのメッセージが届いていることに気が付いた。
「やっとだ…」
面倒くさい女にはなりたくないが、それにしてもレスが遅い。既読になるのも遅い。
ネガティブな気分になるのは、お腹が空いてるせいもあるのかも。
「まずは帰ってお昼だな。すべては、それから」
美保は、前を歩いていく金髪の妹と、中学生の妹の背中を見つめながら、そうつぶやいた。




