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末代家族3:美保の章2「海の見える部屋」

伯父さんの運転するミニバンは、駅前を抜けると幹線道路に合流し、クルマの往来の多い、その道をしばらく道なりに進んでいた。


駅前を見た時は、信じられない程さびれていると思ったのだが、どうやらこの辺りの繁華街は、駅前ではなく幹線通り沿いに栄えているようだった。様々なチェーンの飲食店や、洋品店、セレクトショップなどが並び、どのお店にも広めの駐車場が併設されている。


「自転車を持ってくれば良かったな」


美保がそう漏らすと、詩織が「え?なに?」と返してくる。


「ううん、なんでもない」


自転車の運搬は困難だ。クルマに積むには大きすぎるし、宅配便を使うとかなりの高額になるというので、早々に諦めたのだった。


それにしても、ここで暮らすとなると、クルマがないと買い物にも行けないかもしれない。


「なんで、こんなところに来ちゃったんだろう」


またモヤモヤとした、マイナスの感情が胃の辺りに溜まってくる。自分の思うようなところに行けないなんて、なんて不自由なんだろう。


「そこの道を左に入ると、もうすぐだから」


カチカチというウィンカーの音をさせながら、伯父さんがそう案内する。


「…ピンク?」


クルマの進む1本道の右手に、2階建ての大きめな家が見えてきた。胸くらい高さの、低めのフェンスに囲まれているが、なぜか一角だけが、鮮やかなピンク色の板塀になっていた。


「お疲れさまでした。ここが我が家です」


2世帯住宅と聞いていたが、なるほど玄関のドアが2つある。1階と2階で、それぞれ別の入口になっているようだった。


「左側のドアが、君たちの住む2階の玄関ね。右側が僕の住む1階の玄関」


伯父はそう言うとクルマを降りて、左側の玄関の鍵を開けた。ミニバンのトランクルームから、姉妹3人分のキャリーバッグを運んで来ると、玄関の中に運び込んだ。


「重いから、とりあえず荷物は2階まで運んじゃうよ。あ、でも今後は、君らの許可なく2階まで上がり込むことはないから、安心して」


玄関で靴を脱ぐと、美保たち3姉妹は伯父に案内されるまま、玄関から続く階段を上って2階にたどり着いた。


「ここが、今日から君たちの住む場所ね。事前に宅配便で送られてきた段ボールは、このリビングに運んでおいた。部屋は他に3部屋あるから、3人で話し合って誰がどの部屋を使うか決めてください」


そして、伯父はさらに部屋の奥に進んでゆく。


「ここがキッチンで、向こうがトイレとバスね。冷蔵庫は前に両親が使っていたんだけど、昨日から電源を入れといたので、問題なく使えるはず」


かずみが早速、部屋の物色を始めた。詩織も、どの部屋を自分が使うか、気になっている様子だ。


「じゃあ、早速どの部屋を誰が使うか、決めよっか」


こういう時に仕切るのは、いつも長女の自分だ。詩織も、かずみも、最終的に美保の決めたことに素直に従ってくれる。


「じゃあ、僕は借りてきたクルマを返してくるから。それまで部屋決めと、荷解きを3人でやってて。戻ったらインターホン鳴らすんで、1階のリビングに集まってください。ここで暮らしていくうえでのルールなんかを説明するから」


そういって伯父はまた、階段を降りて行き、程なくしてクルマのエンジン音が遠ざかっていくのが聞こえた。


ここに来たのは自分の意思じゃない。だけど、どうせ暮らすのなら、少しでも快適にしたい。たとえ3カ月しか住まないにしても、だ。


「美保ちゃん、この家の方角とかわかる?」


かずみが聞いてきた。かずみは、2人の姉をそれぞれ名前で呼ぶ。対して詩織は、美保のことを「ミホねえ」と呼ぶ。


「ええ、わかんない。なんで?なんか気になるの」


「東西南北、どの部屋がいいかなあって」


「キッチンとバスとトイレのあるところが北側だから、北向きの部屋はないよ」


詩織がスマホのマップアプリを開きながら教えてくれた。


「あ、Wi-Fiあるじゃん。あとで伯父さんにパスワード聞こ」これは、かずみ。


「人気があるのは、南向きってよく聞くよね」


美保はそう言って、二人の反応を見た。


「でもさ、冬ならともかく、ここにいる夏のうちは暑いんじゃないの」と詩織。


「あんた、暑がりだもんね」と美保は詩織に返す。


「ここがいい!わたし、この部屋!!」


西に面した部屋から、かずみの声が聞こえてきた。


その部屋に入った詩織が、「なるほどね」と笑みを浮かべた。


「あれか、ズミ。あの、チラッと海が見えるところが気に入ったな」


かずみは、姉二人から「ズミ」と呼ばれている。最初は「カズ」だったのだが、「男の子みたいで嫌だ!」と本人が猛反発したため、下二文字を取って「ズミ」になった。


今でも、ついうっかりパパが「カズ」と呼ぼうものなら、烈火のごとく怒り出す。そんな時、パパは慌てて「カズ」のあとに「ミ」を付け足して誤魔化す。


「海の見える部屋に住んでみたかったんだあ」


「どうする?詩織がいいんなら、私は別にこの部屋、ズミに譲ってもいいけど」


「いいよ、西向きって西日がガンガン差し込んで来そうだもん」


「西日って?」


かずみが、意味が分からないといった表情を浮かべている。


「海に沈む、きれいな夕焼けが見えるってこと」


実際、どの程度なのか想像がつかないので、美保は事実だけを伝える。いま見えている光景から察するに、ウソではあるまい。


「ものは言いようだねえ」


詩織がケラケラ笑い出した。


結局、暑いのを嫌った詩織が東向きの部屋を選び、賃貸物件だったら最も家賃が高そうな、南向きの部屋を美保が使うことになった。


「二人とも、すみませんねえ。こんな良い部屋をお姉ちゃんに譲っていただいて」


美保は、おどけた口調で詩織と、かずみに伝える。


「でもさ。住んでみて気に入らなかったら、交換の相談には乗ってね」


「さあね。気分次第かな」


「言ってろ。譲らんかったら、力ずくで奪うから」


詩織が、美保の背中にこぶしを突きつける。


「あ、美保ちゃん。なんかスマホにメッセ届いたっぽいよ」


「うん、わかってる」


待ち受け画面にメッセージの発信者の名前が表示される。彼氏からだ。


「じゃ、早速荷解きするんで」


美保はスマホの画面を見られないように、自分が住むと決めた部屋に向かった。


「はいはい、ごゆっくり~」


詩織はメッセージの送り主に気が付いてるんだか、気が付いてないんだか、どちらとも読み取れない表情で、リビングに戻っていった。


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