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末代家族4:詩織の章2「伯父さんとLINEグループ」

詩織のパパは、ごく普通の会社員だ。メーカー勤務で課長をやっている。仕事は営業だと聞いていた。平日はスーツを着て出勤していくし、髪型も七三分けでこそないが、それなりにサラリーマンの範疇に収まるヘアスタイルにしている。


それに比べて、目の前にいる、自分たちの伯父という人物はどうだろう?


まず、髪は長い。いわゆるロン毛というやつだ。もみあげも長い。さらに、あごの辺りに無精ひげを生やしている。


はたして、こんな服装で会社員が務まるのか?いや、職場的に許されるのか?それが気になって、伯父の話す話の内容が、あまり頭に入ってこない。


「まず、君たち3人と僕の4人で、LINEグループを作ろうと思う。今の若い人はメールを殆ど使わないと聞いているので、これなら君たちも使いやすいだろう?」


え?LINEグループ?伯父さんと?



隣のミホねえを見たら、やっぱり怪訝な顔をしている。いや、たしかに佐藤家の家族のLINEグループはあるけど…


「で、君らが外出から戻ったら、必ずこのグループLINEに報告して欲しい。つまり、点呼の代わりだね。その他にも、僕に何か用があったら、このグループLINEで連絡してくれてば、なる早で対応する。僕が君たちに個人にLINEで連絡することはない。誰に対して連絡する時も、必ずこのグループLINEで呼びかける」


ここで伯父さんは、いったん話を止め、詩織たち姉妹の全員の顔を見た。


「ここまでで、何か質問とかある?」


「出かける時も連絡した方がいい?」と、かずみ。


「そうだね、そうしようか。出かける時はどこへ行くのか、だいたい何時頃に戻ってくる予定なのかを教えて欲しい」


詩織たち姉妹3人は、いま伯父さんの住んでいる1階のリビングに集まっている。ここで暮らしていくうえでのルールや、決め事について話しているところだ。


「君らのパパから聞いてると思うけど、僕はこれまで1度も結婚したことがない。子供もいない。だから、君らくらいの年齢の子たちとの付き合い方は、正直よくわからない。なので、年齢に関係なく1人の人間として接していくことにした。名前も呼び捨てにはできないので、それぞれ美保さん、詩織さん、かずみさんと呼ばせてもらおうと思う」


そこでいったん間を置いたあと、伯父さんは続けた。


「僕のことは『伯父さん』と呼んで欲しい。むしろ、その方が嬉しいかな。伯爵の「伯」に「父」と書いて、「おじ」と読む。なんか格好いいだろ?」


「伯父さんの名前は?」これも、かずみ。


「ええと。ああ、そうか。今はオジやオバを、名前で呼ばせてる家もあるんだな」


「ママのお姉さんは、チヒロさんって呼んでる」


「いや、そういうのはいいかな。僕は自分の名前が嫌いなんだ。むしろ、『伯父さん』の方がいい」


そう言えば、詩織は伯父さんの名前を聞いたことがない。パパもママも、伯父さんのことを「兄さん」とか「お兄さん」と呼んでるし。


「ただし、僕のことを『伯父さん』と呼んでいいのは、君たち3人だけ。それ以外の人から『伯父さん』と呼ばれる筋合いはない」


詩織たちには、いとこがいる。ママのお姉さんのチヒロさんの子供だ。そうか、この伯父さんには、自分たち以外には姪っ子も、甥っ子もいないんだ。


「そんなわけで、君たちのご両親から君たちを預かっている以上、僕には君たちを保護する責任がある。さっきのグループLINEでの点呼は、その一番基本的なルールね。だから、必ず守って欲しい。逆にそれ以外のことについては、あまり細かいことを言うつもりはない。ここは二世帯住宅なので、お互いに顔を合わせることは少ないかもしれない。それでも、僕が君たちの存在を、絶えず気にかけているということは、知っておいて」


その後は、詩織たちの両親からお願いされている起床時間・就寝時間についてのことだったり、ゴミ出しのルールだったりについての説明で終わった。


基本、詩織たち3姉妹は、自分たちのことは自分たちでやる。調理も、掃除も、洗濯といった家事も、伯父さんは一切介入しない。ただし、電球が切れた、トイレが流れない等といった、自分たちで対応することが難しいことについては、遠慮なくグループLINEで呼び出して欲しいとのこと。


また、伯父さんが詩織たちの住んでいる2階に勝手にあがることはしない。ただし、災害や火事などの緊急事態が起きた時は、例外とする。逆に詩織たちが、伯父さんの住んでいる1階に行くことは自由にできる。その際、伯父さんが入浴中だったり、トイレに入っていたりすることもあるので、不快な思いをしたくなければ、極力インターホンを鳴らして欲しいとのことだった。


「僕がLINEを使って連絡を取るのは、君たちだけ。それ以外の人からLINEで連絡をもらうことはないので、LINEで着信があったら君たちだと思って対応するから」


伯父さんはどうも、このLINEというアプリが好きではないようだ。事情が飲み込めたせいか、LINEグループの作成については、ミホねえも、かずみもすんなりと納得していた。


「説明というか、オリエンテーションみたいだったね」


自分たちの部屋に戻る時にミホねえが、言っていた。そう、まるで新学期が始まる前のオリエンテーションみたいだった。


そして、自分たちで生活の何もかもをやるとなると、まずは当番を決める必要があると、ミホねえが言い出した。


「あんたら、全部わたしにやらせるつもりじゃないよね?」


ミホねえはひと通りの家事はこなせる。料理だって得意な方だ。だからといって、全て頼るわけにはいかないということか。


「まずは、今日の調理当番ね。そろそろお昼だけど、どうする?」と美保。


「今から食材買って作るのは無理じゃね?」詩織はつい本音が出てしまった。


「なんか、フライパンとか、鍋とかは揃ってるみたいよ」こちらは、かずみ。


「じゃあ、ズミ。料理する?」


わかってる。ズミは料理が苦手だ。小学校の時の家庭科の調理実習の出来栄えは、惨憺たるものだった。


「疲れたし、荷ほどきもしなきゃなんないし、昼はコンビニで良くない?」


詩織が助け舟を出した。ここでミホねえだったら、簡単でも何か作るだろう。茹でるだけのパスタとか。


でも、正直、疲れた。お昼を食べた後も、やることはまだ沢山ある。


「だよね。このあたりのコンビニって、ここからどれくらいかかるんだろ?」


そうそう、最後まで自転車持っていきたいと言っていたのが、ミホねえだった。


「伯父さんに聞いてみたら。さっきのグループLINEで」ズミの提案に、すかさず同意する。


「じゃあ、うちが聞く」


こうして、グループLINE使用の第1号は、詩織となった。

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